あなたはいつでも俺のことを考えてくれていた。

今度は俺がその報いに答える番―――。





Symphony of destiny 最終章・2





「おい観月! 本当にあのメンバーでよかったんか?!

 あのままやと、切原確実に死ぬで?! まあ、止めへんかった俺が言えることやないけど。」





走りながら、忍足がそう怒鳴る。 それに、はじめは後ろを振り返ることなく答える。





「それは僕が決めることではありません。 赤也君は自分で決めて、あそこに残ったんです。

 その結果がどうなるのであれ、見守ることしか出来ません。 それよりも僕達には僕達にしか出来ないことがあります。

 早く榊を止めないと。 そうしないと・・・!!」





咄嗟にその場から跳び、後方に下がる。 その途端、目に見えない衝撃波が地面を抉った。

続いてまた殺気がした時だった。





『シールド!!』





今まで背後から後を付いてきていたジャッカルが突如として唱えた。 その瞬間、貼られる結界。

結界が、見えない攻撃を全て防いだ。





「ブン太・・・。」




そう呟くジャッカル。 彼等の前には、真田達と同じく目に光のないブン太が、無表情で立っていた。





「ここでブン太か。 中々厳しいな。 ジャッカル、お前だけじゃ厳しいじゃろ。

 俺も手伝っちゃる。」





そう申し出たのは仁王だった。





「悪いな。 本当は1人でもって言いてえ所だが、俺は戦闘には向かない。

 ・・・あいつを、ブン太をなんとしても止める。 その結果がどうであっても・・・。」





彼の決心に、仁王は頷いた。





「行け!」





仁王がそう怒鳴ったのを合図に、仲間達は一気に走り出す。 それを阻止するかのように、ブン太は右手の親指と中指を軽く弾く。

パチンという、小さな音が響く。 その小さな音は、見えない鋭い刃となってはじめ達に襲い掛かる。

しかし、ジャッカルの張った結界が彼の攻撃を全て無力化する。 次の攻撃を繰り出そうとする動きを阻むように、仁王がブン太の懐に飛び込んだ。





「させるか!」





反射的にブン太は後ろへと跳ぶ。 そして着地。

地面に足をつけた音さえも、ブン太にとっては武器となる。 見えない攻撃が、仁王に襲い掛かる。





「ブン太、お前の攻撃は俺には届かんよ。」





立ち尽くしたまま、そう言う仁王。 その言葉の通り、ブン太の攻撃は彼に届かなかった。

ジャッカルの張った結界。 それが、仁王を守ったからだ。 彼の結界は、恐ろしいほど強固だ。

破ることは、たとえ3強であっても難しい。 それほどのものを、ブン太が易々と破れるわけがない。





「お願いだから、諦めてくれ・・・!」





懇願するように言うジャッカル。 だが、彼の声は届かない。

ブン太は、目の前の敵を排除するために手をゆっくりと上へと上げた・・・。



                                                  ☆



「2人は伊武を。 俺は菊丸の相手をする。」





幸村のその言葉に、2人は頷く。 確かにそれは、妥当なわけ方だった。

伊武よりも、菊丸のほうが攻撃力は高い。 それに、エレメントの問題もある。

蓮二も滝も、エレメントは水だ。 それに対して菊丸は雷。 明らかに相性が悪い。 それもあり、幸村はああ言ったのだ。





「・・・どうするつもりだ? 精一。」





蓮二の言葉に含まれた意味を、幸村は理解する。





「・・・止めたい、と言いたい所だが止めて彼等が元に戻るわけじゃない。

 観月ならば、祐太のように戻すことは出来るだろうけど・・・。 だけど、そうしても彼等が人間に戻ることは決してない。

 俺は、彼等を楽にしてやりたいと思う。 これは俺の勝手な考えでしかない。 でも・・・。」





