解かれた封印。 近づく世界の破滅。

全ては支配者の思うがまま。 だが、果たして本当にそうなのか。

嘲笑うモノがいることを、未だ知る者はいない。

真実が今、明かされる―――。





Symhpoyn of destiny  最終章・7





「しまったっ!!」





はじめの声と共に辺りを満たすのは禍々しい光。 黒でもなく、白でもないそれは光と呼称していいのかも危うい。

敢えて言うのなら、それは蒼。 深い深い蒼い光。

僅かな時の後、消え去るそれ。 そして視界に入ったのは、魔法陣の中心でぐったりとしてピクリとも動くことのない跡部。

彼の傍らに立つ榊。 そして、蒼く禍々しい光を放つエレメントオーブだった…。





「おお…っ。 これが彼の時のオーブ。 なんという美しさだ。」





感嘆の声を上げる榊。 その様子を、固まったように凝視するはじめ達。





「これが、これが私の望みを叶えてくれるモノ。 私に永遠の命を与るものか。」





「永遠の命…だと?」





榊の言葉に苦言を言ったのははじめ。

それに彼は振り返り、口元に笑みを浮かべ答えた。





「そうだ。 私が望むのは永遠の命。 そして、この世界の永遠の支配者になること。

 難しいことではあるまい。 このオーブの力があれば。 お前達魔導士のように、自身の時を止めてしまえば不老不死は手に入る。

 その後はこのオーブを使って世界を1度破壊する。 完全に破壊してからの創造。 そして私は世界を創った神として永遠に君臨し続ける。」





「そのために、そのために数多の命を弄んだというのか?!

