単なる遊び心。 ただ、それだけだったのに。

もう、逃げられない・・・。






あと九十三本・・・七不思議





「くーっ! わくわくしてきたあ!」





「俺もっすよ。 絶対おもしろいですもん。」





「だな。 さあて、何してやろうか。」





「・・・何で俺達ここにいるんだ?」





「分かりきったことだろう。 俺達が止めれなかったからだ。」





盛大に溜め息をついたのはジャッカルと蓮二。 それとは逆にわいわい騒いでいるのはブン太・赤也・仁王。

彼等が今いるのは、学校の昇降口の前。 しかし、周囲は暗い。 灯りといえば、電球が切れそうな街灯のみだ。

そう、今は夜。 しかも夜中。 時刻はあと少しで2時になろうかというところ。

何故こんな時間いるのかって? それは当然、肝試しをするためだ。

元々は赤也とブン太でやろうと話していたのだが、聞いた仁王がそれに乗り、ジャッカルが強制的に参加決定。

呆れた蓮二が止めようとしたが失敗。 更には巻き込まれて来るはめになってしまったのだ。

そんなこんなで教、肝試しが行われるのだった。





「よし、じゃあそろそろ行くか!」





ブン太のその言葉で、早速中に入ることに。 昼間のうちにちょっとした細工をしておいた窓から、5人は入る。

ちなみに仕掛けたのは当然仁王だ。 中は暗く、静かでやはり不気味だった。

窓枠から飛び降り着地した時の靴音が、やけに大きく廊下に響く。





「まずはどこに行きましょうか?」





「そうじゃなー。 理科室とか?」





「いきなりそこかよー。 そーゆーのは普通あとだろ。」





「・・・なあ柳。 俺、帰りたい・・・。」





「同感だ。」





わいわい騒ぐ彼等の声は、濃い闇の中に吸い込まれていく。 と、その時だった!





ピシャアアンッッ





突然した音に、反射的に後ろを向く。





「えっ? 何で窓閉まってんだよ?!」





「しかも鍵、開かないっすよ!」





慌てるブン太と赤也。 ふざけているのではない。 本当に開かないのだ。

嫌な汗が背中を流れるのを感じた。

・・・この時、誰1人として気付く者はなかったのだが、時計が丁度2時を指した。

さあ、闇は目覚めた。 彼等は袋の中のネズミ。 逃げることは出来るかな?



                                                ★



「来るなああ!!」





そう言われたからといって、正直に止まる者はいない。 彼等は今、人体模型に追いかけられていた。

あのあとしばらく粘っていたが、結局窓は開かなかった。 もう肝試しどころではない時に、不意に聞こえたピアノの音。

恐る恐る見に行ってみると、音楽室では無尽の状態でピアノが曲を奏でていたのだ。

恐ろしくなり、教室から出たところで突然した足音。 振り返って見ると、こちらに向かって理科室の人体模型が走ってくるではないか。

もう全員の顔は瞬時に真っ青になる。 とにかく必死で廊下を走る。

部活の関係上、持久力はある。 しかし、相手は未知のものであり、人間でもない。 当然、疲れることもない。

人間である彼等は、じきに疲れてくる。 それを思った蓮にhあ、咄嗟に近くの扉を開けた。





「こっちだ!」





彼の言葉に、4人は部屋の中に飛び込む。 最後に入った蓮二がしっかりと鍵を閉めた。





「一体、何だってゆーんだよっ?!」





ゼイゼイという荒い息をつきながらも、ブン太は言う。 しかし、それに答えられる者はいない。

と、その時!





