悲しみで彩られた結末。

しかし、そうなるために出会ったわけじゃない。

あなたと出会えて、よかった―――。





番外編・その出会いは策謀ではなく





『現、王都の3強の2人。 幸村精一と真田弦一郎。 あの方はあと1人決定するとおっしゃっていた。

 3強の最後の1人は一体誰になると思う?』





こんな話で城の中は持ちきりだった。

――― 十数年前、幸村が王都エルリードに現れたのが始まりだった。 彼と共にいた1人の男、柳蓮二。

人間ではない彼を人々はアーティシャルと呼んだ。 そして彼を基礎として始められた、アーティシャルの人工製造。

それと同時に始められた、騎士と呼ばれる者達の育成。 エレメントを持つ者達を集め、魔物討伐のエキスパートとして育てる計画。

そして更に数年後、世界中に蔓延する魔物を倒すシステムとして騎士とアーティシャルが本格的に動き始めた。

当時、王都に在籍した騎士達の中で最も力を持っていたのが幸村。 その次に真田。

支配者は騎士達の頂点として、3強と呼ばれる椅子を作った。 必然的に、幸村と真田がそれにつく。

そして残りの1つ。 それを巡ることになったのが、手塚と橘。

橘はそれほど3強という名に固執していなかったのだが、手塚は違った。 すさまじいまでの執着だった。

だが、これは支配者の一言で方がつく結果となった。





『手塚にはアーティシャルがいない。』





戦闘能力に関しては、どちらも引けを取らなかった。 明暗を決したのはパートナーの有無。

戦いの場において、パートナーがいるといないとでは明らかに違う。 頼ることが出来る者の存在。

それを支配者は指摘した。





「くっ…。」





その言葉を聞いた時の手塚は、恐ろしいほどの恨みを橘にむけていた。

橘との戦闘能力。 体術に関しては、確かに橘は強い。 だが、彼にはエレメントが無かった。

力を持たぬのだから、必ず自分が選ばれる。 そう思っていただけに、負の感情は巨大だった。

しかし王都での支配者の権力は絶対。 逆らうことは許されない。

橘への恨みを強く抱いたまま、手塚は騎士の1人として日々を送ることとなった。



                                                    ☆



しかし、橘が3強となって数年後…。





「橘が離反しただと?!」





衝撃的な話が、突如王都に飛び込んできた。 もたらしたのは、橘とアキラと共に任務に赴いていた兵士。

彼によると、任務に向かう前からどうも様子がおかしかったという。 そして任務で赴いた地で、起こったこと。

同行していた兵士達を彼等は突如行動不能にし、こう言ったという。





『俺達はもう王都へは戻らない。 疑問を持ったから。』





そして姿を消し去ったという。 それを聞いた支配者は、まだ製作途中だったアーティシャルの能力を使って彼等の追跡を命じた。

その能力千里眼はまだ開発途中だったが、彼等の影を掴むのには十分だった。

その追っ手として名乗りを上げたのは、手塚。 だが…。





「橘の追手は幸村に任せる。 お前は動くな。 あいつをお前は倒せない。」





その言葉に、手塚は更に憎悪を募らせる。 だが、この時一体誰が気付いていただろう?

