何が起こっているというのですか・・・?
Symphony of destiny 第七章・6
「ここか。 確かに狂ってやがるな。」
そう言いながら、跡部は問題の場所に立つ。
-----『時空狂い』。 それは、時の歪みが生じそこに入った者をどこかへと飛ばしてしまうという現象。
詳しい原因は不明。 そこに入ってどこかに飛ばされた者が、再び戻って来たということはほとんどない。
「見つけたのが早くて助かったな。 もう少し遅れてたら、被害者が出てたとこだったぜ。
さて、とっとと終わらせて戻るか。」
そう言いながら、跡部は右手をすうっと上に掲げる。 その動作は優雅としかいえないくらい自然なものだった。
ゆっくりと頭上に手を掲げると、彼は親指と中指をパチンと弾いた。
・・・その瞬間、今までその場に存在していた時空狂いが揺らいだ。 ゆらゆらと不安定に揺れるそれは、だんだんと薄らいでいった。
しかし、突然中から1匹の魔物が飛び出してきた。
「ったく、今回はついてねーな。」
そう呟きながら、彼は少し距離を置く。
中から現れたのは、狼を思わせるような姿をした魔物だった。 しかし、その背には蝙蝠のような漆黒の翼をはやし、尾は蛇だった。
明らかにそこら辺にいる類のものではない。
「一体どこに繋がってやがるんだよ? 面倒臭えな。」
ぶつぶつと文句を洩らすが、その目は真剣そのものだった。 すらりと腰の剣を鞘から抜く。
相手の魔物も、ぐるると凶悪なうなり声をその喉から洩らす。 その場に、緊張が走る。
最初に動いたのは跡部だった。 先手必勝と言わんばかりに右足を踏み込む。 それに魔物も構えるが、ふいに跡部の姿が目の前から消えた。
だが次の瞬間、魔物の背から血しぶきが上がった。
「ふん、やっぱ雑魚か。」
そう言いながら、跡部はとんと地に降りる。
-----時空転移。 跡部が得意とする技の1つだ。
それを使用すれば、相手のふいをついて背後に出現したり、何百キロという距離を一瞬のうちに越えることも可能だ。
『時のエレメント』。
それが、跡部の持つエレメントだった。 時は、数少ないエレメントの中でもさらに少ない存在だった。
現に今その存在を確認されているのは、跡部だけだ。 そんなエレメントを、彼は持っていた。
ガアアアアッ!!!
背に深い傷を負いながらも、魔物は咆哮を上げる。 と、その時魔物がその背にある翼を大きく広げ飛び立った。
そして、上空から跡部に襲いかかる。 それを大きく跳躍してかわす。 しかし、魔物はすぐに向きを変え再び襲い来る。
「ちっ。」
軽く舌打ちをしたかと思った瞬間、跡部は右手に持っていた剣を魔物に向かって垂直に構える。
そしてそれをすうっと後ろに引いた途端、一気に前に突き出した。
『ラグリッション!!』
その瞬間、目に見えない衝撃派が魔物を切り刻んだ。 ただの衝撃波ではない。 それは、時の衝撃波。
剣を押し出す際、前方の空間を切り裂きそれを飛ばす。 自然の力ではないため、避けることは不可能。 そしてそれは、全身を切り刻む。
跡部でなければ出来ない技だった。
「やっぱ雑魚だったな。」
そう言いながら、跡部は既に動かなくなった魔物の体を見る。 全身を切り刻まれたそれは、かなり酷い状態になっていた。
「このままここに置いておくわけにもいかねーよな。」
そうポツリと呟くと、跡部は魔物死骸に向かって唱える。
『ホール』
そう言った瞬間、地面に黒い穴がぽっかりと開きそこに魔物の体が沈んでいく。
その姿が完全に消えると、穴は自然に消滅した。
「よし、これでいいだろう。 さて、戻るか。 『カレントムーブ』。」
そう唱えると、跡部の体はその場から消え去った-----。
☆
「ヤバイヤバイ。」
そう言いながら、忍足は足を急がせる。
「予想以上に時間かかてしもうた。 早く行かな。」
野暮用を済ませるためにここ、リルシールを離れたのが今から30分ほど前。
跡部には10分で戻って来ると言っていたのだが、それがなかなか終わらず大幅に時間がかかってしまった。
その間、リルシールは完全に無人で無防備な状態だった。
(とりあえず変な気は感じへんから大丈夫やと思うけど・・・。
せやけど、これが跡部達にばれたらとんでもないことになるっ!)
