Sympathy mind






「杏っ?! どこに行ったんだー?!」





大声を張り上げるのは、まさかの橘。 先ほどから彼はずっとこうして杏を探している。

その声は相当デカく、家の中全体に響いている。





「橘さん、どうしたんですか?」





あまりの騒ぎに、丁度いたアキラと石田がやて来た。 ちなみに他のメンバーは、今日は出かけていていない。

この2人だけが残っていた。





「お前等っ! 丁度いい所に!」





ガシッと肩を掴まれ、2人の顔を真っ直ぐに見る橘。

その目があまりにも真剣なものだから、2人もゴクリと生唾を飲む。





「実はだな…。」





そう、ものすごく怖い目付きで言う橘。 あまりの眼光に、射殺されてしまいそうだ。

だが、次に発せられた言葉に2人は唖然とすることになる。





「杏がいなくなったんだよお〜。」





その瞬間、2人はこれが自分達の尊敬する橘さんか?と、本気で思った。

どう見ても今目の前にいるこの男は、海神とまで恐れられるほどのものには見えない。

これはシスコンだと思う。 いや、本気でシスコンだ!!

2人は心の中でこっそりそう思った。 だけど怖いから口には決して出さない、ってか出せない。





「そこでだな、2人共。」





橘の言葉に、ビクッと反応する。 こうきたのなら、次にどうなるのかは決まりきっている。





「なっ、何ですか? 橘さん。」





「お前等には杏を都市の外に探しに行ってもらいたい。

 と、言っても主に島とかに住んでいる知り合いを頼ってくれないか? 海の沖のほうは既に深司と内村に頼んであるから。」





キター!!! 絶対こうくると思っていたよ!

ってか、深司達も巻き込まれてたんだー!!





「…分かりました。 行ってきます。」





渋々、というかそう言うしかなく2人は軽く溜め息をつく。 彼等の返答に、橘は満足そう。





「すまないな、頼んだぞ。 じゃあ俺は都市の中を探すから。」





そう言って立ち去る橘。 おっと、さっきと同じように杏をしっかりと呼び続けてるよ。

彼の後姿を見送ってから、2人は盛大に溜め息をつく。





「橘さん、杏ちゃんだってたまにはどこかに出かけたいって思うだろうに。

 そんなに心配にならなくてもいいと思うんだけど。」





「でも、本当に心配なんだろうね。 自分の妹なんだからさ。

 じゃあ、早速探しに行こうか? 早く橘さん、安心させてあげたいし。」





「そうだな。 とりあえず…、レスラウドに行ってみるか?

 杏ちゃんが行く可能性が1番高いのってそこだろ?」





「だな。 じゃあそこで決まりだ。 行くぞ。」





そう言葉を交わすと、アキラと石田の2人はその場を去って行った。 そして石田の背に乗り、都市を出る。

向かうはセイレーンの住まう島、レスラウド。 果たして杏はそこにいるのだろうか?



