世界を守るは9つの力。
それを守るは4人の人間。
しかしそれが崩れる時、世界は混沌に陥るだろう-----。
Symphony of destiny 第七章・5
「ありがとうございます、はじめ様。 お陰様で助かりました。」
1人の老婆が深く頭を下げ、目の前にいる1人の男に礼を述べている。
彼女の頭をゆっくりと上げながら、男は口を開く。
「頭を上げてください。 僕はそんな大したことはしてませんよ。 ただ、手助けをしただけです。」
漆黒の髪に瞳。 そして、女ともとられそうな美貌。 老婆に向かれたその顔は、穏やかに笑っていた。
・・・500年前、世界はまだ平和に満ちていた-----。
☆
聖なる地『エンシェント』。 その場所は、人々からそう呼ばれていた。
そう呼ばれる所以は、同じ地にある遺跡に世界の力の結晶と呼ばれるエレメントオーブが存在するからだった。
さらにもう1つの理由は、それを悪の手に渡らないように監視する4人の強大な力を持った者がいるからだった。
「今、戻りました。」
先ほど老婆と話していた彼の名は『観月はじめ』。 オーブを守護する者の1人で、他の者をまとめる存在だ。
頭の回転が早く、人々に知恵を与える仕事をよくしている。 各地の長達も、彼の意見を仰ぎにわざわざこの地へ赴くほどだ。
「おかえりなさい。」
そう返す、茶髪で眼鏡をかけた男。 彼の名は『柳生比呂士』。
かつて、考古学者として名を馳せていた者。 性格は穏やかで、物事を常に客観的に見ることに長けていた。
治癒能力を持っているため、現在はこの地の医者として人々を救っている。
「おかえり〜。 今日はまたえらい時間かかったなあ。」
少し訛りのある言葉で話す、黒い髪に丸眼鏡をかけた男。 彼の名は『忍足侑士』。
様々な魔術に長けているため、この地の人々の守護を担当している。 その他にも、時間がある時は魔術指導をしていたりもする。
「遅かったな。 今回は何あったんだよ?」
そして最後の1人。 色素の薄い茶色の髪に青い瞳を持つ彼の名は『跡部景吾』。
オーブ管理の最高責任者だ。 彼がいるおかげで、他の3人はこの場所を離れることが出来るのだ。
「ええ。 隣の都の長の側近の方が先ほど来ていたんですが、行方不明者が出たらしいんです。
それが一般の方だったらゆっくり探せばいいのですが、今回いなくなったのは長の護衛団の団長。
土のエレメントを持ち、山を揺るがすほどの力があるともっぱらの噂の男です。 そんな強力な力を持つ者が突然いなくなることがどれほど危険なことか。
側近の方はその男の捜索に関する知恵を聞きに来たんですよ。 だから長くなったんです。」
「そうやったんか。 せやけど、マジで危険やな。 ・・・このこと跡部はどう思う?」
忍足はそう跡部に話を振る。 跡部は、顎に手を当てて少しの間考えていたが、考えがまとまったのか口を開いた。
「今はまだなんとも言えねえ。 だが、何か嫌な予感がするぜ。」
「嫌な予感ですか。 跡部君の勘は結構当たりますからね。
・・・観月君、この件私が動いてもいいですか?」
「何でまた?」
「隣の地のことについて、私達が直接関わるのは確かに思わしくありません。
しかし、今回のこのことはおかしいです。 普通ならありえない。 だってそうでしょう?
反逆を起こすためなら、何故彼だけが消えたんです? 他にも何人かいなくなってもおかしくはない。
しかし現実には、いなくなったのは1人だけ。 何かあったと考えるのが普通でしょう。
とりこし苦労ならそれでいいんです。 しかし、何かあってからでは遅いと思います。 いいですか?」
「そうですね。 確かにこのことは変だと思います。
でもいいんですか? 柳生君にだけ任せてしまって。」
はじめがそう言うと、柳生はいいです。と笑みを浮かべた。
「いいんですよ。 それに、ここからそう何人も離れるわけにはいかないでしょう?」
柳生のその言葉に、他の3人は確かにと返す。
通常、何もなければここの守護は1人でも十分だ。 しかし、何かあった時。 例えばエレメントを持つ盗賊の侵入などがあった場合は何人かいたほうがいい。
その考えに行き着いたため、3人は柳生を1人で行かせることにした。
「では、少し行って来ますね。 出来る限り連絡はしますので。」
「ああ、くれぐれもやられるなよ。」
「分かってますよ。」
そう言って、柳生はその場から消えた。 あとに残された3人は、それぞれまた仕事へと戻っていった。
しかし、この時一体誰が予想していようか。 跡部の予感が的中してしまうことなど・・・。
☆
「・・・おかしい。 これだけ調べているのに、気配が微塵も感じられない。」
とある森の中にある泉の傍に座り、柳生はそう呟く。
彼がエンシェントを出てから、既に5日が経とうとしていた。 その間、彼はさまざまな所を探し回っていた。
しかし、気配を感じることも姿を見たという情報なども得られずにいた。
「ここまで完璧に気配を消していけるなんて・・・。 彼にそんなことは出来ないはずなのに。」
そう呟く。 と、その時。
『時に気をつけなさい-----。』
ふいに聞こえた声。 それに、瞬時に辺りを見回す柳生。 しかし、誰もいない。
「今のは・・・一体・・・?」
その問いかけに、答える者はいない。
柳生はその場に佇んで、今聞いた声について考える。
(時に気をつけろ? 一体どういうことだ?
