運命は交わる。 幾多もの音と交差しながら。

時には1つ。 時には数多の。

互いに主張しながらも、決してバラバラになることなく。

始まりは過去。

紡がれし物語は、激動しながらも奏でられ続ける。

永劫に続く曲など、ない。 だが、真の終焉もない。

1つが終わればまた次へと、曲は永遠に奏でられ続ける。

流転し続ける、『運命』という名の交響曲。

永遠の中の1つの終わり。

曲が終わり、最後に残される余韻は幸福かはたまた絶望か。

一度は降壇させられた奏者が、再び壇上へと昇る。

聞く者にひとたびの終焉を告げるために―――。





Symphony of destiny  最終章・10





「? 何だ?」





その場に満ちた気配に、手塚は眉を顰める。 振り返った忍足達も、その光景を目にした。





「観月…?」





光る魔法陣。 その中心に立つのは、はじめ。

彼の足元には同じように光を放つ跡部とリョーマの姿。 それに気付いた。

彼が、一体何をしようとしているのかを。





「千石! 宍戸! 幸村! 手塚を何があっても観月達に近づけさせたらあかん!」





その声に、はじめのしようとしていることを理解した幸村。 だが、戸惑いを隠せない2人。 当然だろう。

彼らはまだ一体何が起こっているのか把握していないのだから。 だが、手塚は気付いた。





「ちいっ! あの小僧を使って監視者を甦らせるつもりかっ。

 そうはさせるか!!」





言うが早いか、はじめのいる場所に土の技で攻撃を仕掛ける。 だがそれは柳生の結界によって遮られる。

更に幸村と忍足の攻撃が手塚を襲った。 同時の攻撃に、さすがの手塚もはじめを狙うことが出来ない。





「一体何がどうなってるんだよっ?!」





怒鳴りつつもとりあえず手塚を、と思った宍戸と千石も加勢する。

彼の問いに、攻撃の手を休めることなく忍足が言う。





「観月は跡部を甦らせるつもりや。 多分、越前の心臓を使うつもりやと思う。

 あいつの心臓になっとるオーブなら、拒否反応が起こることはまずない。 絶対に邪魔させるわけにはいかへん。

 越前に何があったんかは分からん。 せやけど、自分が死ぬって分かっとっても跡部にって思ってくれたんは確かや。

 観月は絶対に強制させたりはせんから。 儀式を阻害されたら、全てが無駄になる。 それだけはなんとしても阻止せなあかん!!」





忍足の言葉に、宍戸と千石は力強く頷く。

邪魔されるわけにはいかなかった。 1つの希望を、リョーマが最後に残してくれたのだ。

自分の命と引き換えに…。

4人の必死の猛攻に、手塚ははじめに近づくことが出来ない。 だが…。





「忌々しい! 消え去れ!!」





手塚が怒鳴った瞬間、全身に走る強烈な痛み。 恐らく、時空を切り裂いて飛んできた刃がその身を裂いたのだろう。

力が入らない。 倒れながら目を僅かに動かすと、結界を張っている柳生に襲い掛かる手塚の姿。

数瞬のやりとりの後、飛び散る血。 やはり柳生でも、たった1人ではあいつを抑えることは出来ない。

手塚の手が、はじめに伸びる。 だがその瞬間。 光が、溢れた―――。



                                                ☆



『…さん。 跡部さん。』





(誰だ? 俺を呼ぶのは…?)





『お願いします。 なんとしても―――を。』





(何だ? 何言いやがった? もっとはっきり言えよ。 聞こえねーじゃねーか。)





『あっちへ…。』





その瞬間、闇に塗りつぶされていた世界に光が満ちた。 白い色に飲み込まれる瞬間、彼は確かに見た。

涙を浮かべながら自分を見つめる、リョーマの姿を―――。



                                                  ☆



カッ!!