2つの巨大な力が動き始めていたことに―――。



                                                  ☆



――― それから1年後。





「おい、聞いたか?」





「聞いた聞いた。 新しいアーティシャルのことだろ? なんか今までの奴よりも相当すごい能力持ってるらしいぜ。」





耳を澄ませれば、そんな会話がそこら中から聞こえてくる。

王都内では、日々新しいアーティシャルが作られていた。 現存するアーティシャルの中で最古であり、最強でもあったのが蓮二。

その次に攻撃力の高いのが赤也。 戦闘能力は低いが、移動能力に長けていたのがアキラ。

主達と同じく、彼等もまたアーティシャルの中では抜群の能力を誇っていた。 そのため彼等のことも人々は3強と呼んだ。

他にもアーティシャルは生み出されていたが、それらが彼等に勝つことは出来なかった。

だが、今回は違った。 これほどまでに噂になるほど。 それほど、強いアーティシャルが出来たというのだから。





「手塚、君は気にならないのかい?」





そう声をかけてきたのは幸村だった。 彼にまだパートナーがいないのを案じてのことだろう。

3強になれなくとも、パートナーの不在は騎士としては痛い。 だが、手塚は首を振った。





「いや、アーティシャルを持つ気はない。 俺は1人で十分だ。」





そう言って立ち去る彼。 後姿を見送りながら、幸村は溜め息をつく。

と、そこに現れたのは蓮二。





「どうだ? 精一。」





「全然ダメ。 手塚、パートナーを持つことに全く無関心なんだよね。

 蓮二、そっちはどう? 彼、もう目覚めたんだよね?」





「ああ。 無事目覚めた。 だが、こっちも中々問題でな。 相当キツイ性格しているんだ。

 いや、キツイというか生意気と言ったほうが正しいな。 今はまだ俺くらいしか会っていないが…果たして主が見つかるかどうか。」





「それはかなり心配だね。 でも、きっとなんとかなると思うよ。」





そう幸村はポツリと言った…。



                                                 ☆



ドンッ





「いって! おいこのチビ! ぶつかっといて謝りもしねーのかよ!」





ぶつかった相手にそう怒鳴る1人の兵士。 相手は小柄で、まだ少年と呼べるほどの外見。

その騒ぎに、近くにいた別の兵士が駆け寄ってくる。 そして、少年を見て慌てて兵士を止めた。





「おい止めろ! この人は…!!」





「…ちょっと邪魔なんだけど、どいてくんない? それとも、どこかへ飛ばされたいの?」





その言葉に止めに入った兵士は、慌てて仲間の兵士を少年から離した。

少年はそのまま歩き去って行った。 後に残された兵士は。





「おい、何で止めたんだよ? あんなチビ、どうってことないだろ?