                                             ☆



「朋香ちゃん…どうしよう…?」





「桜乃、そんな顔しないで。 きっと大丈夫だよ。 信じてなきゃ。」





「分かってる。 でも、本当に心配なの…。

 私がここから出て、探しに行けたらよかったんだけど…。」





「それはダメ! 外は桜乃にとっては毒なんだから。 とりあえず、誰か探して来てくれる人いないか見てくるね。 

 もしかしたらイル・フルーエンスの誰かが見回りに来てるかもしれないから。」





「うん…。」





彼女が承諾したのを確認すると、その場を去って行った―――。



                                              ☆



「さて、と。 誰か出てきてねーかな?」





海面から島を眺めるのはアキラと石田。 彼等はあのあとすぐにこのレスラウドまでやって来ていた。

しかし、勝手に中に入るわけにはいかない。 と、いうか入りにくい。

守護をしているし、仲もいいから入ってもいいのだがなんとなく入りにくかった。 と、その時。





「神尾さんに石田さん! いい所に!!」





聞き慣れた声に振り向くと、そこにいたのは向日葵の羽根をしたセイレーンの少女。

しかし、何か雰囲気がいつもと違う。 いつもはとても明るい表情をしているのだが、今日はどこか影を落としている。





「よかった。 俺達も用があってね。 でも、何かあったの?」





石田の言葉に、少女の表情が崩れた。 今にも泣き出しそうな顔に、2人は焦る。

そりゃあそうだろう。 女の子に泣かれたら、誰だって困るものだ。





「ちょっ、ちょちょ待ってっ! とりあえずここじゃあれだから、どこかで落ち着いて話しよう!」





アキラの言葉に、少女は頷きこっちだと2人を誘導する。

後を付いていきながら、少し冷や汗をかいている2人だった。



                                            ☆



「…どこに向かってるの?」





島の中を案内されるが、通る道はいつもと違う。 それに疑問を覚え尋ねる。

すると彼女は合わせたい人物がいる、と言った。 そしてそのまま細い洞窟を歩いて行くと、不意に出現した扉。

それを開け、2人を中に招き入れる。 そこにいたのは…。





「こんにちは。 こうして直接会うのは初めてですね。」





中は、比較的広い洞窟になっていた。 天井からは陽の光が差し込んでいて、かなり明るい。

壁面は無骨な岩ではなく、一面色とりどりの花々。 そしてその中心には恐ろしく綺麗な水が湧き出ていた。

その泉の前に、1人の少女が立っていた。 長いおさげをした少女は、どこか儚い雰囲気を漂わせていた。





「君は…?」





「あっ! 紹介がまだでした。 私が竜崎桜乃です。 声だけでだったら何回かお話したと思うんですが。」





桜乃の言葉に、2人はピンときた。 そういえばこの声、確かに聞いたことがある。

以前杏と共に来た時に、一緒に喋った声と同じだった。





「君が桜乃ちゃんか! 思い出したよ〜。」





そう言うアキラに、もう1人の少女が突っかかる。





「ちょっと! 何桜乃のこと忘れてんのよっ! 杏さんと一緒に話したでしょっ!」





腰に手を当ててそう言うのはもう1人の少女。 それに、思わず桜乃は笑みを零す。





「朋香ちゃん、そんなに言わなくてもいいよ。 分かってくれたんだから。」





「そう? 桜乃がそう言うならいいけど。」





―――この強気のこの少女の名は『小坂田朋香』。 れっきとしたセイレーンだ。

その翼は向日葵。 黄色く明るいその花は、快活な彼女によく似合う。

性格は強気だが、心はとても優しく仲間思いだ。 そして桜乃の親友でもある。

―――儚い印象を与えるおさげの少女。 名は『竜崎桜乃』。 彼女もセイレーンだ。

カスミソウの、イメージとなんとも合った翼を持つ。 彼女は、この洞窟から出ることがほとんどない。

慈愛に溢れた彼女もまた、朋香のよき親友だ。 彼女は桜乃の心の支えともなっている。





「それで、一体何があったの?」





アキラの問われ、桜乃が口を開く。





「杏さんのことなんです…。」





その言葉に、2人の目の色が変わる。 早くも情報ゲット。

2人の勘は当たったということだ。





「杏ちゃん?! 実は俺達も橘さんに言われて探してるんだ。

 突然いなくなっちゃって。 2人は杏ちゃんがどこに行ったのか知ってるの?」





「ええ。 確実という保障はないんですが、多分あそこに向かったんだと思います。

 あの島、『輝石の島』に。」





聞きなれない島の名前に、アキラ達は首を傾げる。





「? その輝石の島って? 俺達初めて聞いたんだけど。」





「そりゃあそうよ。 あそこは私達の秘密の島なんだから。

 昔はたまにここをこっそり抜け出して行ったものよ。 すんごい綺麗な島なんだから。」





朋香の説明だけでは足らないため、桜乃が説明する。





「ここから数十キロくらい離れた所にある島です。 宝石が島中にあって、とても綺麗なんです。

 つい先日、杏さんが来た時にまたあそこの宝石が見たいなって、思わず私が言っちゃったんです。

 そしたら私が取ってきてあげるって…。」





そう言って俯く桜乃。 大体の事情は分かった。 杏は桜乃を元気にしようと、そこの島に向かったのだろう。

ポンッと、石田が桜乃の頭に手を置いた。





「そんな悲しい顔をするなって。 杏ちゃんのことなら心配するな。

 俺達が必ず連れて帰って来るから。」





「本当…ですか?」





「ああ、本当だぜ。 杏ちゃんは俺達の大切な仲間なんだ。 心配するのは当然だって。

 それに、橘さんも相当心配してたからな。 早く安心させてあげないと。」





そう言ってニコリと笑う2人。 その表情に、桜乃達も若干安心したようだ。

ペコリと頭を下げて、言う。





「よろしくお願いします。」





2人に見送られて、アキラ達は島を出た。 方角はしっかりと聞いた。 島は淡く光っているからすぐに分かるそうだ。

彼等は海を進む。 果たして杏はその島にいるのだろうか?



