王都にいる1人の天才。

異端なる力を持ちし彼。

後の番人の実力とはいかに?





番外編・異端なる能力者





「次! 次!!」





王都の訓練場からは今日も声が響いてきている。 一際大きなあの声は…真田だ。

先ほどから彼の声に混じって、別の叫び声が聞こえているような気もするがそれは気にしないこととしよう。

そう思いながら長い廊下を1人歩いていると。





「あれ? 丸井君じゃん。」





声をかけてきたのはオレンジの頭が目立ちすぎだ、と常日頃思っている千石。

まあ自分の赤い髪も目だっているから、言えないのだが。





「おう。 千石じゃねーか。 どうしたんだよ?」





「いやあ、さっき訓練場の傍通ったら真田君に見つかっちゃって。 あやうくあれに巻き込まれそうだったから逃げて来たんだ。

 あれ面倒臭いじゃん? 丸井君も気をつけたほうがいいよー。 見つかったら見境なしに捕まるから。

 おっと、ここでのんびりしてるわけにはいかないっけ。 じゃあまたね。 俺は逃げるよ〜。」





そう言うと千石はその場から走り去って行った。 彼の後姿を見送りながら、確かに。 と思う。

真田の戦闘訓練は熱血すぎて相当大変らしい。 参加した兵士達はいつも疲労困憊だった。 ちなみに、たまに運の悪い騎士も参加させられる。

その時は真田直々に相手をするというから、余計タチが悪い。 強制参加させられた菊丸(騎士ではないが)が、そう話していた。

そう考えると、そんな彼といつも訓練している赤也は凄いと思う。





(まっ、俺には関係ねーけど。 真田になんかぜってぇみつからねーし。)





ブン太は見つからないと自信満々。 その自信はどこからくるのか。 それは自分の能力のためだった。

音を操ることが出来る彼は、それと同時に耳も相当良かった。 現にさっきも振り返りはしなかったが、近寄ってくる人物がいること。

それが千石であるということにも気付いていた。 だからブン太は自信を持っているのだった。





「あーあ。 今日もつまんねーな。」





そう言いながら彼は廊下を歩く。 だが、この時彼は全く気付いていなかった。

ブン太の背後に忍び寄る影が1つ、あることを…。



                                                   ☆



「ええい! どいつもこいつも腑抜けているっ!」





場所は変わって、ここは王都内にある戦闘訓練場。 中には死屍累々。 いや、まだ生きてるが。 一応。

真田にやられた、もといこってり絞られた兵士達の山。 全員生気がない。

腑抜けてるって言われても…、と言った表情を全員している。 3強のあんたと一緒にされたら困るといった所だ。





「マスター、何もそこまで言わなくても。」





恐る恐る言った赤也にさえ、お前もたるんどるわ!という始末。 頑張れ、赤也!





「ん?」





その時、真田が誰かの気配に気付いた。 振り返るとそこには…。





「桃城と日吉ではないか。 何をそこでこそこそとしている?

