怨嗟の炎  中編





店に走った突然の震動。 それがようやく収まったかと思ったその時、咆哮が聞こえた。





グオオオオオ!!!





怒りの篭った声だった。 苦しみの篭った声だった。 悲しみの篭った声だった。

様々な感情の入り混じった声が、都市に響き渡った。





「この声は・・・。」





ブン太が呟く。





「・・・手塚だよ。 封印が・・・解けた・・・。」





絶望したような声で淳が言う。





「・・・封印が解けると・・・一体どうなるんですか?」





柳生が尋ねる。 その声は、少し震えていた。





「・・・分からない。 だけど、これだけは言える。

 彼の、手塚の怒りはまだ収まってはいない。 手塚はまた復讐するつもりだよ。

 ・・・今ここで声が聞こえるっていうことは、彼はこの都市から滅ぼすつもりだ。 早くしないと、ここも危ない。」





「戦うことは出来ないのかよ?!」





赤也が叫ぶ。 それに、真田が返した。





「無理だ。」





「何で?!」





「妖としてのランクが違うんだ。 赤也、お前は四天王の話を聞いたことはないか?」





「え? 知らないっすけど、それとこれが何の関係があるんすか?」





「関係大有りだ。 お前達の中でも、知らない者もいるだろう。 まあそう言う俺も、本当かどうかは分からないがな。

 四天王というのは、その昔全ての妖をまとめていた存在だ。 その力は普通の妖では足元にも及ばないという。

 伝説として残っているのは3人。 残りの1人の正体は不明だ。

 その3人とは、ドラゴン・リバイアサンそして・・・九尾の狐だ。」





真田のその言葉に、全員が息を呑む。





「分かっただろう? 伝説の妖。 核心はないが、手塚はかつて四天王と呼ばれた者の1人だ。

 そんな者と、戦えると思うか? 無理だ。 行った所で、瞬時にやられるのがオチだ。」





「・・・だったら何で幸村さんは行ったんですか?」





赤也のその言葉に、真田は口篭る。 しかしその問いに答えたのは、淳だった。





「幸村はあんたらより遥かに強いよ。 それは真田が1番よく知っているんじゃない?

 ・・・これは俺の単なる憶測だけど、あいつが正体不明の四天王の最後の1人じゃないかな?

 だって、幸村って魔女でしょ?」





淳のその言葉に、真田と蓮二以外は驚く。 彼等は、幸村が何者なのかも知らなかったのだ。

ただ、人間ではないことだけは知っていただけで。





「・・・そうだ。 俺もあまりよくは知らないがな。 しかしあいつの強さだけはよく知っている。

 今手塚と対等に渡り合えるのも、幸村しかいないだろう。」





真田のその言葉に、蓮二も頷いて肯定する。 と、その時再び店に振動が走った。





「ヤバッ! 多分これは手塚が攻撃を開始した振動だよ。 とりあえずここを一旦離れたほうがいい!」





淳のその言葉に頷き、全員はとりあえず外に飛び出す。 そして様子を探るために、直ぐ傍の高いビルの屋上まで飛び上がる。

そしてそこで見たものは・・・。





「「??!!」」





そこで見たものは、灰色のビル群の中で光る赤い禍々しい炎と、金色に輝く9つの尾を持った1人の男の姿だった・・・。



                                          ☆



「!! この気はまさか・・・。」





青い光に満ちた自室で、橘はそう呟く。 直ぐに傍にあった水の中を覗き込む。

そこに移っていたのは、金と赤。 それを見た瞬間、彼は部屋を出て行こうとする。 と、その時。





「橘さん、行くんですか?」





ふいにそう声をかけられる。 後ろを向くと、そこには仲間の姿。





「ああ、行ってくる。 地上では力が制限されるが、それでも行かないよりいいだろう?