                                           ☆



「あっ! ここにも綺麗なのがある! これも持ってってあげよーっと。」





ルンルンと鼻歌を歌いながら、上機嫌で光輝く石を集めるのは杏。

人間の姿で、彼女は島の中を歩く。 周囲に存在する岩は、微かに光を放っている。

そして隙間からはキラキラと輝く石が。 それをいくつも、杏は拾っている。





「あそこにもある! 行ってみよう。」





先にまた綺麗な石を見つけて、彼女はそこへ向かって駆けていく。

ゆらり。 何かが動いた…。



                                             ☆



「あった! あそこだ!!」





石田の背からアキラはそう怒鳴る。 彼の指差す方向には、桜乃の言った通り淡い光を放つ島があった。

直ぐに砂浜に上がる2人。 石田が人間の姿に戻ると、アキラが水の膜を張った。





「よし! じゃあ早速杏ちゃんを探しに…。」





「キャアアアア!!!」





突如した叫び声。 なんちゅータイミングだ。 その声は、確かに自分達が今探している杏のものだった。

瞬時に体が反応し、走り出す。 凸凹の山道を一気に駆け上がると、いきなり視界が開ける。

そこは凸凹の岩が所々にある、狭い広場のような場所だった。 その中心。

そこにいたのは…。





「杏ちゃん!!」





そこにいたのは、両腕を後ろでまとめられ動きの取れない杏と、彼女を捕らえている1人の男だった。

男の姿には、見覚えがあった。





「お前! あの時の!!」





その男は、以前深司が行方不明になった時、魔の海峡のある島で彼等を襲ってきたアーヴァンクだった。

何故こいつがこの場にいるんだ? そう疑問に思うが、今は杏を助けるほうが先だ。





「くそっ。 杏ちゃんを離せ!!」





石田が毒づく。 しかしそれにアーヴェンクはニヤリと笑う。





「誰が離すかよ。 大事な人質なんだ。 橘をおびき出すためのな。 この女はそのためのいい餌になる。」





そう言いながら笑うそいつ。 その爪は、彼女の喉元に当てられている。

それをものともせず杏は必死に抵抗しているが、力の差で振りほどくことが出来ない。





「ちいっ!」





「くくく。 手出し出来ないだろう? すればこの女が死ぬもんな。

 まっ、諦めてそこで眺めてろよ。 お前等の目の前で、みすみすこの女を攫われるのをな!」





アーヴァンクがそう高らかに言った時だった。





「全く、低レベルの奴が考えそうな愚かなことよ。」





不意にした声。 その瞬間、アーヴァンクの体が前のめりに倒れた。

倒れてきたアーヴァンクの重みに潰される前に、杏はなんとか逃げ出す。

そして見ると、アーヴァンクは絶命していた。 ピクリとも動くことはない。 そして更に先を見る。

そこにいたのは、体格のかなりいい頭を綺麗に丸めた男だった。





「あなたが、助けてくれたの? ありがとう。」





杏に続いて、アキラも礼を言った。 しかし石田は微動だにしない。

と、男が口を開いた。





「夢中になるのもよいが、あまり1人で海をうろつかないほうがいいだろう。

 お前が思っているほど、この海は安全な場所ではない。」





そう言うと、男はくるりと背を向けて歩き出した。

と、いきなり今まで黙っていた石田が怒鳴った。





「待てよ! 兄貴!!」





その言葉に、アキラと杏は驚く。 それもそうだろう。

石田に兄がいるなど、今まで知らなかったのだから。





「えっ?! おい、兄貴って一体何だよっ?!」





