迷子の眠り竜  前編





「疲れた疲れた。 あー、早く帰って寝るかあ。」





そう言いながら夜の街の中を舞う、1つの人影。 月の光に照らされ、一層美しく輝く銀の髪。

無造作に結ばれた髪がたなびく。 夜の街を舞うように移動するのは、仁王。

丁度仕事が終わって、店兼家へと帰る途中だった。





「んにしても今日は月が綺麗じゃな。 こんな日はきっといいことがある。」





そう言いながら、彼は隣のビルの屋上へと一息に跳躍する。

ワーウルフである彼は翼を持たない。 しかしその代わりに、跳躍力はとても高かった。

いつもの癖で、音もなく着地する。 そして、また次のビルへと飛び移ろうとしたその時。





「ん? 何じゃ?」





店の中で誰よりもいい耳が、かすかな音を捉えた。 それは、何かが争うような音。

しかし、彼が気になったのはそんなことではなかった。





「この気配・・・人じゃなか。 ・・・今日は気分がええから、ちょいと様子見に行くとするか。」





そう呟き、向かう方向を変える。 そして、地上50階はあろうかというビルの上から、躊躇いもなしに飛び降りた。

落下しながら壁を蹴り、先へと進んで行く。 そしてある寂れたビルの辺りで、ピタッと足を止めた。





「ここか・・・。」





身を物陰に潜め、軽く目を閉じる。 彼の敏感な聴覚は、些細な音からも相手の行動を全て知ることが出来る。

それがたとえ、どんな大人数でも。





(・・・4人、5人・・・。 動いとんのは全部で6人か。 ・・・実際いるのは7人じゃな。 襲われとんのは1人じゃけか。

 ・・・この気配、どこかで知っとるはずなんじゃが・・・思いだせん。 まあいいか。 とりあえず助けるか。)





そう考えた仁王は、気配を完全に絶って物陰から出てきた。 相手は、誰か1人を囲んでいるようだった。

今仁王に見える者達は全員、手に鋭い爪を持っている。 しかし、人間と違う所はそこだけだ。





(こいつら混血か。 まあ、今時純潔の妖のほうが珍しいからしゃーないか。

 ボコされとんのはどんな奴なんかなー。)