「ほう、今宵のはまた意気がいいな。」





背後から下声に、勢い欲振り向く。 しかしそこに人の姿はない。

あるのは、歴代の校長の肖像画のみ。 ・・・いや、それが存在した。





「嘘だろ・・・?!」





5人に戦慄が走る。 喋っていたのは、肖像画だった。 何枚もあるそれらの目が、4人を射抜くように見つめていた。





『くくく。 これが夢に見えるか? まあ仕方ないか。 此処は既にお前等の日常ではないからな。』





あまりにも不気味な光景に後ずさる。 しかし、蓮二だけは違った。





「貴様等は一体何なんだ?!」





『ははは! まったく、本当に威勢のいい奴等よ。 どうせもうここは我等の領域だ。 逃げられはしない。

 教えてやろう。 我等はこの学校に潜む闇よ。 まあ、人間達はこう呼ぶがな。 【学校の七不思議】と。』





「まさか?! そんなものが実在するなんて?!」





『信じられぬか? まあ、それもよいだろう。 どうせ貴様等はここで死ぬのだから。

 さあ、腹を空かせた者達が待っているぞ! 行け!!』





そう肖像画が言った瞬間、目も開けられぬほどの強い風が吹く。 彼等の意識が遠のいた・・・。





「ははははは!! せいぜいあがくがいい! 無様な姿、見届けてやろうぞ!!」





高い笑い声が響いた・・・。



                                               ★



「うっ・・・。」





呻き声を上げ、体を起こして辺りを見回す。 独特の匂いの油絵の具。 様々な画材やディーゼルの山。

どうやらここは美術室のようだった。 同じように倒れていた先輩達を全員揺り起こす。 どうやら全員、怪我はないようだった。





「・・・さっきの話、本当・・・なのか?」





青い顔でブン太が言う。 蓮二が返した。





「本当である可能性は極めて高い。 でなくば、今の状況は説明できん。」





「でも、それでも信じたくはねーな。 あいつの言葉・・・。」





ジャッカルのその言葉に、全員口を閉ざした。 それもそうだろう。

あれが本当なのだとしたら、全員殺されてしまうことになるのだから。





「・・・とりあえず、脱出する方法を探そう。」





『キャハッ、キャハハハハハハハ!!』





とつぜん響いた声。 声音から、明らかに正常ではないそれに、全員の体が強張る。





「誰だっ!!」





『そんなこと言ったって、ホントは分かってるんでしょ? もうここから逃げるのが無理だって。』





その言葉と共に姿を現したのは、1人の女の子だった。 しかし、彼女の着るセーラー服は真っ黒なはずなのにどこか違う。

よく見ると、唯一白いはずの襟には真紅の色。 そう、彼女の服には血がべっとりと付いていたのだ。





「お前は・・・一体・・・?」





『私? 私はかつてここで殺された。 それが本当にムカついたから、見た奴殺しまくってたら、何時の間にかみーんな私のこと怖がってた。

 キャハハハ! 笑っちゃうでしょ? キャハハハハハ!!』





彼女に対し、全員はとてつもない恐怖を感じる。 何とかしなくては、と思うのだが体が動かない。

と、その時だった。





『さあて、と。 そろそろお喋りは終わり。 皆、私のおもちゃになって死んで。』





そう女の子が言った瞬間、彼女の右手にはいつ出現したのか。

血のベッタリとついた、美術で使うパレットナイフが握られていた。





「部屋から出ろ!」





ジャッカルが叫ぶ。 その声にビクッと反応し、全員は入口に向かって走る。 しかし、女の子は逃がすか!とナイフを振りかざして襲い掛かる。

間一髪、ブン太・仁王・蓮二は部屋からの脱出に成功する。 しかし・・・。





「赤也!」





女の子のナイフが赤也を襲う。 もうダメだと思い、咄嗟に目を瞑る。

しかし、中々痛みは襲ってこない。 恐る恐る目を開けてみるとそこには・・・。





「ジャ・・・ジャッカル先輩?!」





赤也の前に、彼を庇うように立っていたのはジャかkルだった。

そして、彼の腹には女の子の突き出したナイフが、深々と突き刺さっていた。





「い・・・行け・・・。」





呻きながらも、そう声を振り絞る。 ナイフの突き刺さった彼の体からは、血が止め処なく流れ出していた。





「ここは俺が・・・食い止める。 だから・・・早く・・・行けっ!!」





彼のその言葉に、赤也は嫌々と首を振る。 しかし、後ろで固唾を呑んでいた蓮二が赤也の元へ駆け寄り、彼の手を取った。





「ジャッカル・・・すまない・・・!!」





そう悔しそうに呻き、彼は赤也を連れて部屋の中から走り出た。

それを見守り、彼等が出た瞬間、ジャッカルは部屋の扉を力強く閉め、鍵をかけた。





『あ〜あ。 逃げられちゃった。 私のおもちゃだったのに〜。 でもしょうがないか。 あなただけで我慢しよーっと。』





(皆・・・無事に逃げてくれ・・・。)





力なく床に伏せつつも、ジャッカルはそう祈る。 意識が遠のきそうになった瞬間、激痛が走り現実に戻される。

力なく開けた目に、満面の笑みを浮かべた女の子の顔が。





『どうせ皆死ぬのよ。 あなたは無駄死に。 残念でしたあー。』





女の子の口元が、半月方に歪んだ―――



                                               ★



「うっ・・・先輩・・・。 先輩が・・・。」





嗚咽を洩らすのは赤也。 他の3人の顔も優れない。 しかし、それでも足を止めることは出来なかった。

何故なら、美術室を出た瞬間再び人体模型が追いかけてきたのだ。 悲しみに暮れる間もなく、彼等は駆ける。

だが、階段の踊り場に差し掛かった時だった!





