たとえこの命消えようと、たとえお前に忘れ去られようと。

それでも俺はお前を必ず救ってやる・・・。





EVIDENCE 〜証〜  後編





「うっ・・・。」





軽いうめき声をあげて、柳生は目を覚ます。

視界がぼやけている。 どうやら自分は、どこかの部屋のベッドに寝ているようだ。

何故、ここに寝ているのだろう?

考えがそこにいきついた瞬間、彼はばっと起き上がった。





そうだ、何故自分がここにいるのだ?!

自分はさっき屋上から飛び降りたはずではないか?!





そう考えていると、部屋のドアがガチャリという音をたてて開いた。

そこから現れたのは、銀の髪をした1人の男だった。



                                        ☆



「よお。 目を覚ましたか。 無事でよかったな。」





銀髪の男はそう言った。

しかし、その言葉は柳生の耳には入らない。 彼は、男に問うた。





「何故、私がここにいるのですか?!」





その言葉に答えるべく、男は部屋に完全に入ってドアを閉めた。

そして、手に持っていた湯気のたつ紅茶を柳生に薦め、自分もカップを1つ取った。

ベッドの傍にあった椅子に座り、紅茶を一口すすると男は口を開いた。





「俺がお前を助けたからじゃよ。 危なかったな。

 遅れていたらお前、死んでいたぜよ。」





「・・・そうだったんですか・・・。 でも、あのまま死なせてくれればよかったのに・・・。」





「お前はアホか?!」





突如、男は怒鳴った。 それに驚く柳生。





「死ぬなんてそんな簡単に言うな!

 命はひとつしかないんじゃ。 自分で絶つな!!」





そう怒鳴ると、男は手を額にあててはーっと息を吐くと、今度は声を落ち着かせて言った。





「・・・怒鳴ってすまん。 だけど、自分から死のうなんてするな。

 お前のことを大切に思っっといてくれる奴がいるじゃろう? そいつのためにも、死んじゃいけん。」





「そんな人、私には・・・。」





「いないわけないぜよ。 ここにちゃーんといる。」





その言葉に、柳生は顔を上げた。

そこには、にこにこと笑う銀髪の男。





「あなたが・・・?」





「そうじゃ。 俺がお前のことを思ってる奴じゃ。

 俺のためにも、お前は死んじゃいけん。 おっと、名前言ってなかったな。

 俺は仁王じゃ。 仁王雅治。 お前さんは?」





「柳生・・・比呂士です。」





「そうか、柳生か。 俺が傍にいてやるから。

 だからお前はいなくなったらあかんぜよ。 ほい、約束の握手。」





そう言って仁王は右手を差し出した。

それを柳生は握り返し、彼に笑顔を向けて言った。





「はい。 よろしく、お願いします。」





窓から差し込む光は、弱弱しくも優しく2人を包み込んだ・・・。



                                         ☆



それから、2人の生活が始まった。

仁王といるようになってから、柳生はよく笑うようになった。

だが、体の調子は相変わらず悪いようだった。 そしてある時・・・。





「柳生!!」





遂に彼が血を吐いて倒れたのだ。

病院のベッドの上で死んだように眠る柳生。

その顔を見ながら、仁王は何かを決心したかのようにその場から消え去った・・・。



                                          ☆



「・・・考えが変わったの?」





真っ白な空間で、幸村はそう声をかける。

その背には、いつかの仁王にもあったような純白の羽があった。





「いや・・・。 今日はお前さんに別れを告げに来たんじゃ。」





彼の後ろに立つのは、仁王。

彼の背中にも羽はあったが、その色は純白ではなく、むしろ灰色に近かった。

そして幸村のと違い、羽がかなり抜け落ちていた。





「何で?!」





幸村が振り返り、そう怒鳴る。

その目には、涙が溜まっているようだった。





「何であんな人間なんかを助けようとするんだい?

 そんなことをしたら、君は確実に命を落とすって分かっているのに。

 現に、すでに君の羽は人間界の毒のせいで抜けてきているんだよ?!

