枯れ果てた地。

見たことのない景色。

知っているようで、知らぬ人々。

そして襲いくる―――





Act.2 見知らぬ世界





「うっ…。」





呻き声を上げながら、ゆっくりと身を起こす。 体の節々が痛む。

意識をスッキリさせるために軽く頭を振り、そっと目を開く。





「ここ、どこだ…?」





目を開けて最初に飛び込んできたのは、荒れ果てた地。 周囲に存在するのはゴツゴツとした岩や、風に舞う土のみ。

茶色一色に覆われたその地には、緑の欠片もない。 更には、生き物の存在も感じられなかった。

完全に、死んだ土地。

そう感じざるを得なかった。





「俺、確かブン太先輩達と喋ってて、柳さん達に怒られて…。」





順々に、頭の中を整理していく。

とりあえず廊下を走っていたのを真田に見つかって、逃げようと全力で走った。

かろうじて逃げ延びて、柳さんとか仁王先輩達と喋って。 そしたら真田副部長がやって来て。

万事休す。 こうなったら頼みの綱は部長の幸村だけ。

そう思って部室に入ろうとした時に…。





「そうだ! あの光!!」





自分を覆いこんだ眩い光。 視界が真っ白になると同時に意識を失った。

そして目覚めてみれば見知らぬ場所。 どう考えても、あの光が原因としか思えなかった。





「まさかトリップしたとかじゃねーよなあ…?」





自分で呟いて、ありえないとすぐにその考えを否定する。

自分の住んでいる以外の世界へトリップするなんて、所詮あれはゲームの中のものだ。

現実に起こるなんて、ありえない。





「…とりあえず、動くしかないか。」





とりあえずはここがどこであるのか、把握する必要がある。 ここにいては何も解決はしない。

そう思った赤也はよっこいしょと立ち上がる。 そして、当てもないまま歩き始めた―――





「…いい餌がいるじゃないか。」





その背後に、彼を狙う者がいるなど知らないまま…



                                               ☆



「おっかしーなー。 一体どこ行ったんじゃ?」





「こちらで間違いはないはずなんですが…。 気配もまだ若干残ってますし。」





「じゃな。 早く見つけて始末せえへんと、被害者が出かねん。

 そうなったらまたあいつの雷食らうナリ。」





「ですね。 でもそんなことよりも人命のほうが怒られることよりも重要ですよ。」





「プリ。 そんなこと分かっちょる。 ただそれもあるなーって思っただけじゃ。」





そう会話をしながら歩を進める2人。 と、その時だった。





「いたナリ、あそこじゃ。」





そして一瞬にして消えた―――



                                            ☆



「ホントにここ、一体何処なんだよ…?」





もう恨み言を言うかのような感じで、呟く赤也。

先ほどから結構歩いているはずなのに、荒野の果てが見えない。

周囲には一応緑の森のようなものも見受けられるのだが、着かない。

まるで周囲の見えているものが蜃気楼のようだ、と思う。 これが本当だったら洒落になどならないが。

とにかく、立ち止まっていては埒が明かないということで歩き続けているがそろそろ挫けそう。

そう思い始めていた時だった。





「ん?」





不意に聞こえてきた、バサリという何かが羽ばたく音。 だが、普通の鳥にしては何かがおかしい。

そう、あえていうのなら羽音が大きすぎるのだ。 赤也の知っている鳥は、あんなに大きな羽音を立てない。

不審に思った彼は、ふとその音の方向に目を向ける。 と―――





「んなっ?!」





目に飛び込んできたのは、ありえないものだった。

白い翼を生やした人間―――

『天使』という単語が一瞬頭をよぎる。 あの姿はまさにそれ。 だが…。





「うわっ!!」





空から滑空してきたそれは、突如として赤也に襲い掛かってきたのだ。

間一髪、抜群の反射神経で避ける。 しかし、心臓は緊張のあまりバクバクと五月蝿く鳴っていた。





「ほう、普通の人間にしては中々やるな。」





一発でし仕留められなかったことが以外だったのか、その者は直ぐに襲い掛かってくることはなかった。

静かに赤也の手前数メートルに舞い降りる。 そのお陰で、赤也はそれの姿をマジマジと見ることが出来た。

背に生えた鳥のような翼は、間違いなく天使のもの。 ゲーマーな自分はよくゲームをする。

基本格闘ものばかりで、ロールプレイングをやることはあまりないのだが、それでもよく分かる。

ゲームの中と全く同じ特徴。 だが、ここで赤也は1つ違和感を感じた。 それは、天使の翼。

純白のはずのそれは、どこか赤が混じっているかのような色をしていた。





「お前、一体何もんだ?」





疑問に思いつつも、そう口にする。 すると、その天使はいきなり笑い出したのだ。

本当に、おかしそうに。





「ははははは! 今のこの時代、そんなことを問うものが未だにいたとはな!

