幸せの唄 〜至純の空はそれを聞く〜





あれは・・・そう。 今から数ヶ月前の話だ。

大会も全て終わり、俺達の夏は終わった。 結局俺達は青学に敗退。 またもや奴等にやられた。

そして当然、優勝という二文字をその手に握ることは出来なかった。

満足・・・は出来なかったと思う。 俺達は勝てたけど、チームとしては勝てなかったんだから。

それに、満足してしまったら上には上がれない。 だから満足はしていない。

・・・あれから、部を引き継いだのは日吉だった。 俺はそれでよかったと思う。

俺自身も、日吉のほうが向いていると思っていたから。

引退した先輩達は、時々練習を見に来てくれた。 特に向日先輩とジロー先輩はよく来た。

多分、というかほぼ確実に勉強が嫌だったからだろう。 エスカレーター式とはいっても、高等部に上がるためには試験がある。

それを合格しなければ、当然進学は無理だ。 だから部を引退した先輩達は、それぞれ勉強に励んでいた―――。



                                                ☆



「1年は球拾い。 2年は各自コートに分かれて、メニュー通りの練習を。」





日吉の声がコートに響く。 それに従って、それぞれ動く。

自分も同じようにコートへと向かおうとした。 と、その時。





「長太郎、先輩が来てるぜ。」





その声に反応して、振り向く。 そこにいたのは、つい最近まで毎日見ていた先輩達だった。





「宍戸さんに向日さん!」





2人は長太郎が自分達に気付いたのを知ると、軽く手を上げる。

そして、傍まで来ると近くにあったベンチに肩に担いであった荷物を置く。





「よお。 久しぶりだな。 長太郎、いいだろ? ちょっと打とうぜ。」





そう言って宍戸は早速ラケットを取り出す。 岳人もそのつもりだったらしく、彼もラケットを出す。





「先輩、打つんだったらついでにこいつらも鍛えてやって下さいよ。

 次のレギュラー候補なんで。 丁度いいですよね?」





と、その時日吉がそう言いながらこっちへと来た。 彼の提案に2人はげーという顔。

あくまで遊びに来たつもりなのだが、日吉にとってはそんな彼等も利用してしまうらしい。

どうやら、跡部の俺様が移り気味になってしまったようだ。 さすがは彼を目標にしていた所といった感じか。





「ったく、先輩使いが荒いっての。」





そう文句を言いながらも、岳人はコートへと向かう。 彼は打てればよかったという感じらしい。

その後を、宍戸も軽く息を吐きながらついて行く。 どうやら諦めたようだ。





「長太郎、何ボーッと突っ立ってるんだよ? お前も来るんだよ。」





中々ついてこなかった長太郎に、宍戸はそう言いながら振り向く。

彼の言葉に笑顔ではいと返事をし、長太郎はその後を追った。





――― 時が流れるのは必然。 しかしそれでも変わらないものがあると、信じたい ―――



                                                   ☆



暑い夏が終わって、風が冷たいと感じるようになった。 間もなく、ちらちらと降り始めた雪。

しかしテニス部の練習は何も変わることなく、毎日続けられている。 そして季節はいつの間にか12月になる。

今年もあと少しかーと、誰もが感じ始めた、そんなある日のことだった。





「長太郎、今いいか?」





不意に昼休みに長太郎の教室を訪れた宍戸。 それに思わず驚いてしまった。

いつも用があればメールか電話で済ませていた、というのがもっぱらの理由だが。





「何ですか?」





席から立ち上がり、廊下へ出る。 呼んだ張本人の宍戸は、壁に寄りかかって立っていた。





「ほらよ。」





そう言って宍戸が長太郎に渡したのは、1枚の紙だった。

素っ気無く2つに折りたたまれたそれ。 渡された長太郎は目をぱちくり。





「何ですか? これ。」





「おっと。 今は開けるなよ。 俺がいなくなってからだ。

