ねえ、君は俺にとってとても大切な人だったんだよ。

そんな君をこれ以上傷つけるなんてこと、苦しくて出来ないよ…。





Symphony of destiny  最終章・3





指を弾く音、地面に足をつく音。 ほんの僅かな音でさえも、それらは全て鋭利な刃物となって仁王とジャッカルに襲い掛かる。

ブン太の攻撃力はとんでもなく高い。 しかし、それすらもジャッカルの結界の前では無力だった。





「ブン太、甘いぜよっ!」





ジャッカルの結界に守られた仁王が、ブン太の懐へと飛び込む。 攻撃の効かない彼は、咄嗟に後ろへと大きく跳躍する。

しかしそれを仁王は追撃する。 少し離れた所で見守っているジャッカルの瞳は、酷く悲しそうだった。





「ごめんな…ごめんな、ブン太…。」





謝罪の言葉を呟きつつも、結界の威力を弱めることは決してしない。

そうすれば、自分の代わりに戦ってくれている仁王が攻撃を全て受けてしまう。





「ごめんな…。」





そうまた呟いたその時だった。





「??!!」





不意にぐらついた体。 それと同時に、頭もグラグラと揺れているような感覚に襲われる。 強烈な痛みが襲う。

それに、解けそうになる結界を必死になって保つ。 だが、体は言うことを聞かずに地面に膝を付いた。





「ジャッカル?!」





仁王の慌てた声が聞こえる。 ヤバイ、と思った。





「仁王! ブン太から離れろ!!」





咄嗟に叫ぶ。 仁王は訳が分からないといった表情だった。

痛む頭の中、ジャッカルは思い出した。 すっかり忘れていた。 ブン太の力が、音を刃に変えるだけではないことを。





「ブン太は攻撃用の音とは別に、耳には音として認識されないものを出していたんだ! 俗に言う超音波のようなヤツだ。

 それを多分、直接俺の脳にたたきつけたんだと思う。 ヤバイっ…! 多分三半規管か何かがやられた。

 仁王! 意地でも結界は解かないから…っ!!」





ジャッカルの言葉に、仁王は戦慄を覚えた。 まさか超音波まで操るとは、全く思っていなかった。

とにかく早くブン太の動きを止めなければ。 そうしなければ、ジャッカルの身が危険だ。





「ブン太! 大人しくやられてくれっ!!」





そう怒鳴りながら、電流を帯びた球体をいくつもブン太に向かって放つ。 しかし焦っているほど、隙は大きくなる。

球体の間を、ブン太は綺麗に交わして仁王の懐に飛び込む。





『アンドゥ。』





言霊を唱えると同時に、仁王の腹に右手の平を押し当てる。 その瞬間、彼の体に衝撃が走った。

いくらジャッカルが結界を張っているといっても、弱りきった状態では通常の力は発揮されない。 しかも直接の攻撃。

音の衝撃が全身を駆け巡り、大きなダメージを与えた。





「ガハッ…!!」





口から真っ赤な血を吐き、その場に倒れ伏す仁王。 やられる!と思ったが、ブン太はそんな仁王には目もくれなかった。

そして、一歩一歩。 ゆっくりと同じように地に力なく膝をつくジャッカルの前にまで歩み寄る。

半ば諦めたような表情で、ブン太の顔を見上げるジャッカル。





「助けてやれないのが残念だよ…。 でも、お前に殺されるのなら悪くはないな…。」





覚悟を決めるジャッカル。 仁王が何か言う声が聞こえた気がしたが、彼にはもう抵抗する気はなかった。

ゆっくりと目を閉じる。 しかし、いつまで経っても痛みは襲ってこない。





「?」





疑問に思って目を開くと、無表情でジャッカルの前に立ち尽くすブン太。

少し離れた所でうずくまる仁王も、訳が分からないといった表情をしている。 と、その時だった。





「じゃ…ジャッカル…。」





不意に発せられたのは自分の名。 そう言うブン太の表情は、相変わらず能面のよう。 しかし確かに彼の口は今、ジャッカルの名を紡いだのだ。

開いたままの口が何か言葉を発しようとわななく。 そして、ゆっくりとブン太の口は言葉を紡ぐ。





「ごめん…な…。」





その瞬間、無表情なブン太の右目から涙が1つ。 ツウッと流れ落ちた…。



                                                     ☆



