全てはここから始まり、そして終わる。

500年前から始まったこのオーブ、そして世界を巡る戦いは最終章へと突入する。

かつて魔導士が治めし聖なる地、エンシェントで―――。





Symphony of destiny  最終章・1





ゆっくりと青い光が消え去っていく。 光が消え去った時、全員が立っていたのは見たこともない場所だった。

崩れた、かつて建物だったような感じのする瓦礫がいたる所に散乱している。





「・・・懐かしいな・・・。」





そう呟いたのは忍足。 目を細めて、辺りを見回す。





「もう、300年も経つんか。 俺がここを去ってから・・・。」





「ええ。 あなたが忽然と姿を消してから、もうそんなに経つのですね。 時の流れとは、かように早いものですから。

 不老不死の僕達にとっては特に。」





そう言ってはじめも目を細める。

聖なる地『エンシェント』。 500年前、世界の中心として栄えたこの地。 守っていたのは、3人の魔導士と1人の時の監視者。

かつては美しく巨大な都市だったが、今は見る影もない。 その中に、彼等は立っていた。





「さあ皆さん、行きましょう。 遅くなればなるほど、私達は不利になる。」





はじめのその言葉に頷き、全員は足を進め始める。 先頭を行くのは魔導士の3人。 その後を付いて行く。

過去は美しい石畳だったのだろう。 その面影を僅かに残す道を、全員は早足で進む。 と、その時だった。





「・・・やはり、いましたか。」





はじめがそう呟く。 その目線の先には・・・。





「マス・・・ター・・・。」





赤也がそう言葉を洩らす。 そこにいたのは、赤也の主であった真田。 そして討伐隊の菊丸と伊武だった。

彼等は、敵が前にいるというのに一言も言葉を発しない。 仲間であるはずの者達とも目を合わせることさえも。

更にはじめ達は気付いた。 3人の異常に。 それは、瞳の色。

普通の者ならば光を宿しているはずのそこ。 しかし彼等にはそれが全く見られない。 濁ったような、淀んだようなその目。

それからは彼等が人ではないと、安易に想像することが出来た。





「こいつらが出て来たってことは、敵さんはかなり先まで行ったようやな。 はよせなあかんわ。

 何人かここでこいつ等の相手せなあかんな。 誰が・・・。 !」





忍足がそう言っているのを途中で遮り、進み出た者達。 それは赤也・幸村・蓮二・滝の4人だった。





「ここは俺達がなんとかするよ。 だから皆は早く先へ。」





幸村のその言葉に、残るといった他の3人も頷く。 4人の申し入れをありがたく受け入れ、残りは先へと進むことにする。

と、赤也のことを案じて千石が声をかけた。





「赤也君・・・大丈夫なの?」





「・・・大丈夫ってはっきりとは言えないっすが、でもなんとか。 マスターは俺を逃がしてくれた。 自分と引き換えに。

 今度は俺がマスターを助ける番っす。 このまま榊の人形にされたままじゃあ、マスターが可哀想すぎます。

 あの人は自分にも他人にも厳しい人。 こんな醜態をさらすことを、嫌がってますよ。 だから、俺が解放してあげるんです。

 俺はもうマスターのアーティシャルじゃない。 だけど、俺にとってのマスターはこの真田弦一郎って人しかいないんすよ。

 この人と全てを共にする。 契約をした時、俺はそう誓いました。 1度は破っちまったけど、今度こそは。 今度こそ、俺はマスターと共に・・・。

 折角助けてもらったのにすいません。 でも、もう決めたんです。 本当に短かったけど、ありがとうございました。」





少しだけ皆のほうを振り向き、赤也はペコリと頭を下げた。 それに、誰も言葉をかけることが出来なかった。

それほどまでに、赤也の決意は固かったのだ。





「・・・分かった。 君がそう決めたんなら、俺は何も言わないよ。

 俺が君と一緒にいたのはそれほど長くはないけれど、その間とても楽しかった。 また、ね。」





顔をくしゃくしゃに歪ませながらも、懸命に笑顔を作ろうとする。 しかし上手くいかない。

泣き笑いのような表情で、千石はそう言った。 もう会えないと分かっていても、また会いたいという望みを込めて・・・。