「うわあああ!!」





1番後ろを走っていたブン太が突如悲鳴を上げた。 振り向くとそこには巨大な姿見。

しかし、いつも見ていたそれからは今、幾本もの腕が伸びてブン太の全身を掴んでいた。

そして、彼を鏡の中にズルズルと引きずりこんでいく。





「先輩!!」





「ブン太!!」





3人が彼の体を掴もうとした手を、ブン太は叩き落とす。





「ダメだ! お前等まで引きずり込まれちまう! 俺のことはいいから行け!!」





自分よりも仲間を気遣うブン太。 何も出来ない自分達に、心底腹が立つ。





「ブン太・・・!」





「俺からの最後の頼みだ。 お前等は、無事に逃げ延びてくれよ・・・。」





その言葉を最後に、ブン太の体は3人の手をすり抜け鏡の中へと吸い込まれて消えた。

仲間がまた1人いなくなった。 残された3人は、涙を流しながらその場に立ち尽くす。

だが、何時までもその場にいるわけにはいかなかった。 彼等を追いかけていた、人体模型の足音が聞こえてきたのだ。

悲しみに暮れつつも、その場から走り出す3人。 絶望が、彼等を支配していた・・・。



                                             ★



『脱出方法を教えてあげる。』





そう言うのは、赤いワンピースを着た小さい女の子。 その子の前に、3人は静かに立っていた。

人体模型から逃げた彼等だったが、やはり人と人外の者の差。 直に追いつかれそうになってしまった。

咄嗟に傍にあったトイレの中に駆け込む。 息を潜めていると、気付かなかったのは人体模型は走り去って行った。

ほっと息をついたのも束の間。 トイレの中からした声。

声と共に現れた女の子は自分のことをこう名乗った。 『トイレの花子さん』と―――。





『この学校の七不思議のうちの6つは。

 1・無人の音楽室で鳴り続けるピアノ。 2・喋りだす歴代の校長の肖像画。 3・走る人体模型。

 4・美術室で殺された女の子。 5・人を引きずり込む踊り場の鏡。 6・トイレの花子さん。 これは私のことね。

 そして最後の7つ目。 それは、迷い込んだ者の命を刈り取る死神。 これが七不思議。

 貴方達はこの6つに既に遭遇してきた。 その間に仲間を失ったわね。 そして、残りはあと1つ。

 これを乗り切れば、なんとかなるわ。』





「じゃが、一体どうすればいいんじゃ?」





仁王の問いに、花子さんは言う。





『簡単よ。 1人の命を差し出しなさい。 その1人が囮となって死神に命を差し出す。

 その隙に、私が残りの2人を校舎の中から出してあげるわ。』





彼女の言葉は残酷だった。 それはあと1人、確実に死ななければいけないということなのだから・・・。

だが、それ以外に方法はない。 そう思った仁王は、口を開いた。





「・・・分かった。 俺がその囮になる。」





「なっ?! 何をバカなことをっ?!」





「そうっすよ! 先輩、何考えてるんっすか!!」





そう怒鳴るが、仁王の決意は固かった。 2人が何を言おうとも、彼が考えを変えることはなかった。

しばらく言い争っていたが、最後には2人共折れた。 それほど、彼の決意は固かったのだ。





「・・・じゃあな。 参謀、赤也。 お前等は無事に逃げ延びろよ。」