「観月! あとどれくらいなのっ?!」





不二がしびれを切らしたかのように問う。





「あの階段を上りきれば、リルシールへと通じる魔法陣があります!」





一気に駆け上がると、開けた視界。 かつては綺麗に整備されていたであろう床は、所々砕けてしまっている。

しかしそこに刻まれていた魔法陣は、砕けた床とは関係なく綺麗に存在していた。

そしてその上、彼等を待ちかまえていたのは亜久津と長太郎だった―――。





「やっぱしおったか、長太郎。 そろそろ来ると思ったわ。」





ずいと、忍足が前へ出る。





「観月、ここは俺に任てくれや。 長太郎は俺が必ずなんとかするさかい。」





そう言う忍足の傍に、淳と千石も寄る。





「俺達もやる。 まだ完璧じゃないけど、俺の力があればあいつ等を下に戻せるかもしれないだろ?

 観月、いいよな?」





「僕が止めても、君は言うことを聞かないでしょう? やりたいようにやりなさい。

 貴方達2人も、自分の思ったように行動するのだから僕は決して止めはしませんよ。

 …先に行きます。 必ず後を追って来て下さい。」





はじめの言葉に、3人は強く頷く。 そして…。





「淳、千石! いくで!!」





忍足のその言葉を合図に、5人の体が宙を舞う。 忍足と長太郎。 淳・千石と亜久津。 両者が激突する。

その隙に残りの4人は魔法陣の中心へ。 そして発動しようとするが、魔法陣は反応しない。





「!! しまった、向こうから封印されている!」





「なっ?! じゃあ一体どうやって行くのさ?!」





「僕がなんとかします。 向こうには光のオーブがあります。 あれは長い間、何者にも犯されずにいた。

 だから多分、僕に反応してくれるはずです。 オーブが反応したら、それを頼りに新たに道を開きます!」





「ですが、それは君に相当な負担を与えますよっ?!」





「それでもやるしかないでしょう! 一か八かの賭けです。」





そう言うとはじめは魔法陣に両手を付いて、目を閉じ意識を集中させ始めた。

彼の周りでは、忍足達の戦う火の粉が降りかからないように柳生達が守っている。





「! 忍足君!!」





「分かっとる! このままここでやりあっとったら観月達を巻き込む。

 淳、千石!! ここから離れるで!!」





そう言うが早いか、忍足は握っていた杖を横薙ぎに振るった。 その瞬間吹き荒れる突風。

突然のことに対処仕切れず、長太郎と亜久津の体は大きく吹き飛ばされる。 2人を追って、3人は地を蹴った。

静かになった地。 少しして、魔法陣が微かに青い光を放ち始めた―――。



                                                ☆



「さあ、て。 これで準備は全て終わった。」





そう声高らかに言うのは榊。 彼の足元には、巨大な魔法陣。

その周辺には均等に並べられた8つのオーブ。 中心には、目を固く閉じた跡部が静かに横たわっていた。

そんな跡部の横に、榊は立つ。 手塚達はその光景を、魔法陣の周囲から眺めていた。

無表情な手塚と宍戸。 しかしその中でリョーマだけは1人、戸惑った表情を浮かべていた。





(嫌な、嫌な感じがする。 こんなこと、本当にやっていいの…?)





だが、この疑問を口にすることは出来なかった。 黙ったまま、静かに見つめ続けるリョーマ。

そんな彼に気付かずに、榊は空に向かって両手を掲げる。 そして、声高らかに言った。





「さあ、儀式を始めよう!!」





空気がピンと張り詰める。 独特な雰囲気がその場に満ち始めた。

そんな中、光のオーブが微かに。 本当に微かに光を放っていた。 そのことに、誰も気付いてはいない―――。










【あとがき】

更新遅っ!! もっと早くを心がけたのになあ(汗)

さて、やっと少し進展しましたっ。

多分次辺りから、いくつか決着がつくと思います。

ってか、つかないと先に進みません(滝汗)

がっ、頑張ろう。



08.1.15



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