そう思いながらも、仁王は口を開いた。





「何やっとんの?」





急に聞こえた声に、ビクリとして振り向く。 しかしそこにいた男は、どう見てもただの人間だ。

それに安心したのか、彼等は強気な態度を取る。





「何だテメエ? ここは俺等の縄張りなんだよ。 何やろうが自由じゃねーか。

 まあいい。 俺達に会ったからには無事には帰してやんねーぜ。」





ニヤニヤと下品な笑いをその顔に浮かべる。 それにあからさまに嫌そうな顔をする仁王。

それが頭にきたのか、2人の男が飛び掛ってきた。





「鈍いなあ〜。」





そう呟きながら、仁王はひょいひょいと男達を交わす。

そして目にも留まらぬ早さで、仁王の拳が2人の鳩尾にクリーンヒットした。

一撃で昏倒する2人。 それに多少怯えた他の男達は、仁王に向かって怒鳴る。





「テメエ一体何者だ?!」





「ん? お前さん達に教えるなんて嫌じゃけど、これ以上弱いものイジメせえへんように教えたるわ。

 各の違いってやつをな。」





寂れたビルの一角から、悲鳴が聞こえた・・・。



                                         ☆



「・・・で、これは一体誰なんすか?」





ここは店のリビング。 そこのソファに、ふわふわの金髪をした1人の男がすやすやと寝ていた。

話は遡ること1時間前。 男達をあっという間に蹴散らした仁王は、この男を見つけたのだった。

しかし、ボコボコにされているかと思ったのに何故か彼には傷1つない。 そしてさらに不思議なことに、彼はそこで眠っていたのだった。

助けてしまたため、そのままその場に置いておくことも出来ず、ついつい連れて帰ってきてしまった。

そしてソファに寝かせたまではいいのだが、中々目を覚ましてくれない。

そんな状況に、今日は丁度仕事がオフだった赤也とどうしようと話していた所だった。





「違う気配があるんだが、客人か?」





そう声がして、部屋の扉が開いた。 そこには、長く黒いマントを着た真田の姿が。

ちなみに、この黒マントは彼のトレードマークだ。 どこかに行く時にはいつも来ている。 こまめに洗濯しているので、汚れはない。





「あっ、真田さん。 おかえりなさーい。

 いやね、仁王さんが変な人連れて帰ってきちゃったんですよ。」





「そんな迷惑そうに言うな。 とにかく、その連れて来たんが誰かわかんなくて困っちょるんじゃ。」





そう言う2人の元に近づいてくる真田。 そして、上から金髪の男を少しの間見つめる。 そして、ふいに言った。





「・・・ドラゴンだな。」





「「は??」」





彼のその発言に、2人は思わず間抜けな声を上げる。 それに半ばあきれながらも、真田はもう1度言う。





「だからドラゴンだと言っているだろう? こいつはアンバーグリスに住む正統なドラゴンの一族の者だ。

 見てみろ。 左手の甲にうっすらと3本の爪で引っ掻かれたような痣があるだろう?

 これは純潔なドラゴンのみに刻まれているものだ。 これがあれば、純潔なドラゴンだと断言出来る。」





「へえ〜。 真田さん、詳しいですね。」





「まあな。 一応お前達よりは長く生きてるんだ。 ドラゴンとも面識がないわけではないしな。」





「こいつの正体は分かった。 で、次の問題はこいつを一体どうするかじゃな。」





仁王がそう言いながら、相変わらず気持ちよさそうに寝る彼の顔を見つめる。





「とりあえず精一が戻ってきたら聞いてみるといい。 きっといいようにしてくれるだろう。

 さて、俺はそろそろ部屋に戻るからな。 あと少ししたら夜が明ける。」





「もうそんな時間なんですね。 じゃあ真田さん、おやすみなさーい。」





赤也がそう言って手を振る。 それにああと答えながら、真田は部屋から出て行った。





「夜しか動けないなんて大変ですよねー。」





「まあな。 じゃがしょうがないじゃろ。 それがバンパイアってもんじゃ。

 さて。 こいつはまだ当分起きそうになさそうじゃし、俺等もひと寝入りするか。」





そう言いながら大きな欠伸をする仁王。 それに赤也も同意し、2人は彼と同じリビングのソファに寝転んで目を閉じた。

するとすぐに、規則正しい寝息が聞こえてきた・・・。



                                          ☆



「だー!! 一体どこに行ったんや?!」





月明かりの眩しい夜。 レイニックシティから少し離れた小高い丘の上で、1人の男がそう叫んでいた。

彼の傍にはもう1人別の男が。 その彼はどこか冷たい目で叫ぶ男を見ていた。





「怒鳴ったって仕方ないでしょう? とにかく、気配を追って探すしか方法がないんですから。

 地道に探していくしかないじゃないですか。」





「そりゃそうなんやけど。 それにしても酷すぎると思わんか?!

 いきなり呼びつけといて探してこいやなんて! 俺にだって用事くらいあるんやっちゅうねん!!」





もう1人の男が溜め息をつく。





「俺にだって用事くらいありましたよ。 今更文句言ったってしょうがないでしょう? 長は元々あんな人なんですから。

 あれでも心配でしょうがないんですよ。 この前は自分で探しに行っていましたからね。

 まああれはさすがに見つかるとヤバイからって、もうやらないように釘をさしておきましたよ。」





「分かっとるんやけどなあ〜。 せやけどあの態度で言われるとどっかむかついて。」





「慣れですよ。 俺はあの人と共にいることが結構多いですから。 なたもじきに慣れますよ。

 ・・・さて、と。 そろそろ行きましょう。 早く見つけないと何時まで絶っても帰れませんからね。 忍足さん。」





「そうやな。 とっとと探すか。 日吉。」





その場が静かになった時、急に強い風が吹いた。

・・・その時誰かがその光景を見ていたのなら、その誰かは見ることが出来ただろう。 2頭のドラゴンが、空へと飛び立つ所を・・・。









【あとがき】

最近話しが長くなる一方です(汗) この話も前後編か・・・。

この話は前々からとても書きたかったので、とても楽しんで書いてます。 ドラゴン大好きですし♪

さて、後編ではやっとドラゴン族の長が登場です。 その前に忍足達が出張りますけどね。



07.01.06



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