迷子の眠り竜 後編
「丁度よかった。 仁王、すごくいいタイミングだよ。 ドラゴン族の長がずっと彼を探していてね。
俺もこれから皆に頼もうと思っていた所なんだ。 でも、見つかったんならそんなことをする必要はもうない。
悪いけど、なるべく早くアンバーグリスに連れてってやってくれ。 赤也と一緒でいいから。 あっそうそう。
彼の名前は『芥川滋郎』っていうから。 じゃあ、頼んだよ。」
☆
「・・・なーにが頼んだよ、じゃ。 こっちは休みたかったっちゅーのに。」
日が完全に昇りきった頃に、ようやく戻ってきた幸村。 彼にすぐ聞いた所、そんな答えが返ってきた。
一応彼が店長なのでとかそんな理由ではなく、逆らうとあとが怖いからという理由で分かったと返事をしてしまった仁王。
そしてそれに巻き込まれてしまった赤也。 彼等2人は今、アンバーグリスに向かっている所だった。
2人共昼間でも行動できるのだが、夜のほうが何かと楽ということで、彼等は日が完全に沈んでから店を出た。
「ごめんね? 俺のせいだよね?」
仁王の背中からする声。 そこには、あの金髪の少年がいた。
なぜ背中なのか。 それは仁王が今、自分の真の姿に戻っているからであった。
彼の正体は銀の毛を持つ狼。 体調は4メートルほどと、一般的な狼とは明らかに違う。
いつもは人間の姿なのだが、自分の意思で変えれるため、状況によってはこうして変えるのだ。
「そんなことないっすよ。 これは仁王さんの口癖のようなもんすよ。」
ジローをその背に乗せ走る横を、漆黒の翼をその背にはやした赤也がすべるように飛ぶ。
人間と悪魔のハーフである彼は、翼と鋭い爪のみを持つ。 それ以外は人間と同じだ。
純潔の悪魔なら、外見は人とかなり違う。 実際、赤也の話だと彼の父親の姿は人間とはかなり違うらしい。
まあ、会ったことがないからなんともいえないのだが。
とにかく3人は今、ドラゴン達の住むアンバーグリスに向かっていた。
「ところで、お前さんらの集落は山のどの辺にあるんじゃ?」
走りながら、仁王は問う。 ちなみに、その走る早さはとんでもなく早い。
「どこって言われても。 う〜ん。 ・・・かなりおく!」
「なんちゅーアバウトな答えじゃ。 もちっと詳しく言ってくれ。
俺にはお前さんらと違って羽根ないんじゃから。 道が分からんことには困るんじゃ。」
「大丈夫ですって! 俺がいればちょっと上から見てきて上げますよ。」
「はあ〜、羽根あるって便利じゃな。」
そう、ふうと息をはく。
そうこうしているうちに、周りの景色はどんどん変化していっていた。
今まで、周りは木ばかりだった。 しかしそれがだんだん減り、生えていた草も短くなっていった。
そして気温も下がってきていた。
アンバーグリスは雪に1年中に覆われた、イグニスの中でも1.2を争う険しい山脈だ。 その雪の量は、スピリローズを遥かに凌ぐ。
常に強い風が吹き荒れ、並みの妖では奥に進むことは叶わない。 そのため、ドラゴン族はその血筋を保ってきたといえる。
「あっ! 見えてきたよ。 あれが俺達の住むアンバーグリス!」
ジローがそう嬉しそうに言う。 まだかなり先だが、山脈はその姿を現しつつあった。
「なかなかすごいとこっすね〜。」
「ああそうじゃな。 んにしても遠いなあ。」
「まだかなり先っすもんね。 ジローさん達はよくこんなトコに住んでますね。」
「まあ君達からはそう見えるかもしれないけど、結構いい所なんだよ。
皆もいて楽しいし!」
そう楽しそうに言う彼に、赤也が疑問を言う。
「そういえばずっと気になってたんすけど、何でジローさんはレイニックシティにいたんすか?
こんな遠くからわざわざ向こういったんでしょ?」
「ああそれは-----。」
「見つけたぜ!!」
ジローが赤也の質問に答えようとした時、そういう声を共に鋭い氷のつぶてが2人めがけて飛んできた。
それを咄嗟に交わす2人。 足を止めて前を見ると、そこには10人ほどの男達がいた。
「お前等、確かどっかで・・・。」
仁王のその言葉に、1人の男が大声で言う。
「忘れたとは言わせねーぜ! この前はよくもボコしてくれたな!」
男のその言葉に、仁王はあっと声を上げる。
そこにいた内の約半分は、仁王がジローを見つけた時にボコボコにした者達だった。
「ああ、お前等あん時の雑魚か。 ここまで追いかけてくるなんて、しつこい奴等じゃなあ。」
「うるせえ!! 俺達はこの前とは違うぞ! 簡単にやられるもんか!
