enigmatic   4





「内村! 森!!」





3人の女達と戦う内村と森。

彼等の姿を見るやいなや、怒鳴りながらアキラと石田の2人も参戦しようとする。 だが。





「そうはさせない。」





そう声がした瞬間に感じた殺気。 それに咄嗟に身を翻す。 距離を置き、見据えた先にいたのは2人の男達。 

人間の姿をしてはいたが、所々人間のものでない濃い茶色の毛が見えている。





「お前達は・・・?」





呻くように聞いたアキラに、男は答える。





「俺達か? 俺達は『アーヴァンク』。 聞いたことくらいあるだろ?

 ・・・お前等あの橘の所の奴等だな。 話は聞いたことあるぜ。」





「アーヴァンクだと?! その一族は、すでに滅びたはずだ。

 それに、何故俺達を狙う?! 同じ属性の仲間じゃないか!」





石田のその言葉に、男達は笑い出す。 心底おかしいといった風に。





「仲間だと? 冗談はいい加減にしろ。 お前等と同じにするな! 胸糞悪い。

 俺達がどれほど苦しんできたのか、お前等に分かるものか!! ぬくぬくと今まで生きてきたお前等にはな!

 ・・・これ以上話してても、余計ムカつくだけだな。 そろそろ死んでもらうぜ!」





そう言うが早いか、男達は一斉に2人に飛び掛ってきた。 いつの間にか出現していた両手の鋭い爪が、彼等を狙う。

先ほどの会話に少々動じていた2人だが、すぐに反応する。

男の1人が、石田に向かって飛び掛ってくる。 それを受け流し、背後に回り込んで拳を振り上げる。

しかしそれは虚しく宙を切る。 と、次の瞬間、男は石田の背後に出現した。

鋭い爪が彼を襲う。 切り裂かれた思った瞬間、キインという高い音が響いた。 それに驚き、思わず後ろへと下がる男。

見た先にいたのは、右腕で体をガードしている石田の姿。 しかし、そこに1つ違和感があった。

それは、上げられている彼の右腕。 彼の腕には今、美しく輝く鱗があった。





「危ねえ奴等だ。 あれで切り裂かれてたら、俺でも危なかったぜ。」





そう言いながら、手を下ろす。

鱗に覆われた腕を見ながら、男は呻く。





「ちっ。 ケルピーの鱗か。 頑丈なんだよな、あれ。

 だけどな、それごときで引くわけねーだろ。」





そう言って、また爪の生えた手を構える。

と、今までもう1人の男と攻防戦を繰り広げていたアキラが、石田の横に来た。

相手の男も、自分の仲間の横に戻る。





「ったく、何がなんだか分かんねーけどここでやられるわけにはいかねーんだ。

 お前等コテンパンにして、俺達の仲間のこと、絶対聞き出してやる!」





アキラはそう言うと、右手の平を開いたまま眼前に突き出した。

そして軽く息を吐き出した瞬間、周囲から水が彼の体の回りに集まってきた。

水は彼の周りをゆっくりと囲むように漂う。 と、不意にアキラが手をグッと握った。

その瞬間、周囲を踊っていた水は一気に収縮した。 そしてそれは、一振りの巨大な剣へと姿を変えた。

鈍く銀色に光る刀身。 美しい装飾の施された柄。

アキラの身の丈ほどもあるそれは、とても水から出来たとは思えない代物だった。





「さあて、きっちり吐いてもらうぜ!」





そう言って剣を構えるアキラ。 石田も、戦闘態勢に入った。

アーヴァンク達もさすがに危機感を覚えたのか、しっかりと構える。

ピリピリとした空気が、その場に漂い始めた・・・。



                                                ☆



誘い出したのは、確かに自分達だった。 広い場所ならば、確実に優勢だと思った。

しかし相手は桜井を傷つけ、伊武を捕らえた者ということを、忘れていた。





「ちっ!」





そう悪態をつきながら、内村は後ろに飛ぶ。 ほんの少し遅れて、その場を水の弾丸が穿つ。

休む間もなく、さらに弾丸が襲いくる。 それを紙一重で交わしていく。





「やべーな。 このままじゃ反撃できねえ。

 俺の力はこういう風に攻撃出来ねーから、不便なんだよな。」





そう言いながらも、その目の光は衰えていない。 チャンスは絶対にある。

そう確信している目だった。





「んにしても、2対1か。 俺のほうが不利なんだが、アイツも相当ヤバイな。

 大丈夫なのか?」





ちらっとだけ、彼は上空を見る。 見えたのは、空を駆ける鳥と、それを追う水の弾丸。

2人を襲っている水を打ち出しているのは、3人の女達。

