海に響くウタ
「なあ、柳生。 船を沈めてるのって本当にセイレーンだと思うか?」
丸井がそう上を向き、尋ねる。
彼は今、柳生の両手を掴みぶら下がっているのだった。
「分かりません。 とにかく行って調べるしかありませんね。」
そう、柳生が返す。
彼らは今、空を飛んで移動しているのだった。 しかし丸井は人間なため、飛ぶことが出来ない。
そのため、彼は柳生の両手につかまり移動しているのだった。 今、柳生の背には2枚の翼があった。
「ちょっと面倒な仕事になりそうだなあ。」
丸井がそう、溜め息をついた。
☆
それは昨日のこと。
「柳生、ブン太。 急で悪いんだけど、明日サンレットに行ってくれないか。
今、依頼が入ったんだ。」
「本当に急ですね。」
「ああ。 とりあえず説明する。 クライアントはサンレットの長。
内容は、最近多発している船の沈没事故の犯人の特定。 その捕獲もしくは抹殺だ。」
「殺すことももう入ってんのか・」
「ああ。 で、今最も疑いをかけられているのがセイレーンの不二周助だ。
セイレーンは昔からその美しい歌声に魔力があり、船を沈めてきたとされている。
でも、本当はそんなことないはずなんだ。 そう言ったんだけど、長は船が沈む時に歌を聴いた者がいるって言うんだ。
とにかく、何が起こっているのかまったく分からない。 詳しく調べて、2人の目で真実を見てきてくれ。」
幸村がそう言うと、2人は頷いた。
「本当に、よろしく頼むね。」
☆
・・こうして、今に至るのだった。
「町が見えてきましたね。 丸井君、降りますよ。」
かなりの距離を飛び、目的地が見えてくると、柳生はそう言って地上に降り立った。
降りると、2枚の翼は綺麗に消え、人間と同じ姿に戻った。
「なー、柳生。 いつも思うんだけど何でそんなに正体晒すの嫌がんだ?
別に全然いーと思うんだけど。」
「こうやって隠すのはもう癖みたいなものです。 あまり気にしないで下さい。
おっと、ここからは仕事ですよ。」
柳生のその言葉に、丸井はああ。と答えた。 2人は、町の中に足を踏み入れた-----。
☆
『私の想いは波に揺れ、果て無き海をたゆたう-----。』
そこからともなく、美しい歌が聞こえてくる。
潮と、花の香りがふんわりとするこの場所に、悲しげな歌が響いていた-----。
☆
町の中は活気に溢れ、たくさんの人で賑わっていた。 その中を、柳生は1人歩く。
中に入ってすぐ、2人は別れた。 丸井は情報を集めるために、柳生は不二を探す為に。
(早く会って真相を確かめなければ・・・。)
柳生はそう思っていた。 そして、彼を救ってあげなくてはと。
そう思うのは、彼が人に虐げられ、命を狙われる苦しさを知っているからだった。
と、そうこしているうちに町の外れにある波打ち際までやってきていた。
(多分彼は人に見つからない所にいるはず。 ・・・これは、花の香り?)
そこを不自然にならないように歩きながら辺りを見回していると、ふいに花の香りがした。
それにぴんときた柳生は、匂いのした方に行こうとする。 だが、その時!
ガガガガガッッ
不意に殺気を感じ、反射的に後ろに飛ぶ。
彼が今さっきまでいた所には、無数な氷の矢が突き刺さっていた。 そしてその先には、1人の男。
「あなたは・・・。」
「セイレーンに関わるのはおよしなさい。 あなたが何者かは知りません。
ですが、彼に危害を加えるというのなら、この僕が容赦しませんし、させません。」
そう言うと冷たい風が吹き、男の姿は一瞬で消え去った。
(今のはもしかして・・・。)
そう思った時、柳生!と自分を呼ぶ丸井の声が聞こえた。
「柳生! 今の奴って・・・?」
「おそらく氷の魔女です。 さっきの言動から察するに、きっとセイレーンの仲間でしょう。
ところで丸井君。 おちらは何か分かりましたか?」
「ああ、色々分かったぜい。 元々、ここのセイレーンは物静かで、自分からこんなことするなんてありえねーらしいんだ。
で、長は船が沈む時歌が聞こえたって言ってただろ?
