全てが狂い始めたのはいつのことだったか。

光が善。 闇が悪。


そんなものなど、既に存在すらしない。。

大地は血で穢れ、大気には慟哭の雨が降り注ぐ。

希望の光は、まだ見えない―――





Act.1 そして全ては始まった





「本当に、やるのか? 他に方法があるかもしれない。

 早まるのは止めるんだっ!」





闇の中、そう懇願する声が聞こえる。





「今の状況ではこうするしか方法はない。 お前も十分に分かっているだろう? このままでは全てが滅ぶ、と。

 だから呼び出さなければならないんだ。 希望を。

 なに、大丈夫さ。 死んだりはしない。 それだけは言える。

 しかしだからといって、払う代償は分からないがな。 でも死なないことが分かってるだけで十分だ。」





微かに微笑む。 あまりにも穏やかな表情に、もう1人は息を呑む。

こうも人は穏やかに笑うことが出来るのか、と。

自分がどうなるのかも分からないのに―――。





「だが…っ。」





「気にするな。 俺が自分で決めたことだ。

 誰に強要されたわけではない。 自分で決め、自分の意思で行動を起こすんだ。

 例えお前でも、止める権利はない。

 …さあ、早く始めよう。 こうしている間にも―――。」





その言葉を最期に、声が聞こえることはもう無かった。

闇の中、何かが歪む。 それは除除に広がり、そして―――。



                                              ☆



「おい赤也! 先輩が折角迎えに来てやってんだ、早くしろい!」





「ちょっ、先輩早すぎですって! 待って下さいよ!!」





言いながら、荷物を乱暴に詰め込んだ鞄を乱暴に掴む。

もちろんテニスラケットも一緒にだ。 鞄は別にいいが、これだけは絶対に忘れるわけにはいかない。





「早くしろー!」





もうかなり先へと行ってしまたのだろう。 ブン太の声が遠い。

自分から迎えに来たのに置いてくなんてありえねーだろ、と思いながら廊下をダッシュ。

丁度昇降口へと最短距離で行ける階段に差し掛かった時だった。





「赤也っ!! 廊下を走るな!!」





突然の怒鳴り声。 まさかと思い上を見上げると、そこにいたのは鬼のような形相をした真田。

背後からは怒りのオーラが見える。





「げっ!?」





ここで捕まっては最期だと、全速力で走る。 それにさらに背後から怒鳴る真田。

だが、自分で走るなと言っているため追いかけてくることはない。 それをいいことに走る。

それでも背後から聞こえてくる怒鳴り声。

明らかに2階ほど上の階から聞こえてくるそれに、どんだけ声大きいんだよ、と1人小さく突っ込む。

真田副部長、廊下走るのより副部長の声のほうが迷惑だと思いますよ。

全力での逃亡の末、やっとのことで昇降口に辿り着く。 するとそこには既に靴を履いたブン太が待っていた。





「何赤也。 お前真田に何やらかしてんだよ?」





「いや、俺は悪くないですって。 まあ廊下を全力ダッシュしてたのは認めますが。

 でもそれよりも、怒る副部長の声のほうがよっぽど迷惑だと思いません?」





「ははっ。 確かにな。 騒音で訴えられるぜ。」





会話を交わしつつ、赤也は靴を取り出し履く。

トントン、と軽くつま先を叩いてから、傍に放り投げるようにして置いていた荷物を掴む。





「先輩お待たせしましたー。」





「おう。」





再び会話をしながら歩き出す。 目指す先はテニスコート、ではなくとりあえず部室。

だが両方共すぐ傍にあるのだから、向かう先的にはほとんど変わらないのだが。





「そういやあ赤也。 昨日新しいゲーム手に入れたんだよ。

 お前がやりたいって言ってたやつ。」





「ホントっすか?! あれずっとやりたかったんすよ!