その容姿は、とても美しい。 しかし双眸に讃える光は冷たく、温かみのカケラもない。





「『ルサールカ』、か。 まったく、やっかいな奴を相手にしちまったな。

 だが、何でほとんど絶滅してる奴等がこんなとこに? 縄張りを守ってるってわけでもなさそうだし。

 アキラ達と戦ってる奴等とは、ぜってえグルだってのは分かるが。

 とにかく、締め上げるしかねーな。」





そう独り言を言うと、内村は地面を一気に蹴り上げ上空へと飛び出す。

いきなり目標を失った弾丸は、的外れな場所に着弾する。





「「なっ?!」」





驚愕する女達。 飛び上がった内村は、言い放つ。





「この俺を相手にしたこと、後悔させてやる!」





その途端、彼の首の周りに首輪のような白い痣が現れた。 目も、さらに鋭くなり動向が縦に長く伸びる。

シューっという微かな音が口から漏れる。 何も気付かない女達に、彼の目が楽しそうに歪んだ。



                                                 ☆



水の弾丸から逃れるために、急旋回して交わす。

それを何度も繰り返す。 反撃はしない。 いや、出来ないのだった。

森は、誰かを傷つけることを酷く恐れていた。 それは敵に対しても同じ。

だから、彼は反撃をしないのだった。 あまりにも優しい心を持つ彼。





「戦えない。 でも、どうすれば・・・?」





答えの出ない問いを、繰り返す。

敵の攻撃はまだ、止みそうにもなかった・・・。



                                                  ☆



暗闇の中に、銃口から発せられた光が浮かぶ。

轟音と共に射出される銃弾。 2丁の拳銃から出たそれは、闇の中を蠢くものめがけて襲いかかる。

しかし上手く照準できていないため、当てることが出来ない。





「やっぱりこの闇の中で裸眼のままじゃあキツイか。

 念のために持ってきてよかったよ。 ・・・さて、これからが本番だ。」





見えない相手に向かって、気配だけを頼りに連続で引き金を引く。 当たりはしないが、時間稼ぎは出来る。

少しだけ出来た隙に、東方は左手の銃を腰のホルスターに入れ、別の今度はポーチに手を入れた。

そして出した手を、彼は左目に持っていく。 いきなり彼は、親指と中指で左目の瞼を開き、人差し指を眼球に当てた。

指を出すと、数回瞬きをする。 目の中の違和感が多少気になるが、そこは気にしてなどいられない。





「・・・うん、調子いいね。 見える見える。」




そう呟きながら、闇の中を見る。 彼には今、目の前の光景が左右違うように見えていた。

彼が眼球に指を突っ込んだのは、彼の発明した暗視レンズをその目に入れたからだった。

そのレンズの形状は、コンタクトとほとんど変わらない。 しかし、機能が全然違う。

これはとんでもない代物だった。 つけたものには、世界が違って見える。

闇を見通すコンタクト。 それを東方は今、つけているのだ。





「さあ、お遊びはそろそろ終わりだ。」





そう小さく言うと、東方は左手にも銃を握り闇の中へと構えた。

敵は、また弾丸は当たらないとたかを括っている。 東方の口元が、うっすらと笑みを形づくった。





ガウンッガウンッ





2つの銃口から、何発もの銃弾が。 それは空を切り裂き、ものすごい速さで飛んでいく。

的外れな方向に飛んでいくと思っていた敵は、さっきまでとは違う正確さに慌てる。

しかしそれでも反射神経を使い、なんとか避けるが少しくらってしまう。 それによって僅かに鈍くなる動き。

それを見逃す東方ではなかった。 連続して銃声が響く。

少しして、銃声が止んだ。 静けさを取り戻すこの場。

周りの気配に気を配りながら、彼は歩いて来る。 そして、地面に倒れ伏す男の前で足を止めた。





「まさかここまでてこずるとは思わなかったよ。 さあ、いろいろしゃべってもらおうか。」





敵の頭に照準を合わせたまま、東方は言う。

地に倒れ伏しているのは、男だった。 ぱっと見は普通の人間のように見えるが、よく見ると違う。

撃たれたことにより体力を消耗し、人間の姿を保っていられなくなってきているようだった。





「アーヴァンク、か。 話だけは聞いているよ。 既に絶滅した種族だってね。

 そんなのが何でここにいるのかは分からない。 だけど、そこも話してもらうよ。」





