俺が望むのは、自由。

何者にも縛られることのない、自由・・・。





番外編・繋がれし守人





俺の全てが狂い始めたのは、今から1年前のこと。

あの時あいつが来なかったら、俺は今もあの場所にいれただろう・・・。





「はっ? 王都の奴等が来るだと?」





同じ村の仲間からそのことを聞かされた時、何だか嫌な予感がした。

王都の奴等は、何かを探す為にあちらこちらに兵達を派遣しているらしい。

そしてその中には騎士やアーティシャルもいるという話だ。





「ああ。 その『探し物』があるか見に来るらしいぜ。

 っつーか、それって一体なんなんだろうな? 王都がそんだけ必死になって探してるってことは、相当すごいもんなのかねえ?」





そう言って笑う仲間。 その言葉に考え込むが、ジャッカルにも思い当たることはない。

と、別の仲間がやって来てこの話はここで終わりになった。



                                                 ☆



「・・・譲っていただけませんかねえ?」





そう言うのは、ニマニマとあまり好感を抱かない笑いを浮かべている男。

彼の後ろには、剣を持った男達が控えている。

机を挟んだ向かいにいるのは、サングラスをかけた男。 外見からはそんな年を取っているようには見えない。

男は机の上で手を組んで、目の前の男の顔をまっすぐに見て言う。





「譲ることは出来ません。 あれは私達の村を豊かにしてくれている物。

 あれなくば、私達は生きていくことが出来ません。」





強い口調でそう言う。 それをするりと交わし、ニマニマとした笑みを浮かべる男・・・判田は返す。





「しかしですねえ、季楽さん。 我々の方針はご存知でしょう?

 それにこれは、指導者である榊さんの決めたことです。 逆らうことがどうなるのか、分かっておいでですか?」





脅しをかけるようにそう言う。 しかし、季楽と呼ばれた男の決意は固かった。





「何と言われてもお譲りすることは出来ません。 お引取り下さい。」





あくまでその姿勢を崩さない季楽に根負けしたのか、判田は椅子から腰を上げた。

そして部屋から出ようとしたが、何かを思い出したかのように振り返って彼に言った。





「我々のことを理解していただけなくて、本当に残念です。

 そうそう、もしかしたら『事件』が起こるかもしれませんが気をつけて下さいね・・・。」





ニヤリと笑って言う。 その笑みの鋭さに、背筋にぞっとしたものが走る。

硬直している彼を置いて、判田はゆっくりと姿を消した・・・。



                                                   ☆



「・・・相変わらず綺麗な色してるぜ。」





静かな空間で、そう呟く1つの人影。 褐色の肌をした彼は、闇に包まれ始めたこの場所に1人佇んでいた。

彼の前にあるのは、琥珀色をした1つの石。 人の握りこぶしぐらいの大きさのそれは、動くことなく宙に浮かんでいた。

石は闇の中でも淡い光を放ち続けている。 それを見ながら、ジャッカルは呟いていたのだった。





「・・・もしかしたら王都が探しているのは案外これなのかもな。」





そう静かに言う。 この石は、ずっと昔からここに存在していたという。

そして彼の住む村を中心に、この石の周辺にある村々は豊かな農作物が取れることで有名だった。

豊かなのは、この石のお陰。 彼の家族も村の仲間も、そう信じていた。 そしてジャッカル自身もそう信じていた。





「・・・まあ、たとえこれを渡せって言っても季楽さん達が渡すわけないか。

 これが無くなったら何が起こるかわかんねーんだし。」





もう1度石を見て、ジャッカルはその場を離れる。

洞窟になっているそこを抜けると、村を見渡せる山の中腹に出た。 空を見上げると、太陽はもうほとんど沈んでしまっていた。

そして本来ならとても綺麗な星が見えるはずなのだが、今日は黒い雲が覆っていて見ることは出来ない。





「こりゃー一雨くるかもな。 振り出す前に戻るか。」





そう呟いて歩き出そうとしたその時、急に人の気配を感じた。

それは、普段共にいる村の人達とはまったく違う気配。 それに本能的にヤバイと感じた彼は、咄嗟に傍の岩陰に隠れる。





(! アイツは・・・。)





少しして見えた人影に驚く。 それは、数日前に村に来ていた嫌な笑いをする老人だった。

彼の後ろには、守るように兵士達が付いている。

洞窟の前まで来ると、老人は足を止める。 その目線の先には、ジャッカルが暮らす村。

闇に包まれて全体はよく見えないが、村で灯る灯りははっきりと見えた。





「・・・逆らったものがどうなるのか、しっかりと教えて差し上げなければいけませんね。

 少々心が痛みますが、これも仕方のないこと。 ・・・さあ、おやりなさい。」





老人がそう言うと、傍にいた兵士が手に持っていた灯りを頭上に上げ、思いっきり振った。





(何をする気だ・・・?)





訝しげな表情でそれを見るジャッカル。

と、村のほうからも同じように灯りでの合図が返ってくる。 そして少しした時!





ドオンッッ





突如した轟音。 それは、村からした。

目を見開いて見ていると、村からは次々に火が上がっていた。 それに何が起こっているか気付いたその時!





