If 〜夢幻の出来事〜





「・・・ここは・・・?」





目を覚ますと、そこはまったく知らない場所。 辺りは一面、緑の草で覆われている。

どうやら草原のようだ。 顔をかすめる風が心地いい。

立ち上がって辺りを見回す。 しかし誰もいない。 とりあえずこのままここにいてもラチがあかないだろうと、1歩足を踏み出す。





「?」





その瞬間、靴先に何か固い感触。 不思議に思い屈む。 と、そこには。





「・・・剣?」





そこにあったのは、一振りの剣だった。 長すぎず短すぎず。 丁度いいサイズ。

何であるのかは分からなかったが、とりあえず腰にさした。





「とりあえず、いつまでもここにいるわけにはいかないよね。

 ここがどこだかも分からないし。 ひとまず、人のいる場所を探そう。」





そう呟いて、歩き始める。 ここに倒れていたのは越前リョーマ。 彼は何故、こんな場所にいるのだろう?

そしてこの先、一体何が待っているというのだろうか?



                                                   ☆



「苦しいっ! 苦しいっ!!」





そう呻き、もがく。 しかしそれは和らぐことはなく、更に苦しさを増す。





『苦しいのならば、闇へと身を染めろ。 さすれば、苦しむことなどなくなろう。

 そして我と契約を結べ。 絶大なる力を与えてやる。』





「本当・・・に・・・?」





『ああ。 だが、それには契約金が必要だ。 そうだな・・・。

 『あいつら』の命を奪え。 それが契約を結ぶ条件だ・・・。』





闇がそう甘く囁く。 少年は、その苦しみから逃れるために、自分に向かって伸ばされた漆黒の手を掴んだ・・・。



                                                    ☆



「・・・あれ? こんな所に小屋がある。」





草原をしばらく進むと、不意に現れた小さな小屋。 少々ボロイ感じはするが、建て方はしっかりしている。

不審ではあるが、今は少しでも情報が欲しい所。 リョーマは不信感を全開にしながら、小屋の扉を開けた。





「・・・あれ? 誰もいな・・・!! 菊丸先輩?!」





小屋を開けて中を見回すと、そこに倒れていたのは見慣れた先輩の姿。

慌てて近寄って助け起こす。 数回軽く揺さぶると、うんという軽い呻き声を上げて目を覚ました。





「・・・おチビ?」





まだ意識が朦朧としているのだろう。 彼は数回頭を振って、意識を覚醒させた。





「よかった。 菊丸先輩、状況分かります?」





「状況? ああ。 そういえば俺、森の中で目が覚めて、よく分からないからとりあえず街へ行ったんだにゃ。

 そこで乾と大石に会って。 おチビ探してくれって頼まれて。 でも、途中でモンスターに襲われて。

 かなりでかいダメージ食らって、そんで・・・。」





菊丸はそう語る。 それを黙って聞くリョーマ。 しかし・・・。





「ちょっ! 先輩! 体が!!」





話しているうちに、菊丸の体が段々透けてきた。

それを、少し悲しみの篭った目で見つめる。





「ははは。 どうやら俺はここまでみたい。 おチビ、この小屋を出てまっすぐ南に向かって。

 少し行くと大きな街がある。 着いたら『メッセ』っていう店を探して。 そこに乾と大石がいるから。

 詳しいことは2人に聞いて。 じゃあおチビ、負けちゃダメだよ。」





そう言った瞬間、菊丸の体が消滅した。 それに、呆然とするリョーマ。

しかし何時までもそうしているわけにはいかない。 とにかく、分からないことだらけだった。

どこにいるのかも。 何故、先輩が消えたのかも。





「意味が分かんない・・・! 一体なんだっていうんだよ?!」





頭を抱えるリョーマ。 と、その時見つけたもの。 それは・・・。





「・・・ペンダント?」





そこに落ちていたのは、白い石のはめ込まれた1つのペンダントだった。

菊丸はこんなものをしていない。 では、一体誰のだろうか?

