enigmatic   3





闇の中に、ひとつの灯りが浮かび上がっている。

その傍らには、黒い人影。 顔は、闇に飲まれていてうかがい知ることは出来ない。





「我等の目的のためには、どんな手段も選ばぬ。

 必ずや、果たしてみせようぞ・・・。」





低く、呟くような声。 それは誰に聞こえることもなく、闇の中に吸い込まれるように消えていった・・・。



                                         ☆



穏やかなさざなみが、不意に歪む。 そこからゆっくりと、小さな筒のようなものが出る。

数回辺りを見回したかと思うと、そこから今度は人の顔が現れた。

そして再度周囲を確認すると、水中で合図をする。 と、もう1人水中から現れた。





「大丈夫だ。 気配も何もない。 行くぞ。」





水中から現れたのは、東方と室町だった。

2人は口に咥えていた酸素ボンベを出し、慎重に泳ぐ。

そして近くにあった砂浜をわざと避け、痕跡を残さないように岩場から島に上がった。

上がると東方は腰のポーチから、2本の黒い筒のようなものを出す。

その片方を室町に渡すと持った手を頭上に掲げ、横についていたスイッチを押す。

途端にパシュッという小さな音を立てて、鍵爪のついたワイヤーが伸びた。

それは15メートルほど先の岩に引っかかり止る。 くいくいと軽く引っ張り、取れないことを確認すると2人は足を岩にかける。

そして今1度周囲を確認すると、岩を登り始めた。



                                          ☆



ガサッガサガサ





木の葉の擦れる音が、微かに聞こえてくる。 びっしりと辺りを覆っている緑の葉の間を、人影が走る。

身軽に枝から枝へと飛び移っていく。





「森! 何か見えたか?!」





スピードを落とさぬまま、飛び移っていた人影である内村が問う。

彼の上空には、真の姿へと戻った森が飛んでいた。





「何も見えない! やっぱ上空から見える所にはいないか。」





「んなことは最初から分かってるっつーの!

 これだけ派手に動いてりゃー、向こうから来るだろうからな。 そこを叩くんだ。」





「でもこのやり方、アキラと石田が知ったら怒るだろうなあ。」





内村には聞こえないように、森は小さく呟く。

彼の目には、少々の不安の色が浮かんでいた。 そのことに、内村はまったく気付いた様子はない。





(・・・俺で、勝てるのかな?)