「貴様! ここで何をやっている?!」





突如上から声がしたかと思うと、思いっきり蹴り飛ばされた。 その拍子に、老人達の前に出てしまった。

瞬時に突きつけられる剣。 しかしその状態でも、ジャッカルは叫んだ。





「お前等! 村を、あいつらをどうするつもりだ?!」





「黙れ! 今すぐ殺してやる!」





兵士がそう怒鳴ると、ふいに老人がそれを止めた。 そして彼の前に立ち、言う。





「まさか聞かれているとは思いませんでしたよ。 まあいいでしょう。

 君が気付いた通りですよ。 反逆者達には死を。 それが王都の方針です。」





「俺達が一体何をしたってんだ?!」





「本当は分かっているんでしょう? この洞窟の中にあるものが、我々の探しているものだと。

 それを渡すのを、君達の指導者は拒んだんですよ。 それは許されることではない。 その結果がこれです。

 ・・・さあ、ここで話すことはもうありません。 彼を王都へ連れていきます。」





老人のその言葉に、ジャッカルだけでなく兵士達も驚いた。

若い兵士が咄嗟に反論する。 しかしそれを老人は難無くかわして言う。





「彼は王都にとって必要な人材です。 彼を、私は探していたんです。

 ・・・あなたの力、有効に使わせてもらいますよ。」





そうニヤリと笑うと、老人は兵士に合図をする。 その瞬間、ジャッカルの首に鈍い衝撃。

薄れゆく意識の中で、彼は聞いた。





『・・・この力があれば、あの者達も手を出すことは出来なくなる・・・。

 これで、私の目的に・・・。』





その先は、聞くことは出来なかった。 そして、闇が完全に意識を塗りつぶした・・・。



                                                     ☆



「・・・ここは・・・?」





目が覚めた時、彼は真っ白い部屋にいた。 そして目の前にっはあの老人。

それを認めた時、彼はばっと起き上がった。





「おはようございます。 気分はどうですか?」





相変わらず嫌な笑みを浮かべる老人に、ジャッカルは怒鳴る。





「村は、あいつ等はどうした?!」





「どうしたって、然るべき処置を施しましたよ。 今頃あそこは焼け野原でしょうね。

 生き残っている者もいないでしょう。」





その言葉を聞いた瞬間、彼は老人に飛びかかろうとした。

しかし、何故か思うように体が動かない。





「止めておいたほうがいいですよ。 ここには結界が張ってありますから。

 体があまり動かないのはじきに良くなりますが、その後逃げようなんて考えないほうがいいですよ。 どうせ不可能なんですから。

 ・・・さて、君の仕事についてはこの後に来る子が説明してくれますよ。

 ちなみに彼は君のことについて、仕事仲間としてしか説明を受けていませんから。

 しかし、彼に全てを話しても無駄です。 王都が先のようなことをするなど、微塵も思っていないですからね。

 ここで君にはある物を守ってもらいます。 その『結界』の力でね。 抵抗も無駄です。

 君にはここで守ることしか出来ません。 ・・・そういえば名乗っていませんでしたね。

 私の名前は『判田幹也』。 覚えておいて下さい。」





そう言って、判田は部屋を出て行った。

後には、絶望に暮れるジャッカルだけが取り残された・・・。



                                                   ☆



・・・あれから1年の月日が流れた。 その間、彼は『ある物』。 オーブをずっと守り続けていた。

1ヶ月前。 幸村と蓮二が王都を離反した。

彼等がオーブを狙って来た時、必死になって守ったがジャッカルは彼等が羨ましかった。

自分の意思で行動を起こせることが。

それから少しして、不意にまた現れた幸村と蓮二。 彼等が助けてくれると言った時、どれほど嬉しかったか。

どれほど彼等に縋りたかったか。 しかしそれは叶わない。 彼は、ここに拘束されているのだから。





(無事でいてくれ・・・。)





ブン太のことを頼み、去って行った彼等。 しばらくして聞こえてきた戦闘の音。

それから、彼等が見つかったことが安易に予測できた。





(俺のことはいいから。 だから・・・。)





そう心から思う。 ここに来て、彼は全てを拒否した。

しかしそんな彼の傍にずっといてくれたのはブン太だった。 彼はジャッカルに何も聞かず、ただただ傍にいてくれた。

何時しかそんな彼が何よりも大切な存在になっていた。 彼を失うことは、今のジャッカルには耐えられないことだった。





(無事で・・・いてくれ・・・。)





そう願う。 ブン太の無事を、祈る。

確かに自由にはなりたい。 ここから開放されたい。 しかしそれならば、彼も・・・。

揺れ動く心。 望むのは自身の自由。 しかしブン太も・・・。

気持ちの収集がまったく付かない。 どうすればいいのか、どうしたらいいのか、今の彼にはまったく分からなくなってしまっていた。





「俺が本当に望むのは一体・・・?」





白い、白い空間で、ジャッカルはそう呻いた。





・・・自由を望み、パートナーの無事を願う。

彼に待ち受けるのは、希望かはたまた絶望か。

それを知るものは、まだいない・・・。









【あとがき】

番外編第二弾です! やっと書けたあ〜。 今回のはジャッカルの過去の話です。

彼が何故オーブ保管室に拘束されているのか。 それを明らかにした話・・・のつもりです。

上手く書けているかはかなり謎。 実は彼の設定自体、かなり無理矢理作ったものですから(汗)

そういえば、季楽パパが特別出演。 使える人がいないかと思って、咄嗟に出てきたのがこの人でした。

ごめんね、パパ。 あっちゅー間に役目終わちゃって(滝汗)

最後になりましたが、アンケートでこの話を読みたいと言ってくださった方、どうもありがとうございました!

こんなヘボヘボな文ですが、楽しんで読んでいただければ幸いです。

番外編はまだまだ書きたいことあるので、頑張って書いていきます。 では、この辺で。



07.3.6



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