 先輩、いつなら空いてます? もー今すぐにでも行ってやりたいっすよ!」




相当やりたかったゲームなのだろう。 目をキラキラと輝かせる赤也。

それにブン太も笑みを浮かべる。





「じゃあ今日の練習終わったらうち来いよ。

 弟達いてうるせーかもしれないけど、それでもいいならな。」





「全然OKっす! それに先輩の弟さん達、めっちゃ可愛いじゃないですか。」





楽しそうに話していると、直ぐに着いた部室。

中に入ろうとしたその時。





「赤也、さっき真田に何したの?」





不意にかけられた声。 振り返るとそこには幸村と蓮二の姿。

何か呆れたような表情をしている。





「へっ? 何でですか?」





「真田の怒鳴り声、俺達の教室にまで響いてきてたんだよ。 赤也ー!って声。

 だから絶対何かやらかしたんだな、って思って。 で、何したの?」





「別に悪いことなんてしてませんって。 ただ廊下を走ってただけっすよ。」





赤也の言葉に幸村と蓮二は軽く溜め息をつく。





「確かに廊下を走ることはよくない。 これは赤也が悪いね。

 でもだからってあんなに大きな声で叫ぶのは…。 俺達恥ずかしかったもん。

 あーまたやってる、って話題になってるし。 これじゃあ部長として色々面子丸つぶれだって。」





「だったら幸村が直接真田に言うしかないだろい? この部内じゃあお前が絶対権力者なんだし。

 真田もお前にだけは頭上がらねーしよ。」





ブン太の言葉に赤也は確かに、と納得する。 いくら真田といえども、幸村にだけは頭が上がらない。

蓮二もうんうん、と頷いている。





「…分かった。 俺から言っておくよ。

 だけど赤也、結局の原因は君だからね。 そこ忘れないでよ。」





そう言うと幸村と蓮二は先に部室へと入って行った。





「結局は俺が何か言われるんすねー。」





「まっ、今回のこれはしょーがねーろ。 っつか、走るとか以前に真田に見つかるのが悪い。」





「えっ?! そこっすか?!」





話していると、今度は仁王と柳生がこちらへ向かって来るのが目に入った。

2人共、赤也を見て溜め息。





「ちょっと先輩、何でいきなり俺見て溜め息つくんすか。」





「いや、つきたくもなるじゃろ。 あんなんがあればなあ。」





「そうです。 さすがの私も今回ばかりは。」





「どうせ真田絡みだろ。 で、今度は何があった?」





ブン太の問いに、2人は互いの顔を見合わせてから口を開く。





「さっきの怒鳴り声、あまりの大きさに先生に捕まったんですよ。

 さすがにそれはいけないだろうって。 そしたら真田君、どうしたと思います?」





「…まさか…。」





「多分そのまさか、当たってます。

 反省するどころか、先生に向かってだったら何故自分達で指導しないのか、とか言ってました。」





柳生の言葉にもう、溜め息というかそんなのしか出ない。

まさか先生にまで説教をかますとは。 あの副部長は一体何だというのだ。





「なんか…すんません。」





さすがにこの事態には赤也も反省するというもの。

自分のせい、とはもう片付けることは出来ない状況になっていたが、それでも発端は自分なのだから。

にしても、まさか廊下を走っただけでこうも大事になるとは。 誰も予想すら出来ない事態ではある。

ふう、と全員が溜め息をついた時だった。





「危ねー、とばっちり喰らうとこだったぜ。」





そう言いながらやって来たのはジャッカル。 セリフだけで分かる。

彼も真田の理不尽の被害に合う所だったのだろう。





「今度はジャッカルか。 で、何されたんだ?」





「今度って、お前等も巻き込まれたのか。

 俺は真田が先生に説教してるとこに丁度遭遇しちまってよ。 先生、まさかの半泣きだったぜ。

 んで、その先生がこっち見て助け求めてんの。 なんとかしてくれって。

 でも俺があの真田をどうにか出来るわけねーじゃねーか。 あそこで止めたら今度は俺が何されるか分かったもんじゃねーよ。

 心の中で先生に謝ってから、全力でそこから逃げたぜ。 あ、もちろん歩いてな。

 あそこで走ったら俺まで説教喰らっちまう。」





ジャッカルのその話に、一同溜め息。

本当に、一体何だというのだろう? この状況だけで言うと、明らかに真田のほうが先生より上。

半泣きにまでさせるとは。





「…とりあえず、部室入るか。 このままここにいてもあれだし。」





「そうですね。 それに真田君がやって来たら色々面倒でしょうし。」





ジャッカルの言葉に柳生が賛成した時だった。





「お前等! そこで何やっとるんだ!!」





背後から聞こえたのは真田の怒鳴り声。 振り返ると、そこには鬼のような形相をした真田がこちらへ向かってやって来る所だった。

全員の顔から血の気が一斉に引く。





「やべえ!」





「とりあえず部室の中に避難じゃ!

 着替えてないこの状況じゃあコートに逃げることもできんからの!」





「仁王君に賛成です! さ、早く。」





いち早く反応した柳生が部室の扉を開く。 そこに飛び込むような形でブン太達が入る。

中に入ってしまえば幸村と蓮二がいる。 特に幸村の力は絶対。

それを頼ってのことだった。 やはり最強なのは彼。





「先輩! 置いてかないで下さいよ!」





彼等の後に続き、赤也も部室に入ろうとする。

だが、その時だった!





『白羽は、立てられた―――。』





不意に頭に響いた言葉。 誰の声なのか、どういった意味なのか理解する間もなかった。

突如として光り始めた自分の足元。

目を落とすと、見たこともないような文様が浮かび上がり、それが眩い光を放っていた。

―――魔法陣。

そんな言葉が頭に浮かんだ。 よくゲームなので見るものに、それはよく似ていた。

複雑な文様を刻んだそれが、更に光を増す。





「赤也!!」





「赤也君!!」





背後の異変に気付いたのか、部室に入った仁王達が飛び出し近づこうとする。

しかし…。





「?! 何じゃ?! 近づけん!」





何か見えない壁が阻んでいるかのように、ある一定の距離以上赤也に近づくことが出来ない。

それは逆の方向から来た真田も同じようだった。





「赤也!!」





「先輩!!」





必死に伸ばす手は、誰に届くこともない。

何かを掴もうと足掻くが、それすらも無意味だった。

光が更に強くなる。 白一色に塗りつぶされる視界。 先輩達の名を叫んでいるであろう自分の声さえも、聞こえない。

全てが白に覆いつくされる。 そして赤也は、次第に意識を失っていった―――。





―――さあ、全ては動き始めた。

待ち望むは一体何か。

落ちる、堕ちる、墜ちる。

ひらひら、ひらひら。

空から舞い散る羽根のように―――









【あとがき】

さあ! 遂に連載開始です。

Reversing world 『反転世界』という意味です。

タイトルの通り、今回も中々ぶっ飛んだ内容のパラレルになる予定です。

ここはまだ序章中の序章。

物語は動き始めたばかりです。

どこまで続くか分かりませんが、完結を目指して全力で駆け抜けて行こうと思います。

どうぞ最期までお付き合い下さいませ―――



08.4.15



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