 訓練してやるからこちらへ来い。」





あちゃーといった表情の赤也。 そんな隠れ方じゃあマスターには直ぐにバレるよ、と思う。

偶然そこを通りかかったはいいが、真田が訓練を行っていた。 彼の熱血ぶりは王都では相当有名。

桃城も日吉もそこのことは十分に承知している。 そのため隠れてやりすぎそうとしたのだが、失敗。

気配にも敏感な真田。 あんな中途半端なやり方では絶対に無理だ。 やるなら命がけでマジにやらないと。





「よろしくお願いします…。」





心底嫌だ、といった感じでそう言う2人。 ああ、これでもう終わりだな。

…それから少しの後、その場に2人の絶叫と真田の怒鳴り声が響き渡ったそうな。



                                                      ☆



「くっそー、暇だ。 暇すぎる。」





言いながら、ブン太は未だ歩いている。 亜久津がいれば訓練をつけてもらうことが出来るが、彼は現在任務の真っ最中。

他の知り合い達も大抵任務のため、暇つぶしをする相手がいない。 だからといって真田の訓練だけは絶対に嫌だ。





「仕事がねーってマジで暇なもんなんだな。」





そう呟く。 騎士ではないブン太。 だが、討伐隊のメンバーでもない。 王都内での地位は、一応ではあるが一般的な兵士と変わらない。

しかし、彼の実力には目を見張るものがあった。 音を操る異能の能力者。 異能という点では伊武も同じ。

だが戦闘能力という点について言えば、彼よりも強い。 それは以前行った戦闘訓練で発覚したこと。

王都に来たばかりのブン太は、最初は一般兵と同じ訓練をしていた。 だが、ここで彼の才能に気付いたのは亜久津だった。

ブン太があえて隠していた力を、彼は直ぐに見抜いた。 その後は彼が直々に戦闘を仕込んでいたという。

亜久津は色々と問題の多い人物だが、その実力は確かだった。

それを知った榊は、ブン太の位置づけは少しの間保留とすることにしていた。 理由は不明だが、直に分かるという。

だからそれが決まるまでの間、ブン太にはほとんど仕事がない。 普通の兵士で済むようなものを、彼がわざわざやる必要はない。

しかし騎士でもないから、無闇に厳しい任務につけることも出来ない。 結果的には暇という2文字がくっついてくこととなった。





「はああ。 誰か暇つぶしになってくんねーかな。」





そう呟いた時だった。





「ならいい方法があるぞ。」





「!!!」





不意に背後からした声に驚き、勢いよく振り返る。 そこにいたのは…。





「柳かよっ。 まったく、驚かせるんじゃねーよ。 マジびびったじゃねーか。」





「そうか。 それは悪かった。 だが、俺の気配くらい分かるようになれ。

 おっと、用件はこんなことではないな。 暇つぶしの相手、紹介してやる。 丁度手負いの奴がいるのでな。」





柳の言葉にまさか、と思う。 ヤバイと感じたブン太は身を翻して逃走しようとする。 だが。





「逃がすわけなどないだろう。」





その言葉と共に紡がれた言霊。 一瞬のうちに、ブン太の動きを拘束する水。

もがくが、そんな簡単に解けるわけがない。





「んなっ! 汚ねーぞ柳!」





「まあいいじゃないか。 暇だったのだろう? 丁度いいじゃないか。

 あのまま放っておくと確実に被害が増大するのでな。 訓練という名の拷問をそろそろ終わらせなければ。」





「だったら柳が自分でやればいいだろ?!」





「それは面倒だから断る。」





「身勝手すぎるだろおっ!!」





ブン太の叫びが木霊する。 だが、蓮二はブン太の言葉に耳を貸すことなく彼を引きずっていく。

向かうのは訓練場。 さて、彼も犠牲者になってしまうのだろうか?



                                                       ☆



「全く! 日々の訓練を怠っているからこれしきのことにも耐え切れんのだ!」





腕を組んで仁王立ちしている真田。 彼の足元にはぐっったりとした桃城と日吉。

真田の犠牲者となってしまったのだ。 プリプリと怒る真田に、既に赤也も声をかけることが出来ない。

このままだと手当たり次第に特訓させられて余計犠牲者が出る、と思われたその時だった。





「弦一郎。 お前の相手、連れて来たぞ。」





不意にした声に振り返ると、そこにはブン太を連れた、もとい引きずった蓮二の姿。





「何だ? 誰が相手をするというんだ。」





真田の問いに、蓮二はブン太を指した。 無理矢理な展開に当のブン太は相当不満そう。

だが、未だに蓮二の水が邪魔をして逃走することは出来ない。





「ほう、丸井か。 おもしろい。 全力でかかってこい。」





剣をすらりと抜く真田。 逃げられない状況に、ブン太はようやく諦めたよう。

傍に立つ蓮二に言う。





「柳、これ解け。 動けない。

 ったく、んな面倒なこと何でやんなきゃいけねーんだよ。」





ブン太の言葉に蓮二は水を引かせる。 自由に動けるようになったブン太。

指をコキコキと鳴らしながら、真田を見据える。





「ったく、真田の相手なんてマジで面倒だぜ。 だけどな、負ける気はねーからな。」





その瞬間、空気がピンと張り詰めた。 独特な雰囲気のそれに、今まで倒れていた兵士達までもが息を呑む。

膠着した場。 そこに一陣の風が吹いた瞬間、真田が先に動いた。





「全力でかかってこい!」





振り下ろされた剣を軽やかに避ける。 そしてタンタン、と軽い身のこなしで後ろに下がる。

だが、真田は追撃してくる。 恐ろしいほどの早さで繰り出される突き。 普通の者ならば既に降参しているであろうそれに対しても、いとも簡単に避けている。

そしてそのやり取りが少し続くと、ブン太は少し大きく跳躍して真田との距離を開けた。

互いの息はまったく上がっていない。 だが、その中で赤也は気付いた。





(あっ。 マスターイライラしてる。)