時・・・時・・・。 ・・・まさか?! あれのことか?!)
1つの考えに至った柳生。 しかし、ありえないと思ったことを振り払うように首を振る。
(しかし、そんなことがありえるわけが・・・。
・・・とりあえず1度戻ってみるしかなさそうですね。)
そう思うと、柳生はその場から歩き出した。 そして。
『ノールロード。』
そう唱えた瞬間、彼の体が掻き消すように消えた。
・・・誰もいなくなった泉のほとりに、1人の人物がいつの間にか静かに佇んでいた-----。
☆
「柳生の奴、遅いなあ。」
そう言うのは忍足。 彼は今、石段を1人上っていた。
「ほんまに珍しいなあ。 あいつがこんな仕事遅いなんて。 何かあったんやろか?
・・・まあええわ。 助けが欲しかったら、すぐに連絡よこす言うてたもんな。」
そう言いながら、忍足は階段を上る。 そして、上がりきった先に広がっていたのは、直径50メートル以上はありそうな広い空間。
足元には灰色の石が並べられて、綺麗に整えられていた。 しかし、そこにあるのはただそれだけ。 それ以外は何もない寂しい空間。
しかし、その広場の真ん中辺りまで歩いていき、忍足は足を止めた。 そして。
『発動。』
そう言った瞬間、彼の足元を中心に青白い光が辺りを包み込んだ。 床には、魔法陣。
それが光だすと、ふいにどこからともなく声が聞こえてきた。
『声紋を確認。 ・・・クリア。 エレメントを確認。 ・・・クリア。
闇を操る者と確認完了。 通行を許可する。』
無表情な声がそう告げると、魔法陣は一際強く光った。 そして、不意に消えた時には、そこに忍足の姿はなかった・・・。
☆
「どうした?」
跡部がそう声をかける。 その先には忍足の姿。
-----先ほど忍足が乗っていた魔法陣。 あれは、この地に繋がっているのだった。
この、人間達の住む世界から隔離された地『リルシール』に。
隔離されたといってもまったくの別世界というわけではない。 空もここから見える街も、全ていつもと同じだ。
リルシールには、彼ら4人の守るオーブがあった。 何故このような所にあるのかというと、それは他の人間達の手に渡らないようにするためだ。
この地は『時のオーブ』の力を使い、次元を別にしているのだ。 といっても、それはそれほど強力ではない。
時のオーブが不安定になれば、すぐに元に戻ってしまうほどの不完全なもの。
しかし、何のエレメントも持たない者にとっては、手の出しようがない絶対的なものだった。
そして、ここと向こうを繋いでいるのが、先ほどの魔法陣だった。 あれを使えば、ここに来ることが出来る。
しかし、4人で考案したあれを使ってここに来るためには、チェックをパスしなければならない。 それをパスするのは、認識させている4人以外は不可能なようにしてある。
つまり、ここに侵入するなど不可能なのだ-----。
「ちょいと仕事や。 街の隣の森で時空狂いが確認されたんや。 ちょいと行ってきてくれんか?」
「ああ分かった。 じゃあここは頼むぞ。」
「それが、俺も野暮用が入っててな。 今すぐに行かへんといかんのや。
せやけど10分もあれば戻ってこれるさかい。 少しはずしてもええか?」
「あんまよくねえんだけどな。 ・・・まあそれくらいならいいだろう。
観月もいいって言ってたんだろ?」
「ああ。」
「じゃあいいだろ。 すぐに戻ってこいよ。」
「分かっとる。 分かっとる。」
そう話しながら、2人は先ほど忍足が抜けて来た魔法陣に乗った。
青白い光は2人を一瞬のうちに、元の場所へと連れて行く。
「じゃあ、頼んだで。」
「ああ。」
そう声を交わし、2人は別れた。
・・・今はまだ、誰も知らない。 全てが仕組まれているということなど・・・。
【あとがき】
今回から遂に過去の話に入りました!! ここでやっと、今までちょっとずつしか出てこなかった過去の話が全部繋がります!
本当は3箇所で話されているんですけど、それを完全無視してこういう形になりました。 語りよりもこの方が何かと書きやすいんで(汗)
とりあえずここからの話は、ホントに過去についてなんであまり細かい所は気にせずにお読み下さい。
跡部もいきなり出てますが、はじめ達も語っているのでここもあまり気にせずに。 榊のことも完全無視でお願いします。
06.12.03
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