人形。 それには不思議な力があるといいます。

しかし、込められているのは必ずしもいい力ばかりではありません。

呪い、憎悪、悲しみ。 これらは人形を突き動かす力となります。

これから語るのは、1体の人形にまつわる、悲しい物語。

最後まで、ごゆっくりお聞きください・・・。





Doll  完全版・1





「何だ? これは」





ある日、とある包みが跡部のもとに届いた。

それは、50センチはあろうかという、少し大きな木箱。 差出人は不明。

朝早く、メイドが外に出た時、玄関にあるのを見つけたという。





「これは・・・。 坊ちゃま、日本人形でございます。

 しかもあの有名な人形師『叶北冥』(かのうほくめい)のものです。

 これは、保護しておいたほうがよいのでは?」





執事はそう言って跡部を見た。





「そうだな。 貴重なものだ。 丁寧に扱えよ。 とりあえず俺様の部屋にでも飾っておけ。」





「かしこまりました。」





・・・こうして、人形は跡部のもとにやってきた。

しかし、この時誰が知っていただろうか? これから起こることを・・・。



                  ★



『叶北冥』。 その名はとても有名だ。

稀代の人形師と呼ばれ、彼の作品はとても高く評価されていた。

しかし、ある時彼は謎の失踪を遂げる。 奇妙なことに失踪後、彼の作った人形が消えた。

そのため、彼の人形の価値はさらに上がった。 

そんな貴重なものが、跡部のもとに届いた。 これは一体何を意味するのであろうか?



                  ★




「・・・そういえば、昨日日本人形がうちに届いたんだよ。」





人形が届いた次の日のこと、跡部は部室でそうポツリと呟いた。

跡部がこう言った時、部活はすでに終わり、レギュラーは全員着替えている所だった。

(ちなみに、宍戸も滝もレギュラーにいるという設定になっています。)





「失礼します。 跡部部長、日誌書き終わりました。」





丁度その時、日吉が部室に入ってきた。





「ああ、ご苦労だったな。 その机の上に置いておいてくれ。」





「はい。」





跡部に言われ、日吉は日誌を置いた。 そして、おもむろに口を開いた。





「あの、今日本人形って言ってましたよね?」





日吉がそう言ったことに、全員は少し驚いていた。 それもそうであろう。

日吉が自分から話に入っていくことなど滅多にないのだから。





「ああ、言っていたが。 それがどうかしたのか?」





「いえ、日本人形については俺も多少興味があるので。

 よかったら一緒に聞かせてもらっていいですか?」





「ああ、いいぜ。」





そう言って跡部は再び話始めた。





「昨日うちに差出人不明の人形が届いたんだよ。 

 少し気味が悪かったんだがな、刻まれていた製作者の名が有名なのだったからうちで保護することにしたんだ。」





「先輩・・・。 その製作者の名は?」





そう、おずおずと聞いてきたのは日吉。 そんな彼に、跡部は答えた。





「・・・叶北冥だ。 何だ、知っているのか?」





跡部はそう問いかけた。 すると日吉は少し興奮気味に答えた。





「知っていますよ。 すごい有名な人じゃないですか。

稀代の人形師であり、ある時謎の失踪を遂げた人物。

彼の作品はなぜかほとんど残っていないっていう。 幻の存在ですよ。」





みんなはその話を、驚いたように聞いていた。 それもそうだ。

普段はそんなにしゃべらない日吉がいつになくしゃべっているのだから。





「日吉、お前意外な趣味があるんだな。」





そうポツリと呟いたのは岳人。





「俺の祖母が好きで集めてて、小さい頃からずっと話を聞かされてきたんです。 

 ところで跡部部長、その人形、いつでもいいですから見に行かせてもらっていいですか?」





日吉の再び以外な発言。 今日の日吉はどうやらかなり調子がいいようだ。





「ああ、いいぜ別に。 そうだ、お前らも来いよ。 滅多に見れるもんじゃねーぜ。

  あんな珍しい人形。 そうだな、思い立ったが吉日。 今から来いよ。」





そう言う跡部の誘いを断るのも悪かったので、全員は着替えて跡部の家へと向かった。

この時すでに、カウントダウンは始まっていた・・・。



                     ★



跡部の家につくと、全員は早速彼の部屋に通された。

さすがはあの跡部の家、その部屋もとんでもなく広くてゴージャスな造りになっていた。





「・・・いつ来てもすごい部屋やな。」





「そうか? そんな大したことねーよ。 ・・・これがその人形だ。」





そう言いながら跡部が持ってきたのは、ガラスの箱に入った日本人形だった。

その人形は、真紅の着物を着ていて、とても整った顔をしている美しい人形だった。





「へえ〜、きれいな人形だねえ。」





そう言ったのは、さっきまで寝ていたはずのジロー。





「おっ、珍しいな。 ジローが起きとるなんて。」





「まあね。 珍しい物なんて滅多に見れないし。」





そう言ってジローはまじまじと人形を見つめていた。 だがこの時、誰が気付いただろうか? 

ジローがとても鋭い目で人形を見つめていたなどと・・・。





「ところで跡部。 この人形って何て名前なんだ?」





そう聞いたのは岳人。 

その言葉に、みんなも少し気になっていたのか、跡部のほうを向いた。





「ああ、こいつの名前は『黒曜』っていうんだ。 こいつが入っていた箱に書いてあった。」





「へえ。 こいつそんな名前なのか。 日本人形はうちにはないからな。

 なあ、人形って全部名前がついているのか?」





宍戸がそう尋ねると、跡部が言うよりも早く日吉が言った。





「ついているのがほとんどですよ。 特に由緒正しいものなら必ず。 

 人形にはよく作った者の思いが込められているっていいますよね。 

 名前も、その込められたものの1つだと思いますよ。」





「へえー。 そういうものなのか。 あ・・・。」





宍戸が見た先、日吉の後ろには、全身から青い炎をほとばしらせている跡部が・・・。





「・・・よくも俺様のセリフを盗ってくれたな・・・。」





「ふん。 下克上ですよ!!」





(!! こっ、こいつ!!)





・・・その後、怒る跡部をなだめるのに相当な時間を要した。 

その後、全員は帰っていったが、ジローだけは何回も跡部の家を振り返りながら歩いていた・・・。





『久しぶりの獲物だ。 さあ、血祭りの始まりだ!!』





闇の中から、不気味な声が響いていた・・・。









【あとがき】

地元のイベで発行した本の完全版です。

結構長いので数話になると思います。

何でイベで出したのもホラーなんでしょうね?

まあ、書きたかったからいいんですが。

続きは早めに更新します。


05.9.28



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