それは確かなんだけど、その時に何か別の物もいたっていう話を聞いたぜ。」
「別の物・・・。 では、それが犯人という可能性もありますね。」
「だろ? まあとにかく、そのセイレーンに会ってみっか。
そいつはここをずっと東に行った所にある『花の檻』ってとこにいるってよ。」
「分かりました。 では、早速行きましょう。」
柳生がそう言った瞬間、彼の背に翼が出現した-----。
☆
「あんまり無理をしないほうがいいですよ・・・。」
先ほど柳生を攻撃した男が心配そうに言う。
「ありがとう観月。 でも、僕はやめるわけにはいかないんだ。」
そう返事をし、にこりと笑う。 しかし、観月と呼ばれた男は心配そうだ。
と、その時急に彼の顔が引き締まった。
「・・・さっきの人達が来ましたね。 不二君はここにいて下さい。
僕が行って、信用に足る人達か見極めて来ます。」
そう言うが否や、観月の姿が冷たい風と共に消え去った。
あとには、心配そうな顔をした不二だけが取り残された・・・。
☆
「すげー、ここが花の檻かあ。」
丸井が感心したような声を上げる。 確かに美しい所だった。
砂浜の中に突如出現したそうれは、背のとても高い木に覆われ、そこら中に花が咲き乱れていた。
中は空洞になっているようで、それは本当に『花の檻』と呼ぶのにふさわしかった。
「丸井君、感心するのもそれくらにして、中に入りますよ。」
柳生がそう言って中に入ろうとしたその時。
「セイレーンに関わるなと言ったでしょう? なのに、何でここまで来たんです?」
声のした方を向くと、そこには先ほどの男が静かに立っていた・・・。
☆
「観月、大丈夫かな? ここに来るのでさえ、本当は止めたほうがいいのに・・・。 !!」
そう呟いた時、急に不二は顔を上げた。
そして、来た・・・。と言うとその場から立ち上がり、檻の1番上へと向かった。
☆
その頃、柳生達と観月は静かに対峙していた。 そして、柳生が口を開く。
「私達はセイレーンである彼を、不二君を助けたいんです。
彼は船を沈めた犯人として命を狙われています。 このことも、彼に伝えたいんです。」
「では、あなた達は僕たちの敵ではないと思っていいんですか? ノクターン・」
「どうした私達はノクターンの者だと?」
「そんなの、見れば分かります。 それにあなた、ハーピイですね?
ハーピイの一族は1人を残し、滅んだと聞きました。 そしてその1人はノクターンにいるとも。 で、返答は?」
観月の言葉に、柳生は肩の力を抜いた。
「まさかそのことを知っているとは思いませんでしたよ・・・。 私達は敵ではありません。 信用してください。
・・・名乗っていませんでしたね。 私は柳生比呂士。 そして彼が丸井ブン太君です。」
柳生がそう言うと、丸井はどうも。と言った。 すると観月も。
「観月はじめです。 信用しましょう。 あなた達のこと。
では、こちらに来てください。 不二君は中で待っています。 今、事態は深刻で・・・!!」
彼はそう言い、2人を中へ案内しようとした。 だがその時、ふいに歌が聞こえてきた。
「これは・・・まさか?!」
「そうです。 不二君の歌です。 急いでください!
彼が歌いだしたということは、この事件の犯人が姿を現したということです!」
観月のその言葉に、2人の顔が引き締まった。
そして檻の中に入り、階段のようになっている所を一気に駆け上がった。
「不二君!」
檻の1番上は、とても見晴らしのいい所だった。
だが、そこで最初に見たのは沈みそうになっている船と必死に歌う不二の姿だった。
「観月! この人達は?」
3人が来たことにより。彼は歌うのをやめて尋ねた。
「ノクターンの方達です。 大丈夫、信用できますから。」
観月がそう言うと、不二はほっとしたようだった。 と、ブン太が言う。
「お前、不二っつたよな? あのイカみたいな奴が犯人か?」
その言葉に、不二は驚いた。 それもそのはずだ。
いくら高い場所にいるからと言っても、海の中のものを簡単に見ることは出来ないのだから。
と、驚いたのに気付いたのかブン太が言う。
「俺が人間だからってなめんなよ? 確かにお前らよりが色々弱っちいよ。
けど、あの妖だらけの中で仕事してんだ。 特別な力はねーけど、勘とか目は少しはいーんだよ。」
「ごめんごめん。 本当に驚いちゃって。 そうだよ。
あのイカのような姿をした妖、クラーケンっていうんだけどあいつが今まで船を沈めてきたんだ。
で、あいつの弱点がセイレーンの歌声なんだ。 でも、ここからだと遠すぎて、あまり聞かないんだ。
近くまで行くこともできなくはないんだけど、僕は戦う力を持たない。
効く前にやられてしまうのがオチなんだ・・・。」
「なら、私達があなたを守りましょう。 そうすれば倒すことが出来ますよね?」
柳生がそう言うと、ブン太も観月も頷いた。 そして、不二が言う。
「よろしく頼むよ。」
☆
「丸井君、あなたは観月君の傍でクラーケンの注意をひきつけてくださいね。」
空を飛びながら、柳生はそう言う。 2人の傍には同じように飛ぶ不二と、彼に掴まる観月がいた。
飛ぶ不二の背には、美しい百合の生花で出来た翼があった。
「それにしても驚いたよ。 セイレーンの羽根って花なんだな。」
「ええ。 でも、あの羽根を持ったために狩られ、今ではあまり残っていないと聞いたことがあります。
あまりそのことには触れない方がいいでしょう。」
「ああ、分かったよ。」
と、そうこしているうちに船に近づいてきた。 観月が言う。
「僕がクラーケンをおびき出します! そうしたら、あとは打ち合わせ通りに!!」
そう言うと、すぐに彼は海に飛び降りた。 だが、沈みはしない。 彼の足元には氷が張っていた。
そして観月は氷の中に手を入れ、こぶしをぐっと握った。 と、その瞬間!