 ってことで、用件はこれだけだ。 じゃあな。」





そう言うが早いかくるっと長太郎に背を向けて、宍戸はさっさと廊下を歩いて行ってしまった。

突然のことにポカンとする彼。 しかし一旦気を取り直して教室へと戻る。

自分の席に座ると、おもむろに宍戸の置いていった紙を開いた。





「何々? ・・・へっ? こんだけ?」





紙に書いてあったことがあまりにも少なくて、思わず素っ頓狂な声をあげる長太郎。

それもそうだろう。 そこにはたった一言しか記されていなかったのだから。





――― 今度の日曜、跡部の家に集合 ―――





あまりの完結さに、少々固まってしまった。 一体何でこれだけを伝えるために、宍戸は自分の元へ来たのだろう。

その日の午後いっぱい、長太郎はそのことをずっと考えていた。



                                               ☆



そしてその日の部活の時―――





「ねえ日吉、樺地。 何かメモ貰った?」





「ああ、貰ったぜ。 向日先輩から。」





「自分も貰ったよ。 ・・・忍足先輩に。」





どうやら彼等も貰ったようだ。 それを聞いた長太郎は、早速話題を振る。





「じゃあ聞くけど、あのメモの意味って何?」





「そんなの知るかよ。 急に向日先輩が教室に来たかと思うと、このメモを渡すだけ渡して帰っちまったんだよ。

 何がるとか、そんなの聞く暇もなかったし。 樺地は何か知ってるか?」





日吉のその問いに、彼は首を横に振る。





「何も聞いてないよ。 でも、跡部さんのことだからきっと何か考えがあるんだと思う。」





樺地の意見に最もだと頷く2人。 確かに跡部だったら何かやらかしてもおかしくはない。

それは、今までの経験で十分に知っていた。

・・・前にも色々とやらかしたらしいからね。 彼。 あっ、それが何かは語れないよ。

あまりにも常識とかけ離れてるから。

とにかく3人は日曜日を待つことにした。 その日に何が起こるかを楽しみに。

そして心のどこかで、何かをされるんじゃないkという不安を覚えながら―――。



                                                 ☆



「よし、これで大体の準備は整ったな。」





腕を組みながら、不敵な笑いを洩らすのは俺様・・・ではなくて跡部。

何故か不気味になっているその笑いを、忍足が。





「・・・何か間違っとるやろ?」





と、バッサリと切った。 だが、それでもめげない跡部。 と、いうか気付いていないようだった。

そもそもの発案は跡部じゃないのに、という小言を言うが、そんなの彼の耳には届いていない。

やれやれといった顔で、忍足は諦める。





「まあとりあえず、今度の日曜が楽しみやな。」





「だね。 にしても、さっすが跡部だよねー。」





独り言のつもりで言ったのに、予想に反して返ってきた答え。

横を向くと、そこにいたのはジロー。





「なんや、いつから来とったんや? 全然気配気付かんかったわ。」





「えー。 ちょっと前から普通にいたよ〜。 俺別に気配なんて消してないし。

 ところで、3人にはもう渡したの?」





「ああ。 今日直接渡したわ。 あれ見て、どんな反応するかは大体予想がつくな。

 っちゅーか、多分跡部んちって言った段階である程度何かやるってことは分かるやろ?」





「あー、確かに分かる分かる。 跡部、今までにも結構やってきたからねー。

 ・・・来るよね?」





「多分、心配ないやろ。 先輩に来いって言われて、来ないような奴等やないし。

 特に鳳と樺地はな。 あの2人が行くゆうたら、日吉も来るやろ。 よって、3人全員来るってことや。」





「なんだかすっげー無理矢理。 まあでも、日曜日楽しく出来るならいっか。」





そう言ってニカッと笑うジロー。 それにつられて忍足も笑った。

・・・そうそう、跡部は未だ不敵に笑ってたりする。





――― それはほんの小さなこと。 どこにでもある、幸せの形の1つ ―――