「・・・それでいいんじゃないかな?」





そう言ったのは滝だった。





「俺は、彼等を知っているわけじゃない。 君達の苦しみを全て理解することは不可能だ。

 だけど、それでもその考えには賛成だよ。 彼等は1度殺されているんだ。 榊によって。

 人形とされてしまって、自分の望まないことをやらされている。 これから救ってあげることが大切なんじゃないかな。

 それが例え、死という最悪の終末だったとしても、ね。」





滝の言葉は、2人の心に染みこんだ。 最後の迷いが消えていくのが分かる。





「俺も精一に賛成だ。 彼等を、楽にしてやろう。」





蓮二のその言葉が、幸村の躊躇いを消しさった。 彼は、言う。





「2人に、救済を―――。」



                                               ☆



「マスター・・・。」





抜身の剣を構えながら、赤也はそう目の前の人物に向かって呟く。 そこには、敬愛する真田。

しかし以前の面影はない。 それが悲しくて、目元がジンと熱くなる。 だが、泣くわけにはいかない。

ここで泣いてしまえば、真田に怒鳴られてしまう。





「俺、頑張りますから。 必ず、マスターを助けてあげますから。

 折角助けてくれたのにすいません。 だけど、それでも俺は・・・。」





何かを決意し、赤也は顔をキッと上げる。 その眼光は鋭い。





「マスター、いきますよ!!」





赤也の体が宙を舞った。 電光石火のごとく、瞬く間に距離を詰める。

『雷』。 その名の通り、雷のような高速で動くことが出来る。 この移動法は、赤也が真田から伝授されたものだった。

赤也の体が、真田の懐に入り込む。 剣を横薙ぎに振るうが、それは真田の剣によって弾かれる。

しかしそれでも更に切り込む。 横に、縦に。 更には突きも。 ありとあらゆる方向から攻撃を繰り出す。

だがそれしきで動じる真田ではなかった。 赤也の攻撃をいとも簡単にいなしていく。





「ちっ!」





それに先に耐え切れなくなったのは赤也だった。 このままではまずいと、剣同士が離れた瞬間を狙って雷を発動。

一瞬で真田から距離を離す。 時間にして、今の切り合いは1分にも満たなかっただろう。 しかしそれなのに、赤也の息は上がっていた。

一方真田は全く乱れていない。





「さすがはマスター。 やっぱり一筋縄じゃいかねーか。 でも、やられるわけにはいかねーんだよっ!!」





そう怒鳴りながら、再び飛び掛っていく。 しかし彼の剣は真田に通じない。

あまりの実力差に、自分が不甲斐なくてしょうがなかった。 でも、諦めるわけにはいかない。

剣を振りかざし、切りかかる。 だが、それをまた簡単にいなされた。 一瞬の隙が赤也に出来る。





「しまっ…!!」





『ブレイズ。』





唱えられた言霊。 咄嗟のことに反応することが出来ない。

灼熱の炎が全身を包み込む。 体中が熱い、熱くてたまらない。 このまま自分は死んでしまうのだろうか…。

その考えが頭の中を巡る。 全身から力が抜けていく。 剣が手から滑り落ちてしまいそうになったその時…。





『赤也、お前はそれしきのことで諦めるのか?』





不意に頭に響いたのは、真田の声。 いつもの口調で、自分に語りかける。





(だってマスター、俺はあなたには勝てない。 実力だって全然俺のほうが下だし…。)





『実力が下だから、諦めるというのか? お前の決意はそれほどのものだったと? 甘ったれるな!

 自ら誓ったのなら、最後までそれを貫き通せ! 俺はお前をそんな軟弱にした覚えはないわ!!』





(…そう、そうっすよね…。 マスター、いつも厳しかったっけ。

 …分かりました。 まだ、俺は諦めません。 最後まで!!)