 今、あの人間から手をひかないと、君は・・・。」





「そんなの分かっちょる。」





「じゃあ、何で?」





「俺は、柳生のことが好きなんじゃよ。」





仁王は、そうはっきりと言った。

その顔には何の迷いも、死への恐怖すらなかった。





「命よりも大事だっていうの?」





「ああ、そうじゃ。 でなきゃ俺はこんなことはせえへん。

 たぶん、今回でここに戻ってこれるのは最後じゃ。 次はきっとそんな力はないだろうからな。

 だからここに来たんじゃ。 ずっと、それこそ何百年も一緒にいてくれたお前に一言礼を言おうと思ってな。

 今までありがとな。 お前と出会えて、よかったぜよ。」





「そんなこと・・・そんなこと言うならずっとここにいてよ!

 君がいなくなったら、俺はこの世界に1人きりじゃないか?!」





「・・・すまん・・・。 怨むなら怨んでくれ。 悪いのはこの俺じゃ。

 だけど、柳生だけは怨むなよ。 それとあと、怨みすぎて堕天なんてしないでくれよ。

 ・・・じゃあな!」





そう言った瞬間、仁王は彼に背を向け、その場から消え去った。

そこには涙を流し、哀しみにくれる幸村のすがたがあるだけだった・・・。



                                        ☆



「・・・仁王・・・君・・・?」





「目覚ましたか。 よかった。 お前さん、急に倒れたんじゃ。

 心配したんだぞ・・・。」





そう言って、仁王は今までずっと握っていた柳生の手に自分の顔を伏せた。

その顔を見ながら、柳生は言った。





「ごめんなさい。 心配かけて。 でも、ありがとうございます・・・。」





柳生には見えない仁王の背の羽から、また1枚、羽が抜けて地面に舞い落ちた・・・。



                                         ☆



・・・その日に倒れてから、柳生の調子はなぜかずんずんよくなっていった。

医者に当初言われていた残り寿命も越し、彼は病を克服していっていた。

だが・・・。





「がはっ!」





だがそのかわり、仁王の様子はずんずんと悪くなっていった。

毎夜、柳生の寝たあとに血を吐き、その背の羽は絶えることなく抜け落ち続けていた。





(もう・・・そろそろか・・・。)





鏡を見ながら、仁王は1人そう思う。

彼は自分の命を少しずつ柳生に分け与えていたのだった。

だから柳生の病は治癒していき、逆に仁王は弱っていっていたのだった。





(・・・たぶん、あと1週間が限界じゃろうな。)





自分の羽を見ながら、彼はそう思う。

もはや自分の命が尽き掛けているのは明らかだった。 だが、彼は満足だった。

自分が惚れた者の命を助けて死ねるのだから。





(じゃけど、柳生を泣かせるじゃろうな・・・。)





そう思う。 優しい彼のことだ。 絶対に泣くだろう。





(じゃが、それでも・・・。)





と、仁王は思う。 それでも、彼が生きていてくれるのならいいと・・・。



                                         ☆



・・・瞬く間に1週間は過ぎていった。

仁王の体は、もはや立っているので精一杯だった。

そして遂に最後だと思った彼は、柳生に出かけてくると言って、部屋を出た。

その時。





「さらばじゃ・・・柳生。 愛しとおよ・・・。」





そう、小さく小さく呟いた。 その聞こえないはずの言葉が、柳生の耳に届いた。





「仁王君?!」





慌てて自分も部屋を出る。

だが、そこにはすでに彼の姿はない。

不安に駆られた柳生は走り出した。 根拠はない。 しかし、あそこに彼がいる気がして。

自分が飛び降りようとした、あのビルの屋上に・・・。



                                         ☆



・・・屋上の淵に立ち、仁王は下を見る。

その下には、緑の草の生える空き地があった。





(これで最後か・・・。)





そう思う。 柳生を1人にするのは心配だが、今の自分では彼の傍にいてやることは出来ない。

大丈夫だ。 彼なら。

そう思い、仁王は足を踏み出そうとした。 だが、その時!!





