仲間を想う、その気持ち。

それは、憎悪をも打ち砕く------。





Doll  完全版・4





地下へと降りていった3人は、そこで驚愕の光景を目の当たりにした。

それは、無残に砕け散った人形の山。





『やられた・・・。』





日吉がそう呟く。 黒曜にしてやられた。 

あの人形は、自分の脅威になるものを全て破壊していたのだ。

希望はもろくも崩れ去った・・・。





「どうすればいいんや・・・。」





3人を絶望感が襲った。 と、その時彼らの前にぼうっと現れたものが。





「・・・あんた、一体誰や?」





力のない声で忍足たちが問いかけた。 次の瞬間、その霊の言葉に、全員は目を見開いた。





『私の名は、叶北冥。 ・・・黒曜を作った者だ。』





その言葉を聞いた瞬間、忍足は北冥につかみかかる勢いで怒鳴った。





「あっ、あんたが北冥?! 呪いの人形を作った本人がなしてここにいる? 

 それに、よく出てこれたもんやな! 

 お前の作った人形のせいで、俺らは2人も仲間を失ってしもうたやないか!!」





『先輩! 落ち着いてください!! 

 ・・・いいんです。 もう。 確かに俺はまだ生きたかったです。 

 でも、先輩達が生きてくれるのなら・・・。 

 だから、この人の話を聞きましょう。 きっとあいつを倒すのに役立ちますから。』





日吉に諭され、忍足は少し落ち着きを取り戻した。





「そうやな・・・。 すまんかったな。 取り乱して。 もう大丈夫や。

 ・・・さあて、話してもらおうやないの。」





忍足はそう言って、キッと北冥を見た。 心配そうに見守っていた長太郎も、じっと彼のほうを見た。

北冥は頭を垂れ、語りだした。





『・・・すまない。 本当にすまない。 私があんな物を作ったために・・・。 

 もとはといえば、私があそこで村人を憎まなければよかったのだ。 

 騙されても、我慢していれば。

 もし憎んでも、人形を作らなければよかったのだ。 人形を作らなければ・・・。

 全て私が悪い・・・。 私が悪いのだ。

 ・・・あの黒曜だが、今はもう私の憎悪では動いていない。 

 自分に染み付いた人間に対する憎悪で動いているんだ。 他の人形は、あいつが操っているにすぎない。 

 あいつを破壊してくれ。 それで、全てが終わる。』





北冥は、その目にうっすらと涙を浮かべながらそう言った。

そして彼は、最後にこういい残して、消えた・・・。





『本当は私が壊したい。 しかし、私には力がない。 

 だからお願いだ。 君達に頼ませてくれ。 ずうずうしいのはわかっている。 でも、君達に頼むしかないんだ。 

 黒曜を壊せば、あいつに殺された全ての魂は救われる。 どうか、頼む・・・。』



                                      ★



北冥の消えた地下室で、3人は黙って考えていた。 どうやって黒曜を倒すかを・・・。

頼みの綱であった人形はもういない。 頼れるものは他にないのか?と。

だが、扉の壊れる音と、岳人たちの悲鳴で、3人の意識は現実に引き戻された。





「なっ、何ですか?!」





その音で、3人は慌てて上へと戻った。 

するとそこには、足に怪我をして動けない岳人と、なだれ込んできた人形から必死に岳人をかばう宍戸が。





「宍戸さん! 先輩!!」





長太郎がそう叫ぶと、宍戸は長太郎に向かって怒鳴った。





「何やってんだ! 岳人連れてとっとと逃げろ!! ここにいたら全員やられるぞ!!」





「でも! 宍戸さんが!!」





「俺はいいから早く! 日吉、そこにいるんだろ? こいつら案内してやってくれ!!」





『わかりました!』





宍戸には聞こえない声で、日吉は叫ぶ。 しかし、彼には心が通じたようだった。

軽く頷き、彼は人形が落とした小刀を右手で拾い上げ、言った。





「無事に逃げ延びろよ!!」





彼は決心していたのだ。 自分の命を捨ててもこいつらは逃がそうと。

