Symphony of destiny

   After Story
  そして運命は流転する





…あれから数年の月日が経った。

突如支配者を失った王都は完全に機能を失い、人々は混乱した。 それほどまでに王都の影響力は強かったのだ。

3強のうちの2人がいなくなったというのも痛手だった。 それだけでなく、今回の戦いで多くの力のある者達がいなくなった。

だが、残された数少ない者達は決して諦めはしなかった。

彼らを実際に纏めていたのは幸村だった。 彼の指示で残された者は動き、混乱を収束させた。

その中にはかつての王都の兵士達も大勢いた。 幸村の人望があってこそ出来ること。

混乱の収束に約1年。 その後幸村は支配者となることはしなかった。

彼は蓮二と共に、人々の前から姿を消した。 この後は各地を旅するという。 彼は、言った。





『誰かが人を支配するのなんて、欲望をはびこらせるだけ。 それに、窮屈でしょうがないでしょ? 支配よりも、自由のほうがよっぽどいい。

 そうそう、俺と蓮二は旅に出ようかって思ってる。 色んな所をこの目で見てみたいんだ。

 それで何かが起こってたら、そこで少し手助けをしてあげようかと思って。 それだけで十分なんだよ。』





そう言い残して幸村と蓮二は、かつて王都と呼ばれていた場所から姿を消した。

彼らがいなくなって間もなく、残された者達も徐々に去って行った―――。



                                                     ☆



「…なんか、暇だな。」





古びたカウンターに顔を突っ伏して言うのは岳人。 それに滝が笑みを浮かべながら、傍の椅子に座る。

ジローは日当たりのいい窓際で、いつも通りお昼寝中。





「まあね。 王都が無くなってから仕事、ほとんど入ってないし。 このまま情報屋も廃業かな。

 平和になった世界にはそんなに必要のないものだからね。」





「マジかよ。 じゃあ俺達これからどうするわけ?」




「うーん。 リシーヌにでも行く? あそこならまだよさそうじゃない?」





「あー、樺地達んとこか。 時のオーブとの決戦の前に行ったきり、あのあと1回も行ってねーもんな。 元気にやってるかな?