 そのために、今までどれだけの人々が涙を流し悲しみに浸ったと思っている?!」





激昂するはじめ。 だが、榊は嘲笑う。





「そんなもの関係などないわ。 人間など、所詮はただの駒でしかないのだからな。

 私には関係ない。 それに、世界の前では卑小すぎて気付きもせんわ。」





怒りではじめの形相が変わる。 他の3人も怒りを隠せないでいた。





「まあ、そんなことはどうでもいい。 これから私は忙しくなるのだ。 世界を再生しなおさねばならぬからな。

 お前達は邪魔だ。 とっとと消えてもらおう。」





榊のその言葉に、宍戸と手塚が動いた。 だが、リョーマだけは竦んだようにそこから動かなかった。

いや、動けないのだろう。 目を大きく見開いて、今起こっていることが理解出来ないようだった。

構えるはじめ達。 だが、予想外の事態が起こった。





「え…?」





宍戸は自分達に向けて剣を抜き放った。 だが、手塚は…。





「? 何だ?」





手塚は自分達には目もくれず、榊の元へと歩んでいったのだ。 榊も彼の行動の意味が分からない。

だが、更に信じられないことが起こる。 手塚が榊の前まで来たその瞬間だった。





「!!! がっ…!!」





何の前触れもなく、手塚の剣が榊の体を深く貫いたのだ。 あまりに突然のことに、はじめ達も目を見開くしかない。

血を流し、呻きながら榊は言葉を口にする。





「な…何故…?」





榊の問いに、手塚の口がゆっくりと開いていく。 そして発せられたには衝撃的な言葉だった。





『ご苦労だったな。』





手塚の声だが、何か別の声が混じっているようなそれ。

不自然な声に、はじめと柳生は聞き覚えがあった。





「この声…まさかっ?!」





『くくく。 どうやらお前等は気付いたようだな。 だが、遅すぎた。

 お前達はこの俺を甘くみすぎていたのだよ。 たとえ封印されていたとしても、ほんの僅か。 俺は外界に影響を及ぼすことが出来たのだからな。』





そう言って手塚…いや、手塚を操っている時のオーブはにやりと笑った。





「何だ…と?」





『そのままの意味さ。 それにしても榊、貴様はよく働いてくれたよ。

 覚えているか? 貴様が何故時のオーブの存在を知ったのか。 それがどのような力を持っているのか。

 覚えてはいまい。 全てはこの俺が貴様の意識に植え込んだものなのだから。

 欲に眩んだ人間ほど操りやすいものはない。 貴様は格好の獲物だったのだよ。』





手塚の口を借りて、時は喋り続ける。





『だが、それでも最初はやりにくかったな。 意識を欲で満たすのに、少なくとも5年はかかったわ。

 だが、その後は楽だったな。 永遠の命と支配者という欲に支配されたお前は、自分の闇の力を使って人形を自ら作り始めたからな。

 しかもそれが手塚と宍戸というな。 全く、便利な人形を作り出したものよ。』





くつくつと嗤う。 それに、背筋が凍ったような錯覚に見舞われた。





「まさか…この私が駒だった…と? そんな…そんなばかなっ。」





今にも途切れそうな意識を必死に繋ぎとめながら、榊は言う。

ありえない、と。 だが、時は嘲笑う。





『そうだ。 貴様も俺の駒の1つでしかない。 封印されたこの俺が自由を取り戻すためのな。

 さあて、もうこれ以上貴様に付き合ってなどいられんわ。 …消えろ。』





そう手塚が口にした瞬間、彼は剣で榊の体を抉った。 口から大量の赤を吐き出し、ピクピクと暫くは痙攣を繰り返していたが、それも少しして収まった。

完全に動くことのなくなった榊の体を地面に投げ捨て、手塚はゆっくりと向きを変える。





『くくく。 その顔、相当見ものだな。 それほど真実がショックだったか? 全ての黒幕はこの俺なのだよ。

 王都がオーブを集める計画を強行したのも。 5年前に宍戸が行方不明になったのも、この手塚の様子がおかしくなっていったのもな。

 まあ、そもそもこいつだけは人形になど到底出来るものではなかったのだがな。 榊のお陰でやりやすかったわ。

 あいつが闇を侵食させているのに合わせて、俺も影響を与えていったからな。』





「ってことはまさか、マスターの感情の起伏が激しかったのは…?!」





不意に口を開いたのはリョーマ。 長年彼と一緒にいたからこそ分かる、彼の不自然な点。





『当然侵食されていたからだ。 闇とこの俺と、自分の意識。 3つの力が争っていたからこそ、起こったことなのだよ。』





崩れ落ちるリョーマの体。 何故、自分は気付くことが出来なかったのだろう。

手塚と1番長くいたのは自分なのに。





「じゃあ、この彼も…?!」





宍戸に目を向けながら、柳生が問う。





『いいや。 こいつは榊が自分でやったこと。 オーブを集める段階ではこいつの力は必要だろうが、今となっては用済みだな。

 だが、そんなことはどうでもいい。 俺にはやることがあるのでね。 それを実行するためにはお前達は邪魔なんだよ。

 監視者はもう使い物にならないが、お前等はまだる。 危険分子は消しておくにこしたことはないだろう?』





その瞬間、空気が一気に張り詰めた。





『さて。 このままでやってもいいが、それではこちらが不利すぎる。

 まあ、それを解消するために今までこいつを仕込んでいたのだがな。 使わせてもらおう。』





「「!!!」」





そう言うが早いか、オーブは手塚の体の中に潜り込んだのだ。

直ぐに見えなくなるオーブ。 そして、変化が現れた。





「くっ、ははははは!! 最高だ。 実に最高だよ。」





完全に手塚の声で喋りだす。 それに、全員は呆然となる。





「居心地も実にいい。 調整してあるだけあるな。

 能力値も高い。 500年前の奴とは比べものにもならぬわ。 貴様等を葬るには実にぴったりな器だよ!」