眩いばかりの光がその場に満ちた。 そしてその瞬間、吹き飛ばされる手塚の体。

徐々に消え去っていく光。 地面をみやると、荒々しい呼吸をするはじめ。 そして…。





「…まったく、やっぱ俺様がいなきゃダメじゃねーかよ。」





そこに立つのは、跡部。 しかし、以前とは明らかに雰囲気が違った。

それだけで分かる、彼の力。 全身から迸るそれは、他を圧倒するものがあった。





「調子は、大丈夫ですか?」





「ああ、大丈夫だ。 記憶も何もかも戻ってる。 それに力もな。 前よりも強いぜ。

 …全く、大した奴だよ。 自分の命を差し出すなんてな。」





もう目を開けることのないリョーマに目を向け、跡部はそう言う。

その顔は、どこか寂しそうだった。





「…後は俺に任せろ。 越前の望み通り、必ずあいつは止めてやる。」





「すいません。 僕達に力がないばかりに…。」





「そんなこと気にする必要もないだろ? お前等がいたから、俺は今ここにいれるんだ。 お前等のお陰なんだよ。

 …柳生、大丈夫か?」





「わ、私は大丈夫です。 自分で治癒出来ます。 それよりも、他の皆さんを。」





弱弱しくそう言う柳生。 だが、彼は確かに大丈夫そうだった。 言葉通り、自分で治癒が出来るのだから。

しかし忍足達はそれが出来ない。 時の攻撃をもろにくらい、ここから見ても危険な状態だった。





「分かった。 本当にありがとうな。 …いってくる。」





歩き出した跡部。 先に待つは手塚の皮を被った時のオーブ。





「くくく。 こうやって対峙するのは500年ぶりだな。 だが、あの時のようにはもういかぬぞ。

 もう助けも期待できぬしな。 こいつらももうすぐ終わりだ。」





地面に倒れ伏す忍足達を嘲笑い、そう言う手塚。

だが、それに顔色1つ変えない跡部。 逆に、笑みを浮かべた。





「ふん。 余裕こいてる暇なんてねーぜ。 俺だって、あの時とは違うんだ。

 あの時は俺に力がなさすぎた。 こいつらを助けることも当然、出来なかった。 だが、今は違うぜ。」





跡部の言葉に眉間に皺を寄せる。 彼の言っている意味が分からないといった表情だった。





「力を得たのは俺も同じなんだよ。 見せてやる。

 『タイム・リクランス!』」





そう唱えた瞬間だった。 青い光が忍足達を包み込んだ。

そして次の瞬間、手塚は目を見開いた。





「なっ?!」





本人達も、驚きを隠せないでいた。 光が傷口を覆った瞬間、それがみるみるうちに治癒していくのだ。

癒しの力など、跡部は持っていない。 何故、と問う。





「時間を巻き戻してんだよ。」





さらっと言う跡部。 だが、その言葉に手塚は動揺を隠せない。

時間を巻き戻す。 それは禁じられた行為だった。 例え時のオーブとて、出来ないことは当然ある。

それは『時を渡る』こと。 即ち、過去に戻ることと未来に行くことは出来ないのだ。

だが、それを無視して跡部は彼らの傷をなかった時点にまで巻き戻している。 だが、ここで気付いた。

部分的にならば、可能だということに。 時を渡っているのは、肉体そのものではない。 傷のみだ。

だから巻き戻すことが出来たのだろう。





「出来るのが理解できねーのも無理はねーな。 こんなこと、俺だって今まで出来なかった。

 あいつのお陰だよ。 越前の心臓に刻み込まれた力。 それが俺の本来の力と合わさって可能にしたんだ。」





跡部の言葉にぎりりと歯軋りをする。

あいつめ、最後に余計なものを残していきおって!!