 でももしかしたら落ち込んでるかもな。 あんなことがあったんだから。」





岳人の言葉に滝の顔が若干曇る。





「…かもね。 世界中の魔物が一斉に姿を消した。 あそこも例外じゃないはずだし。

 やっぱり落ち込んでるよね。 あんなに可愛がってたんだから。」





そう言って滝は溜め息をついた。

…時のオーブが消滅してすぐ、世界中の魔物達が忽然と姿を消した。 元々あれは500年前。

時のオーブが、時空の歪みから呼び出したもの。 元凶が消え去ったことにより、歪みも修正された。

そして世界の異分子であった魔物達は全て消え去ったのだ。 それは、リシーヌも同じ。

どんなに人に害がなくとも、魔物に違いはない。 きっと消え去ってしまっただろう。

とても可愛がっていた3人のことを思うと、胸が締め付けられるようだった。





「とりあえず、行ってみるー?」





のんびりとした口調でジローが問う。 どうやら起きていたよう。

まだ眠そうな目を擦りながら、2人を見ていた。





「そうだね。 とりあえず行ってみようか。」





…少しして青い光が満ちる。 それが消えた時、3人の姿もまた消え去っていた。



                                                     ☆



「ブン太…。」





目の前に作られた簡素な墓に向かって、ジャッカルはそう呟く。

全てが終わった後、ジャッカルはブン太を葬るために自分の故郷へとやって来ていた。 数年ぶりに戻って来た村。

判田達によって焼き尽くされた村は完全に崩壊しており、人の気配はどこにもない。

彼は徐々に草花に覆われて緑色と化してきている村の中央に、死んだ村人達のための墓を1つ作った。

そしてその後、ブン太の亡骸を村を見下ろせる場所。 かつて土のオーブがあった場所のすぐ傍に埋葬した。

ブン太の体は、とても綺麗なままだった。 今でも生きているような…。

混乱を収束させている間は、時間が無くてとても埋葬は出来ない。 しかし、肉体はいつかは腐敗してしまう。

それを見かねた宍戸が、彼の体が腐敗しないように封印してくれたのだ。 それによって、彼の体は時の干渉を一切受けなくなった。

王都を去る際、その封印は千石に解いてもらった。 これで、彼は土に還ることが出来る。

簡素な墓の前、ジャッカルはしゃがみ込む。





「俺、生きてくからな。 お前の分まで。 心配なんかしなくていい。

 これから何しようか? 悩んじまうぜ。 …自由って、本当にいいな。」





そう呟く。 不意に頬に感じた水の感触。 雨だ、と自分に言い聞かせる。 そうしないと、耐え切れなかった。

空には雲1つない青空。 穏やかな風が、吹き降りた。





『ジャッカル。』





そう自分の名を呼ぶブン太の声が、風に乗って聞こえた気がした―――。



                                                     ☆



「…大分派手にやらかしてくれてあるねえ。」





腰に手を当ててそう呻くのは佐伯。 彼の横には不二と祐太もいる。

…全てが終わって、彼らはシルフィードに戻ってきていた。 そこで見たものに思わず唖然。

手塚もまた派手に破壊してくれたものだと、溜め息をつく。

かつてのシンボル的存在だった塔は、ものの見事に崩落。 村もまあ大変なことに。 復興するのは大変だな、と思う。

でも決して無理なことじゃない。 時間はかかるが出来ることだった。





「おーい、皆あ。」





不意に自分達を呼ぶ声。 振り返るとそこには天根の姿。





「どうしたの?」





「バネさんが今後の打ち合わせしたいって。 後、杏ちゃんが戻って来たよ。」





杏、という名に3人の顔が少々曇る。

王都での手伝いを終えた3人は、ひとまずシルフィードの面々のいるリシーヌへと向かった。 そして彼らに何が起こったかを全て語った。

語る中で、最も言いにくかったのは橘とアキラのことだった。 特に橘は杏の兄だ。 死んだなどと、中々口には出来ない。

だが、言うしかない。 覚悟を決めて言った不二に、杏は言った。





「兄さんもアキラ君も、それでよかったのなら私は何も言わないわ。」





そう言って部屋を立ち去った彼女。 その後しばらく、杏は全員の前に姿を現さなかった。

不二がシルフィードに戻る、と部屋のドア越しに告げると杏はもう少しここにいさせて、と答えた。 まだあそこには戻れないと。

その杏が戻って来た。 もう大丈夫なのだろうか?と、心配になる。

天根と共に入った、とりあえずは形だけ直した家。 そこに彼女はいた。





「心配かけてごめんなさい。 もう大丈夫。」





そう言って笑う彼女は、とても強い人だと不二は思った。 これがもし自分だったら、こんなに綺麗に笑うことなどとても出来ないだろう。