今日は強い方達に来てもらったんだ!」
そう怒鳴り、男達はさっと横に避ける。 彼等の後ろには、また別の男が5人ほどいた。
しかし前の男達と違い、雰囲気が冷たい。 それはさながら氷のよう。
それに彼等の正体に感づいた仁王は、ジローに背から降りるように言う。
「仁王さん、あいつ等って・・・。」
「ああ、赤也も気付いたか。 あいつらは氷の妖精じゃ。 じゃけど純潔じゃなか。
別の血が混ざっとる。 妖精の混血はいかん。 残虐な性格になり、殺しを楽しむ。
あいつ等は危険じゃ。 赤也、お前は芥川を守ってろ。 あいつを危険に晒すわけにはいかん。」
「分かったっす。 危なくなったら加勢しますからね。」
そう言葉を交わし、赤也はジローの傍に寄り添った。
それを見ると、仁王はすうっとその身を起こす。 するとそれに合わせて、彼の体は人間の姿に戻っていった。
しかし耳や爪といったものはそのままだった。 半狼の姿になると、仁王は指をパキパキと鳴らす。
「ここまで追ってきた執念は認めてやる。 じゃけどここまでじゃ。
生憎ストーかは大嫌いでな。 お前さんらにはここで消えてもらう。」
「いつまでその強気な態度が取れるかな? お願いします! やっちまて下さい!」
1人の男が言うと、妖精達は仁王に向かって一斉に飛びかかった。
襲い来る氷のつぶてを、抜群の反射神経で避けながら1人の男の懐に飛び込む。
そして、なんの躊躇いもなく左手の爪で腹部を切り裂く。 噴出す血。
それには目もくれず、再び跳躍する。 次の瞬間には、2人目の前まで迫る。
しかし背後から殺気を感じ、咄嗟に身を翻す。 その瞬間、彼の背後から強烈な冷気。
「くっそ。 やりづらい相手じゃな。」
そう毒づくが、敵は待っていてはくれない。 鋭い氷のつぶてと強烈な冷気。
それに仁王は苦戦を強いられていた。
(・・・なんかめんどくなってきた。 『あれ』使ってやろうか?)
そう仁王が考え出したその時!
「避けて!」
突然したジローの声。 それに瞬時に反応し、その場から跳躍する。
その瞬間、飛んできた土の塊。
驚いて後ろを振り返ると、そこには地面に右手をつけてかがんでいるジローと、驚いて口をポカンと開けている赤也の姿があった。
「俺が無力だなんて思わないでよ。 俺だってドラゴンの1人。 戦う力くらいあるって。」
ニカッと人懐こい笑みを浮かべてジローは言った。 それに仁王も軽く笑い返すと、再び前を向いた。
妖精達は、ジローの攻撃によって全員結構な傷を負っていた。
「・・・あんま時間かけるのも嫌じゃから、即行でやらせてもらうぜよ。」
そう言うと、仁王は目をスッと細めた。 そして、だらりと下げた両手に意識を集中させる。
すると、その爪の周りはバチバチと電気を帯び始めた。 青白く光る爪。
その光に照らされる仁王の顔は、軽く笑みを浮かべているせいで余計凄みのかかったものになっていた。
「おー、久しぶりみ見るなあ。」
赤也がそう言った瞬間、仁王の体はその場から消え去った。 否、消えたのではなく高速で移動したのだ。
ノクターンのメンバーは総じて身体能力がずば抜けて高い。 しかしその中でも、仁王は別格だった。
その早さを見極められる者は少ない。 それほどの早さで、彼は間を詰めた。
「終わりじゃ。」
その言葉と共に、彼は両手を薙ぎ払う。 その瞬間、バチィッという音と強い光がその場に満ちた。
強烈な攻撃になす術も無く吹き飛ばされる妖精達。 倒れる彼等に他の男達を恐れをなしたのか、その場から逃走しようとする。
だがその時・・・。
「ダメやないか。 仲間捨てて逃げるやなんて。」
突如上空からした声。 その正体を見る前に、男達は空から振ってきた灼熱の炎によって焼き尽くされた。
「「??!!」」
突然のその攻撃に構える仁王と赤也。 しかしそれはジローの明るい声によって解かれた。
「あ! 忍足!」
3人の前に降り立ったのは、真紅の体と蒼の体をした2頭のドラゴンだった。
地面に降り立つと、2頭の姿は人間になった。
「あっ、忍足! じゃないわ! 一体今までどこに行ってたんや?!
めっちゃ心配してたんやで!!」
真紅のドラゴンだった、丸眼鏡をかけた男がいきなりそうジローに言う。
それにごめんごめんと謝る。 ジロー。
彼等2人を放っておいて、蒼いドラゴンだった男は仁王と赤也に向かって口を開いた。
「ジローさんをここまで連れてきていただいてありがとうございます。
俺達はドラゴン族の者です。 長の命で、ずっと彼を探していました。 それでお礼ついでにあなた達を長に合わせたいんです。
俺達の里はすぐそこなんですが、一緒に来てくれませんか?
