海底深く存在する、巨大な都市。

しかしそれを見た者はなく、人々の間では伝説と化している。

そこを治めるは、海神と呼ばれし巨大なる妖。 共にいるは、華麗なる海の妖。

海は彼等のテリトリー。 そして、生きる世界―――。





海底の巨大都市






「今回も異常はなかったな。 あそこももう大丈夫そうだし。

 早く戻って報告して、休みもらおう。」





そう独り言を言いながら、先を急ぐ1つの人影。

・・・ここは海。 というか、海中である。 澄み切った青い水、差し込む陽の光。

全てが辺りを美しく見せる。 その中を、海底に向かって泳ぐ1人の男。

紅い髪を水にたゆたせ、音も立てずに進む。





「それにしても橘さんの力はすごいなー。

 こんだけ浄化出来るなんて。 俺にもこれくらい出来るようになりたいよ。」





そう言うのは『神尾アキラ』。 見た目は人間だが、これでも海に住む妖だ。

彼の正体は、水の精霊であるウンディーネ。

一般的に言われているのとかなり違うが、れっきとした水の精霊だ。

彼は今、海底のとある場所に向かっていた。

その地の名は 『イル・フルーエンス』。

地上の者達の中では伝説と化している所である。 そうなっている理由は、見た者がいないから。

しかし実際には存在している。 普通の者では行くことが出来ない、海底500メートルの地点に・・・。





「はー、やっと帰ってこれたー。」





そう言いながら、下を見る。 そこにあったのは、直径5キロにも及ぶ巨大な半透明の天蓋。

そしてさらにその下にある、いくつもの建物だった。 それらはレイニックシティのように、ビルとなって聳えている。

都市を覆う膜を通過する。 そして地面にストンと着地した。





「よし、早く行こう。」





そう言って歩き出す。 辺りには、様々な妖の姿がある。

ここは妖しか存在しない。 いや、することが出来ない。 この中も、水で包まれている。

しかし中の水圧は、地上に比較的近い浅瀬に設定されている。 それは、深海に住めない妖のためであった。

その中で、彼はある建物を目指す。 しばらく歩くと、その目的の場所が見えてきた。

都市の比較的外れ。 辺りにあまり建物のない所に、大きな建物があった。 その中に、彼は入って行く。





「橘さん! 今戻りました!」





明るくそう言いながら、中の一室に。 ノックしてから開け、中に入る。

海独特の青い光に満ちたその空間に、2人の姿が。





「おかえり〜。」





そう言うのは切れ長の瞳をした男。 名は、『伊武深司』。 水の中に住むという珍しいドラゴン、サーペントである。

そしてその奥、大きな窓の傍にいるのは・・・。





「ご苦労だった。 で、どうだった?」





そう言うのは、このイル・フルーエンスを治める長である 『橘桔平』。

海神と崇められるほどの力を有し、仲間から絶対の信頼を集める。 その正体はリバイアサン。

アキラが尊敬して止まない妖である。





「問題ありません。 サンレットまで見てきましたが、浄化はほとんど済んでいます。

 汚染の痕も、もう少しで完全に消えます。」





「そうか。 セイレーンの所も見てきてくれたか?