 俺もあいつの仲間だったしな。 あの時、俺はあいつを止めることが出来なかった。

 せめてもの罪滅ぼしってわけでもないが、今回は止めてやりたい。」





「・・・分かりました。 気をつけて行ってきて下さいね・・・。」





「ああ。 行って来る。」





そう言うと橘の姿はドアの向こうに消えた。 閉まったドアを見ながら、彼はただ橘の無事を祈った・・・。



                                             ☆



「ちっ! 間に合わなかったか!」





そう怒鳴りながら風を切って飛ぶのは、1頭の群青のドラゴン。 その後ろには、赤茶色のドラゴンも飛んでいる。

彼等の目の前には、既に灰色のビル郡が見えていた。





「跡部! 気をつけてよ! まだ皆来てないみたいだし。」





跡部と呼ばれたのは群青のドラゴン。 そう、このドラゴンがアンバーグリスの長である跡部の真の姿なのだ。





「分かってる! ジロー、お前はノクターンへ向かえ。

 で、あいつらを見つけたら直ぐに都市から離脱しろ。 いいな?!」





「了解! じゃあ跡部、気をつけてよ!!」





そう言うと赤茶色のドラゴンであるジローは方向を変え、都市の中へと降りていった。

その姿を見送ってから、跡部は先を見据える。 そこには、手塚の姿。





「さて、と。 都市を破壊するわけにゃいかねーからな。 こっちじゃ戦うのは無理だな。

 ったく、人間の姿じゃなけりゃあ俺も奴と対等に渡り合えんのにな。」





そう言いながらも、速度を緩めることはしない。 手塚の姿は、もう目の前にまで迫っていた・・・。



                                           ☆



何が起こったのか分からなかった。 ただ仲間が、自分と同じ血を持つ同胞が殺されているのだけが分かった。

誰が殺したかなぞ、どうでもいい。 ただ、全てが憎かった。 全てを滅ぼしてやろうと思った。

自分の炎は復讐のためだけにある。 自分の体も心も、復讐のためだけにある。

全ての者に報復を。 全ての者に同じ苦しみを。

彼の全ては憎しみという感情にのみ、支配されていた・・・。





「憎い・・・。」





そう呟く。 彼は今、高いビルの屋上にいた。 そこからは、この都市の全てを見通すことが出来る。

そう、ここに生きる人間はたまた妖の姿も。

恐怖に慄く顔が見える。 逃げ惑う姿が見える。 なんとも滑稽で、笑みが漏れる。





「手塚・・・!!」





そう自分を呼ぶ声が聞こえた気がした。

目の前のビルの上に、群青色のドラゴンが舞い降りる。 その姿は、瞬く間に人間へと変わった。

薄い色素の髪に蒼の瞳。 はて、どこかで見たような気がする。 しかし思い出すことが出来ない。





「まあいい。 全て敵だ。 全て殺せばいい。」





そう呟いて、右手を前に構える。 その手にある爪は、恐ろしいほど鋭く長い。

彼の腰の辺りからは、力の象徴であり一族の長の証でもあった9本の尾。 頭には2つの耳。

それらは全て、金の毛で覆われている。 美しい姿。 しかし、恐ろしくもある。

尾の先端からは赤い炎がちらつき、それはまるいで陽炎のように揺らめく。 周囲の温度が急激に上昇する。

すっと目が細められた瞬間、炎が一斉に広がり周囲のビルを破壊した。 その振動は、都市全体を揺るがす。

炎は更に目の前の男へと襲い掛かる。 しかしそれは、凍えるような冷気によって遮られる。

手塚の顔に、凄惨な笑みが浮かんだ・・・。



                                             ☆



「あれが・・・九尾・・・。」





呻くように赤也が言う。 他の面々も、言葉をなくしていた。

あまりにも強すぎる気配。 これなら確かに、真田が無理と言うのも分かった。

固まっていると、その手塚の前に降り立つドラゴンの姿。 それは瞬時に人間へとなる。





「跡部さん?!」





赤也が驚く。 同様に、仁王も驚いていた。

その2人に、ブン太が誰だよ?と、問う。





「この前芥川を送りにアンバーグリスに行ったじゃろ? そこの長じゃ。 あいつは。

 何でここにおるんじゃ? ・・・まさか。」





「多分そのまさかだと思うよ。 彼はきっと手塚を止めに来たんだ。」





「だったら何で人間になるんだよ? 妖ってあれだろい?

 真の姿のほうが力が強くなるんじゃなかったっけ?」





それにそうだ。と、真田が返す。





「多分、あれだろうな。 ここのことを気遣ってくれているのだろう。

 ドラゴンが全力で戦ってみろ。 この都市など、瓦礫の山になってしまう。

 それを避けるために、あえて人間の姿になったのだろう。」





「・・・それで勝てるのですか?」





柳生がそう心配そうに言うと、蓮二が答えた。





「それが不安だから、他の者達も集まって来ているのだろう。 ・・・そうか、まだお前達は感じていないのだな。

 先ほどから、強い気配がいくつもここに向かってきている。 大丈夫だ。

 きっと、なんとかしてくれるさ。」





蓮二のその言葉を、今はただ信じるしかなかった・・・。









【あとがき】

何か3部になっちまいやしたよ?! こんな予定じゃなかったんですが・・・。

手塚出てきてなーい!! これ手塚メインの話のはずなのにいい〜。

ってかいつの間にか跡部とか橘とかはたまた初登場の南とか。 色々出すぎです(汗)

一応この話は次に進むために必要なんですが、それでも色々出すぎだっ!!

ごちゃごちゃしすぎてて、何かよくわかんなくなってきた(えっ?!)



07.2.14



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