Red Rose  中編





「観月に君は…赤澤君だね? 一体どうしたんだい? ここまで来るなんて。」





部屋に招きいれた男が、少し驚いたように言う。 それもそうだろう。

予想外の者達が、彼等を訪れて来たのだから。





「急に来てしまってすいません。 東方君。

 ですが、どうしても貴方達に直接聞きたいことがありまして。





とりあえず座って、と促されて応接室と思わしき部屋のソファに座る2人。

気を利かせて太一がお茶を出してくれる。 それにお礼を言うと、問いかけられる言葉。





「聞きたいことって何? でもここまで来るってことは、相当なことだろ?」





それに、表情を険しくさせる2人。

彼等の表情にただ事ではないだろうと、東方も引き締める。





「ええ。 …先日のことになるのですが、カルティクトが何者かによって襲われたことはご存知ですか?」





「ああ。 あまり詳しくは知らないがな。 今は千石が調べに行っている最中だ。

 もう数日になるんだが、一向に連絡する気配もなくてな。 困ってる所なんだ。

 …まさか、それに関することなのか?」





「ええ。 …多分すぐに知ると思いますが、教えておきます。 カルティクトは…滅亡しました…。」





「なっ…?!」





はじめの衝撃的な言葉に、東方も驚きを隠せない。 それもそうだろう。

カルティクトは死火山。 火山として現在も活動しているアシュニックと共に、炎を操る妖が住むとして有名な場所だった。

その全ての妖が、一般的な妖よりも高い攻撃力を誇る。 そのカルティクトが全滅したというのだ。

驚かないほうがおかしい。





「一体どういうことだ?」





「実は…。」





東方に促され、観月は説明する。

嫌な予感がして訪れたカルティクト。

そこで、ほとんどの妖が殺されていたということ。 その中で生きていたのは、昔からの仲間が1人だけ。





「1人生き残っていた彼も、到底動ける傷ではありませんでした。

 しかし癒そうにも僕達には治癒の能力はない。 ですから、最終手段を使いました。

 かなり長く会うことは叶いませんが、それでも死にません。 傷が癒えたら、彼は戻ってきます。」





最後の1人が戻って来るという言葉には、安堵した。

だが、それでもはじめの言葉に、絶望を覚えた。 あのカルティクトが全滅したなど。

絶句する東方に、はじめは問いかける。





「…それで、貴方達に聞きたいことというのは今回のこともそうなんですけど。

 ここ数十年、特に妖達が著しく滅んでいっています。 そのことと今回のカルティクトのことも関係あると思うんです。

 僕達が思うに、絶対に何か裏があります。 エスピオーグ。

 情報屋の貴方達なら何か掴んでいませんか? 教えて下さい。 僕達もただ黙って指を咥えているのは嫌なんです!」





そう訴えるはじめに、、東方の表情が曇る。

言ってもいいのだろうか、と。 確かに彼等の気持ちも分かる。 しかし、それでも教えれないことはある。

自分1人で判断しかねると思ったその時、不意に部屋のドアが開いた。





「南、君?」





そこにいたのは、東方にとっての救い主であった。 厳しい顔をしている。

その表情から、どうやら先ほどまでの会話が聞こえてきていたようだ。





「南、お前なら教えてくれるよな? 俺達、これ以上黙って見ているわけにはいかないんだ!」





赤澤がそう強く言う。 彼に、南は視線を合わせる。 その顔はどこか悲しみに満ちている。





「…君達には、覚悟はあるかい?」





静かに南の口から紡がれたのは、そう問う言葉。

それに、2人は即座に頷く。 彼等の目には、強い光が宿っていた。 それを認めた南は、軽く溜め息をつく。





「…分かった。」





「南?!」





「いいんだ。 直に2人がこうやって来ることは、大体予想がついていたんだし。

 それに今は少しでも戦力が必要だ。 どんな状況になるか、全く分からないから。」





そう言って南が口を開こうとしたその時だった。





「…何だ?」





不意に遮ったのは赤澤。 それに疑問符を並べる面々。





「どうしたんですか?」





「胸騒ぎがする。 何だ? 火がざわついてやがる。

 何か、強い火の波動を感じるんだ。 一体どこから…サンレット…?」





赤澤がそう言った瞬間、はじめの表情が変貌した。 驚きと焦りに満ち、見開かれた瞳。





「なっ、何ですって?!」





「確かじゃねえ。 だが、近くに何か強い力を持ってる奴がいる感じはする。