アキラが説明を求めるが、石田はそちらを向かずただ兄と呼んだ男を凝視している。

彼の言葉は確かに届いていただろう。 しかし男は歩みを止めることなく、やがて彼等の視界から消え去って行った―――。



                                           ☆



「わあ! すごく綺麗! 杏さん、ありがとうございます!」





洞窟の中に、女の子3人のはしゃぐ声が響いている。

邪魔しては悪いだろうと、アキラと石田は部屋の外にいた。





「…で、さっきの兄貴ってどういう意味だよ?」





アキラの言葉に石田は少々口ごもるが、やがて覚悟したのか口を開いた。





「そのまんまの意味だよ。 あれは俺の、血の繋がった本当の兄貴だ。

 …俺がイル・フルーエンスに来る前のことだ。 ある日突然、姿を消したんだよ。

 その後俺はすぐこっちに来た。 その以来、1度も会ってなんかなかったんだ。

 でも今日いきなり。 一体なんだっていうんだよ…?」





頭を抱える石田。 それにアキラは声をかけることが出来なかった。

しかし、と彼は思う。 あの男は何か変な感じがした。 それが何かは分からないが。

ひとまず都市に帰ったら橘さんに報告だな、と思う。 だがその前に、早く杏を連れて帰らねば。

でなければ、深司達は何時までたっても休むことが出来ない。 それを思い、アキラはははは、と乾いた笑いを小さく零した。



                                          ☆



「何故あのような馬鹿な真似をした?」





半分ほど闇に包まれた中で、先ほどの石田の兄は問う。

先にいるのは、いくつかの人影。





「ひいっ!  おっ、俺達は何も知らないんです! あいつが勝手にこんなことを…。」





段々小さくなる声。 その主に、彼は近づいて行く。





「銀、その辺にしときい。」





不意にした声。 振り返るとそこにはもう1人別の男。

その顔は闇でよく見ることが出来ない。





「…お前か。 まあいい、今回は見逃すとしよう。 …行け。」





銀の言葉でそこにいた者達は怯えた様子で、その場を去って行った。

後に残ったのは、2人の男。





「珍しいこともあるんじゃな。 人助けなんて。

 それとも、あれか? 久しぶりにおうた自分の弟だからか?」





「いや、そんな情などワシには関係ない。 ただ、計画に支障が出そうだと思ってな。

 あそこであの女を奪ってみろ。 橘が怒り狂うのは目に見えている。 今はまだ面倒を起こす時ではあるまい。」





「そうじゃな。 桔平ば怒らせたら面倒や。 それに、ボスも怖いしの。

 …とりあえず今は動く時じゃなか。 あいつ等にも言っとくが、面倒だけは起こさんようにしてくれ。」





そう言って男はその場を立ち去って行った。

後に残された銀は、1人静かに外を眺めていた―――。









【あとがき】

真奈様、大変遅くなって申し訳ございませんっ! やっとこさ完成いたしました!

…さあて、リクに果たして添えているのか、とてつもなく疑問の残るものに仕上がってしまいました。

何でお礼の品なのに新キャラこんな出てて、更には謎まで増やしてんだ?! 私っ!

しかも方言むずっ! 多分この方言では誰かまったく分からないと思いますが、どうかそこはお許しを。

さて、こんな駄文全開ですいませんっ(汗)

もしよろしかったら持って帰ってやってください!(なんちゅー無茶なことを。)

*真奈様以外、無断転載禁止です。



07.1.31









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