そう言って東方は引き金に軽く指をかけながら、脅しをかける。 しかし地面に倒れる男の顔には微かな笑みが浮かぶ。

血まみれで形勢も圧倒的に不利なこの状況でも笑う彼に、東方は訝しげな表情をする。





「くくっ。 お前等なんかに、しゃべってやることなんてねーよ。

 俺1人の命なんぞ、『あの方』にとっては無いに等しい。 それに、俺は単なる下っ端だからな。

 何にも知らねーよ。 残念だったな!!」





そう怒鳴った瞬間、どこにそんな力が残っていたのかというほど素早い動きで、男は右手を振り上げた。

いつの間にかそこには鋭い爪が出現していた。 それを男は、迷うことなく自らの首に突き立てた。

東方が止める間もなかった。 一瞬のうちに、男は自らの手で命を絶ったのだった。





「くそっ! 死なすつもりなんてなかったのに! 俺がもう少し早く反応できていれば・・・!」





悔しそうに呻く。 しかし、消えた命は戻ってはこない。

ギリリと歯軋りをするも、ここに何時までも時間を取られているわけにはいかなかった。

先に逃がした、2人のことが気になる。 東方は、左手の銃だけをホルスターに納める。

そして少しだけ男の亡骸を見やり、呟く。





「『あの方』って一体誰何だ・・・?」





しかしその問いに答える者はなく、その場にはただ静寂と闇が漂うのみ。

東方はそうなると分かっていながらも、不満の篭った息を吐き、外へと向かって小走りでその場を去っていった―――。



                                             ☆



「なっ・・・何だ・・・? 体、が・・・!」





内村と戦っていた女2人が、そう呻いて突如その場に崩れ落ちた。

2人の傍に、口元に笑みを浮かべた内村が近寄って来る。

近づいてきた彼の首元を見て、女達は自分の体が動かない理由を悟った。





「貴様・・・蛟か!!」





「ああそうだ。 今更気付いたって遅いぜ。

 俺の毒は即効性だからな。 気付いた頃には全身に回ってるってわけだ。

 だが今は殺さねーよ。 仲間のことを吐いてもらわなきゃなんねーからな。

 そのために毒性をわざと落としたんだ。 ・・・さて、俺達の仲間をどこにやった!!」





そう内村が怒鳴った瞬間だった。 突如動けないはずの女が水の弾丸を放ったのだ。

突然のことに内村は完全に避けきることが出来なくて、右肩を打ち抜かれる。





「なっ?!」





驚きで顔が歪む。 それを嘲笑うかのように、女達はゆっくりと立ち上がる。





「怒りで己も知らずのうちにコントロールが出来ていなかったようだな。

 それにお前は知らなかっただろうが、我等は毒には強いのだよ!!」





そう言うが早いか、女達は内村に再び襲い掛かる。

動揺しきっているため、内村には避けることしか出来ない。 形勢は今や逆転していた。



                                               ☆



「はっ!!」





掛け声と共に、巨大な剣が薙ぎ払われる。 それを避けると、今度は背後から石田の強烈なパンチが。

しかしそれだけではアーヴァンク達も怯みはしない。

それを分かっているため、剣を薙ぎ払ったアキラは空いていた左手を前に翳した。 そして。





「あんた等の動き、封じさせてもらう!!」





そう言うのと同時に、男達の周囲を水の膜が覆った。

一見薄そうに見えるそれだが、それはとんでもない強度を持つ。 アーヴァンク達はその前になす術もなく捕らえられた。





「さて、と。 色々しゃべってもらおうか。」





指を骨をポキポキと鳴らしながら、石田が脅すように言った。



                                               ☆



戦うことも出来なく、しかし守ることも出来ない。

森は内村が危険な目にあっている時にも、どちらにするか決めることが出来ないでいた。

しかし彼の毒が効かず、動揺しているのを見た瞬間、思わず森の体が動いた。

飛んで来る弾丸は気にもせず、真っ直ぐ内村の傍まで落ちていく。





「内村!!」





しかしそんな彼を嘲笑うかのように、残りの女達も森を狙う。

内村が何か叫んだ気がした。 しかし今の森に、その言葉は聞こえない。 内村を助けることのみが、彼を突き動かしていた。

水の弾丸が迫ってくる。 避けることが出来なくても、内村は助ける!そう心の中で誓ったその時だった!