 そもそも何であんなガキがここにいるんだ?」





「…お前、知らないのかよ? あれはただのチビじゃない。

 最近新しく作り出されたアーティシャルだよ。 噂だと、今の3強も脅かすくらいの力持ってるって話だぜ。」





「マジかよ?! あんなチビが。 でも、じゃあ何で1人でいるんだよ?」





「どうやらまだ主、決まってねーみたいだぜ。

 でもま、いくら強いっていってもあんな性格じゃあ中々決まんなねーだろうけどな。」





話す兵士達。 その傍の柱には人影。

そこにいたのは先ほどの少年だった。 じっと彼等の話を聞いている。 少しして、話しながら立ち去る兵士達。

誰もいなくなっても、少年はしばらくの間その場に佇んでいた。 拳を強く握り締める。

だが、すぐに少年もそこから立ち去って行った―――。



                                                ☆



「あれが例のアーティシャルか。 でも、あんな奴じゃあな。





「だな。 あんな性格してたんじゃ決まるもんも決まらねーよ。」





聞こえてくるのは自分を蔑む声。 聞くのが嫌で、耳を塞ぐ。

力を持っている。 ただそれだけで周囲は自分を差異の目で見る。 自分達とは違う存在として。

それゆえ、彼は心を閉ざした。 周囲と混じることを避け、距離を置いた。 そして更に広がる溝。

悪循環。 だが、自分から打破することは出来なかった。

他人と接するのが怖かった。 突き放されて再び1人に戻るのが。 それならば最初から1人でいい。

主もいらない。 自分が認めることの出来る奴なんていない。

そんな時だった。





「あの人は…。」





目に入ったのは、1人の男。

訓練場で兵士達を相手に戦闘訓練をしている彼。 その姿に目が釘付けになった。

圧倒的強さ。 そして、他の者達と馴れ合う雰囲気のない孤高の姿勢。 どこか、自分と重なった。

気付いたら、足は自然に走り出していた。





「あっ、あのっ!」





訓練場を出た所で、彼の姿を見つけた。 歩き去っていく背中に、声をかける。

ピタッと足を止め、男は振り返った。





「…何だ?」





男の眼光の鋭さに、呑まれそうになる。 だが、言わなければならない。

こんなにも必死になったのは、初めてだった。





「俺を、俺を…お連れ下さい。」





そう言う彼を冷ややかに見つめる男。 興味がないといった感じだった。

しばしの沈黙。





「…俺はアーティシャルを持つつもりはない。」





言い放たれた言葉。  それに明らかに困惑する。

そんな彼を残し、男はその場を去って行った―――。



                                                  ☆



「手塚、今回の任務は少々遠い場所になる。 普通に移動してはかなり時間がかかる。

 それで、だ。 試験的にだが新しいアーティシャルの力を試してみようと思ってな。 入れ。」





支配者の言葉で部屋に入って来たのは、先日自分に契約してくれと言ってきたアーティシャル。

目線を合わせることなく、静かに佇んでいる。





「この者の名は『越前リョーマ』。 最近完成したばかりのアーティシャルだ。

 こいつの力は特殊でな。 時空を渡ることが出来る。 使えば距離など関係ない。 今回の任務にはもってこいだ。」





支配者の言葉を聞きながら、手塚はリョーマという名のアーティシャルを微かに見やった…。



                                                    ☆



任務自体はそれほど大したものではなかった。 いつも通りの魔物の討伐。

難無く終わらせ、戻ろうとした時だった。





「危ない!」





突如として襲い掛かってきた魔物達。 どうやらまだ残党がいたようだ

切り飛ばし戦っていると、不意に自分の背後に感じた強い気配。 振り返ろうとするが、反応が一瞬遅く間に合わない。

ヤバイと思ったその時だった。 目の前に飛び込んできた人影。

それがリョーマだと把握するのに、大した時間はかからなかった。





「!!!」





目を見開く。 自分よりも弱いであろう彼。 彼もやられてしまうと思ったその瞬間だった。





「消えろ!!」





突き出した左手。 紡がれた言葉。

次の瞬間、魔物の前方の空間が歪んだ。 そしてそれに触れた途端、魔物姿は揺らめいて消え去ったのだ。





「はっ、はっ。」





魔物が消え去ると、リョーマは荒く息をつきながら地面に両手を付いた。

そんな彼の傍に、手塚は静かに近寄る。





「怪我は、ないですか?」





手塚を見上げ、リョーマはそう問う。 それに手塚は静かに頷く。

よかったと、安堵した言葉を漏らす。 彼に、手塚は問う。





「…何故、俺を庇った?」





「守りたかったからです。 他の誰でもない、貴方を。」





リョーマはそうはっきりと口にした。 それに手塚はそうか、と小さく言う。

そして…。