                                                   ☆



――― 日曜日 ―――





「ホントに何があるんだろうなあ?」





そう1人呟きながら長太郎は歩く。 首にはしっかりとマフラーが巻かれ、厚手のコートでその身をしっかりと覆っている。

気温はかなり低い。 時折吹く風も冷たく、身に染みる。

今現在雪は降ってはいないが、この寒さだといつ振り出してもおかしくなかった。





「う〜、寒っ。 あっ、いたいた。 日吉〜、樺地〜。」





少し歩くと、待ち合わせの場所が見えてくる。 そこには既に2人が待っていた。

急いで駆け寄ると、多少鼻を赤くした日吉がブツブツ小言。





「ったく、遅刻なんてしてくんじゃねーよ。 寒いじゃねーか。」





「悪い悪い。 そんなカッカするなって。

 じゃあ、行こうか。」





そう言葉を交わし、3人は歩き出す。 目的地は当然、跡部の家。

・・・いや、家というよりあれは屋敷か。 一般家庭とは明らかに違うサイズだし。

落ち合った場所から、3人はトコトコと歩く。 跡部の家は、この場所からそう遠くはない。

しばらく歩くと、彼の家の玄関・・・ではなく立派な門が見えてきた。

傍にあったチャイムを鳴らすと、ピンポーンといったありきたりな音ではなく綺麗なベルの音が鳴った。





「お待ちしておりました。」





少しして執事である老人がやって来て門を開けてくれた。 そして案内されるがままに屋敷の中を進む。

巨大な玄関の門をくぐり、エントランスホールを通り抜けて上の階へ。





「こちらでございます。」





執事が案内したのは、屋敷の中の一室。 その扉を開けるように、彼等に促す。

それに日吉が扉に手をかけた。 少し緊張しながら、その扉を開けると―――。





「「「Merry X`Mas!!!」」」





パアアンッッ





「「へっ?!」」





突然のことに目をパチクリさせる3人。 とんできたのは色とりどりのカラーテープ。

扉を開けた瞬間にしたのは、クラッカーの音。 そして祝福の言葉を投げかけたのは、先輩達。

驚く3人を、入れよっと向日とジローが部屋の中に入れる。 そこで目にしたのは・・・。





「すごい・・・。」





目にしたのは、部屋の中を包んでいる美しい装飾の数々。 しかもかなりゴージャス。

跡部の趣味がはっきり分かってしまうようなものだったが、でもとても綺麗だった。

そして部屋の中にはそれだけでなく、これもかなりゴージャスだがパーティーの準備がしてあったのだ。

テーブルに並べられた数々の料理が、どれもおいしそうな匂いを漂わせる。





「よう、驚いただろ?」





そう言いながら近づいてきたのは跡部。





「ホントに驚きましたよ。 まさかこんなパーティーの準備がしてあるなんて。」





「だろ? ほら、やっぱり俺の発案はよかったじゃんか!」





そう言い、飛び上がらんばかりに喜んだのは岳人。 どうやらこのパーティーの発案者は彼らしい。





「ところで、何でまたパーティーを?」





喜ぶ岳人を尻目に、日吉が尋ねた。 それもそうだろう。 明らかに先輩達は全員これに関わっていた。

知らなかったのは2年生だけ。 彼の疑問も最もだった。





「まっ、そりゃーお前等のためだ。」





宍戸がそう答える。





「へっ? 俺達のため?」





思わず間抜けな声を上げる長太郎。 確かにそうだろう。

先輩達が何故自分達のためにパーティーを開いてくれるのか、思い当たる所なんてないのだから。





「引継ぎの時とか、激励してやれなかっただろ? まあ、俺様は最初からするつもりはなかったんだがな。

 岳人に提案されてな。 この際、クリスマスにパーティーを開いてついでにお前等の激励の会にしようってな。

 そういうのもたまにはいいと思ったから、今日開いてやったんだよ。

 日にちもばっちりだしな。」





跡部のその言葉で、3人は思い出した。 何故今まで忘れていたのだろう?