そう考えながら、全力で向かう。 しかし・・・。
「?! この感じ・・・げっ! まさか?!」
リルシールへと向かう石段の1番下。 そこまで来た時、忍足は知っている気配を感じた。
それにやばいっ!と言いながら、彼は魔法陣の中に飛び込んで行った。
☆
今から数分前。 忍足が石段を全力で駆け上がっていた、その時・・・。
「観月君!」
捜索に行っていた柳生が、いきなり戻って来た。
-----ちなみに彼ら4人はエンシェントのはずれ、リルシールへ向かう魔法陣の近くに家を構えている。
大きめだが、それほど豪華な造りではない。 安らげる場所がいいと、はじめがこだわった結果がこれだった。
ここで彼らは生活を送っている。
「おかえりなさい。 一体どうしたんですか? こんなに慌てて。 見つかったんですか?」
「それどころじゃないです! オーブはちゃんとありますか?!」
「え? どういうことですか?」
柳生のいきなりの言葉に、説明を求めるはじめ。
と、その時時空狂いを消すために外に出ていた跡部が戻って来た。
「柳生じゃねーか。 やっと戻ってきたんだな。 で、どうしたんだ? 何かあったみてーだが。」
「ええ。 とりあえず完結にいいますね。
捜索に行った先で、声を聞いたんです。 『時に気をつけろ。』というのを。
時というのは、きっとオーブのことです。 跡部君なんてことは絶対にありませんしね。
それで、不安になって急いで戻って来たんですよ。 オーブに何かあったら大変ですからね。」
「そうですか・・・。 声というのが何か引っかかりますね。 聞いたことがない声でしたよね?」
はじめのその問いに、柳生はええ。と言う。
「そうですか。 しかし、それを無視することなんて出来ませんね。
僕達にそうやって声を伝えることが出来る人なんて、そうそういません。 ・・・とりあえず様子を見に行ってみましょうか。」
はじめのその言葉に、2人は頷く。
そして、家を出ようとしたその時!
「うっ??!!」
突然はじめが呻き、頭を両手で覆うように押さえた。
「はじめ君?!」
「おいっ、どうした観月?!」
慌てて彼の体を支える2人。 床に膝をつき、苦しそうに呻きながらも彼はなんとか声を絞り出した。
「うっ・・・! 結界・・・に衝撃が。 あそこで・・・リルシールで何か・・・が起こってます・・・!!」
「「?!」」
はじめのその言葉に、2人に衝撃が走る。
リルシールに保管されているオーブには、何かあった時のためにはじめによって強い結界が張られていた。
それは、そんな簡単には破れない強力なもの。 それにはじめにまでダメージを与えるほどの衝撃を与えるなど、あってはならないこと。
「侵入者か・・・!」
跡部が呻く。
結界はリルシールの中にのみ張られている。 それに傷を与えているなど、侵入者以外には考えられない。
「ちっ。 とにかく急ぐぞ! この調子だと、忍足の野郎も危ねえ。
観月、立てるか?」
「大丈夫・・・です。 行けます。 足手まといにはなりませんから。」
そう言いながら、はじめはゆっくりと立ち上がった。 そして、今度こそ3人は家を飛び出した。
「一体何が起こってやがんだ?! こんなことなんて初めてだぞ!」
「分かりません。 でも、さっきの声の忠告が本当になってしまうとは・・・。」
柳生が言う。
そうこうしているうちに、3人は石段の下までたどり着く。 そして、上ろうとした時!
グオオオオオッ
突如ものすごい咆哮がその場に木霊した。 声は確かに人間のもの。 しかし、その声はどこか獣を思わせた。
「「「!!!」」」
咆哮が聞こえた瞬間、場の空気が突如として張り詰めたものに変わった。
恐ろしいほど緊迫した空気。 常人なら、耐えられないほどの密度の濃さ。
戦い慣れた3も、思わずごくりと息を呑んだ。 しかし、ためらっている時間はない。
3人は互いに目配せすると、一気に石段を駆け上がった-----。
【あとがき】
さあ、過去の話第二弾。 いかがでしたでしょうか?
少しずつ明らかになっていっている・・・と思います。 文才ないですからね(汗)
次からはこの物語の核心に入ります。 話の原点を、とくとご覧下さい-----。
06.12.08
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