『グオオオオオ!!』
うなり声を上げ、巨大なイカのような姿をした妖が出現した。
クラーケンは観月を見つけると、すごい勢いで襲い掛かってくる。 それをかわしながら、彼は走る。
その彼の傍に、丸井が降り立つ。 彼は観月の後ろは走りながら、彼を守っていた。 そして・・・。
「丸井君、出来ました! 行ってください!!」
観月の言葉で、今度は違う方向に走り出す。 そこには、観月の作った氷の道があった。
2人の動きに、クラーケンは戸惑う。 と。そこに柳生が空から攻撃を仕掛けてきた。
3方向からの攻撃に、クラーケンは身動きが取れない。 そして・・・。
「「「今です!!」」」
その声を合図に、不二はすうと息を吸い込み、そして-----。
『ギャアアアア!!』
不二が歌いだした瞬間、クラーケンは苦しみだした。 クラーケンは不二に攻撃しようとするが、全て他の3人に阻まれる。
そして、歌が終わろうとした瞬間、不二は自分の羽根の花を1本抜き取った。
その花を、クラーケンに向かって投げる。 花が当たった瞬間、クラーケンは断末魔の叫び声を上げて消え去った-----。
☆
「ありがとう。 皆のお陰で倒すことが出来たよ」
花の檻に戻り、不二はそうお礼を言う。
「気にしないでください。 こっちもあなた達のお陰で仕事を終わらせることができたのですから。」
柳生もそう言う。 と、その時丸井が口を開いた。
「なあなあ。 歌、歌ってくれよ。 不二の声ってすんごく綺麗だったからさ!」
そう言われると、不二はにこりと微笑み、言った。」
「いいよ。 せめてものお礼に、ね。」
美しい声が響き渡った-----。
☆
「ごくろうさま。」
店に戻ると、幸村がそう言って出迎えた。 彼に丸井が聞く。
「なあ、あのあと不二どうなった?」
「大丈夫だよ。 逆に長は感謝してた。 これで迫害されることもなくなったね。
でも、元々セイレーンは海を守っているんだから、迫害されるなんてありえないんだ。
最近、何かがおかしい。 滅ぼされていく一族も少なくないし。 ・・・少し、調べてみる必要があるね。」
幸村はそう言い、顎に手をのせた。
☆
『風に乗ってどこまでも歌が届く。 私の想いは波に揺られ、はてなき海をたゆたう。
あなたの笑顔が私の力。 生きる力になる。 この力を抱いて、私は流れに身を任せる。
どこまでもどこまでも流れていこう。 私の想いを胸に抱き、この力を心に抱いて-----。』
今日も、不二の歌声が海に響いていた・・・。
【あとがき】
恐ろしいくらいに長くなってしまった(汗) 諦めてまた前後編にすればよかったか?
今回はノクターンのメンバーは少しで、代わりに不二と観月が出てきました♪
不二がセイレーンっていう設定はかなり前から出来ていたんです。
キャラソンで彼の歌声に惚れてしまったので。
セイレーンは元々海の魔女といわれて、その美しい歌声と空を飛ぶ姿にやられて船がよく沈んだそうです。
これは、その話を大幅に無視して書いてしまいました(汗) 石は投げないでくださいね。
これから柳生達の過去も書きたいなあと思ったので、近々書こうと画策してたりします。
06.8.14
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