・・・ここで今、あのことがバレるわけにはいかない。

これで俺も終わりか。 駒として、役目は果たせたのか?

いや・・・あの人は何も思わないだろうな・・・。






Symphony of destiny  第六章・10





「まさか、こんなことが・・・。」





目の前の光景に、驚愕を隠せない室町。

それもそうだろう。 彼は今、信じられないものを見ているのだから。

にこやかに笑うその顔さえも、今は恐怖の対象でしかない。 室町は今、なめきっていた佐伯が恐ろしいと、感じていた。





「ありえるんだよ、室町君。 って言っても、これは俺にしか出来ないけどね。 これが俺の特殊能力。

 どんな使い手であろうとも、人間には到底出来ない。 それに、普通のアーティシャルでもね。」





「普通の? じゃあ、あんたは普通のアーティシャルじゃないっていうのか?!」





「まあ、そういうことだよ。 ・・・少しだけ教えてあげるよ。

 俺は、王都で作られたアーティシャルじゃない。 本当ならアーティシャルとして存在できない者なんだよ。

 ・・・感じが似ているから、祐太君も俺と同じ存在になってしまっているのかい?」





「!!!」





佐伯のその言葉に、硬直する。 それは、彼の言葉があまりにも信じられなかったから。





「そっ、そんな馬鹿なっ?! あの力を持つのはあの方だけのはず?!

 それに、あんたには分かるのか?! 祐太のことが?!」





「・・・1人だけじゃないんだよ。 他にも同じ力を持つ人はいる その人のお陰で、俺は今ここにいるんだ。

 今の君の言動だと、俺の感じたものは間違ってはいないみたいだね。

 ・・・おっと、おしゃべりがすぎたね。 君には聞きたいことがたくさんあるんだ。 逃がさないからね。」





室町の背筋に冷たい汗が流れる。 本気だ。と、思った。

彼の目は一切笑っていない。 このままだとヤバイ。 そう確信した彼は、その場からとにかく離脱しようと動いた・・・はずだった。





「ぐっ?!」





だが、足に猛烈な痛みが走り、その場に跪く。 その両足からは、血が流れていた。





「今の俺に、君のその速さは通じない。 やっと思い出したよ。 その力。

 『韋駄天』。 確かそんな名前だったよね? 前に聞いたことがあるんだ。 王都でそんな力を持つアーティシャルが作られたって。

 ・・・それが、君でしょ?」





「何で、このことを?! 首の痣は分からないように完璧に消した。 それ以外は普通の人間と変わらないはずだ!」





「分かるんだよ。 俺には。 人間とアーティシャル。 似ていても、実は微妙に気配が違うんだよ。

 まあ、普通の人間じゃあ分からない。 分かるのは、俺と同じ者だけ。 味方にしかいなかったから気付かなかったんだね。

 ・・・で、君の主は誰? こうして行動できるってことはかなりの者のはずだけど。」





「ふん。 言うわけないじゃないですか。 例え拷問されたって言いません。 当然、他のこともね。」





室町のその言葉に、佐伯はわずかにイラっとした表情を見せた。

そのほんの僅かな感情の変化による隙を、彼は見逃さなかった。 その瞬間、室町は佐伯に向かって閃光を放つ。





「?!」





ふいをつかれたため、佐伯はとっさに避けることしか出来なかった。

翼をはためかせて空中に逃れる。 そして、瞬時に辺りに目を光らせる。





(まだ気配が完全に消えたわけじゃないから、逃げられてはいない。 どこだ、どこにいる?!)





その瞬間、佐伯の喉元めがけて剣が光った・・・。



                                                 ☆



不意に吹いた強い風。 それが佐伯の起こしたものだとはすぐに分かった。

風により、祐太が一瞬たじろぐ。 その隙を、不二は見逃さなかった。





「ぐっ・・・?!」





一瞬のうちに不二は間合いを詰め、祐太の背後に回る。

祐太が反応するよりも早く、不二は彼の喉に手刀を叩き付けた。 それにより祐太の意識は飛び、体はぐったりとした。





「ごめんね、祐太。 でも、今はこうするしかないんだ。」





そう言いながら、彼の体を抱きかかえる。 久しぶりに触れる彼の体は、暖かかった。

しかし、不二は感じた。 以前とは少し違うものを。 それがなんであるのかは分からない。 しかし、長年彼と一緒にいた者として確かに感じていた。





「一体、何をされたんだい・・・祐太・・・。」





哀しみの篭った声で、そう呟く。 そして、今度佐伯はどうなっているのかと目を彼のいるはずの方角に向けた。

だが、その目に飛び込んできたのは・・・。



                                                 ☆



「うぐっ・・・!!」





呻き声を上げながらも、佐伯は翼をはためかせさらに上空に逃れる。

彼の左腕は、もはや腕と呼べないくらい損傷していた。

室町の気配を感じた時には、もう首を裂かれないようにするので精一杯だった。 とっさに避けたが、彼の剣は佐伯の腕を一瞬のうちにボロ屑のように切り裂いた。

恐ろしいほどの攻撃力だった。 もう少し避けるのが遅かったら、確実に死んでいただろう。





(損傷が激しすぎる。 早くなんとかしないといけないな。 とりあえずこの腕はもう使えない。

 だが、それよりも。 ・・・さっきのは一体なんだ? なぜ彼はまだあのスピードを出せるんだ?)