杏の言葉に、全員はほっとした表情。 そして彼女に促されるように話し出す黒羽。

村は直に復興するだろう。 失ったものは多かった。 だが、全てが失われたわけではない。

またここから、彼らは新たに歩みだすのだ―――。



                                                     ☆



「マスター、これからどうするんですか?」





そう問いかける長太郎に、宍戸は悩む素振りを見せた。

…あの後長太郎と宍戸は再び契約を結んだ。 もう決して離れることがないようにと。





「どうしような? 何も思いつかねーや。 長太郎、お前は何したい?」





宍戸に振られ、長太郎も悩む素振りを見せる。 うんうんと悩むその姿は、とても微笑ましいもの。

たっぷり時間をかけて、長太郎は顔を上げる。





「いろいろ考えたんですけど俺、マスターと居れればいいです。

 それだけで俺は幸せです。」





長太郎の言葉に、宍戸は一瞬驚いた表情を見せる。

そしていきなり長太郎に飛びつく。





「相変わらず可愛い奴だなあ〜。」





「ちょっ! マスターってば!」





長太郎の頭をぐりぐりとやる宍戸の表情は照れくさそう。 その証拠に、顔がほのかに赤い。

そんな彼にやられる長太郎も嬉しそうだった。





「じゃあ、適当にどこか旅でもしてみるか?」





しばらくそうしていた後、宍戸は言う。

それに長太郎は嬉しそうに返事を返した。





「はい!」





立ち上がり、歩き出した宍戸。 彼の背を追おうとしたが、ふと足を止め空を見上げる。





「忍足さん。 俺、今すっごく幸せですよ…。」





「おーい長太郎。 置いてくぞー!」





「あっ! 待って下さいよ!!」





走り出す長太郎。 遠ざかっていく池。

…ここはかつて宍戸が長太郎を封印し、彼と忍足が出会った場所。 ここで長太郎と忍足が出会ったことで、彼らの運命は大きく変わった。

もう悲しみに暮れることなどないだろう。 長太郎の傍には宍戸がいる。 魔導士が願ったのは彼らの幸せ。

それはもう決して崩れ去ることはない。

池の上で、何かがゆらりと揺れた。 そして水面はゆっくりと、元の穏やかな水面へと戻った―――。



                                                     ☆



「…これでよしっと。」





盛られた土をポンポンと軽く叩き、ふうと息を吐く。





「千石、摘んできたぜよ。」





するとかけられた声。 振り返るとそこには、両手に花をいっぱい抱えた仁王の姿。





「ありがとう。 これでここも華やかになるね。」





「そうじゃな。 だけど、壇は喜ぶかもしれんが亜久津はどうだのう?

 こんなのいらねーとか言ってそうじゃ。」





「あはは、確かに。 でもそんなこと言ったらきっと壇君に怒られちゃうって。

 亜久津、壇君だけにはかなり弱いからね。 目に入れても痛くないって感じに大切にしてたし。」





「確かにな。 本当に、壇だけは大切にしとった。 俺には結構酷い扱いじゃったけどな。

 千石はどうだった?」





「え? 俺も結構酷かったよ〜。 やたら冷たいったらありゃしない。 でも知ってた?

 冷たくしてたのが檀君にばれると、こっぴどくお説教されてたみたいだよ。」





「マジか?! そんなん初耳ぜよ。」





千石が盛った土に、仁王が摘んできた花を飾っていく。 だんだん色とりどりの花々に覆われていく。

…これは、亜久津と太一の墓だった。 彼らと仲の良かった千石と仁王は全てが終わった後ここ、アレクキサールのある森へと来た。

亜久津の故郷が分かればそこに葬ったのあが、生憎2人共知らなかった。 しかし王都には埋葬したくない。

そのため人の手の入っていないこの森へ、彼らを葬ることにしたのだ。 ここは静かだから、きっと穏やかに眠れるだろうと思って―――。





「…亜久津と壇君、ちゃんと向こうで会えたかな?」





墓を見ながら千石がポツリと呟く。





「多分な。 死後の世界っちゅーもんがあるかは知らんが、そう信じとくぜよ。」





仁王の返答にうん、と答える千石。 しばしの沈黙が流れる。





「…で、千石。 お前はこれからどうするんじゃ?」





「とりあえず旅でもしようかなって。 世界を巡っていれば、また何かある気がするんだ。

 跡部君と出会えたみたいに…。 仁王君はどうするの? もしよかったら一緒に行かない?」





「そうじゃな。 俺もすることがないし、一緒にいっちゃるよ。 1人でいても暇でしょうがないしな。」





「じゃあ決定ね。 とりあえずは…あっ! エンシェント行くの忘れてた!!

