enigmatic   2





「着いたぞ。 ここが『魔の海峡』だ。」





そう言って石田は止まる。 水面の上がった彼の背から、3人は先に広がる光景を見る。

そこに広がっていたのは、恐ろしいほど荒れた海。 その中でも一際目を引くのは、かなりの数の渦潮だった。

その多さに、さすがの4人もたじろぐ。 しかし彼等に迷っている時間はない。





「行くぞ。 しっかり掴まっていろ。」





そう声をかけると、石田は力強く泳ぎだす。 少し進んで、荒れた海峡に突入する。

途端、激しい海流が4人を襲う。 先へ進むのもかなり困難な状況に、アキラがふうと息を吐いた。





「こりゃ、俺の出番かな。」





そう言って、彼は右手を前方へと翳す。 そして軽く力を込める。

すると、半透明の球体状の膜が石田の体全体を包み込んだ。 途端、体に水の勢いを感じなくなる。





「悪いな、アキラ。 これくらい、どうってことないと思ってたんだがな。 少しここを侮りすぎた。」





「いいって。 俺はお前のように皆を連れて泳げないからな。 自分1人で精一杯だ。

 まあ、真の姿の差ってのもあるだろうけどな。」





そう言うと、アキラは少し自嘲気味に笑った。

進んで行くと、海流の流れはだんだん弱くなってきた。 しかしそれでも普通の人間にすれば、かなり強いと感じるのだが。





「! 石田、止まってくれ。」





突然内村がそう言う。 それに石田は泳ぐのを止め、止まる。

3人が見る中、彼は軽く目を閉じ何かを探っているようだ。 少しして目を開ける。





「・・・深司の気配がまだ僅かに残っている。 どうやらわざと残して行ったみたいだ

 俺達が来ることを、信じていてくれてたみたいだな。」





「それで、どこに?」





「・・・この先にある島だ。 ここからじゃ何とも言えないが、気配が向かっていっている。

 深司はそこにいるって考えるのが、妥当だろうな。」





「ああ。 急ぐぞ。」





そう言うと、石田は再び泳ぎだす。 向かうは、絶海に存在する孤島。



                                                ☆



「・・・ねえ室町。 俺達今までこんな酷い扱い受けたことあったっけ?」





「ありません。 いつももあまりいとは言えませんが、今回のこれはさすがに酷すぎます。」





そう話すのは東方と室町。 普通に話しているが、彼等は今地上にいるのではない。

しかし、空にいるのでもない。 彼等が今いるのは、冷たい海の中だった。





「それにしても、よくここ見つけれたね。 唯一渦潮がないポイント。」





「まあ、何だかんだ言ってもあの人はすごいですからね。」





そう話しながら、2人は泳ぐ。 彼等がなぜ泳いでいるのか。 それは、南によって上空からこの場所に落とされたからだった。

仕事に向かう2人を、南は自身の背に乗せて送った。 しかしこれはかなり重要な仕事。

相手に自分達の姿を見られるわけにはいかない。 ただでさえ目立つ南。

そのため彼は、島の傍の海で2人を下ろした、というか落としたのだった。 東方と室町は普通の人間だ。

海の妖と違って、あんなスピードで進めるわけがない。 水の中では、当然地道に泳ぐしか移動手段はない

だから彼等は、愚痴を言いながらも泳いでいるのだった。





「こんな時普通って切ないね〜。」





「そうですね。 でもそこまで普通ではないと思いますが。

 あの店にいる時点で、ある程度は逸脱してますよ。」





「確かにそうだ。 でも何だかんだ言って、俺達と違ってあの連中皆強いからね〜。

 というか種族が特殊か。 まあそれはノクターンも同じだけど。」





そう話していた時。





「! 何かいる。」





室町がそう言うのと同時に、東方も何かの気配を感じ取った。

それはここから少し離れてはいたが、ピリピリと伝わってくる。





「・・・結構キツイのがいるみたいですね。」





「ああ。 戦闘になったら俺達じゃかなりキツイな。

 それにしてもこの気配、どこかで感じたような気がするんだけど。」





そう言いながら、記憶を探るよに目を細める。 しかしそれを遮るように室町が言う。





「とりあえず考えるよりも先にここから離れましょう。

 俺達の目的は、情報収集ですから。」





「そうだったな。 見つかったら意味ないからな。 急ごう。」





そう言うと東方は、腰にくくりつけてあったいくつかのポーチの内の1つから、おもむろに何かを取り出した。

それは5センチほどの筒のようなもの。 一見大したものには見えないが実はこれ、高性能の酸素ボンベなのだ。

これ1つで数時間は水中に潜っていられる。 これを開発したのは東方。

機械に関する知識が豊富な彼は、こういう物の開発を得意としていた。

それを室町に1つ渡し、口に咥える。 そして互いに顔を見合して頷きあうと、2人は水中に一気に潜った。



