怨嗟の炎   後編





炎が舞うように跡部に向かって襲い掛かる。 それを時にはかわし、時には氷の壁で防ぐ。

あまりの激しさのため、互いにそこから進むことが出来ない。





「手塚! 正気に戻れ!!」





そう叫ぶが、手塚は一切耳を貸さない。 いや、もしかしたら本当に聞こえていないのかもしれない。

腹立たしさに舌打ちをする。





「ちっ! こんな姿じゃなけりゃー、苦労することねーのにな!

 ったく、あいつら一体何やってやがんだ?! とっとと来いよ!!」





思わず愚痴が零れる。 と、前ばかりに気をとられていたため、背後から青い炎が迫っていたことに気付かなかった。





「!!!」





咄嗟にかわすが、その際に隙が生じてしまった。 それを、手塚は逃さない。

全方向から、一斉に炎が彼に向かって襲い掛かる。 さすがにヤバイと思った瞬間、光が彼を包み込んだ。





「間に合ってよかった。」





そう言い、跡部の傍らにストンと降り立ったのは幸村だった。

彼が張った結界のお陰で、跡部は無傷でいられた。





「へっ、全然間に合ってなんかいねーよ。 何だよ、このざまは。

 結局封印したって何も変わらなかったじゃねーか。 で、どうすんだよ?」





跡部の言葉に幸村の顔が曇る。 しかし、次の瞬間には目の強い光が戻っていた。

彼は右手を横に突き出す。





「とりあえず、捕縛する。 この前よりもきつくね。 今度はどうするかは、その後考えるよ。」





「相変わらず甘いな。 まあ、それがお前のいいトコだと思っておくぜ。

 俺はお前の援護に回る。 それでいいな?」





「・・・いや、君にはこの都市を守ってもらいたいんだ。 ここに住む人達は多い。

 このまま戦えば、きっと犠牲も出るし都市自体もただじゃあすまない。 頼んでもいいかい?」





幸村のその言葉に、彼なりの決意を感じたのか跡部はすんなりと頷いた。





「分かった。 お前の言う通りにしてやるよ。

 ・・・あいつらはどうすんだ? お前と手塚を心配して、今頃急いでこっちに向かってきてるはずだぜ。」





「橘には君と同じことを頼むよ。 それで、あいつには俺に力を貸してもらう。

 ・・・多分、手塚を元に戻すことが出来るのは彼だけだ。」





それにそうだな。と言う。 確かに彼の力なら、手塚を正気に戻すことも可能だろう。





「分かった。 じゃあ俺は行くからな。

 ・・・死ぬんじゃねーぞ。」





そう言うと、跡部はビルの淵から虚空に身を躍らせた。

少しの後、彼の姿はドラゴンへと戻り空を駆けていった。





「・・・さて、手塚。 1対1といこうか。」





そう言うと幸村は右手を空へと掲げた。 その瞬間、そこに光が走り彼の手には1本の杖が握られていた。

それを手塚に突きつける。





「・・・俺は諦めないから。」





やってみろと言わんばかりに、手塚の顔に浮かんでいた笑みに凄みが増した・・・。



                                             ☆



「おーい! 皆ー!!」





この張り詰めた空気の中、突如した声。 声のしたほうを向くと、そこには1頭のドラゴン。

それは彼等のいるビルの上に降り立つと、ジローの姿に戻った。





「芥川?!」





「へへっ。 久しぶり。 ホントはゆっくり話がしたけど、今はそんな時間はないんだ。

 直ぐにここから脱出するよ。 そうしないと危ない。」





「いや、その必要はなくなった。」





ジローがそう言った時、不意にした声。 そっちを見ると、今度は群青のドラゴンがいた。





「跡部?!」





ジローと同じく降り立った跡部は人間の姿になる。 そして彼は先ほどの幸村との会話を説明した。





「・・・っつーことだ。 だから俺達はこれ以上この都市に被害が出ねーよう、奴らの攻撃を食い止めることになった。

 で、お前等にも手伝ってもらうぜ。 なんせここは広い。 俺様だけじゃ防ぎきれねえ。

 まあ、そんな苦労はしねーと思うがな。 今、忍足達も呼んだ。 俺達以外に、来る奴もいる。

 とにかく今は守ることだけを考えろ。 それが、俺達の仕事だ。」





跡部のその言葉に、全員は頷いた。





