お前の好き勝手になぞにさせるか!

俺達をなめるんじゃねえ!!






Symphony of destiny  第七章・7





『・・・通行を許可する。』





魔法陣の機能は何の問題もなく作動していた。

だがしかし、リルシール。 魔法陣を通って行った先に広がっていたのは・・・ありえない光景だった・・・。





「忍足!!」





跡部が叫ぶ。 目の前にいたのは、傷だらけの忍足と見知らぬ1人の男。

しかしその顔には、はじめと観月は見覚えがあった。





「あなたは・・・?!」





そこにいたのは、柳生が今まで探していた護衛団の団長だったのだ。 しかし、何か様子がおかしい。

目は虚ろで何も映していない。 しかし、軽く構えた体からは恐ろしいほどの殺気がほとばしっていた。

そして、口からは時折グルルと獣にも似たうなり声が漏れる。





「一体何が・・・?」





はじめが呟く。 だが、それに誰かが答える間もなく男が恐ろしい速さで襲い掛かってきた。





「「!!」」





咄嗟によける4人。 目標を失った男の拳は、地面を殴りつける。

すさまじい轟音と共に砕ける石。 そして、そこには大きな穴がぽっかりと空いた。





「どんな力してんだよっ・・・!」





冷や汗を流しながら、跡部が呻く。 恐ろしいほどの怪力だった。





「忍足君、一体何があったんですか?」





はじめが男の動きに警戒しながらも、忍足にそう問う。





「分からん。 野暮用済ませて戻ってきた時には、すでにここにいいたんや。

 どうやって侵入したかも不明や。」





そう言う忍足。 だが、彼がそう言い終わった途端、今まで一言も言葉を発しなかった男がふいに大声で笑い出した。





『はーっはっはっ!!! 全く、お前達は愚かだよ。』





男の喉から出ているには、少々不自然な声。 しかしそれに疑問を持つような余裕は、今の4人にはなかった。





「何だと?!」





『まったくその通りじゃないか。 お前達は、今まで俺の存在にまったく気付かなかったんだからな。

 それに、俺の正体も分かってなんかいないんだろ?』





「正体ですって?」





『ああ、そうだよ。 疑問に思わなかったか? こいつがここにいるってことに。

 ここの入口には、お前等が作ったセキュリティシステムがある。 それを難なく通過してきたってことに。』





男のその言葉に、4人は黙る。 確かにそうだ。

どうやって侵入してきたのか。 それを、4人は分からずにいた。





『ほらな。 やっぱし分かってなんかいねーじゃねーか。

 ・・・まあいい。 教えてやるよ。 ついでに俺の正体もな。 どうせお前等はここで死ぬんだからな。』





男がそう言った瞬間、1つの強烈な光が現れた。 それは・・・。





「!! ・・・時の・・・オーブだと?!」





跡部が叫ぶ。 そう、今まさに光と共に現れたのは、この場に保管されていたオーブのうちの1つ、『時』の属性を持つオーブだったのだ。

それを男は右手の平の上に、手に触れさせることなく持つ。





『どうよ? 分かったか? 俺の正体。』





ニヤリと、不適な笑みを浮かべる男。 その光景に、はじめが怒鳴る。





「ありえない! オーブが自分の意思で行動するなんて!!」





『ありえないことじゃねーんだよ。 現に、俺は今こうして俺の意思でここにいる。

 オーブに意思がないなんて、お前等の勝手な思い込みだ。 全てのオーブには、何らかの意思がある。

 だがな、そう思うのも無理ないわな。 完璧な意思を持つのは俺だけだ。 他の奴等は、あっても主張なんてしねーからな。』





「だったら何故、お前は今それを明らかにした?」





『そんなの簡単だ。 飽きたんだよ。 じっとしてるのに。

 俺は自由が欲しい。 自由になって、この平和で退屈すぎる世界をぶっ潰してやるんだ。

 それを実現するにはここから出る必要がある。 だが、お前等の結界のせいで俺は自力じゃあここを出られねえ。

 だからこいつを呼んだんだ。 ある程度力を持っていて、俺の命令通りに動くこいつをな。

 入口を通過する時は、こいつのエレメントを『時』と認識するようにわざとしたんだよ。 それで難無く通過してきたってわけだ。』





キヒヒ。と、男は・・・いや、男に取り付いた時のオーブは笑う。

それを見ながら、跡部はまずいな・・・と思っていた。





(マジでヤバイな、この状況。 時の力は、正直俺でも分からねえ。

 どうするか・・・。)