高笑いをし続ける。 そしてそれが不意にピタッと止む。





「さあ。 最後の戦いと洒落込もう。

 この世界の終焉に相応しい、派手な戯曲を奏でようではないか!!」





時は嗤う。

だが、彼等は諦めない。 諦めてはいけないのだ。 全てを終わらせないためにも―――。



                                                  ☆



「ジャッカル! 仁王!!」





力の全く入らない状態で地に伏していると、不意に聞こえた声。

重い頭を無理矢理向けると、そこには幸村の姿。





「幸村、か。」





ジャッカルの力のない声に、ここでの結末を悟る。 少し目線を走らせると、事切れているブン太の姿。

悲しみに目を伏せながら、2人の傍にしゃがみ込む。





「傷は?」





「大丈夫じゃ。 動けんだけで、死ぬようなもんじゃなか。」





仁王の言葉に、多少ではあるが安堵する。





「そう。 なら良かった。 多分もう少ししたら蓮二が来るから、傷は彼に癒してもらって。

 俺には治癒の力は全くないから。」





「ああ。 そうしてもらう。 お前は先に行くんじゃろ?」





「うん。 先に行って、彼等と共に戦ってくる。 どれだけ役に立つのかは分からないけどね。」





そう言って幸村は立ち上がる。 そして立ち去ろうとした時。





「幸村。」





不意に彼を止めたのは、ジャッカル。

訝しげに振り返ると、地面に目を向けたままではあるが彼は言葉を紡ぐ。





「ブン太、俺がいなくなった世界で生きてくことなんか出来ないって言ってた。 でも、あいつだけじゃなくて俺も同じなんだよ。

 あいつのいなくなった世界なんて、俺にとっても意味なんてない。 全てを失って王都に連れてこられた時、俺の世界には色がなかった。

 だけどあいつが。 ブン太がまた色をくれたんだ。 鮮やかな色をな。 それをまた失って、世界は灰色に染まって。

 正直俺は今直ぐにでも死にたい。 でも、そうするとブン太に追い返されちまうんだ。 我侭だろ? あいつ、ああ見えてかなり我侭なんだ。

 だけどそれ、嫌だから…。 俺、生きるよ。 あいつの分も。」





話しながら、ジャッカルの目から再び涙が伝う。

彼の決意を聞きながら、幸村の目にも涙が光った―――。



                                                 ☆



「…う…っ。」





軽い呻き声を上げて、ゆっくりと目を開く。

未だ意識がはっきりとしない中、最初に視界に入ってきたのは自分を覗き込む忍足の姿だった。





「マス…ター?」





そう口にすると、忍足は今にも泣きそうな顔で笑った。





「よかった…。 よかった…。」





そう何回も言う。 段々はっきりとしてきた頭が、自分にあったことを思い出す。

それを理解した途端、がばっと起き上がる。





「マスター、俺は…俺は…。」





必死に喋ろうとする彼を、やんわりと止める。 何も言う必要はないと。





「言わんでええ。 もう過ぎたことや。 次に進まなあかん。

 観月達が榊を止めに向かった。 俺も一緒に戦いに行ってくるさかい。 長太郎、お前はどうするんや?」





忍足の問いに一瞬言おうか悩むが、彼は口を開いた。





「…宍戸さん、は…どうなったんですか?」





「…あいつは多分榊と一緒におる。 ここに来てから俺らはあいつの姿を見とらんからな。

 まだ榊の人形のままんなっとる可能性は高い。」





忍足がそう答えると、長太郎はゆっくりと彼の目を見つめる。





「俺も、行きます。 行って、宍戸さんを止めます。

 あの人はもう俺のマスターじゃないけど、大切な人なんです。 自分を投げ打ってまでも、俺を助けてくれた。

 今度は俺が宍戸さんを助けたいんです。 マスター、許してくれますか?」





不安げな表情で見つめる長太郎の頭を、微笑んで優しく撫でてやる。

彼を安心させるように。





「俺は長太郎を止めるつもりなんてあらへんよ。 自分がいいと思ったことをすればええ。

 せやけど、1人で抱え込んだらあかんで。 俺も手伝うさかい、絶対に宍戸を元に戻そうな。」





「はい。」





忍足の言葉に、長太郎は力強く答える。 そして差し出された手を握って、立ち上がった。





「淳、自分はどうするん? っつーか、動けへんか。」





「うん。 悪いんだけど無理。 でも、行った所で俺じゃあ足手まといになるのが目に見えてる。

 だから、ここに残るよ。 最後まで見れないのは残念だけど、俺は皆を信じてる。」





淳の言葉に、2人は頷く。 そして行ってくると言い残し、長太郎と忍足はその場から去ろうとする。

その時だった。 不意に自分達を呼ぶ声。 振り返るとそこには千石の姿。

真っ赤になっている瞳から、何が起こったのか大体推察することが出来た。





「俺も行く。」





千石はそう言った。





「跡部君を助けなきゃ。 今度こそ。」





その言葉に籠められた決意に、忍足は頷く。





「ああ。 行こう。」





そして3人は魔法陣を目指す。 着くとそれは淡く青い光を放っている。

道が開かれている、と忍足は言った。 はじめ達は無事に向こうへと行ったのだと。

魔法陣の上に乗ると、それは光を増す。 光に包まれて、3人は消えた―――。









【あとがき】

新事実ー!! 本当の黒幕が遂に明らかになりました。

分かりやすすぎな気もしますが(汗)

ラスボスは榊ではないんです。 いやあ、最後のボスは…ねえ(何だよ。)

時のオーブとのラストバトル。 お楽しみに。



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