 後は…何だ? 他にもいくつか力を感じるが…。」





「…っ!!!」





「観月!!」





赤澤がそう言った次の瞬間、部屋を飛び出したはじめ。

後を追うために赤澤と南、東方も部屋を出る。 しかし時既に遅し。 そこには、音を立てて閉められた扉。





「東方、留守番頼む! 赤澤、俺達は観月を追うぞ!」





「分かった! 多分あいつはサンレットに向かってる。

 あそこまで取り乱すなんて…。 理由はあの不二っていうセイレーンか。」





外へと出ると南はグリフォンの姿に変貌する。 その背に乗る赤澤。 黄金色の体が、空を舞う。

目指すは、不二のいるサンレット―――



                                              ☆



「…ん…。」





軽い呻き声と共に、目を開く。 まだ軽く痛む頭を抑えながら、ゆっくりと体を起こす。





「さっきのは、一体…?」





頭痛と共に襲ってきたいくつかのビジョン。 全く記憶にないのに、どこか懐かしいもの。

隣にいた男も、知らないはずなのに酷く安心感を覚えた。

頭では記憶していないが、心が記憶している。 そんな感じだった。





「…ちょっと外の空気にでも当たって、頭を冷やしてこよう。」





そう呟いて立ち上がる。 そしてそのまま不二は花の檻の1番上へと向かう。

…この時彼は気付かなかった。 その場にあった薔薇の花が、先ほどよりも若干輝きを増していることに―――



                                              ☆



「多分こっちで間違いないかな。 微かだけど、感じる。

 さっきの山にもちょっとだけ気配が残ってたし、もしかしたら何回も来てたのかもしれない。

 それが俺のためだったら嬉しいな〜。 それにもしそうだったんなら、無事だったってことにもなるし。」





赤い髪の男は、そう言う。 それには若干の不安と期待が入り混じっていた。





「早く見つけて、会いたいな。」





男はそう呟きつつ、足を動かす。 そしてふわりと風が吹のに合わせて、体が宙に浮いた。

…誰もいなくなったそこに舞い落ちたのは、紅い薔薇の花びら―――



                                               ☆



「ふう、やっぱりここは風が心地いいね。」





花の檻の屋上ともいえる場所。 そこに不二は1人佇んでいた。

全身に当たる風がなんとも気持ちいい。 うーん、と伸びをする。





「このまましばらく風に当たってようかな。」





そう呟いた、次の瞬間だった。





「見つけたぞ。」





「えっ?」





不意に何者かの声が聞こえたかと思った瞬間、感じた殺気。

咄嗟に身を翻す。 次の瞬間、さっきまでいた場所を襲った強烈な冷気。

何が起こったのかと前を見据えると、そこには宙に漂う女達。 水色の髪に透き通るほど白い肌。

だが、その中で目だげは爛々と禍々しい光を放っている。





「っ…!」





ヤバイ、と本能が継げている。 この者達は危険だと。 だが、逃げようにも退路がない。

目の前の女達は風を操っているのだろうか? ふわりふわりと宙に浮いている。

自分が空を飛んで逃げたとしても、戦う力を持たないため結果として不利だ。 嫌な汗が背を流れる。





「セイレーンの生き血。 それに、あの伝説が本当だとすれば貴様のは最上級。

 永遠の命と、最高峰の力が手に入る!」





その言葉を合図にしたかのように、女達は一斉に不二に襲い掛かる。

それぞれの手から放たれた強烈な冷気が、一気に吹雪く。

寒さは花を翼として持つセイレーンにとっては大敵だった。 やられる、と覚悟した。 逃げ場はない。





―――ごめん、観月。





そう思った、その時だった。





「不二っ!!」





突如聞こえた自分を呼ぶ声と、熱い風。 聞いたことのない声に、思わず瞑っていた目を開ける。

そして目に飛び込んできたのは、紅。





「不二、会いたかった…。」





自分のほうを向き、そう言った男。 その目には、酷く懐かしそうな色が映っていた。

そして不二は見た。 自分の名を呼ぶ、見知らぬ彼の背にあるものに。

――― 真紅の薔薇の羽根。

炎を象徴する、伝説にしか存在しないはずのもの…。



                                              ☆



「南!! もっと早く飛べないのか?!」





「これが限界だ! ったく、俺の速度がそんなに遅いっていうのかよ?!