そう不安を抱えつつも、森は空を飛ぶ。

わざと目立ち、隠れているであろう敵をおびき出す為に。



                                               ☆



「・・・大丈夫かな・・・?」





自分以外誰もいない部屋で1人外を見ながら、南は呟く。





「本当は俺が行くべきだったんだけどな。

 ・・・多分あそこはアタリだ。 これで少しでも情報を掴めれば、見えなかったものも見えてくる。

 こんな時に、俺の立場って悪いよな・・・。」





そう独り言を言いながら、少し俯く。

辺りには静かな空気が流れている。 まるで、何事もないかのような・・・。



                                               ☆



「・・・ここから中に入れるな。」





そう言って東方は岩の裂け目を除く。 確かに彼の言ったように、そこには人が1人入れるくらいの隙間が空いていた。

奥は暗くてあまり先まで見えないが、どうやらかなり深いようだ。





「そのようですね。 どこまで繋がっているかは正確にはわかりませんが、少なくとも真ん中くらいまでは行けるはずです。

 ・・・少し待って下さい。」





そう言うと室町は、岩壁に軽く額と右手を当てる。 そして動かなくなる。

彼の集中力を妨げないように、東方は無言のままだ。 少しして、室町は顔を上げた。 そして、言う。





「この奥に何かいます。 本当に微かですが、気配を感じました。」





「そうか。 じゃあ、本当にアタリだな。 気を抜かないで行くぞ。」





その言葉に頷き、2人は闇の中に足を踏み入れた。



                                               ☆



「・・・侵入者だ。」





闇の中から、そう言う声が聞こえてくる。





「そのようだな。 だが雑魚ばかりだ。 ・・・まあいい。

 始末しておかねば。 先の失態を少しでも挽回するためにな。 ・・・出るぞ。」





その言葉のあとに、動く気配。 少しして、そこには何の気配もなくなった・・・。



                                                 ☆



「・・・こちらにおいででしたか。 先ほど、あちらから連絡がございました。

 すぐに戻って来るようにとのご命令です。」





闇の中に浮かび上がる、1つの光。 それに照らされている1つの人影。

その背後に音も何もなく、現れるもう1つの影。 それが言葉を発する。





「・・・分かった。 すぐに戻る。

 ここのことは任せたぞ。 あの者は、確実に連れて来い。」





そう言うと、黒い影は立ち上がる。 そして足音も立てずに、その場から去って行った。

それを見送りながら、もう1つの影は体を前に折り曲げる。





「仰せのままに。」





少しして、その場にいる者はいなかった・・・。



                                                 ☆



「内村! 何かいる!!」





上空を飛んでいた森が、突然発した警告。

その言葉が聞こえた瞬間、内村は身を翻した。 ほんの少しの差で横をものすごい勢いですり抜ける何か。

あと僅か遅かったら、確実にやられていただろう。





「やっと出てきたぜ! 森!」





その言葉に、森が一気に高度を下げた。 木すれすれまで来た彼の背に、内村が飛び乗る。

彼が乗るとすぐ、森は再び高度を上げる。 2人を逃がすまいと、木々の間から攻撃が襲ってくる。

それを交わしながら、森はスピードを上げた。 しかし一気に追ってを引き離すことはしない。





「この調子だ。 ここだとかなり分が悪いからな。 広い所じゃないと。

 しっかり付いて来てるし、この調子だとうまくいきそうだな。」





「そうだね。」





内村にそう言葉を返しながらも、森の中の不安は消えない。

それを残したまま、彼は空を駆ける。 向かうは、この島の端・・・。



                                               ☆



「くっそ。 あと少しなのに・・・!」





暗闇の中に、伊武の焦った声が響く。 両手を縛り上げる鎖の大半は、彼の鋭い爪によって切断されていた。

しかし、あと少しという所で上手くその爪が届かないのだ。 焦れば焦るほど、爪は空回る。 と、その時だった。





コトッ





本当に小さな音がその場にした。 それに伊武は体を一気に強張らせる。

闇の中を凝視する彼。 しかし、その中から現れたのは予想外の人物達だった。





「東方さんに室町?!」





「伊武?! 何で君がここにいるんだ?!」





互いに、驚きを隠せない。 とりあえず室町は監視をし、その間に東方は伊武の鎖を全て解いた。

長時間繋がれていたため赤くなってしまった腕をさすりながら、伊武は問う。





「何で2人がここに?」





彼の問いに、彼等は仕事だとただそれだけを告げる。 それだけの説明だったが、伊武は納得する。

次に彼等から返された同じ質問に、伊武も簡単に答えた。





「事情は大体分かった。 とりあえず、ここから脱出しよう。 俺達が使ってきた道を逆に辿れば、外に出られるから。

 室町、彼を連れて先に行け。 ・・・どうやらお客のようだ。」





東方のその言葉に反応したように、目の前の闇が動く。





「・・・分かりました。 先に行きます。 すぐに来て下さいね。」





そう言って室町は伊武を促す。 東方を見、不安げな顔をしながらも彼は室町に従う。 すぐにこの場から2人の気配は消え去った。

2人が行ったことを確認すると、その場に1人残った東方は腰のホルダーに両手を入れる。

出した時その両手に握られていたのは、黒光りする銃だった。





「さて、と。 聞きたいことがあるんだ。 ・・・お相手願うよ。」





その瞬間、闇の中から何かが襲い掛かってきた・・・。



                                                ☆



「!! おいアキラ! 聞こえたか?!」





「ああ、ちゃんと聞こえてる。 これは戦闘の音だ。 誰かが戦ってる!

 多分あいつらじゃないのか?!」





「だろうな。 とにかく、急いで向かおう。」





そう言葉を交わしながら、2人は走る。 段々と、音が近づいてきた。

そして、不意に今まで走っていた森が途切れた。 目の前に現れたのは少し広い広場のような場所。

その後ろは断崖になっている。 そこで見たのは、2人の仲間の姿と彼等と戦う3人の女達だった・・・。









【あとがき】

遅くなってすいません! そして、また続きました(滝汗)

もうこの話どんだけだよっ?! ってくらい続いてしまっております(汗)

本当はこれで終わらせる予定だったんですが、予想外に長くなってしまいまして。

このままだとこれだけ異常に長くなってしまう所だったので、また話数を増やさせて頂きました。

多分、というか絶対次でこれは終わらせます! そこは宣言!

ということで、次回をお楽しみに!



07.6.8



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