 王都のこと全部終わったら来てって、淳君に言われてたじゃん!」





「げっ! ヤバイ、俺もすっかり忘れてたぜよ。 こんなんじゃ柳生にまた起こられるナリ。 とりあえず行くとするかの。

 …にしてもエンシェントか。 リルシールはもう存在せえへんからな。 何か変な感じがするわ。」





「確かに。 さて、と。 とりあえず行こうか。

 …亜久津、壇君。 また来るからね。」





そう言って2人はその場を去って行く。

穏やかに吹く風に揺られ、手向けられた花の花弁が空に静かに舞い上がった―――。



                                                   ☆



「…今日もなんともなし。 あれからずっと平和が続いているよ。」





そう1人呟くの淳。 彼の前には、長方形に切り取られた大きな石版が1つ。 そこにはなにやら刻まれている。

そしてその周囲には、それよりも小さい石版が数多く並べられていた。

―――時のオーブが朽ち、3人の魔道士と時の監視者が消えたことによりリルシールは崩壊した。

元々オーブを保管するためだけに空間の狭間に作られた地なのだ。 支えるものが無ければ、崩れ去るしかないだろう。

後に残されたのは、エンシェントの魔法陣。 しかしそれもリルシールの崩壊と共に消え去り、平坦な地面が残った。

全てが終わった後、淳はここに1人で墓を作った。 もう存在しない跡部達。 エンシェントで命を落とした者達。 そしてこの戦いで命を落とした者達の。

全ての者達を葬るための墓を。 しかし体のない者達も大勢いた。 そのため彼は石版に綴った。 彼らの生きた証を、言の葉と共に―――。





「あれからずいぶん経つね。 皆元気かなあ? 王都で別れてから会ってないんだ。

 千石と仁王にはここに来るように前言ったんだけど、絶対忘れてるよね。 全く酷いったらありゃしない。

 他の皆にはここのこと、まだ言ってないんだよね。 また言って連れて来るよ。」





石版に向かって、静かにそう語りかける。

淳はシルフィードに帰ることはしなかった。 故郷に戻り、以前のように暮らすという選択肢もないわけではなかったが彼はそれを望まなかった。

それよりも彼は、はじめの意思を受け継ぐことを優先したのだ。 光のエレメントを持つ者は、世界中で1人しか存在しない。

はじめは例外だったが、それが普通だった。 光のエレメントを持つ者は中立の立場として、全てを見守る。 淳ははじめにそう教わっていた。

平和になった今、それを守る必要はないよとオジイに言われたが、それでも淳はこうすることを選んだ。

これは自分の意思。 自分で望んだこと。





「今度は俺が守るから、心配なんてしないでね―――。」





そう呟く。 穏やかな風が頬を撫でる。 その心地よさに静かに目を瞑った。

そして微かに耳に入ってくる自分を呼ぶ声。 目を開け、振り返るとそこにはこちらへと向かってくる人影が見えた―――。



                                                      ☆



…光の中、1人佇む人影。 その前には、8つの光輝く石。

見守る中、最後の1つが青い光と共に静かに現れる。





「運命は決して止まらない。 永遠に流転し続ける。

 今度の曲は、一体どんな音色を奏でるんだろうねえ?」





慈愛に満ちた目で石を見つめる人影。 新たな曲が今、再び。

過去の者の奏でた曲。 未来で奏でられる曲。 そして今、奏でられている曲。

同じ音色のものなど、決してない。 全ては変化し、流れ続ける。

それは永遠とも呼べるもの。

運命という曲目の中で、全ては流れ続ける。

そして新たな曲が、始まった―――。









【あとがき】

反省。

本編完結と言っておきながら、こんなものを書いてしまった(汗)

なんかどうも中途半端かなーっと思ってしまい、こんな暴挙に。

とりあえず今度こそ本当に本編は終わりです!

スッキリしたんで(え?)

それぞれ皆は思い思いの道を進み始めました。

彼らがこれからどうなっていくのか、それは皆さんのご想像にお任せいたします―――。



08.3.13







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