「お前等、もう動けるな? ここから離れろ。 このままいたら巻き込んじまうかもしれねーからな。」





「跡部君…。」





「…何だ?」





「ありがとう…。」





千石の言葉にニヤリといつもの笑みを浮かべると、彼は視線を元に戻す。

自分に出来ることは何もない。 自分はやはり無力だ。 だけど…。





「俺は必ず君を…。」





千石は1つの決意をする。 自分の命をかけて。

彼を、手塚と相打ちになどさせないと―――。



                                                  ☆



「あの時の決着をつけようぜ。 500年前のな。 今度は封印なんて結果には終わらせねえ。

 ここから消滅するか、それとも残るか。 どちらかだ!」





跡部がそう声を張り上げたのを合図に、2人は激突した。

跡部が剣を振り上げれば手塚はそれを防ぎ、逆に手塚が攻撃すれば跡部は守る。

だが、ただの切り合いなどでは到底なかった。 飛び交うのは真空の刃。 時空を切り裂くもの。

自身の周囲の空間を歪めて攻撃し、空間を歪めて防ぐ。 時の力を持つ者同士にしか出来ない戦い。

その激しさに、他の面々はただ見ていることしか出来なかった。





『ラグリッション!』





跡部の得意とする技が手塚に襲い掛かる。 それを防ぎ、彼も同じような技を繰り出す。

膠着状態が続く。 それは果てしなく続く円舞曲のよう。

だが、永遠はない。 手塚の放った攻撃は、跡部の予想と違った足元に。 不意の目くらましに、跡部の視界から手塚が消える。

しまったと思った瞬間、時空を渡って背後に回り込んだ手塚。 振り上げた剣が襲い掛かる。





「ちいっ!!」





防ぐ時間は無かった。 だが、襲ってくるはずの痛みはない。 それに手塚は舌打ちをする。

2人を遮ったのは風の盾。 ふと目線を逸らすと、千石がこちらに手を伸ばしていた。





『ブレッド・ワンド!』





次に唱えられたのははじめ。 光の槍が出現し、目にも留まらぬ速さで襲い来る。

それに便乗するかのように仲間達は一斉に攻撃を仕掛ける。

攻撃の嵐とは、まさにこのことだろう。 あまりの激しさに地面は抉れ、土埃が舞い上がる。

ピリピリとした空気が流れる。 だが、次の瞬間!





『ウィルド!!』





「!!! ヤベエ! 『ディステイション!』。」





突如手塚の声がしたかと思うと、跡部も言霊を唱える。

次の瞬間、手塚のいると思われる場の空間がゆらりと歪んだ。 そしてそこから放たれたのは、おびただしい数の刃。

全てを切り裂くそれを防ぐ手立ては、跡部以外にはない。 やられると思った瞬間、ぐにゃりと時空が歪みその刃を飲み込んだ。

仲間達を守るように、跡部は技を発動。 彼らの周囲の時空を歪めることで、そこに手塚の攻撃を全て吸収したのだ。





「はっ、はっ。」





少々息を荒くする跡部。 あの技は相当負担をかけるのだろう。 このままでは危ない。

そう思った千石は、傍にいた宍戸とはじめににそっと耳打ちした。





「全く、忌々しすぎる奴等だ。 こんな雑魚共に俺が足止めを喰らっているなど。」





不快感を露にする手塚。 その体から迸る殺気は、とてつもないもの。

ヤバイな、と跡部は感じる。 このままでは自分がやられてしまうかもしれない。

せめて手塚の動きを一瞬でもいいから止めてくれれば。 そうすれば全てを終わらせることが出来るのに。 その時だった。





「跡部君!」





千石が自分を呼んだのと同時に、再び手塚に襲い掛かる攻撃の嵐。 そして走り寄る千石と宍戸。





「俺達で手塚君の動きを止める! そしたら跡部君はとどめを!!」





そう言うが早いか、再び走り去る2人。 止める間も無かった。 だが、このままにはしておけない。

さっきの言葉からして、彼らは何かを実行しようとしている。 しかし相手はあの時のオーブなのだ。 生半可なことが通用するわけはない。

このままではマズイと、跡部も足を動かそうとした。 その時。





「ちょお待てや!」





何時の間に傍に来ていたのだろう? 忍足に腕を掴まれた。





「離せ! あのままじゃああいつらやられるぞ?!」





「…それが狙いや。」





忍足の言ったことが、一瞬理解出来なかった。 やられるのが目的だと?

ふざけるのもいい加減にしろ。





「千石が囮んなって宍戸が手塚を封印する。 せやけど、多分隙が出来るんは一瞬や。

 でもそれで十分。 その隙に跡部、自分が手塚の心臓貫くんや。 そうすれば全てが終わる。 オーブさえ破壊すればええんやから。」





「それは分かってる。 だが、何で千石なんだよ?!

 あいつは普通の人間だ! お前等みたいに不死じゃない! それが分かってて何で行かせた?!」





「…それはあいつ自身がそう望んだからや…。」





忍足の言葉に、頭が真っ白になった。 あいつ自身がそう望んだだと? わざわざ死ににいくようなものだ。

何故、何故なんだ?