そう思案していた時、再び男が口を開いた。





『さて、と。 いつまでもここで時間を潰してるわけにゃあいかねーな。 俺にはやることがたくさんあるんだ。

 ・・・とりあえずここ、出るか。』





そう言ったと思った途端、男は右手をバッと地面に押し当てて唱えた。





『アースデスレイション!!』





その瞬間、手を押し当てた所を中心に地面が一斉にひび割れた。 さらにそれだけでは収まらず、ビキビキとその範囲は広がっていく。

瞬く間に、直径50メートルはあろうかという広場全体に、ひび割れは及んだ。 そして、フンッと男が力むと石は全て砕け散った。





「いけない! 結界がっ!!」





はじめが叫ぶ。 しかし、止めることなど出来ない。

ふいに、リルシール周辺の景色が歪んだ。 そして・・・。





パリンッ





という音を立てて、見えない何かが砕け散った。





「「しまったっ!!」」





4人が叫ぶ。 それは、リルシール全体に張っていた結界が破られた音だった。

強大な力を持つ時のオーブの1部を使い、次元を隔絶していたリルシール。 その力をコントロールしていたのが、石畳全体に刻まれていた結界だった。

それは、リルシールの入口に刻まれていたのとは違うもの。

内部の結界には、2種類の効果を持たせていた。 1つは、リルシールの隔離。 もう1つは、オーブの力の抑制だった。

この結界の中にあれば、オーブが暴走することはない。 それは時も例外だった。

しかし今、その結界が破られた。 オーブの力が・・・解放されてしまった・・・。





『はーっはははははっ!!! これで俺は自由だ!!

 あとはお前等を殺せば、俺の邪魔をする奴はいなくなる。 死んでもらうぜっ!!』





男がそう高らかに叫んだ。



                                                     ☆



「くっ・・・。」





リルシールは、もはや隔離された地ではなかった。 今まで何も無かった場所に、急に出現したその場所。

9つの光る何かと5人の人間。 それらが出現したのは、エンシェントの住人にも見えた。





「なっ、何だあれは?!」





急に出現したもののせいで、街はパニックになりかけていた。





「一体何が起こっているというのだ?! とにかく、何か対策を・・・!」





エンシェントの長も、事の次第が分からぬまま何かやらねばという思いばかりが募っていた。

こんな状態で、何かまともな判断が下せるわけがない。 しかし、部下達もパニック状態だった。





『長、落ち着きなさい。 まずは街の人達の避難を。

 あんたがパニックになったら、ここは全滅するよ。』





ふいにどこからか聞こえた声。 それが誰なのか確認するという考えは、今の長の頭には思いつかなかった。

何にも疑問に思わず、長は命を下した。 住人達を、この街から非難させろと。

すぐに動く人々。 完全なパニックに陥る前だったため、避難はなんとか円滑に進みそうだった。





「・・・とりあえずここはこれでいいかな。

 あとはあそこだけど・・・。 わしが手を出すことじゃない。 これは、あの子達が乗り越えなくてはいけないことだから・・・。」





少し遠くから、事の成り行きを見守っている1人の人物。

少し曲がる腰の後ろに手を回し、立っている。 その顔は、日の加減で見ることは出来ない。





「あの子達なら、きっと最善のことをするだろう。 ・・・それが、どんなに辛く苦しいことでも・・・。」





ポツリとそう呟くその声には、悲しみが含まれているようだった・・・。









【あとがき】

予想以上に長くなっちまったよ(汗)

当初の予定だと、3話くらいで過去のことは終了するはずだったんです。 それがいつの間にかこんなことに。

書いてたらだんだん細かくなってしまって(汗)

もうちょっと完結にまとめたかったなあ・・・。



06.12.20



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