今日、この日が12月25日。 クリスマスだったということに。





「ありがとうございます。」





それを知った彼等から、誰ともなくお礼の言葉が紡がれる。 それに、満足そうな顔をする3年生達。

作戦は成功したといった感じだった。 なごやかな空気が部屋の中に流れる。





「よっし! じゃあ早速食べるぞおー!!」





気合を込めてそう言ったのは岳人。 それにつられて、ジローもフォークと皿を手に取る。

そして待てを喰らっている犬のように目を輝かせ、跡部を見る。

2人に若干溜め息をつきながら、跡部は遠慮しねーで食えよ。と言う。

その瞬間、よほどお腹が空いていたのだろう。 2人はごちそうに飛びついた。

それに笑いを零す面々。 部屋の中を、暖かな雰囲気が包み込んだ・・・。



                                            ☆



「長太郎。」





あれから皆は食べまくったり飲みまくったり。 相当騒いでいた。

その最中、不意に星が見たくなって部屋にあった扉からベランダに出た。

冬の風が冷たいが、それはそれで心地よくもある。 そこで彼、長太郎は星を眺めていた。

そして不意に聞こえた声。 振り向くと、そこには宍戸がいた。





「宍戸さん、寒いですよ。」





「それをお前が言うなって。 ・・・隣座るぞ?」





そう言って長太郎の横にどかりと腰をおろす宍戸。 そしてふうと息を吐く。





「あー、食った食った。 食いすぎて腹キツイぜ。」





「それは食べすぎですよ〜。 もうちょっとセーブしなきゃ。」





そう話しをしていると・・・。





「あっ! 雪だ!」





漆黒の空から舞い落ちてきたのは、純白の雪。 それは美しく舞う。

その美しさに、思わず言葉を無くして魅入る2人。 と、長太郎が口を開いた。





「・・・ありがとうございました。」





その言葉に長太郎の顔を見ると、とても穏やかに彼は微笑んでいた。





「こんな素敵なクリスマス、今までになかったです。 本当にありがとうございました。

 俺達は、幸せ者です。 先輩達にこんなパーティーを開いて頂いて、本当に。

 それに・・・宍戸さんといられて・・・。」





彼のその言葉に、最初は驚いた宍戸。 だが、直に彼も穏やかな表情になる。

そして、長太郎の頭をポンポンと軽く叩いた。





「俺も長太郎といられてよかったぜ。 来年もまたこんなことが出来たらいいな。

 ・・・なあ、長太郎。 あれ、歌ってくれないか?」





宍戸のその言葉に、長太郎は微笑み快諾する。 そして、歌いだす。

その歌声は雪の降る空に、静かに吸い込まれていく。

いつの間にかベランダに出てきていた他のメンバー達も、彼の歌に聞き入っていた。

雪がはらはらと舞い落ちる。 幸せな、そして穏やかな風景。

長太郎の透き通るような歌声が、至純の空に吸い込まれていく。

幸福。 それは、どこにでもあるそんなもの。 しかしかけがえのないものでもある。

幸せを示すかのように、歌声は聖夜の彼方へといつまでも響き渡っていた―――。









【あとがき】

煌様、大変遅くなってしまい申し訳ありませんでしたっ(土下座)

長太郎メインとのことで書いてみましたが、果たしてその通りなっているかリアルに不安です(汗)

もうすぐクリスマスということで、そのお話を書かせて頂きました。

ちょっと量の関係で省いてはいますが、跡部の家でのクリスマスパーティーはマジですごそうです。

きっと、一般人の私では理解できないほどのものではないかと。

恐ろしく駄文に仕上がってしまいましたが、よろしかったら貰ってやって下さい。

返品は一生可です。 何か気に入らなかった所がございましたらいつでも手直しさせて頂きます!

では、本当にこんなものですいませんでした(汗)



07.11.25









SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送