「あいつは、千石は誰かを助けたいっちゅーとった。 多分、壇と亜久津のことが響いとるんやろな。

 俺らは止めたんやけどきかんかった。 役に立ちたいゆーてな。 せやから跡部、分かってくれや…。」





それに、跡部は静かに頷くしかなかった。 彼がそう望み、行動したのなら自分に止める権利はない。

だが、彼が死ぬと決まったわけではないのだ。 囮になるだけなのだから。 跡部は誓う。 絶対に、千石は死なせないと。

彼の存在は自分の中で、いつの間にかとても大きなものになっていた。 絶対に守る。 そう決心し、跡部は地を蹴った…。



                                                  ☆



「宍戸君! 行くよ!!」





「おう!!」





そう互いに声をかけ、手塚の元へと向かう。 その場から動くのを阻止するように、仲間達が攻撃をし続けている。

自分の役割は、宍戸が手塚に封印をかけれるように意識を向けさせること。 それは現在のこの状況では不可能。

周囲全体に意識の向いているこの状態では、宍戸の接近を気付かれてしまう。 それを防ぐために自分は動くのだ。





「行くよ…。」





そう小さく呟くと、千石は宍戸から離れ地を強く蹴る。 剣を振り上げ、手塚に切りかかる。

気配に気付いた手塚が振り向き、剣を振るった。 甲高い金属音が響き渡る。 ギリリと、鍔迫り合いが続く。 だが…。





「これしきでこの俺を止めれるはずがなかろう!!」





手塚が怒鳴った瞬間、灼熱の痛みが全身を駆け巡る。 目線だけ下げると、手塚の剣を持っていない手が自分の腹に当てられている。

咳と共に大量の血を吐き出す。 どうやら内蔵を破壊されたらしい。 だが、これでいい。

その瞬間、千石は声を張り上げた。





「今だ!!」





『シーアル!!』





その場に満ちた紅い光。 それに気付いた手塚は千石を投げ捨て、離れようとする。 だが執拗に襲い来る光。

飲み込まれた彼の動きが止まる。 だが…。





「くうっ…。 これしきで…これしきで俺を封じれると思うなあ!!」





拘束を解こうと、力を籠める。 少しでも持たせようと、宍戸は更に力を籠める。 手塚の力が強すぎるのだろう。

額からは汗が流れ、表情は苦しそう。 もう少しでそれが解けようとしたその時だった。





「これで、貴様も終わりだ!!」





ドスッ

手塚の体を貫いた剣。 それは的確に手塚の心臓を、時のオーブを貫いた。

震えだす体、見開かれた目。 それはまるで自分の敗北が信じられないといったものだった。





「これしき、で…。 これしきでこの…俺が…俺があ…っ!!」





最後にそう叫び、地面に崩れ落ちる手塚の体。 その瞬間、跡部は確かに見た。

手塚の表情が穏やかなものに戻っていることを。 そして彼の口が音を立てず動いた。





『ありがとう―――。』





もう動かなくなった手塚。 その表情は酷く穏やかなものだった。

先に逝ったリョーマと無事出会えることを、跡部は願った。

――― 野望は砕かれた。 勝利せしは光の者達。 道のりは決して平坦ではなかった。

戦いは幕を閉じた。 だが、曲はまだ終わらない。 ―――



                                                    ☆



「千石君!! しっかりしてください!!」





はじめの悲痛な声。 駆け寄ると、蒼白な表情の千石が静かに地面に横たわっていた。

目から涙を零す面々。 それに、悟った。





「精一! 皆!!」





その時不意にした柳の声。 見ると、青い光と共に姿を現したのは柳・滝・ジャッカル・仁王・淳の5人。

周囲を見、どうやら勝利したと気付く。 だが、地面に横たわる千石に表情が凍った。





「千石は…?」





仁王の問いに、はじめはゆっくりと首を横に振った。 それ即ち手遅れということ。

よろよろと近寄り、手を握る。 まだ、暖かかった。 まだ、生きているかのようだった。

しかし彼の心臓は既に動くことを止めていた。 涙が頬を伝う。





「何で…?」





悲しみに暮れる中、跡部がゆっくりと千石の横に膝を付いた。 そして…。





「…全員、少し離れてろ。」





跡部の言葉を理解出来ない面々。 だが、忍足は気付いた。





「まさか跡部…。」





忍足の言葉に、ようやくはじめと柳生も気付いた。 彼が何をしようとしているのか。

だが、他の全員は首を傾げる。 それに、跡部は口を開いた。





「…千石を、生き返らせる。」





それに驚きを隠せない。 人を生き返らせる。 それは不可能なはずだ。

アーティシャルとしてなら不可能ではないが、跡部の言っていうrことはそれとは違った。

完全に人として生き返らせる。 どういう意味に取れた。





「待って下さい! そんなことしたら…。」





「ああ。 分かってるぜ。 俺は確実に死ぬ…いや、消滅するだろうな。 だけどそれはお前等もだろ?