あっと、自己紹介がまだでしたね。 俺は日吉。 あっちは忍足さんです。」
日吉のその誘いを快く受けることにした2人。
了承するとでは早速と言って、日吉は未だに説教し続けている忍足に行きますよと言う。
再びドラゴンの姿に戻った彼等の背に乗せてもらい、仁王達は一路彼等の里に向かった。
☆
「ジローをわざわざ連れてきてくれてありがとな。 そしてよく来てくれた。
俺がドラゴン族の長の跡部景吾だ。」
里に着いた彼等は、早速長のいる部屋に通された。 長だと名乗ったのは、色素の薄い茶の髪と蒼い目をした男だった。
その雰囲気はノクターンのオーナーである幸村とどこか似ていて、何か普通とは違った感じをかもし出していた。
「ええよ。 あいつを見つけたんは俺じゃからな。
で、教えてくれんか? 何であいつはレイニックシティなんかに居たんじゃ?」
「ああ。 それなんだが、あいつに聞いたらふらふらと飛んでて、気付いたらあそこにいたんだと。
それで眠くなっちまって、降り立って人間の姿になってた所を雑魚どもに見つかったらしい。
ジローは1度寝ると数時間が起きねーからな。 仁王、お前が見つけてくれて本当によかった。」
跡部のその説明に2人は内心思った。
((ふらふら飛んでて何十キロも移動するなんて、すごいなあ・・・。))
その後、2人はしばらく里にいた。
里の中を見て回っていると、日吉達以外のドラゴン達とも顔見知りになることが出来た。
そして聞いて知った話なのだが、この里は長である跡部が建てたものらしい。
その時から彼はずっと長として纏めてきていたという、とんでもない話を聞いた。
「跡部さんも幸村さんと一緒で、かなり謎が多そうっすよね〜。」
赤也はそれを聞いてそう感想を洩らした。
・・・それから少しして、彼等2人は店へと戻ることにした。
里の入口まで来ると、ふいに自分達を呼ぶ声。 振り返るとそこにはジローと忍足が向かってきていた。
「どうしたんじゃ?」
「ああ、跡部に言われてな。 せめてもの礼に俺が自分等を送ってってやるさかい。
ジロー、あれ渡さな。」
忍足にそう促されると、ジローは2人に1通の手紙を差し出した。
「これ、何すか?」
「さあ? 俺もよく知らない。 だけど跡部が『幸村に渡してくれ。』だってさ。
だからはい。 持ってって。」
そう言うジローから手紙を受け取る。 それを渡しとくと言ってしまう。
「じゃあ、行くか。」
そう言うと、忍足の姿は真紅のドラゴンへと変貌する。 その背に飛び乗ると、ジローが下から手を振りながら言った。
「また遊びに来てね!!」
その屈託のない笑顔にこっちも返す。
そして、行くで。と、声がかけると、忍足は背の巨大な2枚の翼を羽ばたかせる。
空に舞い上がった真紅のドラゴンに乗る2人に向かって、ジローはその姿が見えなくなるまで手を振り続けていた・・・。
☆
「おかえり。」
そう幸村は、数日ぶりに戻ってきた2人に向かって言う。
彼等が戻ってきたのは今から30分ほど前。 ドラゴンの気配を感じて少し経ってからだった。
忍足に送ってもらったためかそれほど疲労はしていないようだったが、今日くらいはきちんと休んだほうがいいと言い、2人を部屋に返した。
その時、仁王から渡された跡部からの手紙。 それを今、幸村は読んでいた。
「・・・状況はあまりよくはないか・・・。」
そう呟き、彼は手紙を机の上に置く。
中に書かれていたのは、あまりよくない内容だった。 文面を思い出し、幸村は溜め息をつく。
「あんな場所にまで混血の妖が現れるなんて・・・一体どうなっているんだ?
しかも妖精・・・。 何がここまでの事態を引き起こしているんだ・・・?」
苦悩する幸村。 と、彼はいきなり顔を上げた。
見るのは外。 巨大な窓から見えるのは、レイニックシティの風景。 それと、空。
今日の空には、大きな月がぽっかりと浮かんでいた。 しかしその光は・・・禍々しい赤・・・。
「・・・また、何かが起ころうというのか・・・?」
月を凝視しながら、彼はそう呟いた。
街はまだ、平穏を保っていた-----。
【あとがき】
やっと跡部登場♪ でもかなり少なくて心残りありまくりです。
また登場してもらう予定ですけどね。
ジローちゃん達もかなりお気に入りなんで、また出てくると思います♪
07.01.13
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