「よし、そうと決まれば早速行くぜ!」





そう言うが早いか、跡部は再びドラゴンへと戻り空へと舞い上がった。

後に残ったメンバーのうち、蓮二とブン太以外は直ぐにその場を離れた。

この中でたった2人だけの人間。 どうしようかと思ったが、そこに忍足と日吉が現れ彼等は2人に厄介になることにした。

それぞれの背に乗り、空を駆ける。 ジローは、自身の力で弱くなった地盤を強化しにいった。

・・・戦いが、始まった―――。



                                           ☆



「はっ!!」





その声と共に、ものすごい数の氷の槍が手塚に向かって穿たれる。

それを尾の炎で一息に掻き消す。 しかしそれを見越していた幸村は、今度は彼の背後から強烈な雷を落とした。





「ちっ!」





それを間一髪でかわす手塚。 しかしかわしながらも炎は幸村を狙う。





「甘いっ!!」





大量の水が出現し、自身に向かってきた炎を消す。 しかし消しきれなかった炎は彼の足や髪を微かに焦がし、町へと襲い掛かる。





「やらせるかっ!」





その炎は回り込んできた仲間達によって、直撃の直前で弾かれる。

先ほどから、ずっとこの戦いは続いていた。 舞踏のように、互いの攻防戦は続く。

このままではきりがないな。と思ったその時、急に手塚が幸村から距離を取った。 その行動に、咄嗟に反応が鈍る。





「消えろ。」





そう手塚が呟いた瞬間、青白い炎が一気に彼の体から迸った。

その炎は巨大な火柱となって、都市全体を包み込むほど膨れ上がる。

摂氏数百度にもなるそれは、全てを燃やし尽くそうと都市の上空に広がる。





「しまった!!」





このままでは町だけでなく、仲間にも被害が出る。 そう思い、杖を掲げたその瞬間!





「ぐはっ・・・!!」





いつの間にか目の前まで来ていた手塚の鋭い爪が、幸村の腹にふかぶかと突き刺さった。

口から血を吐き、痛みが全身を駆け巡る。 力が上手く入らない。 皆がっ!と思ったその時、巨大な水の膜が炎を包み込んだ。





「!!」





そのことにありえないと目を見開いた手塚は、一旦様子を見ようと幸村の腹から爪を一気に引き抜く。

そして、少し距離を取って周りを見回した。





「間一髪だな。」





その目に映ったのは、天に向かって手を掲げる1人の男の姿。 そこからは、青い光が迸っている。





「橘!!」





跡部がそう言って彼の傍に滑るように飛んでくる。





「跡部! 炎は俺が押さえ込む! 今のうちに手塚を仕留めろ!!

 水が近くにあれば消せるんだが、悪いな。 今の俺じゃあこれが精一杯だ。 だから早く!!」





「・・・跡部、手を・・・出すな。」





跡部が橘に答える前にしたのは、幸村。 手塚から受けた傷は、自分で回復したのだろう。

しかし明らかに弱っているようだった。





「しかし・・・。」





「大丈夫だ。 ・・・これは、俺がケリをつける。」





彼の目の光の強さに、2人も頷くしかなかった。





「待たせたな。 さあ、続きを始めようか。」





そう言うと、幸村は杖を宙に投げた。 それに驚いている間に、それは再び幸村の手元に戻る。

しかしそれは既に杖ではなかった。 杖は一振りの剣に変わっていた。

幸村はそれを構えなおし・・・一気に手塚との距離を詰めた。 それにさすがに少し慌てたようだが、手塚はすぐに反応する。

剣と爪が互いに相手を切り裂こうと、隙を窺う。 と、剣を握っていない幸村の左手が何かを掴む仕草をした。

手塚がそれに反応する前に、幸村はその左手を彼の腹に叩き付けた。

その瞬間、そこから噴出す血。 口からも血を吐き、手塚がその場に崩れ落ちる。





「これで正気に戻ってくれ・・・。」





祈るように呟く幸村。 しかし、手塚の目は未だ狂気にとらわれていた。





「・・・ここでやられるものか・・・! 復讐・・・を・・・!!」





その言葉に、悲しそうに目を伏せる幸村。 そして、決心したように右手の剣を振り上げる。





「・・・これで、終わりだ・・・。」





その剣を振り下ろそうとしたまさにその時!