 すべてが終わったら、この舞台から完全に降りる。 それは決めてたはずだ。 違うか?」





跡部の言葉に、黙る魔導士達。 理解出来ない面々は問う。





「一体どういう…?」





「言葉の通りや。 俺達は今生きているとしても、所詮過去の人間。 時のオーブを消滅させるのを目的として生きてたにすぎないんや。

 そしてそれは果たされた。 もう、俺らがおる理由は存在せえへん。 それは跡部も同じや。 せやけど、俺らと違って跡部はアーティシャル。

 普通には死ねないんよ。 せやから跡部は、禁術である時の巻き戻しをつこて千石を生きている時間にまで遡らせようとしとるんや。

 やけど禁術は犠牲を伴う。 自分自身の命を糧とするんや。 やけど、それでいいんよ。 これで、跡部も解放されるんやからな…。」





忍足の言葉に、その場に沈黙が下りた。 それを破るように、跡部は全員に離れるように再び言う。

今度はそれを納得出来ない表情のまま聞き、距離を置く。

それを確認した跡部は、ゆっくりと千石の心臓の場所に自分の両手を重ね、置く。 そして…。





『我の永遠なる命。 それを今、そなたに与えよう。

 過去のものとなりし輝き、再びここへ。

 時よ遡れ。 その針を巻き戻せ。 この者に命という名の時間を取り戻せ!