そんな宍戸の決心を感じ取ったのか、忍足は岳人のもとへ走り、彼を背負った。





「宍戸・・・死ぬんやないで! 行くで! 日吉、長太郎!!」





そう言って走り出した。





『こっちです!』





日吉が先を行く。 長太郎は何度も後ろを振り返りながら走った。

しかし、少し行ったところで、足を止めた。





「長太郎・・・?」





「すいません。 俺、やっぱり宍戸さんのところに戻ります。

 あのまま見殺しになんか出来ません!!」





「待て! 待つんや長太郎!!」





忍足の制止を振り切り、長太郎はその場から走り去った。

宍戸を、大切な人を守るため。 大切なものを失わないようにするため・・・。



                  ★



その頃、本堂では、ジローと黒曜が死闘を繰り広げていた。 

ジローと黒曜は互いに小刀を握り締め、相手の隙を狙っていた。 

その様子を跡部はハラハラしながら見守っていた。





(くっそ。 このままじゃらちが明かない。 どうすれば・・・。)





ジローは考えていた。 黒曜を倒す方法を。 だが・・・。





「!!!」





ジローは、足元にあった段差でバランスを崩した。 その隙を黒曜は見逃さなかった。





「ジロー!!」





跡部がそう叫び、ジローはやられる覚悟をした。 しかし、痛みは襲ってこない。





「樺地・・・。」





ジローを助けてくれたのは日吉と別れ、こっちに来た樺地だった。 





『間に合って、よかったです・・・。』





そう言いながらも、彼は必死に黒曜を抑えていた。 だが・・・。





『ふっ、甘いわ! これで我を止められたと思っているのか?!』





その瞬間、2体の人形が現れ、跡部に襲い掛かった。 その手には、鋭く光る小刀。 

跡部は避けようとしなかった。 後ろにいた滝を守るために。

それに彼は責任を感じていたのだ。

自分が黒曜を手元に置かなけらばこんなことは起こらなかったと。

自分が死んで、その罪を償えるなんて思っていない。

でもせめて、その隙にジロー達が逃げてくれればと。

だが、いつまでたっても痛みは襲ってこない。 なぜならその前には・・・。





「じっ、ジロー?!」





跡部の前に立ちふさがり、その攻撃を止めたのはジローだった。 

その体には2本の小刀が突き刺さり、血がだらだらと流れ続けていた。 彼はささった刀を引き抜いた。

彼は、そんな状態で、自分を襲った人形をその小刀の一振りで破壊した。 

そして、口から大量の血を吐き、その場に倒れこんだ。





「ジロー! おい、しっかりしろ!!」





跡部が必死にジローに呼びかける。 もう仲間を失うのは嫌だ! 嫌だ!!と。





(なんか、景ちゃんの声が遠くから聞こえる・・・。 俺ももう、ダメみたい・・・。)





ジローは閉じていた瞳をゆっくりと開き、言った。





「け・・・景ちゃん・・・。 黒曜を・・・あいつを・・・壊して。 そうすれば・・・皆死なないですむ。 

 俺はもう・・・ダメ・・・みたい。 だから・・・俺のかわりにあいつ・・・を・・・。」





「分かった。 分かったから! もうしゃべるな!!」





「・・・ありが・・・とう・・・。」





そう言って、ジローは再び目を閉じた。





『くく。 死んだか?』





『跡部さん・・・。』





黒曜が楽しそうに笑い、樺地は心配そうに呟いた。 すると、跡部は、ゆっくりと立ち上がった。 

その両手には、さっきまでジローの体に突き刺さっていた小刀が握られていた・・・。





「・・・許さねえ。」





いつもより低い声で、跡部は言った。

その顔は怒りで歪み、全身を憎悪が覆っていた。





「許さねえ!」





その瞬間、跡部は黒曜にとびかかった。



                   ★



・・・日吉と忍足は本堂へと走っていた。 岳人を背負い、跡部達と合流するため。

そして、やっと本堂が見えてきた時、中から争う音が!