分からないが、何か大切なもののような気がしたため、リョーマはそれを首にかけた。

そして立ち上がり、小屋を出る。 分からないことは多々ある。

それを解決するために、歩きだす。 目指すは、この先にあるという街―――。



                                                  ☆



「・・・ここか。」





その後、あまり時間をかけずに街にたどり着くことが出来た。

そして菊丸の言っていた店を、人に聞いたりしてなんとか見つけることが出来た。





「先輩、いるんすか・・・?」





恐る恐る扉を開ける。 果たしてそこには・・・。





「越前!」





「越前! 無事だったか!」





果たしてそこには、菊丸の言っていたように乾と大石の姿があった。



                                                     ☆



「で、一体何がどうなってるんすか?」





リョーマのその疑問に、乾がまず口を開く。





「ひとまず、ここは俺達のいた世界ではない。 それは分かるな? ではどこかと聞かれると、俺も答えられないが。

 しかし、異世界ではある。 調べてみた所、ここは1つの島らしい。 街はここしかなく、あとは巨大な神殿があるのみだ。

 そこには何かが。 この街の住人でも分からない何かがあるらしい。 しかしそれが手がかりでもある。

 今から何年か前にも、俺達と同じように別の世界から来た者がいたらしい。

 その者達は、その神殿に帰れる秘密があると言って旅立って行った。 そして戻って来ることはなかった。

 俺が思うに、そこに手がかりがある。 元の世界に返れる何かがな。」





彼のその説明に、ふんふんと頷く。





「だけど、分かってるなら何で先輩達がいかないんすか?

 菊丸先輩が・・・。 先輩が言ってたっすけど、先輩達は俺を探してたんすよね?」





菊丸の名に、リョーマの顔が曇る。 話を聞いていた2人も、表情が暗くなった。

しかしそれを払拭するように、大石が言った。





「そのことなんだが、神殿に行くには資格が必要なんだ。

 越前、左手の甲を出してみて。」





大石に言われるがまま、リョーマは手を差し出した。 そして気付く。

手の甲に、何か紋章のようなものが刻まれていることに。





「これは・・・?」





「それが資格だ。 神殿に入るためのな。 間違いない。

 それを持っている者のみが、入ることを許される。 そしてあと1人、それを持っている。」





「・・・誰すか?」





「手塚だ。 あいつはもう既に神殿に向かった。

 越前、手塚と協力してこの世界から脱出出来る方法を見つけてくれ。」





大石のその言葉に、彼は頷く。 やるしかないのだ。

ここから、帰るためには。





「そうだ。 1つ忘れていた。

 多分この先、モンスターと戦うこともあるだろう。 その際は十分に気をつけてくれ。

 菊丸のようにならないように・・・。 そして越前、お前は魔法を使うことが出来る。 紋章を持つ者は、選ばれた者だから。

 使い方は手塚曰く、『自然に使える。』とのことだ。 大丈夫だ、お前なら。」





そう言って軽く微笑む。 それにリョーマも、軽く笑みを返した。

・・・その後、少ししてリョーマをそこを立ち去った。 見送る2人に、軽く会釈をして歩き出す。

目指すは、手塚も向かったという神殿。



                                                    ☆



「・・・ここか。」





乾と大石と別れてから、かなりの時間が経っていた。 リョーマは、教えられた道筋を辿って神殿を目指した。

途中、何度かモンスターに襲われた。 その度、剣を使って応戦した。

剣など使ったことがないというのに、妙に手に馴染む。 それはさながらいつも使っていたラケットのように。

戦いの最中、大量のモンスターに囲まれたこともあった。 その時は、自然に魔法が使えた。

手塚の言っていたことは本当だったのかと、この時初めてしることが出来た。 そして、彼は遂に神殿にたどり着いた。





「なんか不気味な所だな。」





そう呟く。 確かにその通りだった。 巨大なそれは、怪しくその場に君臨していた。





「とにかく、先に進まなきゃ。」





剣を握りなおして、足を踏み出す。 中へ入ると、ひんやりとした空気が体を包み込んだ。

コツコツと足音を響かせながら奥へと進む。 と、その時だった!





「来たっ!!」





バサバサという音をさせながら、蝙蝠と呼ぶにはあまりにも大きいものが襲い掛かってきた。

咄嗟に剣を振るってきりつける。 だが、まだ気配がある。 しかも大量に。





「もー、めんどくさい!!」





そう文句を言いながらも、剣を振るう手は休めない。 だが、前方の敵を切り落とした直後だった。

不意に背後から襲い掛かってくるモンスター。





「!!!」





やられると思ったその時だった!





『ファイヤー!!』





不意に声がしたと思うと、灼熱の炎がモンスターを包み込んだ。 断末魔の叫び声を上げながら、灰となるモンスター。

それに恐れを抱いたのか、残っていたモンスターは散り散りになりながら逃げて行った。





「部長!!」





炎を放って敵を倒したのは、手塚だった。 彼の傍に、リョーマは駆け寄る。





「無事でよかった。 さあ越前、上に行く階段がある。 この世界から脱出する術を探そう。

 油断せずに行くぞ。」





「はい。」





彼の存在がここまで頼もしいとは、今まで思わなかった。 手塚の横を歩きながら、リョーマはそう感じた。

そして2人は、敵を倒しながら少しずつ上の階へと上って行く。 強いのもいたが、2人ならば倒すことが出来た。

そして最上階・・・。





「・・・なんだここは?」





「さっきとまるっきり雰囲気が違うっすね。 なんか、息ぐるしい。」





そう話していた時だった!