 あそこは優先的に浄化しなければ危ないからな。 あの一族はかなりデリケートだ。」





「はい、見てきました。 そこも問題なかったですよ。

 島に上がることはなかったですけど、とりあえず周囲の水は澄み切っていました。」





アキラのその言葉に、橘はほっとしたように息を吐いた。





「そうか。 ならいい。

 あそこの浄化はかなり早急にやったからな。 少々不安が残っていたんだ。 だが、これで安心出来る。

 本当にご苦労だった。 しばらく働き詰めだったからな。

 深司と一緒に少し休め。 しばらく仕事は他の連中に頼むとするから。」





橘のその言葉に、アキラの顔が明るくなった。

伊武が喜んでいるのかはちょっと分かりにくいが、どうやら喜んでいるようだ。





「いいんですか?!」





「ああ。 羽目を外しておもいっきり遊んで来い。 休息も必要だからな。」





そう言って橘は笑みを浮かべる。

それにお礼を言うと、アキラは軽いステップで伊武と一緒に部屋を出て行った。

2人がいなくなった部屋の中、橘は大きな窓から外を見る。

そこから見えるのは、町の中を優雅に泳ぐ自分の仲間達の姿。

穏やかなその光景の中に、『戦う』という文字はない。





「・・・今はまだ安全だ。 どんな奴かは分からないが、ここまで来ることは出来まい。

 だが、もしも手段が見つかったのなら・・・。

 その時俺は、本当に守ることが出来るのだろうか・・・?」





1人、静かにそう呟く。

彼のこの言葉を聞いた者は、誰もいなかった・・・。



                                          ☆



「やっぱ休みっていいよなー。」





そう言いながら街中を歩く。

2人は今、イル・フルーエンスの中でも大きな通りを歩いていた。





「でも休みっていっても結局アキラに振り回されるんだよね〜。

 あーあ、俺も行きたい所くらいあるのにさ。」





アキラの横を歩く伊武がそうぼやく。 それに苦笑いをしながらも、アキラは足を進める。

と、不意に前から同じように歩いてくる人影。 見知った顔に、アキラは手を振る。

それに気付いた向こうは、こちらに近づいて来る。





「よお。 神尾に伊武じゃねーか。 こんなとこでどうしたんだよ?

 今日の仕事はもう終わったのか?」





「ああ。 さっきいつもの汚染度を確認しに行って戻って来たんだ。

 そしたら橘さんが休みくれるって言ったから、ここまで出てきたんだ。」





「俺もアキラと同じ仕事してたんだけどね。

 でもアキラ帰ってくるの遅いんだよ。 俺すごく待ってたんだからさあ。」





伊武のぼやきに内村も桜井もまたかよ。と思う。

しかし本当にいつものことなので、ツッコミはなし。 と、桜井が口を開いた。





「とりあえず場所が悪いから移動しないか?

 ここじゃあ人が多すぎるし。」





その提案に乗り歩き出し始める。 そして人がかなり少ない路地に入った時、不意にした知っている気配。

上を向くと、青い鳥が飛んで来るのが見えた。





「あれって・・・森じゃない?」





伊武がポツリと言う。 それに頷く3人。

とりあえず桜井が声をかける。 それに反応して、青い鳥は4人の前に舞い降りた。

そして地面に着く瞬間、人間の姿へと変わる。





「どうした? そんなに急いで。」





内村のその問いに、今降り立った人物は彼の顔を見る。

彼の名は『森辰徳』。 ガンダルバという、水の中に住む鳥の妖だ。

元々数も多くなかったため、今やほとんど残っていない。 森は、内村に言う。





「いや、ここから少し先で船が一隻沈みそうなんだ。

 今は石田が陸地まで運んでるんだけど、それまでに沈没する可能性が高くてな。

 橘さんに報告しながら、お前等に手伝いを頼みに来たんだ。」





「だったら丁度いいじゃない。 森は早く橘さんの所に行きなよ。

 俺達は石田を一足早く手伝いに行くからさ。 で、場所はどこ?」





「ここから西に50キロほど行った場所だ。

 今はまだ大丈夫だろうが、気をつけろよ。 あの辺は荒くれ達が出没するらしいからな。」





心配そうに言う森に、4人は軽く笑いながら言う。





「おいおい。 そんな奴等にやられるわけねーだろ。

 俺達は橘さんに戦い方を教わってきたんだし。 よし、早く行こうぜ。」





アキラのその言葉に、全員は頷く。 それを見ると、森はじゃあ気をつけてと言って再び舞い上がった。

それを目の端に捕らえながら、伊武が。





「全員俺に捕まっててよ。 トバすから。」





そう言うと、体長十数メートルにもなるドラゴンへと姿を変える。

サーペントはドラゴンだが、アンバーグリスに住む者達とはまったく別種だ。

彼の背に、3人は飛び乗る。 全員が乗ると、伊武は水を切って泳ぎ出した―――。



                                       ☆



「・・・こりゃーヤバイな。」





そう呟くのは、蛇のような姿をした妖。 彼の背には、巨大な船。

船底には穴が空き、今にも沈みそうになっているのをなんとか止めているといった状態だ。

船の上には、不安げな顔をした妖や人間が多数乗っていた。

水の中に住む妖以外にとって、海は恐ろしく危険な場所だった。

そのため彼等は、怯えるしかないのだった。





「船の強度がヤバイ。 このままだとバラバラになっちまうな。

 森の奴、早くあいつ等連れて来てくんねーかなあ?」





そう呟きながらも、泳ぐスピードは緩めない。 陸地まではまだ、遠い。

・・・後ろで、何かが光った・・・。



                                         ☆



「・・・見つけた! 深司! あそこだ!!」





伊武の背中から前方を見つめていたアキラが、そう怒鳴る。

それに分かってる!と言いながら、スピードを更に上げる。 と、その時!