「…俺と共に来い。」





不意に告げられた言葉。 それに、リョーマの目が見開く。





「一緒に、一緒に行ってもいいんですか?」





困惑しながらも紡がれたそれに、はっきりと首を縦に振る。

そして未だ地面に手を付くリョーマの前にしゃがみ込み、そっと右手を差し出した。





「俺から離れるな。 常に俺と共にいろ。

 これから頼んだぞ、リョーマ。」





リョーマは差し出された手をぐっと握る。 そして立ち上がると、満面の笑みを浮かべ言った。





「イエス、マスター。」





操られて、出会ったのではない。 操られて、彼の手を取ったのではない。

これは、自分の意思。 共にありたいと、願った。 傍にいることを望んだ。

6年前、この時は確かに自分の意思で動いたのだ―――。



                                                  ☆



「マスター! 早くしないと遅れちゃいますよ!!」





階下から自分を急かす声が聞こえる。 それに今行くと返事を返し、机の上に置かれていた剣を手に取った。

――― あれから1年。 リョーマと契約を結んだ手塚は、橘が抜けたことにより空いてしまった3強の座に着いた。

ずっと望んでいたモノ。 だが、いざついてみると案外あっけないものだった。

以前までずっと感じていた橘への憎しみも、今ではほとんど無くなっていた。

王都を離反した橘とそのパートナーであるアキラは、幸村と蓮二により抹殺されたという。

彼等の末路を聞いた時も、そうかと素直に納得しただけだった。





「マスター!!!」





更に大声で自分を呼ぶリョーマの声。 仕方ない、と手塚は部屋を出る。

階段をゆっくりと下っていくと、待ちきれないといった表情のリョーマ。





「遅いっす。 俺がいるからってもうちょっとはやくして下さいよ。」





いつものやり取りに、本当に僅かにだが口元が笑みの形に彩られる。

――― あれからリョーマも随分変わった。 生意気な所は相変わらずだったが、それでも明るくなった。

以前よりも人と接し、喋るようにもなった。 だが、変わったのはリョーマだけではなかった。

手塚もまた、リョーマに感化されていった。 そのいい例が、橘のこと。

憎しみを忘れ去るくらい、それほどリョーマは手塚に強い影響を与えたのだった。





「すまなかったな。 では、早速行くとしよう。」





そう言って歩き出そうとした時だった。





「っ!!!」





不意に襲った痛み。 思わずよろけてしまう。





「マスター?!」





心配して駆け寄るリョーマに、大丈夫だと言う。 それにまだ不安そうな顔をしつつも、リョーマは納得する。





(今のは一体、何だったんだ…?)





平静を装い、再び歩き出しながら手塚は思考を巡らせる。

頭を襲った痛みと共に、響いた声。 幻聴と呼ぶにはあまりにも生々しいもの。





『いずれお前は俺のものとなる―――。』





その言葉の意味を考えるが、思いつかない。 きっと幻聴だと、言い聞かせる。

だが、彼はまだ知らない。 これが、自分に破滅をもたらすものとなることを。

そして、これが自分とリョーマを引き裂く原因となることも。

――― 闇が蠢く。 時のオーブも動き出す。

狙うは、手塚。

忘却された憎しみを掘り起こし、彼を人形とするために。

だが、これに気付いた時には全てが手遅れ。 そして2人は引き裂かれるのだ。

しかしその残酷な運命の中、1つの光。 手塚の想う気持ち、リョーマの決断。 それが全てを決定する。

今はまだ、それを知る術はない。 全てを知るのは5年後。

茨の道。 仕組まれたモノ。

しかし手塚とリョーマが出会い、互いを信頼したこと。 これは決して仕組まれたものではない。

それだけは、誰の策謀でもないのだ ―――









【あとがき】

やっとこさ出来上がりました。 プチ企画で光牙様から頂きました、手塚とリョーマの出会いでした!

ご期待に沿えたかどうかは怪しい出来ですが、いかがでしたでしょうか?

本編読み返しながら、ヤベエ!リョーマ作られたの6年前じゃん!!と新たに発見しながら書いておりました。

とりあえず矛盾はしていないはずですが、していたらすいません(ヲイ)

手塚もリョーマも素直じゃないんで、出会う前は互いに意地を張りまくっていたんです。

それが互いの影響で本編のようになっていった、と。 こんなわけです。

手塚は榊にも時のオーブにも狙われていて、魔導士達と戦うための恰好の素材とされていたんです。

しかしその時に出会ったリョーマ。 似通った彼に手塚は惹かれ、契約を結びます。

黒幕達にとってはそれが最大の誤算になるわけです。 リョーマはそんな重要な子でした。

おっと、長々語りすぎました(汗) ご感想などございましたら、お気軽にお寄せ下さいませ。 ありがとうございました!

*光牙様以外の無断転載禁止です。



08.4.1







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