「ふふふ。 よくここまで来たね。」





聞き覚えのある声。 それに、咄嗟に反応する。

果たしてそこにいたのは・・・?





「不二先輩?!」





そこにいたのは、不二だった。 しかしいつもと雰囲気がまるで違う。

今、彼から感じるのは殺気。 禍々しいほどの、黒いものだった。 彼の口が歪んだ笑みに形作られる。





「待っていたよ。 君達がここに来るのをね。

 ・・・死ぬ前に教えてあげる。 僕を倒せば、元の世界に戻れるよ。 だけど、果たしてそれが出来るかな?!」





そう言うが早いか、彼は2人に襲い掛かってきた。 手に握られた、死神を思わせる巨大な鎌が彼等を狙う。

咄嗟に剣で応戦する。 しかし躊躇いがあるままでは、到底勝つことはできない。 じりじりと、2人は押されていた。





「部長! どうするんすか?!」





「このままでいいわけがあるまい。 だが、不二を倒すなど・・・!」





手塚も困惑していた。 だが、その時だった!





『僕のことはいいから、倒して。』





不意に聞こえてきた彼の声。 しかし不二は相変わらず攻撃を仕掛けてきている。

戸惑う2人。 と、更に声が。





『僕は闇に負けたんだ。 苦しみを消す代償として。 だから、君達気遣われる筋合いはないんだ。

 それに、僕が元の世界に戻る鍵だ。 僕を倒せば、皆戻れる。

 ・・・大丈夫だよ。 僕もきっと一緒に戻れるからさ。 だから、やって!!』





不二のその心の叫びに、2人は決心を固めた。 手塚とリョーマは互いに頷きあう。

そして・・・。





『ファイヤー!!』





『サイクロン!!』





2人の唱えた魔法が、不二を襲った。 攻撃を受け、消滅していく不二。





「ありがとう。 また、ね。」





そう言って、彼の体は完全に消滅した。 そして・・・。





「あっ! 部長!」





「どうやら、元の世界に戻れるようだな。 これで一安心だ。」





彼等の体も、段々と光の粒となって消えていく。

そして、2人は完全にその世界から消滅した―――。



                                                  ☆



「・・・っていう夢を見たんすよ。」





部活の始まる前の部室。 そこでリョーマは桃城に、昨日見た夢の話をしていた。

異世界に飛ばされる夢の話を。





「ふーん。 またおもしろいもん見たな。 だけどよ、どうしてそれに俺が出てねーんだよ。

 俺だったらめっちゃかっこよく戦ってたのになあ。」





「そうっすか? 先輩だったら結構最初にやられそう。」





「だー! お前、相変わらず遠慮ってもんを知らねーな。」





そう話していたその時だった。





「んでんで! 結局不二は悪役だったのかにゃ?」





「まあ、そういうことになるね。 でも、手塚と越前はいい役だったね。

 正義の味方みたいでさ。 それに比べて僕なんて。」





「・・・不二、黒いオーラが出てるぞ。」





そう話しながら部室にやって来たのは、菊丸・乾・大石・手塚・不二の5人だった。

彼等の会話に、リョーマは目を丸くする。





「先輩、まさかそれって・・・?」





「そう、夢の話。 どうやら僕達、6人で同じ夢を見たみたいだよ。

 ふふふ。 でももしかしたら、本当に僕達あの世界へ行っていたのかもね。」





不二はそう微笑む。

・・・それは、夢幻の出来事。 夢のような、幻のようなそんなもの。

しかし、それが例え現実のものでなくても、彼等は確かに共に別の世界へと旅立っていたのだ―――。









【あとがき】

『夢が続く限り』の中林真奈様から、相互記念に頂いたイラストのお礼として書かせていただきました!

あちらから頂いてから、随分と時間が経ってますが申し訳ありません(土下座)

真奈様のサイトで連載なさっているテニプリRPGに影響され、こんなまがいの物が完成いたしました。

なんか結構パクっているような・・・。 真奈様、そこは広い心でどうか許して下さい(汗)

1話でまとめるために、かなり無理矢理詰め込みました。 その結果、こんなギツギツなものに・・・。

でもそれはあえてスルーで!(えっつ?!)

真奈様、もしよろしかったら貰ってやって下さい! 相互リンク、本当にありがとうございました!!

*真奈様のみ、お持ち帰り可能です。



07.9.11





SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送