「跡部!!」





本堂に飛び込んだ瞬間、忍足達は声を失った。 

そこには、両手に小刀を握り、血だらけになって戦う跡部の姿。 

そして、床に倒れ、血に染まっている滝とジローの姿があった。





「なっ・・・何や。 一体何があったんや・・・?」





忍足達は、ただ見ているしか出来なかった・・・。



                   ★



・・・跡部の中には、憎しみしかなかった。 人形に対する憎しみしか。 

このままでは跡部は北冥と同じになってしまう。 そう感じさせたその時、彼に声が聞こえた。





『景ちゃん、憎しみに身を委ねちゃだめ・・・。 憎しみは自分の身を滅ぼす。 

 復讐なんて考えちゃいけないんだよ。 そんなのに頼んなくても、景ちゃんは強いんだから・・・。』





「!! ・・・ジロー・・・?」





跡部の目がもとに戻った。





(そうか・・・。 復讐に捕らわれなくてもいいんだな・・・。)





彼は再び小刀を握りなおした。 そして、再び黒曜に飛び掛った。 

急に動きの変わった跡部に、黒曜は押され始めた。 そして、あせった黒曜の隙を、跡部は見逃さなかった。





『うぎゃああああああ――――――!!』





跡部の一撃が遂に黒曜を打ち砕いた。 ・・・ついにやったのだ。

その瞬間、全ての人形が動きを止めた。





「よっしゃ! よっしゃあ!! 跡部、やったで! 黒曜を倒した!!」





忍足は喜んだ。 これで、もう誰もいなくならないと。 

と、岳人と、重傷を負っている滝も、ゆっくりと目を開けた。 そして、事態が分かると、にっこりと笑った。 

長太郎と宍戸も走ってきた。 2人共、結構怪我をしていたが、無事だった。

そんな様子を日吉と樺地は哀しそうに見ていた・・・。





『・・・樺地・・・そろそろ逝かなきゃね・・・。』





『ウス・・・。』





2人は、ジローのそばにたたずむ跡部のところにやってきた。 そして・・・。





『先輩・・・そろそろ、逝きます・・・。』





「えっ・・・? もう・・・逝くんか?」





『はい。 いつまでもいるわけにはいきませんから。 ・・・逝きましょう。 ・・・芥川先輩。』





「「えっ・・・?」」





その言葉に、全員は息を呑んだ。 何でジローが? 何で・・・?

だが、そこには、透き通った体のジローが浮いてた。





『・・・ごめんね皆。 俺、生きられなかった。 でも、俺は幸せだったよ。 

 皆と会えて、一緒にテニスが出来て。 本当に幸せだった。 

 ・・・景ちゃん、自分を責めないでね。 

 これは俺が決めて行動した結果なんだから。 景ちゃんのせいじゃない。

 ・・・生きて。 俺の分も。 それで幸せになってね!!』





ジローの目からは、とめどなく涙が流れていた。 

他の皆からも。 跡部は、1人背を向けて、体を震わせていた。 

そして、ジロー達の体は徐々に薄くなっていった・・・。





『ありがとう・・・ございました。』





『下克上できなくて残念でしたよ。 ありがとうございました。』





『さよならは言わないから。 また、会おうね! 皆!! 本当に、本当にありがとう!!』





「逝くな! 逝かないでくれ!!」





跡部の手がのばされた。 しかし、その手は無常にも空を切った。

仲間が消えたその場所で、跡部は声を出して泣いた。 他の仲間も、泣いていた。

ごめんと、ありがとう。 そして、また会おうという、思いを込めて・・・。





『・・・悲しい時は思いっきり泣いて。 でも、そのあとは声をたてて笑ってね・・・』









【あとがき】

・・・いかがでしたでしょうか?

かなり頑張って書いたんです。 これ。

結果的にジローが死んでしまいましたけど、自分的にはこの話に満足しています。

仲間を思うことの大切さが、これで少しは表現できたかな?と思います。

最後に、ここまで読んでいただいてありがとうございました。

少し補足で番外編を書くかもしれませんが、その時はぜひとも読んでやってください。

では。



05.10.9



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