俺は誰であろうとも見捨てたりなんかしません。
特に、あなたなら------。
Doll 完全版・番外編 『あなたとなら』
あなたは俺達にこう言った。
『無事に逃げ延びろよ!』
と。 忍足先輩は、その言葉に甘えたけど、俺は、俺は・・・。
「すいません。 俺、やっぱり宍戸さんのところに戻ります。
あのまま見殺しになんか出来ません!!」
「待て! 待つんや長太郎!!」
忍足先輩のその言葉は俺の耳には入ってこなかった。
早く、一刻も早く、宍戸さんのもとへ。
日吉や樺地みたく、あなたを失いたくない。
そう思って、俺は走った。 向かうは、さっき先輩と別れた位牌安置室。
★
「くっそ!! 何でこんなにいるんだよっ!!」
そう怒鳴りながらも、宍戸は手にした小刀をぶんと振った。
それは、1体の人形を見事に捕らえ、打ち砕いた。
しかし、人形は尽きることなく宍戸を襲う。
忍足達を逃がしてから、宍戸は1人で戦っていた。
人形をこの場所に足止めするために。
自分を犠牲にしても、皆を逃がすために。
「いっつ!!」
宍戸の右腕を、激痛が走った。
見ると、ぱっくりと裂けて血が流れていた。
彼の先には、血のついた小刀を持った人形がうっすらと笑いながら漂っていた。
(くっそ、このままじゃホントにマズイな。)
自分の負った傷と人形の群れを見ながら、宍戸はそう思った。
利き手じゃない左腕一本だけじゃ満足になど戦えない。
しかし、それでも出来る限り戦い抜こうと、小刀を構えなおしたその時!!
「宍戸さん!!」
突如聞こえたのは、さっき分かれたはずの後輩の声。
とっさに振り向くと、長太郎が自分のほうに向かって走ってくるのが見えた。
★
(宍戸さんを絶対に助けて、2人で皆のところに戻るんだ!!)
長太郎は、そう決心していた。
それは、ここに戻ると決めた時に決心していたこと。
宍戸は、彼にとって特別な存在だった。
意思の強い彼が好きだった。 何にも負けない彼が好きだった。
最初は尊敬だったのかもしれない。
しかし、彼のレギュラー復帰のための練習に付き合ってから、その気持ちはだんだん変わっていった。
自分は、この先輩が本当に好きなんだと。 しかし、この気持ちを伝えるつもりはない。
気持ちを伝えたら彼はきっと困ってしまうから。
長太郎は決めていたのだ。 気持ちを伝えなくても、ずっと彼の傍にいようと。
ずっと彼の味方であろうと-----。
「バカ野郎!! 何で戻ってきたんだ!!」
人形をかわし、自分の脇に滑り込んできた長太郎に、宍戸はそう怒鳴りつけた。
怒鳴られた本人の長太郎は、答えた。
「やっぱり宍戸さんを見捨てることが出来なかったんです。」
「俺だけで大丈夫だってんだろ。 でなきゃ1人でここに残ったりなんかしねーよ。」
「嘘です。」
長太郎の目が、宍戸の目を捕らえた。
それに、宍戸は目を逸らすことが出来なかった。
「宍戸さんは、皆がこれ以上傷ついて欲しくなかっただけです。
そのためなら自分が傷ついてもいいと思ったから、ここに残ったんです。」
長太郎のその言葉に、宍戸はとっさに返すことが出来なかった。
しかし、ほんの少しの間をあけて、彼は言った。
「ああ、そうだよ。 俺はこれ以上誰にも死んでほしくなんかないんだ!
だから残ったんだ! 自分ならどうなったっていいからな。」
パアンッッ!
宍戸がそう言った瞬間、彼の頬を痛みが襲った。
恐る恐る前を見ると、そこには手を上げたままで、目に涙を溜めた長太郎がいた。
「自分なら死んでいいなんて言わないで下さい!
誰にも死んでほしくないと思うのは皆一緒なんです!
俺、宍戸さんが死んだら悲しみますよ。 皆、皆悲しみます。
だから、死んでもいいなんて言わないで下さい!!」
長太郎はそう怒鳴った。 その言葉に、宍戸ははっとした。
そうだ、自分にも死んだら悲しんでくれる人がいたのだ。
死んでもいいと言った自分がバカだった。
「・・・ごめんな、長太郎。 俺が間違ってた。
そうだな。 死んでいい奴なんていないよな。 よし、目的変更だ!
死んでもこいつらを全部倒すんじゃなくて、生きてあいつらと合流するんだ!!
・・・お前のおかげで俺はこれに気付くことが出来た。 本当に感謝するぜ。
よし! 行くぞ!!」
「はいっ!!」
長太郎は涙をぬぐい、そう答えた。
もう、心配することはない。 もう大丈夫だ。
宍戸は必ず生きてここを出るだろう。 そして、自分も。
敵はまだまだたくさんいる。 しかし、それに絶望することはない。
先に見えるのは、希望の光。 それは、決して消えることはないだろう。
長太郎と宍戸。 2人が生きることをあきらめない限りは-----。
【あとがき】
Doll本編を更新し終わってから、どういても宍戸とチョタが2人でいた時の出来事を書きたくて書いてしまいました!
・・・なんか、とてつもなく空いてしまっていますが。 そして、休止中に最後まで書きましたが・・・。
あと、間のことといいながら、何故か他の皆と合流していません(汗)
なんか、書いてたらこんな風になっちゃって・・・。 許してください!!
お詫びと言ってはなんですが、この先の続きなんぞを。
このあと、2人は無事に人形達を破壊し、本堂へと向かいます。
そして、本堂に辿り着くと、そこには黒曜を倒し、喜ぶ忍足たちの姿が-----。
・・・って感じです。 なんか、変でしょうがないです(汗)
でも、とりあえず書きたいこと書けたからいいや!(えっ?!)
最後になりましたが、こんな長い話を今まで読んでいただき、本当にありがとうございました!
いろいろとお見苦しい所もありましたが、その辺はどうかスルーしてくれるとうれしいです。
では、この辺で失礼させていただきます。
05.11.27
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