最後にそう言い残すと、仁王は花子さんによって守られていたトイレの中から走り去って行った。

拳を強く強く握り締める2人。 彼等に、花子さんは言った。





『そこの窓から外へと出なさい。 そうすれば、校舎の中から脱出出来るわ―――。』



                                              ★



「・・・まさか、こんなことになるなんて・・・。」





誰もいない校庭を、蓮二と赤也は歩く。 2人の顔は今、悲壮に満ちていた。

面白半分で行った肝試し。 しかし、それが呼んだものは悲劇でしかなかった。 後悔の念が、重く赤也にのしかかっていた。





「俺、どうすれば・・・。 ・・・!!! 先輩! 危ない!!」





蓮二に助けを求めようと彼のほうを見た時、赤也の目に映ったのは大鎌を振りかざした漆黒の影。

蓮二に向かって振り下ろされたそれから彼を守るように、赤也は彼を思いっきり突き飛ばした。

振り下ろされた鎌は、赤也の体を綺麗に切り裂いた。 口から血を吐き、全身から血を迸らせて後ろに倒れこむ。





「赤也! 赤也!!」





彼の体を揺さぶり、必死になって呼びかける蓮二。 ぼやけた視界の中に、また鎌を構えた影の姿が見える。





(柳さん・・・逃げ・・・て・・・。)





そう思うが声は出ず、彼の背後の者の存在を伝えることが出来ない。

振り下ろされた鎌は蓮二の体を切り裂き、あふれ出た血が赤也の視界を真紅に染めた―――。



                                             ★



『お前もまったく、悪知恵が働くな。』





そう言うのは、影。 傍にいるのは、赤いワンピースを着た少女。





『そう? 騙されたあいつ等が悪いのよ。 別に私は、校舎から出られるだけで、学校から出られるとは言っていない。

 それに、囮を出せば出られるってゆーだけで、生きて返れるとも言ってないもの。

 七不思議の真実を知らないから、こういう結果になったのよ。

 学校の七不思議。 その最後の1つは、知ってはいけないものとされている。 それは何故か?

 最後のを知った者は、確実に死ぬ―――。』





深夜の学校に行ってはいけない。 そこは闇の巣窟。 怪物達が手招きをしている、悪夢の場所。

知ってなきゃダメだよ? でなきゃ、あなたも死んじゃうかもしれないよ・・・。









【あとがき】

え〜っと。 とりあえず、放置しすぎててすいませんでしたあ!!(スライディング土下座)

今年の夏はホラーをまったく更新しなくて(汗) とりあえず、久しぶりの更新です。

いかがでしたでしょうか? 今回は今までのものと違い、登場キャラを増やしてみました。

七不思議っていうと、学校としか思いつかなかったなんとも単純なこの頭。

ちなみに、この七不思議はあくまで瑠璃の思いつきですので、本物ではございません。

・・・ってか、あまりにも適当に作ってしまったような(汗)

あっ! 最後になってしまいましたが、読みたいとおっしゃって下さった方。

それにたくさんのコメントを下さった方々、ありがとうございました!!



07.12.07



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