ほんの少しの変化。 普通の者ならば気付くことが出来ないくらいのもの。 だが、赤也は気付いた。

そしてその原因にも。





「何故、剣を抜かん?」





少し低い声で問う。 たったそれだけなのに周囲の兵士達はビビッて縮こまってしまった。

どうやら相当怖いらしい。 だがそれに怯むことなく、ブン太は平然と言う。





「別に、その必要がないだけだからだよ。 剣なんて武器、俺には必要ねえ。

 何? イラついてるわけ?」





ブン太の挑発するような言葉に、真田のこめかみに青筋がビキッと。

どうやら相当頭にきたようだ。 このままだとヤバイなーと感じながらも、赤也は止めることが出来ない。





「…この俺をそこまで挑発するか。 いいだろう。 こちらも手加減なしでいかせてもらう!」





真田がそう言った瞬間、周囲の温度が変わった。 ジリジリとた熱いもの。

そしてそれと同時に、彼から陽炎のようなものまで見える。





「久しぶりに見たな。 弦一郎のこれは。」





冷や汗をかいている赤也の横で、蓮二が平然とそう感想を述べている。

いやいやそんなこと気にしてる場合じゃないから! このままだとブン太さんヤバイから!

赤也のその考えが伝わったのか、蓮二が赤也に言う。





「何だ? そんなに心配なのか?」





「心配にきまってますよ。 このままだとブン太さん、マスターにボコボコにやられちまいますよ?」





赤也がそう言うと、蓮二はふっと笑みを洩らした。





「そんなに心配する必要はない。 そういえばお前は丸井の実力を知らなかったな。

 あいつはそんな弱くはないよ。 実力だけで言えば討伐隊の伊武にも勝る。 菊丸とはやってないから分からないが。

 まあ見ていれば分かるさ。 だからそんな顔をするな。」





蓮二の言葉がにわかに信じられなかった。 確かに、彼が強いという噂は聞いていた。

しかし騎士にも討伐隊にもならないから、そこまでではないと勝手に思い込んでいたのだ。

あの蓮二が他人のことを強いと賞賛することはあまりない。 それだけ、強いということだろう。





「…でも、この場所持つのかなあ…?」





ふとそう新たな疑問が沸く。 そんな強い者達が戦って、果たしてこの訓練場は大丈夫だのだろうか?

ちょっとそんな場違いなことも気になった赤也だった。



                                                    ☆



「いくぞ!!」





そう言うが早いか、真田は剣を横薙ぎに振るう。 その動きに合わせて、炎が踊った。





「最初からこれかよ。 全く、ホントに手加減なんてしないつもりか。」





ぼやきながらもブン太は軽い身のこなしで避けていく。 これには赤也も驚いた。

不規則に動き回る真田の炎から避けるということは、生半可なことではない。 相当身のこなしが軽いという証拠だった。





「ふん。 いつまでもその手が通じるなどと思うな!」





そのままでは埒があかないと思ったのだろう。 真田は言霊を唱えた。

途端、今まで1本だった炎が枝のように分かれた。 それは一斉にブン太に襲い掛かる。





「げっ!」





あっという間に周囲を炎で囲まれてしまったブン太。 直ぐに姿も見えなくなる。

手加減をしているため、死ぬようなことはないがそれでもダメージは相当なもの。 真田は勝利を確信した。





「ふん。 口ほどにもなかったな。」





そう言って剣をしまおうとしたまさにその時だった。





パチンッ





炎の轟々という音に紛れて聞こえてきた、本当に小さな何かを弾く音。

何だ?と思う間もなく、その瞬間炎が消し飛んだ。





「なっ?!」





驚いたのは真田だけではなかった。 その場にいた蓮二を除く全員が驚愕の表情をした。

消し飛んだ炎の中心。 ゆっくりと歩いてくる人影。

ニヤリと笑みを浮かべるブン太には、煤すらついてはいない。





「真田、お前手加減しすぎだろ? こんなんじゃ俺を倒すなんてできねーぜ。」





ブン太の言葉に、驚いていた真田は我に返った。

予想外の展開だったが、負けたわけではない。 再び炎を放つ。





「そういやあ俺、ここで力使ったことなかったっけな。 いいや、見せてやるよ。」





炎をたくみにかわしながらブン太はそう言う。 そして、彼は指を構えた。

パチンッ

指を弾く音。 それが響いた瞬間にまた炎が消し飛ぶ。





「そうか、お前は音を操る能力者か!」





ブン太の能力にようやく気付いた真田が言う。





「気付くのおせーよ。」





そう言いつつも、2人の動きは止まらない。 いや、真田の動きは更に鋭くなっていた。

相手の能力が何か分かれば、対処法はいくらでも思いつく。





「…あれでもやるか。」





瞬時に悟ったのだろう。 長距離戦は危険だと。 音は確かに脅威だ。 だが、近距離ではどうなる?