「捕まって!」





そう怒鳴るが早いか、伊武が急に体を反転させた。

振り落とされそうになりながらも、なんとか耐える3人。 体勢を元に戻すと、彼は前方を見据えて言う。





「・・・何の用?」





その声に反応したかのように、少し先にあった大きな岩陰から5人ほどの人影が出てくる。

その全員、人間ではない。 彼等は足や腕にヒレのようなものを持ち、体には鱗があった。





「我等の邪魔をするのなら、お前達も敵だ。 ・・・死んでもらう。」





1人の男がそう言うと、それを合図にしたかのように他の者達もどこに隠していたのか鋭い刃物を取り出す。

それを見て溜め息をつく伊武。





「おい伊武どうするんだ?」





桜井が尋ねる。





「どうするも何も、倒さなきゃダメでしょ。 とりあえず3人は石田の所に行って。

 こんな奴等、俺1人で十分・・・。」





伊武がそう話していた時、前方から再び水を切り裂いて刃が飛んできた。

それを紙一重で交わし、彼は言う。





「・・・やっぱめんどくさい。 内村、手伝って。」





それに内村は頷く。 そして互いに目配せすると、アキラと桜井はその場から一気に泳ぎ去った。

残ったのは2人。 相手を見ながら、内村はペロリと自分の口元を舐める。





「久々の戦闘だぜ。 楽しんでやらなきゃな。」





その言葉を合図にしたかのように、妖達は一斉に動いた―――。



                                          ☆



「石田! 大丈夫か?!」





船を支える石田の傍に、アキラと桜井の2人が泳ぎ寄る。

彼等の姿を認めると、石田はほっとしたような顔になった。





「遅いじゃねーか。 あともう少し遅れてたらヤバかったんだぜ。

 とりあえず神尾。 そこの穴、水が入んねーように塞いでくれ。」





そういわれるとアキラは穴の傍に近寄る。 そして手を穴の上に滑らせた。

手の動きに合わせて、そこには透明の膜が張られていく。

そしてそれは穴を完全に覆った。





「・・・これでよしっと。 もう沈没しねーぜ。

 あとは近くの海岸まで運んでやりゃーいいな。 ここからだとどこが・・・!」





アキラがそう呟いていると、突如襲い掛かってきた刃。

それをなんとか交わすと、伊武達のいる方を向く。 そこでは戦闘が繰り広げられていた。





「・・・まったく、こっちのことも気を付けてくれよ。

 当たったらただじゃすまねーんだから。 まあいい。 桜井、急いで船運ぶぞ。」





それに頷くと、桜井はあっという間に真の姿に戻る。

そして石田と共に船を押し、再び泳ぎ出した。 その後ろを、アキラは追う。





「早く終わらせろよ・・・。」





時々後ろから飛んでくる刃を止めながら、アキラは呟く。

どうやら久しぶりということで、かなり遊びながら戦っているらしい。





「さすがに遊びすぎじゃねーか?」





そう言っていると、いつの間にか目的の海岸へと着いた。

石田と桜井の2人が、船を浜辺へと押し上げる。 陸地へ着いたことに、乗って居た者達は喜びあっていた。





「さて、戻るか。」





その光景を海の中から見てから、石田が言う。

それに頷いて、3人は海中へと再び戻って行った・・・。



                                          ☆



「ご苦労だった。」





そう言うのは橘。 森から話を聞いた彼は、彼等が戻って来るのを待っていたのであった。





「今回のこれだが、どうやら魚人の連中の仕業らしい。

 あいつらは地上の者を嫌っているからな。 ったく、面倒なこと起こしやがって。」





「じゃあどうします? 牽制しに行きますか?」





「いや、それはいい。 今はそこまで力は持っていないからな。

 だが、今後注意は必要だな。 見張っておいてくれ。」





その言葉に分かりましたと言う面々。

それから少しして、全員は部屋から出て行った。

・・・誰もいなくなった部屋で、橘は机の上にある水鏡を覗く。





「俺だ、橘だ。 はっきりとは分からないが、怪しい船が一隻ある。

 調べてくれないか?」





『分かった。 俺が行こう。 他の所に連絡はどうする?』





「お前の判断に任せる。 だが、今回のことはどちらでもいいだろう。

 頼んだぞ。」





『ああ。』





会話をし終えると、橘は椅子に腰を下ろした。

外を見ながら、また呟く。





「白だといいが・・・。」





その呟きは、またも水に飲み込まれて消えてゆく。

外では、何も知らない穏やかな時が流れていた・・・。









【あとがき】

あまりにも駄文すぎて本当にごめんなさい!! とりあえず先に謝らせていただきます(汗)

不動峰のメンバーの喋り方よく分からないです。 ヤバイことに。

そして何でだか森と桜井が被ります。 一体どれだけ間違えそうになったか・・・。

とっ、とりあえず Another Story Side:O の1話目でしたっ!

かなり煮え切らない話になってしまいましたが、今回はこれで勘弁してください(滝汗)

ちなみにこれも続く・・・予定です。 ネタが浮かばないー!!



07.3.10



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