ねえ、どこにいるの? ボク、ずっとここで待っているのに。

どこにいっちゃったの? 早く、迎えにきてよ・・・。





あと九十五本・・・自転車





・・・今考えると、怖いというよりも悲しいという感情のほうが湧いてくる。

あの子は今でも、来ることのない人を待っているのだろうか?



                                           ☆



「じゃあ、ちょっと行ってきます。」





そう言って、玄関を出る。

外の空気はまだ蒸し暑く、俺は思わず暑いなと呟いた。





今から数年前、俺がまだ九州にいた頃の話。

その日、俺は友達の家に出かけたまま中々帰ってこない妹の杏を迎えに行くために家を出た。

そして、自転車にまたがり漕ぎ出す。 杏の友達の家は、自分の家からそう遠くない所にあった。

その途中に、空き地が1つある。 それは、元はかなりの家が建っていたであろう、広い空き地だった。





「? あれは・・・?」





その傍を通り抜けようとした時、ふと何かが目に入った。

空き地の真ん中に座り込んでいる人影。 どうやら、幼い少年のようだ。





「こんな時間に一体何をしてるんだ?」





時刻はもう少しで7時になろうとしていた。

いくら夏で日が長くなっているとはいえ、幼い子供が1人でいるとは危険だ。

そう思った橘は自転車を降り、少年の元に近寄っていった。





「こんな所に1人でいて、一体どうしたんだ?」





そう話しかける。 その声に、少年は彼の顔を振り返った。

その顔は、丁度沈みかけている太陽のせいで上手く見えない。





「パパがね、来てくれるの待ってるの。 ここで待ってれば、迎えに来てくれるの。」





そう、少年は言う。

父親を待っているのか。 なら、大丈夫だろう。

そう思った橘は少年に軽く微笑み、言った。





「じゃあ、大丈夫だな。 パパが来るまで、ここでいい子にしているんだぞ?」





「うん! ボク、いい子にして待ってる!」





その元気な返事に安心して、橘はその場を離れた。



                                             ☆



「ったく、いつまで話しているんだよ。」





そう言いながら、橘は自転車を漕ぐ。

彼の後ろには、同じように自転車を漕ぐ杏の姿があった。





「だって〜、丁度話が盛り上がっちゃったんだもん。」





妹のその言葉に、溜め息をつく。

あのあと友達の家へ行ったまではいいが、杏は中々出てきてくれず、結局完全に暗くなるまで足止めを喰らってしまった。





「話すのもいいが、大概にしろよ?

 こんな時間になって・・・。 一応連絡はしておいたが、母さんかなり怒っていたぞ。」





「げっ。 兄さ〜ん、お願いだから庇って。」





「今回はダメだ。 お前が悪い。」





「そんなあ〜。」





そんな会話をしていた時、またあの空き地の所を通りかかった。

ふいにさっきの少年のことが気にかかる。 橘は空き地の前で、自転車を止めた。





「? 兄さん、どうしたの?」





杏の問いに、ちょっとなと答えながら、空き地を見渡す。

夜の帳が完全に下りているため、あまりよく見えないが、それでも人影は見当たらない。





(どうやらちゃんと迎えが来たみたいだな。)





そうほっとして胸を撫で下ろす。

そして不思議そうな顔をしている杏を連れ、彼はその場を去った。



                                            ☆



次の日。

橘は用事で再びあの空き地の前を通りかかった。 すると・・・。





「? あれは、まさか・・・。」





また真ん中に人影が。 昨日と同じように自転車を下り、足を踏み入れる。

近寄ると、人影は彼を見上げた。 それは、昨日の少年だった。





「あっ、お兄ちゃん!」





屈託のない笑顔でそう言う。 その彼の傍らに、橘はしゃがみこむ。





「どうしたんだ? また誰か待っているのか?」





「うん。 今日もパパを待ってるんだ。」





「そうか。 ならまたパパが来るまでちゃんと待ってるんだぞ?」





「うん!」





また笑う少年に彼も笑いかけ、橘はその場を去っていった。



                                              ☆



それから、しばらくたった。

あのあと、橘はあの空き地に行く機会はなく少年と会うことはなかった。

今日も待っているのか?

そう考えていたりした丁度その時、クラスの女子達の話し声が耳に入ってきた。





「ねえねえ知ってる? 空き地に出る幽霊の話。」





「えっ、知らなーい。 何々?」





「あのね、北のほうにある住宅街の中に空き地があるの。 そこは結構前は家が建ってたらしいんだけど。

 そこの空き地に、よく5歳くらいの男の子が1人で遊びに来てたの。 

 そこで遊んでいると、お父さんが自転車に乗って迎えに来てくれたんだって。

 でも、その子はある日空き地に来る途中自動車事故に巻き込まれて死んじゃったの。

 それがショックでその子の家族はこの町から引越して行ったんだけど、その子は今もお父さんを待っているんだって。」





「へえ〜。 かわいそうな話だね。」





その話を聞いて、橘は自分の耳を疑った。





(まさか、あの子が幽霊だと?!)





信じたくはなかった。 だが、どうしても気になって彼は学校が終わってから空き地に向かう事にした。



                                           ☆



自転車を下りて、空き地に入る。

真ん中には、今日も少年が1人でいた。 そして、橘を見ると、にっこりと笑いかける。





「お兄ちゃん! 久しぶりだね。」





「ああ、久しぶりだな。」





そう言って笑うが、どうもうまく笑えなかったようだ。

少年が不思議そうな顔をして、彼を見上げる。





「どうしたの?」





「いや、何でもないよ。」





だが、そうは言ったもののどうしていか分からない。

困っていると、少年は何かを感じたように橘に話し出した。





「ねえお兄ちゃん。 パパがね、迎えに来てくれないんだ。」





「え?」





「パパはね、いつもここで遊んでると必ず自転車に乗って迎えに来てくれたんだ。

 だけど、ちょっと前から来てくれなくなったの。 ボク、ずっといい子にしてるのに・・・。

 でもね、待ってればきっと来てくれると思うんだ! だからボク待つよ。 パパが来てくれるまで。」





笑顔でそう言う少年に、橘は何も言うことが出来なかった。

そして、結局何も言うことができないまま、彼はその場を去って行った・・・。



                                               ☆



それから数年の月日が流れた。 少年に会うことなく、橘は引越した。

ある日、神尾の乗っている自転車を見た時、急に少年のことを思い出した。





(あの子は恐らく、自分がもう死んでいることを知らないんだ。 だから、来ない父親を待ち続けていたんだ。

 ・・・それならば、今もあの場所で同じように待っているのか・・・?)





もう2度と会わないだろう少年のことを思う。

そして、出来ることならあの子と父親が再び会えるように・・・。と、1人静かに目を閉じた-----。









【あとがき】

初めて人が死なないホラーの短編を書きました。 そして、数ヶ月ぶりの更新だったり・・・。

なんかお題に添えていない気がしてなりません(汗)

今回は橘さんでしたが、いかがでしたか?

もう会わない子供の幽霊ってことにしようといたら、彼しか合う人がいなくて・・・。

でも、話的には結構気に入ってます。 ・・・上手く書けなかったけど。

こういう話もいいかな。 と、思ってます。 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。



06.8.11



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