「待て!!」





眩い光と共に、1頭の妖が出現した。 その姿を見て、幸村は微笑む。





「間に合ったんだね、南・・・。」





その場に降り立ったのは、美しいとしか言えない妖だった。

黄金色の毛並みに曲がった嘴。 4本の足にはそれぞれ鋭い爪が。 そしてその背には巨大な翼を生やしていた。

南と呼ばれたその妖の名は、『グリフォン』。 翼竜とも呼ばれる妖である。





「ったく、俺が間に合わなかったらどうするつもりだったんだよ?」





そう言いながら、グリフォンは人間へとその姿を変える。 そこに現れたのは、漆黒の髪を持つ男。

彼は手塚を振り向いて、更に言う。





「・・・まだ相当やられてるな。 まあいい。 なんとかしてやるよ。

 んにしても、また容赦なくやったもんだ。」





「そうしないと俺がやられてたからね。 頼むよ。」





幸村の言葉に分かった。と言うと、南は手塚の傍に寄る。

彼に憎悪の篭った目を向けるが、彼はそれを気にしないで手塚の額に手を軽く置いた。





「・・・さて、今戻してやるから。」





・・・光がその場に満ちた―――。



                                               ☆



「うー、今回のはキツかった。」





そう言いながらソファに寝そべるのは赤也。 彼は手塚の炎を防ぐために、かなり頑張って飛び回っていたのだった。





「確かにな。」





彼のその言葉を肯定するのは真田。 彼も珍しく疲れていた。





「・・・ところで、今のこれは一体どういう状況なのでしょうね?」





そう言うには柳生。 それにそこにいた全員が頷く。

―――南の放った光が消えた後、気を失った手塚をとりあえず店まで運んできたのだった。

その際、強力してくれた者達も全員来た。

店は、実はかなり広いため狭いということは無かったが、状況が分からなかった。

幸村と跡部、橘と南という男。 そして手塚は、戻って来てからずっと幸村の部屋に篭っていた。

何がどうなっているのかまったく分からないこの状況に、全員はただ幸村達が出てくるのを待つしかないのだった。





「まあ、とりあえず一見落着でいいんじゃない?」





柳生の問いに答えるように言ったのは、オレンジの髪をした千石という男。

彼は南と一緒に来たあと、その後始末を手伝ってくれたのだった。





「まあ確かにそうだが・・・。 千石、お前は何か知っているのか?」





蓮二のその問いに、千石は少し真剣に言う。





「まあね。 多分、君達よりは知っていると思うよ。 でも、きっとすぐに知るだろうから。」





「じゃあ質問を変えよう。 お前達は一体何者だ?」





「あっ、そっか。 君達はまだ知らなかったんだけね。 でも、知らないようで知ってるよ。

 俺はティアーズシティにある店のメンバー。 君達からの依頼も何回か受けたことがある。

 俺は運びや兼情報屋『エスピオーグ』の千石清純。 よろしくね!」





千石の言葉に全員はかなり驚くはめになった・・・。



                                               ☆



「・・・すまなかった。」





そう言い、謝るのは手塚。 あれから意識を取り戻した彼は、すっかり元に戻っていた。

その目にはもう、狂気に欠片も見えない。





「気にするな。 しょうがなかったんだ。 俺だって一族を滅ぼされたら怒り狂うからな。

 とにかく今は休め。 傷もそんな浅くはないしな。」





そう跡部は言う。 傷についてのくだりでは、幸村が苦笑いをしていた。

と、今度は橘が言う。





「で、南。 分かったのか?」





それに、全員の目が真剣になる。 しかし南はゆっくりと首を横に振った。





「そうか・・・。 やはり簡単には分からないものか。

 ・・・もうかなり長い時間、調べているのにな。」





期待していただけに、落胆は大きい。 と、手塚が言った。





「・・・俺が潜り込む。」





「「えっ??」」





「せめてもの罪滅ぼしだ。 それに、俺自身待っていることは出来ない。

 なに、大丈夫だ。 もう俺には守るべき者はいない。 それを知った時、何か心が軽くなる感じがしたんだ。

 もう正気を失うことはない。 それに、潜り込むのは俺のほうがいいだろう?」





「確かにそれはそうだが・・・。 本当にいいのか?」





「ああ。」





「・・・分かった。 もう止めはしないさ。

 だけど、1つ条件がある。 怪我が完治するまで、ここにいること。 いいね?」





幸村のその言葉に、手塚は頷く。 それにほっとする面々。

と、南が言う。





「とにかく、ここまで来たんだ。 皆には全部話したほうがいいだろう。 ・・・いいよね?」





それに全員は頷く。

今、何かが始まろうとしていた・・・。









【あとがき】

終わったー!! 何か最後かなり長くなったけど、ってか全体的にすごく長かったけど、何とか終わったー!!

いかがでしたでしょうか? 今回ので今まで出てきてないものがかなりたくさん出ました。

特に南と千石は大きいですね。 今度からはノクターンとは別に、エスピオーグという店が出てきます。

というか番外編で彼等の話を書く予定もあったり。

・・・書くこと多いな。 とりあえずこれはちょこちょこ進めていくので、お楽しみに!!



07.2.14



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