ブン太は自分の力にかなりの自信を持っていた。 しかし彼は1度も真田の近くに寄ってきてはいない。

それ即ち近距離戦に不利だということ。 向こうが望まないのなら、こちらから仕掛ければいい。

瞬間的に真田はブン太との距離を更に開けた。 訝しげな顔をするブン太。





「炎よ! 渦を巻け!!」





真田がそう唱えると、炎が彼の持っていた剣を包み込んだ。 炎の剣。

真紅の炎に包まれた剣を携えた真田は、ブン太へと切りかかる。





「うおっ?!」





避けるが、剣から迸った炎もあるため完全には避け切れない。





「こんにゃろ!」





むきになったブン太は、炎を避けながらも指を弾き真田に攻撃を仕掛ける。

だが、それは次から次へと出現する炎によってことごとく失敗する。





「頭きた! これでもくらえ!」





真田の炎を避けたブン太は大きく跳躍し、地面に着地する。 すると、その音でさえも攻撃となって襲い掛かってきたのだ。

まさかの展開に真田も負けてはいられない。 剣を垂直に構えると、一気に突き出す。

巨大な炎が渦を巻き、ブン太に襲い掛かる。 それに応戦すべくブン太も指を弾き、足でステップを踏み鳴らす。

とんでもない規模の攻撃に、周囲の人々はもう真っ青。 これで終わりだとそう覚悟した。

だが、その時だった。





「はい、ここまで。」





そう声がした瞬間、今まさにぶつかろうとしていた2人の攻撃が瞬時に消滅した。

あまりに突然にことに、何が起こったのか頭が理解出来ない。





「2人共暴れすぎだよ。 全く、周りのこともしっかり考えて欲しいね。」





そう言いながら歩いてきたのは…。





「幸村?!」





爽やかな笑みを浮かべながらやって来たのは幸村だった。 突然の彼の出現に、戸惑う周囲。





「ブン太、巻き込んで悪かったね。 蓮二にいい加減真田止めてきてって言ったの俺なんだ。 でもまさか君になるとは。

 蓮二は自分じゃあやらないから。

 それにしても、派手にやったもんだね。 ちゃんと片付けときなよ?

 あ、そうそう。 目的はこれじゃなかった。 蓮二仕事。 行くよ。」





幸村の言葉に頷く蓮二。 歩き出す彼の後ろについて行く。

真田の横を通った時、彼に向かって小さな声で言った





「真田、あのままやってたら確実に負けてたよ。」





幸村のその言葉に、僅かに眉間に皺を寄せる真田。

そんな彼らを残し、幸村はあっという間にその場から去っていった。 一体何だったんだ?という感じに。





「げっ?!」





重くなってしまった空気を突如破ったのは赤也。

いきなりの緊張感のなさに呆れつつ、真田が何だ?と問いかけると、赤也は多少青い顔で指差した。





「あれ…。」





そして見たのは無残に破壊された訓練場。 そして笑顔でこちらを見る判田の姿。





「相当酷くやってくれましたねえ。 お陰で隣にあった私の庭にまで被害が出ましたよ。

 …さて、どうしてもらいましょうかねえ?」





黒い笑顔とはまさにこのことだろう。

この後、そこにいた全員は有無も言わさずに判田の庭の手入れをさせられたことは言うまでもない。 ついでに訓練場の修復も。

そしてこの状況に1番文句を言っていたのは、巻き込まれたブン太であった。





「俺が1番の被害者だろー!!!」









【あとがき】

はい、プチ企画で頂きましたブン太VS3強の誰かでした! 理也様、リクありがとうございました!!

時間設定的には、本編の2年くらい前のお話になります。 ブン太が王都に来てからまだあまり日が経ってないくらい。

ブン太が保管室の番人になったのはこの後です。 ジャッカルが王都に来てからですね。

私にしては頑張ってギャグちっくにしてみましたがいかがでしたでしょうか? 真田とかね。

彼は強いんですけど、どこか抜けてるといい。(希望)

ちなみに、この試合の後幸村に言われたことが気になって真田は猛烈に修行します。 負けず嫌いなんです。

ご感想などありましたらお気軽にどうぞ。 今回はありがとうございました!



08.3.18






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