 リバイバル・リスプヴェスティージ!!』





その場を覆いつくす光の洪水。 暖かなそれは、段々と千石の体の中に吸い込まれるように消えてゆく。

そして光が完全に消え去る。 少しして、全員が見つめる中千石はゆっくりと瞳を開いた…。





「…俺、一体…?」





呟きながら体を起こす。 そして跡部を見ると。





「ありがとう。」





と、一言言った。 その目には涙。





「よく分かってるじゃねーか。 この俺様が命を与えてやったんだ。 絶対に無駄にすんじゃねーぞ。」





そう言う跡部の体は既に少し透けてきていた。 消滅してしまうのも時間の問題だった。

立ち上がった2人。 と、その時だった。





「皆、お疲れ様。 そして、ありがとう。」





不意にした声に振り向くとそこにはオジイの姿。 驚きを隠せない面々に、はじめが説明する。





「知らなかったでしょう。 今から500年前、僕達の時を止めてくれたのは紛れも無くこの人なんです。

 オジイは世界の番人。 全てを見守る存在なんです。 そして世界を守る存在。 自分では直接手は出しませんけどね。

 僕達を導いてくれたのもこの人。 そして今度は、僕達を終わりに導いてくれるんですよね?」





その言葉に静かに頷くオジイ。 最後が、近づいていた。





「仁王君、今まで色々とありがとうございました。 これでさようならですけど、私がいないからってなまけすぎてはいけませんよ。」





「分かっちょるって。 相変わらずじゃの。」





泣き笑いの表情で仁王は言う。 柳生も泣きそうだった。

王都を抜けたばかりの仁王に声をかけたのは柳生。 共にいて、本当に彼の存在が大切になっていた。

こうなることは分かってたこと。 だけど、それでも涙が止まらない―――。





「淳君、後は頼みましたよ。 僕がいなくなったからって、やることが無くなったわけではないですから。

 これからも世界を回って、人々を助けてあげてください。」





「分かってる。 心配なんかしないで。 まだ頼りないけど、後継者として頑張ってくよ。」





光の力を見出したのははじめ。 厳しい道のりと知っていてもついて行くと決意したのは淳。

決して悲しみが少なかったわけではない。 寧ろ多かった。 だけどそれでも彼は自分についてきてくれた。

もう自分の出番ではない。 後を譲れるくらい彼が成長したを、はじめは嬉しく思った―――。





「Seek out your next…。 さあ、これでもう自分は自由や、長太郎。 俺に今までついてきてくれて、ほんまにありがとな。

 色々無理させたりしてしもうたけど、そこは堪忍な。 今度こそ幸せになりぃ。

 宍戸、もう長太郎を悲しませたりしたら絶対にあかんで。 長太郎、ほんまに自分を大切に思っとるんやからな。」





「ああ、分かってる。 もう絶対に手を離したりはしねえ。

 俺も迷惑をかけた。 悪かったな。 ありがとう…。」





「…忍足さん。 俺、貴方と出会えて本当に良かった。 あなたがいなかったら、俺はきっとここにはいなかったでしょう。

 失ったものも取り戻せて、何てお礼を言ったらいいか分かりません。 だけどこれだけは言えます。 ありがとうございました。」





涙を流しながらそう言う長太郎。 そんな彼の頭に、宍戸はポンと手を置く。

もう大丈夫だと思った。 宍戸がいれば、もう長太郎は悲しむことなどないだろう。 そして彼なら長太郎を幸せにしてくれる。

忍足も涙を零す。 綺麗に笑いながら―――。





「跡部君。 最後まで迷惑かけちゃってごめんね…。」





「んなことねーよ。 これでよかったんだ。 元々俺は全部が片付いたら消えるつもりだったからな。

 無駄に死ぬより、よっぽど有効に使えたからよかったぜ。 だけどもう次はねえ。 人間、死んだら終わりなんだ。

 もう自分の命、無駄にすんじゃねーぞ。」





「分かってるよ。 こんな無茶なこと、もう絶対にしたくないもん。

 …知ってた? 俺、君だったらパートナーにしてもいいって思ってたんだ。 まあ結局は言う機会なかったんだけどね。」





「…俺も、テメエだったらいいかもなって思ってたぜ。 あの時、封印が解けたばっかでなんも分からなかった俺に声をかけたのはお前だった。

 そこだけのことだと思ったら、一緒に行こうって言うじゃねーか。 あれ、心底嬉しかったんだぜ。」





「ホントに?! あー、おしいことしたよ。 やっぱ契約しとけばよかったあ。」





こう会話をしながらも、2人の目からは涙が零れ落ちていた。

出会いは偶然だった。 だが、その出会いが全てを変えた。 運命を変え、彼らは全てを乗り越えた。

これから千石は1人で道を歩き出す。 跡部はいない。 だが、それでも大丈夫だと。 そう思った―――。



                                                  ☆



「…もう、大丈夫なのかい?」





オジイの問いかけに、全員は頷いた。 既に消滅しかかっている跡部の傍に魔導士達は寄る。

見守る全員の目に、涙が絶えることは無かった。 長太郎なんかは未だに嗚咽を洩らしている。





「本当にありがとう。 これからのことは俺達に任せて。

 必ず、平和な世界にするから。 もう争いなんて、絶対に起こさせたりはしないから。」





幸村の力強い言葉に、安堵を覚える。 きっと、言った通りにしてくれるだろう。

頼もしい仲間もいる。 もう、心配することなどない。

オジイが言霊を唱えようと口を開きかけると、跡部がそれを遮った。 最後は、自分達で終わらせると。





『動きを止め、取り残されし歯車達。 今再び動き出せ。』





跡部の唱える言霊が、静かに空間に溶け込んでゆく。





『過ぎ去りし歳月をその身に甦らせ、我等に終焉を。

 回れ、回れよ。 時の流れ。

 流れ、流れよ。 我等の身に。

 そして我等に終焉を告げよ。

 タイム・リプリース。』





瞬間、放たれた光。 ゆっくりと消え去ってゆく4人の姿。

綺麗に微笑む彼らに、残された者達も笑みを浮かべた―――





―――別れが全ての終わりではない。 それは、全ての始まり。

永遠に続く曲の、1つが終焉を迎えただけ。

役目を終えた奏者は、静かに壇上から降りてゆく。

そして次の奏者が壇上へと昇った…。



Symphony of destiny ・ 完結









【あとがき】

遂にこの物語が完結する日がやってまいりましたっ!

執筆期間約3年。 当サイトがオープンしてからの連載でした。

ここまで書ききることが出来るなんて、最初は思ってもいませんでした。

絶対どこかでサジを投げてそうで(汗)

でも、無事に終わらせることが出来ました。

これもいつも読んでいただき、応援の暖かいお言葉を下さる皆様がいたからです!!

何度励まされ、何度喜んだから分かりません。

振り返ってみたら、100話も書いてた(汗)

自分でも本当にビックリしております。

まさかこんなに(汗)

これだけ書いたものですから、何分思いも強かったり。

本編で書ききれなかったものは番外編か、もしくは暴露部屋で語ろうかな、と。

ええ、暴露部屋。 作りますとも(何)

この物語に関して聞きたいこと、疑問などありましたらバンバンお寄せ下さい。

もう全てを曝け出して語らせて頂きます!!(うわー。)

裏話も結構ありますしね。

では、長い間お付き合い下さいまして本当にありがとうございました!!

ご感想などもバリバリお待ちしております(何)

では、また別のお話でお会いいたしましょう!!



08.3.10



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