「仁王君!!」





突然、本当はしないはずの柳生の声。

驚いて振り返る。 そこには、息の荒い柳生が立っていた。





「柳生・・・何で・・・?」





「あなたがいなくなるのは嫌です! ずっと、ずっと私の傍にいてください!」





そう柳生は叫ぶ。 その目には、涙が溜まっていた。





「・・・もう出来ないんじゃ。 俺には。

 俺はもう死ぬんじゃよ。 それに・・・それに俺は人間なんかじゃない。」





そう言うと、仁王の背にもうほとんど羽毛のなくなった羽が現れた。





「そんなの・・・そんなの最初から知っていました。

 あなたが、ベンチに座る私の横にいてくれた時から。」





その言葉に、仁王は驚いた。





「俺の姿が見えとったんか?!」





「少しだけ。 私は思ったんです。 ああ、こんなキレイな人と一緒にいれたらと。

 でも、無理だと分かってた。 私には時間がなかったから。

 でも、あの日。 あなたは私の前に現れてくれた。 私の傍にいてくれると言ってくれた。

 何でいなくなろうといているんです?! 約束を破るんですか?!」





「そうだったんか・・・。 ごめんな・・・。

 俺にはもう時間がないんじゃよ。 人間界の空気は俺にとっては毒なんじゃ。

 もう羽がなくなりかけとる。 これが無くなったら、俺は死ぬ。」





「方法は、無いんですか・・・?」





「無い。 死の淵に立った天使はもう二度と助からない。

 ・・・なあ、柳生。 最後にお願いがあるんじゃ。」





「・・・なんですか?」





「俺を抱きしめてくれんか?」





仁王がそう言うと、柳生は彼の傍に行き、ぎゅっと抱きしめた。

それに仁王も答える。 永遠とも呼べる時間が流れた。

だが・・・。





「あるがとな。 柳生。 これで俺も逝くことが出来るぜよ。」





「そんなこと、そんなこと言わないでください・・・。

 ずっと、ずっと傍にいてください・・・。」





「ごめんな。 本当にごめんな。 お前のこと、愛しとったぜよ。

 ・・・じゃあな!」





そう言って、仁王は柳生の体を突き飛ばした。

突き飛ばされた柳生は、仁王の姿を追い、手を伸ばす。

しかし、その手はむなしく宙をかいた。

天使が1人、地上へと堕ちていった。 羽が、辺りに飛び散った・・・。



                                       ☆



・・・黒い棺の中に、1人の男が横たわっている。

その髪は銀。 そして、その背には羽毛の抜け落ちた羽があった。

その傍に、黒い服を着て、眼鏡をかけた男がいた。

その手には真紅の花。 その花を、彼は1本ずつ棺の中にいれていく。





棺の中の男はかつて天使だった。

彼は自分の命を捨てて、愛した者の命を救った。

花を添える男は、かつて病人だった。

彼は天使に命を救われ、今ここに生きている。





「仁王君。 あなたに言っていなかったことがあるんです。」





男はそう語りかける。





「あなたのことを、愛しています・・・。」





男はそう言い、涙を流した。

彼の名前は柳生。 彼は誓った。 何があっても生きようと。

自分のために命を捨てた彼のために生きようと。

風は吹いた。 その風に乗って、1枚の純白の羽が2人の傍にそっと舞い落ちた・・・。









【あとがき】

なんか、わけわかんないのに仕上がってしまいました(汗)

天使仁王と柳生のお話でした。 いかがでしたか?

これはほとんど思いつきで書いたんですが。

なんかここに書きたかったことがあったんですけど、ちょっと忘れてしまったんで思い出したらまた書きます。

(このアホめ!)

では、ここまで読んでいただいてありがとうございました!!



06.5.14



BACK ←
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送