 これでもドラゴンと並んで最速を誇るっていうのに。」





互いに言い合いながら、空を駆ける。 赤澤は文句を言っていたが、南の速度は相当なものだった。

一筋の光となるほどに、急ぎ飛ぶ。





「くそっ! サンレットで一体何があったっていうんだ?!」





「分からない。 だけど、不二君が狙われているのは確かだ。 くそっ。 何でこうも彼ばっかり。

 …やっぱり、あの伝説が関係しているのか?」





「伝説だと?」





訝しげな顔をして問う赤澤。 それに南は頷いて答える。





「ああ。 セイレーンの一族には伝説があってな。

 ― 全てを焼き尽くす紅き薔薇。 全てを切り裂く白き百合。 全てを癒し守護せし儚き霞。

 一族を守りしは強き花々。 その花枯れるまで、約束されし永劫。 ―

解釈すると、赤い薔薇・百合・カスミソウの翼を持つセイレーンは絶大な力を持って一族を守る。 俺はそう捉えた。

赤澤、多分君は知らないと思うんだけど、サンレットの不二の翼は…百合なんだ。」





「マジかよ…。」





南の話を理解した赤澤。 昔からセイレーンの生き血には美貌を保ったり、不死になる力があると信じられてきた。

それは眉唾なのだが、今だに信じる者は多い。 だが、それだけでは不二が常に狙われる理由としては十分ではない。

彼が狙われている理由。 それはセイレーンの伝説にある3人と同じ花の翼を、彼が持っているからだと、南は推測する。





「だが、お前の言っていることが本当だったら不二は相当な力を持っているんじゃないのか?

 俺の知っているあいつは、そんなものを持っているなんて思えないほど非力なものだぞ。」





「そう、そこが俺にもわからないんだ。 不二からはそんな素振り、俺も感じていない。 何が真実かは分からない。

 …でもとりあえずは、その不二の無事を確認するのが先だ。」





南はより一層強く翼をはためかせた―――。



                                            ☆



凍えるような風と共に現れるはじめ。 花の檻に着いた瞬間、感じた不二意外の気配。

それに血の気が引く。 一刻も早く不二の元へ。

はじめは花の檻の中へと、その身を躍らせた…。



                                            ☆



「…会いたかった。 本当に会いたかった。」





目の前にいる真紅の薔薇の翼を持つ男が、そう言葉を紡ぐ。 その顔は、本当に懐かしさに満ちたもの。

だが、不二は目を白黒させるばかり。 自分の記憶の中に、彼の姿はない。





――― 本当に、そうなの?





その時頭の中に語りかけてきたのは、自分の声。





――― 本当に僕は彼のことを知らないの? 覚えていないの?

 それはただ、思い出すことを拒否しているからなんじゃないの?





(違う! 僕は彼のことなんて知らない!)





自分の声を自分で否定する。 そうしなければ、何かが溢れてきてしまいそうだった。

恐れている、何かが。

それが一体何なのかも分からない。 だが、拒否するしかなかった。





――― 思い出すんだ。 君の、スベテを…。



                                            ☆



「不二、もしかして…。」





呼んでくれると思っていた。 自分の名を。 かつてと同じように、その心地いい声で。

だが、不二は名前を呼ばれたのと同時にまるで石になったように固まってしまった。 自分を、凝視したまま。

その姿に、悟る。 彼の異変に。





「…それだけ、苦しい思いをしたんだね…。」





悲壮に暮れる。 だが、仕方のないことと納得させる。

あの時一体何があったのかを、自分は知らない。 だが、彼の異変に感じざるを得なかった。





「この我等を無視するなど、いい度胸をしているではないか!」





その時だった。 不意に聞こえた怒鳴り声。 振り向けば、激怒した女達。

それに、薔薇の翼の男は不二に向けていた視線をゆるりとはずす。





「…どれだけ、どれだけ不二を苦しめれば気が済むんだよ! どれだけ俺達を追い詰めれば!」





先ほどとは打って変わり、怒りをむき出しにする男。 女達に向けるその殺気はすさまじい。

それに、思わず怯む女達。





「もう俺は負けない! 何者にも! あの時のように、奪われてたまるか!

 例え残されたのが俺だけでも構わない。 1人でも守ってみせる! 不二も、皆も!」





次の瞬間、炎が舞うように女達に向かって襲い掛かった。

女達が怯んだその隙に、男は薔薇の翼をはためかせて上空へと舞い上がった。

真紅の薔薇の花びらが舞い落ちる。 血よりも赤い、花が―――









【あとがき】

えーっと…。 一体何からお詫びをすればいいんですかね?←

長らく更新していなくてすいません(汗) あと前後編で終わらせるつもりが、3話…。

予想外に長くなりすぎです(誰のせいだ)

あっ! そういえば遂に新キャラ登場です! でも正体まだ分かってねーぜ☆

次には必ず分かりますから! そこはホントです←強調



08.7.20








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