 世間知らずにもほどがある。 それとも、あまりの恐怖から逃れるために自身の記憶を抹消したのか?

 まあいい。 教えてやるよ。 俺は捕食者。 そしてお前等人間は…餌だ。」





そう言うが早いか、天使は翼をはためかせて赤也に襲い掛かってきた。

なんとか避けるが、左腕に鋭い痛み。 見やると、そこは何かによって薄く切り裂かれていた。





「いつっ!」





「ほう。 あれも避けるか。 お前本当にやるな。

 だが、お遊びももう終わりだ。 最近ずっと餌にありつけなくてな。 そろそろ終わりだ!」





天使が言った瞬間、自分に向かって襲い来る幾多もの刃。

もうダメだ!と、目を固く瞑った時だった。





「そうはさせません!! 『シールド』!!」





突如した別の声。 襲い来るはずだった痛みがいつまでもしないことを不審に思い、赤也はゆっくりと目を開ける。

そして、そこに飛び込んできたのは―――





「えっ…?」





柔らかな茶色の髪に眼鏡。 そこにいたのはいつも見ている、そしてほんの少し前まで共にいた―――





「柳生…先輩…?」





「貴様、この俺の邪魔をするとは。 だが、所詮はソーシャル。

 戦う力の無い貴様に、この俺を倒すことは出来んわ! そこの人間と共に餌にしてくれる!」





言うが早いか再び襲い掛かってくる天使。

ヒッと短く赤也が呻いた時だった。





「大丈夫ですよ。」





そう穏やかに言う柳生。 言葉の根拠が分からず、困惑していると。





「だーれがこいつを餌にさせるかっちゅーんじゃ。」





また別の声が聞こえてきたかと思った瞬間、響く天使の悲鳴。

見やると、闇に包まれ悶え苦しむ天使の姿がそこにはあった。





「マジ…?」





今度そこにいたのは、眺めの髪をゴムで纏めた銀髪の男。

口元にあるほくろと独特な喋り方が特徴の…。





「仁王先輩…?」





何で2人がここに? そう問おうとした時だった。

苦しみながらも天使は自分を包み込んでいた闇を振り払う。





「くっそ…っ!」





悪態を付き、逃亡するために背の翼を大きく広げる。

そしてあっという間に空に舞い上がった。





「あっ!」





赤也が声を上げるが、2人は酷く穏やかに。





「頼みますよ。」





「ああ。 逃がすわけがなか。」





そう仁王が言った瞬間、バサリという音を立てて彼の背に出現したのは…。





「こんなの…ありかよ…。」





まるで蝙蝠を連想させるかのような漆黒の翼。 そしてそれを大きく羽ばたかせて、空へと舞い上がる。

自分の中でそんな姿の者は、たった1つしか連想出来なかった。

『悪魔』

そんな言葉が頭に思い浮かぶ。 天使と同様、それはゲームで見たものと全く同じだった。





「ギャアアアア!!!」





上がった断末魔に空を見上げると、仁王によって切り裂かれた天使の姿が目に入った。

舞い落ちる羽根と、天使のものであろう血。

頭の中がグルグルと回っている。

自分を襲う天使。 そして助けてくれた柳生と仁王。

しかし、柳生は魔法のようなものを使い、仁王にいたっては背に黒い翼。

もう何がなんだか分からなかった。





「もう、ダメ…。」





考えすぎたのか、はたまた逃避しているのか。

段々と意識が遠くなっていく。 それと一緒に塞がっていく瞼。





「ちょっと! 君!!」





柳生が慌てて駆け寄って来るのが目に入った。

どうか目が覚めたら元の日常でありますように。

そんな願いを込めて、赤也の意識は完全に闇の中へと墜ちていった―――









【あとがき】

うわー。 この段階じゃあ全然わけがわっからなーい!

と、とりあえず柳生と仁王が登場です。 でも、ね。

いきなり天使と悪魔です。 ええ、全く意味が分かりませんね(汗)

多分次回くらいには分かるのではないかと。 多分(をい)

早く次書くぞー!



08.5.14



BACK ←  → NEXT










SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送