「森! 飛び上がって!!」





その声に反射的に上空へと一気に舞い上がる。

その瞬間、女達を鋭い刃が切り裂いた。 上空で下を見た森は、彼の姿に驚きを隠せなかった。





「深司!!」





そこにいたのは、捕らえられていた仲間。 彼の放った攻撃は、ルサールカ達を正確に切り裂いていた。

女達は、ピクリとも動かない。

無事だった仲間の姿に、森も内村も近寄って来る。 少し離れた場所で戦っていたアキラと石田も、走って来た。





「深司! 無事でよかった。」





代わる代わるそう言って、全員は彼の無事を喜ぶ。

と、そんな彼等の傍に室町が近づいて来た。





「室町! もしかしてお前が深司を?」





「ああ。 ここにはちょっと仕事で来たんだが、助けれてよかったよ。

 ところであそこの連中は今回の関係者であってるか?」





そう室町が言った瞬間だった。 彼等から少し離れた崖から、巨大が水しぶきが上がった。

突然のことに驚きを隠せない面々。 だが、その中でアキラは叫ぶ。





「しまった! あいつらが!!」





巨大な水しぶきの中から現れたのは、3本のタコのような腕だった。

それはアキラの張った水の膜を破き、男達を自由の身にしてしまった。





「しまった! 一歩遅かったか!!」





その時、そう声がして東方も現れた。 しかし彼等にはもう、アーヴァンク達を捕らえることは出来ない。

男達の顔に笑みが浮かぶ。 タコのような腕に掴まり、男達は言う。





「教えといてやるよ! 俺達は 『R』 !! この腐りきった世界を変える者達だ!

 橘に伝えるんだな。 俺達はお前を決して許さないと! 首を洗って待ってやがれ!!」





そう言い残して、男達は海の中へと消えて行った。

後にはただ呆然と立ち尽くす面々と、穏やかとなった海が残っているのみだった・・・。



                                              ☆



「アーヴァンクにルサールカ、か・・・。」





青い光に満ちた部屋の中で1人、橘はそう呟いた。

仲間達が無事に戻って来てすぐ、彼等から事の詳細は聞いた。

その内容から推察される答えは、橘を悩ませるには十分だった。 更に、溜め息をつく。





「・・・このまま俺1人の問題にしておくことは出来ないな。

 あいつ等にも、伝えなくては・・・。」





ふらりと立ち上がって、橘はおもむろに窓から外を見る。

青い光に包まれた、穏やかな都市。 その裏に隠された影に、橘の心は痛む一方だった・・・。



                                               ☆





「おかえり。 無事でよかった。」





戻って来た2人に、南はそう労いの言葉をかける。

自分の部屋のソファーに座った2人から、今回の詳細を聞く。

何の動揺も見せずに、淡々と聞いていた南だったが、アーヴァンク達の名が出てきた時にはさすがに驚きを隠せなかった。





「既に滅びたはずの一族が何故・・・? しかも何で彼等を襲ったりなんかしたんだ?」





少しの間ブツブツと呟いていたが、やがて顔を上げて2人を見た。





「とにかく、ご苦労様。 しばらく仕事はなさそうだから、ゆっくり休んでくれ。

 今回のこのことは、近いうちにまた調査してもらうと思う。 それは、承知しておいてくれ。」





そう言うと東方と室町はこの場では何も聞くことはなく、部屋を去って行った。

1人残された部屋の中で、南は静かに呟く。





「橘・・・。 大丈夫だといいけど・・・。」





今はまだ、穏やかだ。 波は静かで、風も柔らかく吹いている。

しかし、嵐は必ず訪れる。 それがいつかは、まだ分からない―――。









【あとがき】

終わったあああああ!!! 大変長くなってしまいましたが、やっとこさ完結です!

リクを下さった朝霧様、大変遅くなってしまって申し訳ありません(滝汗)

ご希望に添えられていないかもしれませんが、どうかこれで許して下さい(ペコリ)

さてさて、今回のこれでは更にまた謎をポロポロと。 これが明かされるのは果たしていつだろうか!(えっ?!)

ここでの謎に関しては、これから先色々な所で関係してくると思うので、どうぞお楽しみに!!



06.6.18



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