「はい、また・・・。」





赤也も、切なげな表情を浮かべる。 だが、それを振り切るように彼は前方を向く。

瞳に、鋭い光が宿る。 他の3人も、ピリピリとした空気を纏っていた。





「俺達が3人を引き付ける! その隙に先へと進め!! 皆、行くよ!」





幸村がそう声を張り上げるのとほぼ掃除に、全員は動いた。

4人は、敵へと。 そして残りは先へと進むべく、真田達が立ちはだかっているのを避けるように宙へと舞った。

はじめ達を止めようと、真田達は動くがそれは幸村達の放った攻撃により回避された。

攻撃の衝撃を上手く目くらましに使って、無事に突破することに成功したはじめ達。 そのまま、一気に坂道を駆け上がる。

真田達は彼等を追うことが無理だと悟り、目標を幸村達に絞る。





「幸村さん、マスターは俺が!」





剣を抜き放ちながら、赤也がそう言う。 それに、幸村は心配そうな顔をするが、言っても聞かないと悟ったのだろう。

ゆっくりと首を縦に振った。





「分かった。 真田は赤也に任せる。 ・・・気をつけて・・・。」





幸村のその言葉に、悲しそうな表情をしながらも赤也は頷いた。 そして、一気に真田に向かって突っ込んでいく。

それを横目で見守りながら、幸村も敵へと意識を向ける。 眼前にいるは、菊丸と伊武。

王都の誇る討伐隊の中でも、ナンバー1とナンバー2の座にいた彼等。 その実力は、騎士予備軍といったものには到底納まりきらない。

本来ならば、とっくに騎士になってもおかしくはない。 しかし彼等はアーティシャルを持ち、束縛されることを嫌った。

騎士は、その強さゆえに世界中を巡り魔物を退治することを常務とする。

しかし討伐隊は、基本的に王都周辺の警護を担当する。 必然と、自由になれる時間が多くなるのだ。

更に彼等は、他の討伐隊のメンバーとも共にいたいと望んだ。 だからこそ、彼等は騎士にはならなかったのだ。

そのため、彼等の強さは侮れない。 相手がたとえ、3強のペアだとしても、だ。





「精一、滝。 気をつけろ。 この2人は決して侮ってはいけない。」





「分かってる。 この殺気、かなり危険だ。 もしかしたら僕が足を引っ張ってしまうかもしれない。

 その時は、躊躇いなく切り捨ててくれていいからね。」





「そんなことは言うもんじゃない。 全員でここを切り抜ける。」





幸村はそう滝に少々キツメに言うと、剣を引き抜いた。 それに、2人も倣う。

ピリピリとした空気が、彼等の間に流れる。 そして・・・。





『サンダー!』





菊丸の言霊が、戦いの火蓋を切って落とした―――。



                                                 ☆



「・・・ほう、最初の所を切り抜けたか。」





1人立ち、そう呟くのは榊。 その後ろに控えるように立つ者は、幾分か少ない。





「まあ、全てが終わるまでにここにたどり着くのは不可能だろう。

 だが、早いにこしたことはない。 ・・・早速始めるとしよう。」





その言葉に、後ろに控えていた宍戸が前に進み出た。 彼の腕には、跡部が抱きかかえられている。

跡部の顔は、切なげに歪められている。 しかし、宍戸によって封印されてしまっているため、起きることはない。





「くくく。 これで私の望みも・・・。」





榊の顔が、醜悪に歪んだ・・・。





――― 賽は振られ、秒針は刻一刻と刻まれてゆく。 残された時間はあと僅か。

走れ、全てを守るために。

走れ、大切な者を取り戻すために。

運命の歯車は、終焉へと向けて回り続ける ―――









【あとがき】

大変長らくお待たせいたしました!

最終章、『運命の交響曲』連載開始です!

今回のこの章は、前回までと違って多分1話の量がかなり少なくなります。

原に、1話めからなにこれ?!ってくらいの短さ(汗) 1話をあんまり長くすると、ね。

しかしこの章で全てが終わるので、気合いは十分に込めてまいります!

では、最後までどうぞお付き合い下さいませ。



07.12.21



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