ぐっと、強く拳を握り剣を力強く掴んだ。 閉じていた目をばっと開く。

強力な炎の波に逆らいながら、少しずつ体を起こしていく。 そして、足に力を入れて跳躍した。





「はあっ、はあっ。」





荒い息を吐き、地に着地する。 体中のあちこちが焼け爛れてしまっているが、大丈夫。

まだ動ける。 再び強く剣を握り締め、地面に向けていた顔をゆっくりと上げながら立ち上がる。





「マスター。 あなたの力、貸して下さい。」





真田を真っ直ぐに見た赤也の瞳は、真紅の色へと変化していた。

瞳の中に、炎が渦巻く。 それは、真田の操る炎と同じ色をしていた―――。



                                                ☆



「菊丸! お前の相手は俺だ!」





幸村はそう言いながら、菊丸へ攻撃を放つ。 それによってどうやら彼を敵としっかり認識したようだ。

伊武と離れて幸村のほうへと向かってくる。





『サンダー!』





菊丸の口から言霊が紡がれる。 的確に彼を狙ったが、当たることはない。

それしきの弱い攻撃では、到底幸村に傷をつけることなど叶わないのだ。





「菊丸、本気できなよ。」





幸村のその言葉に挑発され、菊丸は地を蹴る。 剣を抜き放ち、彼の懐に飛び込もうとするが幸村の剣によって防がれる。

しかしそれは予想済み。 空いていた左手を、剣に代わって薙ぎ払う。 バッと眩い光が飛び散る。

それは幸村を包み込もうと、ものすごい勢いで彼に迫る。 しかしそれでもあまり表情を崩さずに、彼は空へと跳躍する。

逃がすまいと、光も追う。 空中に出てしまえば、攻撃を避けることは容易ではない。 光が、幸村を捕らえた。

バリバリと、強烈な電流がその場を覆う。 それに菊丸は軽く口元を緩めた。 さすがにあの攻撃を喰らっては、生きてはいまい。





「あれくらいでこの俺がやられると思った?」





しかし、不意にした声。 バッと頭上を振り向くと、そこには人影が。





『ステイブ』





そう言葉が聞こえた瞬間、何本もの鋭い槍が空から降ってきた。 咄嗟に、その持ち前の反射神経で交わす。

しかし完全には避けきれずに、槍は体をかすめる。





「ハアッ、ハアッ。」





若干息を荒くするが、肺が苦しいのではない。 焦りからくるものだった。

何故?と、菊丸の表情が幸村に問いかけてくる。 それに、彼は表情を隠したまま答える。





「俺のエレメント忘れた? 『無』。 全てを消し去る力。 それは君の攻撃とて同じ。

 でも、それでも本当に全てを消し去ることなんて出来ないんだけどね。 一応条件がある。

 だけど、よっぽどのことじゃなければ条件はクリア出来るけどね。」





幸村の言葉に、知らず知らずのうちに背中を冷たい汗が流れる。 彼の強さは分かっていたつもりだった。

しかし、それは予想以上だった。 戦っている所を見たことがない、というのも理由の1つかもしれない。

彼は王都内では、決して戦いはしなかった。 それは騎士候補達の模擬戦闘でも同じだった。

他の3強達は立ち会っていることがあったのに、幸村だけはなかった。 そのため、彼の実力を知る者はほとんどいない。

しかし、彼の実力は確かだった。 伊達に、3強と呼ばれてはいなかった。





「菊丸、君を助けてあげること。 出来そうにもないんだ。 本当にすまないと思っている。

 でもせめて、その人形からは解放してあげる。 それが君に出来る、最良のことだと思うから…。」





悲しそうに、幸村はそう言う。 しかし次の瞬間、彼の雰囲気が一変した。

今までの罪悪感と悲壮が漂ったものではなく、あまりにも冷徹なそれ。 何も感じないはずなのに、菊丸の心臓がバクバクと強く鳴っていた。

一歩、幸村が足を踏み出す。





「終わりにさせよう…。」





幸村の瞳が、鋭く光った。 だけど誰が気付いただろう?

その鋭い光の奥に、深い悲しみの闇が広がっていたということに―――。



                                                ☆



『グラビティ!』





「うっ…!!」





伊武の放った攻撃が、それを避けようとした滝の足をかすった。 途端、自分の足ではないくらいに重くなる。





「滝!」





蓮二が怒鳴り、振り返った。 動きの遅くなった滝を狙い、伊武が迫る。





「させるかっ!!」





咄嗟に蓮二が滝を庇うように躍り出る。 そして細い、細い水の槍を数え切れないほど放つ。

全方向からの攻撃。 それを避けることは、容易ではない。 しかし、伊武はいとも簡単にそれをやってのけた。

一言、言霊を唱えるだけで。





「!!!」





重力という絶対の法則に従い、地に頭を垂れた水。 なんとか攻撃しようとするが、びくとも動くことが出来ない。

この時に思い知った。 彼のエレメントがどれほど厄介なものなのか。





「…滝、少々厳しいな。」





「うん…。 でも、こっちには2人いる。 それを上手く利用するしかない。

 でなければ、僕達に勝ち目はない。」





2人の顔が険しくなる。 厳しい顔で見る先には伊武。

彼は優雅な動きで腕を上げる。 その矛先は、彼等2人にしっかりと向いていた―――。









【あとがき】

なんとも久しぶりな更新です。 しかも、ほとんどはなし進んでないってゆーダメっぷり(汗)

赤也と真田、かなり悲しい話になってしまった…。

でも赤也と真田がどんなに互いを大事に思っていたのか、伝わっているのなら幸いです。

さて、そろそろ先に進めなければっ!



08.1.27



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