                                              ☆



「うっ・・・。」





軽く呻き声を上げながら、ゆっくりと身を起こそうとする。

しかし全身に鈍い痛みが走り、思うように動かすことが出来ない。

それ以外にも違和感を感じ、唯一自由に動いた首を使って自分の体を見る。





「!」





その目に入ってきたのは、自分の手足を縛っている鎖。

鎖は動けないようにしっかりと固定されている。 体を動かすのを諦めて、今度は辺りを見回す。

しかし周囲は闇に覆われていて、あまりよく見えない。

見えたのは幾本もの鉄の棒。 どうやら檻の中に閉じ込められているらしい。

光は見えない。 そのため周囲を探ることを諦め、上げた頭を地面に下ろす。





(桜井、ちゃんと逃げれたかな。)





思うのは逃がした仲間のこと。 無事に逃げ切れたかと、心配に思う。





(・・・俺、これからどうなるんだろ?)





そして、自分のこれからのことを考える。

渦潮が邪魔をし、相手の姿はよく見えなかった。 しかし、あの気配だけは覚えている。

背筋が凍るような、残酷な気配。 そして、あまりにも強い気配。

思い出しただけでぞっとする。 あれは、あまりにも恐ろしいものだった。





(とにかく、この鎖をなんとかしなきゃ。)





そう思い、右手の人差し指をピンと立てそこだけふっと力を解放する。

するとそれは人間の指から、鋭い爪を持つドラゴンの爪へと変化する。

それを傍にあった鎖に押し付け、少しずつ動かしていく。 地道だが、これしか方法はなかった。





(簡単には奴等の手には堕ちない。)





そう誓い、彼は作業を続ける。

暗闇の中には、ものを削る微かな物音のみが響いていた・・・。



                                               ☆



「・・・ここで途切れてやがるな。」





そう言いながら辺りを見回したのは内村。 彼の周囲には、アキラと森の姿がある。

石田は海から首だけを出し、ケルピーの姿のままでいた。





「うーん。 とりあえず深司はこの島の中にいるで間違いはなさそうだね。

 でも探すアテが無くなっちゃったからなー。 ひとまず二手に分かれよう。

 そうすれば時間を短縮出来る。」





森のその提案に、3人は快諾する。





「じゃあ内村と森で行けよ。 俺は石田と行く。

 お前等は地上での制約は受けないけど、コイツは違うからな。 俺が傍にいないと。」





「そうだな。 そうしないと何かあった時、命に関わるからな。

 お前も面倒だな。 そんな体質で。」





内村が少しの哀れみを込めたような表情を、石田に向ける。





「そんなこと言ったってしょうがねーだろ。 とにかくアキラ、頼むわ。」





石田がそう言うと、アキラは頷き彼に近寄って行く。 そして右手を彼の体に向かって翳すと、軽く目を閉じた。

すると彼の体を半透明の水の膜が、ピタリと覆う。 それを確認すると石田は人間の姿になり、砂浜に上がって来た。





「これでしばらくは大丈夫だ。 よほどの乾燥に晒されない限り、2.3日は陸にいられる。」





「サンキュな。 それにしても、お前のその能力って便利だな。

 そのお陰で俺は陸に上がれるんだし。 本当だったら陸に上がるなんて不可能だもんな。」





「まあそれはしょうがないだろ。 そういう種族なんだし。 俺達は大丈夫だけどな。

 さて、と。 そろそろ行こう。 深司のことが心配だし。 それに、気になることもある。」





「それって、深司を襲った奴等の正体か?」





内村のその問いに、アキラは頷く。





「ああ。 いつもの奴等だったら深司と桜井が負けるわけがない。

 桜井には悪いけど、深司は俺達の中でもかなり強い。 そんな奴が簡単に掴まったんだ。

 あいつらであるわけがない。 それにあいつらじゃあ、この海峡に入ることすら出来ないだろうからな。

 そう考えると、思い当たるアテがない。」





「確かにそうだな。

 だが、とにかく今は深司を助け出すことが最優先だ。

 それに、助けようとすれば必然的に敵が出てくるだろ。 そこをとっ捕まえるかすればいいと思うが。」





石田のその提案に、全員は賛成の意思を示した。

そして4人は二手に分かれ、深司の捜索をするために島の中に足を踏み入れた・・・。









【あとがき】

朝霧様に頂いたリクの第二弾です! すいません! マジで続きました(汗)

ってか、全然話進展してないじゃん! ダラダラと続かせるのが、私の得意技です(おい。)

謎とかなんも発覚してないという、これこそ最悪の事態に(滝汗)

次こそはなんとかしなきゃ!



07.5.27



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