そう考えていると、ストンと地面に着地する室町の姿が見えた。 彼は、上空にいる佐伯の姿を見てニヤリと笑う。

と、その姿が再び消えた。 今度は消えるのを確認できた。 そのうえ、さっきよりも落ち着いて周りを探ることが出来る。

そんな佐伯に、室町の剣があたることはない・・・はずだった。





「なっ・・・?!」





確かに避けたと思った剣は、佐伯の背中を斜めに切り裂いた。

その痛みと衝撃のせいで、彼の背から風の翼が消えた。 一直線に地上へと落ちる体。

地面にぶつかると思った瞬間、佐伯はなんとか風を操って直撃を免れた。 地上へと降り立った途端、室町の容赦ない攻撃が降り注ぐ。

反撃する暇はない。 避けるので精一杯だった。 しかしそれでも、彼の体には少しずつ傷が増えていく。





(このままだとホントにヤバイ・・・! でも、彼は何でさっきの技を使わないんだ?

 この距離なら確実に倒せるのに。 ・・・何か、使えない理由でもあるのか?)





そう考えながら、佐伯は反撃のチャンスをうかがっていた。

どんなに傷を受けても、倒れるわけにはいかない。 倒れることは、不二を裏切ることだから。

誓ったのだ。 自分自身に。 もう2度と、彼に辛い思いはさせないと。 失う悲しみを味合わせないと。





「はあっ!!」





室町の繰り出した突きを、紙一重で交わす。 そのまま佐伯は、まだ動く右手を室町の腹に押し当てた。

その瞬間、叫ぶ。





「スラップ!!」





佐伯の手のひらから、圧縮された風が押し出された。 周りの風を一瞬のうちに集めて放つこの技。

そうとう近距離でなければ、効果はほとんど期待できない。 しかし、いざその条件がクリアできると、その破壊力はすさまじかった。





「がはっ!!」





血を吐き、その場に倒れこむ室町。 その彼の傍らに、佐伯は静かに立つ。

息を切らし、全身から血を流しながらも彼はまだその場に立っていた。





「虎次郎!!」





不二の声が聞こえた。 そっちの方を向くと、祐太を抱えた彼が走ってくる所だった。





「よかった。 周助、無事で・・・。」





不二の姿を見た瞬間、安心感が沸き一気に体の力が抜けた。

その場にへたり込む佐伯。 その彼の元に、不二は慌てて寄ってきた。





「虎次郎! この怪我! 早く手当てしないと。」





そう言う彼を一旦遮る。 そして、地面に力なく伏せる室町を見て、彼に言う。





「もう、あきらめてよ。 俺達を殺すことなんて、今の君には到底無理だ。

 だから、喋ると言ってよ。 そうすれば、君を王都にも渡さずに匿ってあげるから。」





そう言うと、室町はニヤリと笑った。





「甘・・・い・・・ですね。 アーティシャル・・・の忠誠心・・・は、あなたも知って・・・いるでしょう?

 俺はここ・・・で、終わり・・・ですよ。 あの人・・・は、失敗を・・・許さない。 ・・・最後・・・の命令を・・・今・・・実行しま・・・しょう・・・。」





室町のその言葉を聞いた瞬間、不二は佐伯を庇うように前に出る。

しかし、室町がしたことは・・・。





「なっ?!」





・・・室町は、隠し持っていた短剣で、己の喉を引き裂いたのだった。

パタリと落ちる彼の腕。 それにはもう力はなく、体も動いてはいない。 ・・・室町は、彼らの前で死んだのだった・・・。





「最後の命令って、自殺することだったの・・・?」





不二がそう呟く。 それに、佐伯は答えることが出来なかった。 既に冷たくなりかけた室町の体の傍に、呆然といる2人。

・・・風が、変わった・・・。









【あとがき】

・・・この話、ついに初の死人が出てしまいました。 最初の犠牲者は室町です。

この話は、書き始める前から死者が出てしまうことは決まっていたんですが、結果的にかなり遅くになりました。

これから先、残酷な表現が少々多くなっていくと思います。

それでも、この話の終末を見届けていただけたら幸いです。



06.11.2



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