何があったのか、あえて尋ねるようなことはしない。

どんな事態が発生しようと、任務さえ果たせていればそれでいい。





Symphony of destiny  第三章・4





「入れ。」





榊にそう言われ、長太郎は部屋の中に足を踏み入れた。

部屋の中は、5年前に入った時以来あまり変わっていなかった。

そんな部屋の奥、太陽の光が燦燦と降り注ぐ場所に、榊はいた。





「お久しぶりです。」





長太郎はそう言って軽く頭を下げた。

榊は、彼のほうに向きを換え、口を開いた。





「久しぶりだな。 ・・・5年ぶりか。

 この5年、何があったのかあえて聞きはしない。

 しかし、これだけは聞いておこう。 今現在、主はどうしている?」





「・・・今は前のマスターとは違う人をマスターとしています。

 前のマスターには、5年前に契約を切られました。

 今のマスターはいい人です。 俺のことを考えてくれています。」





長太郎がそう言うと、榊は軽く微笑んだような気がした。





「そうか、なら別にいい。  どこの誰かも、特に聞いたりはしない。

 お前がいれば任務内容の伝達などは事足りるからな。

 今後は、その新しい主と共に任務をこなせ。

 前の主のことについては今後、何か情報が欲しいか?」





そう問われると、長太郎は少し黙った。

そして、考え答えた。





「・・・別に、いいです。 確かに、マスターのことは知りたいです。

 しかし今は、新しいマスターがいます。 俺は、あの人についていくと決めたんです。

 そうでなければ、俺は契約を結びません。

 ありがとうございます。 こんな、作り物の俺にこんなに優しくしてくださって・・・。」





長太郎はそう言って微笑んだ。

そう、長太郎は王都の技術の粋を結集して作られた人工の命なのだ。

それは、何も長太郎だけではない。

この世に存在するアーティシャルのほとんどが、王都によって作られたものだった。

アーティシャルの体も、人工的に作られている。

その体に、これも人工的に作られたオーブを入れ、アーティシャルは作られる。

アーティシャルの中に入れられたオーブ、それがその者のエレメントを決める。

長太郎のように土の属性のオーブを心臓とすれば、土のエレメントを持つことが出来る。

しかし、その力は何も基本の8属性だけではない。

中には、リョーマのようにまったく新しい力を持つものもいる。

王都では、今も新しいアーティシャルを作る実験が、日々行われているという・・・。





「いくら作り物のいえど、アーティシャルは大事なものだ。

 大切にはする。 それが優しさととるかどうかはお前の自由だがな。

 さあ、そろそろ行け。」





そう言って榊は長太郎に背を向けた。

その背に向かって、長太郎は頭を下げ、静かにその部屋を出て行った。





・・・長太郎がいなくなった部屋の中で、榊は1人、さらに奥の部屋に入っていった。

真っ暗な部屋の中で、真ん中に淡い光を発する筒のようなものがあった。

横向きに置かれたその中には、どうやら1人の人間が入っているようだった。

その筒の傍に近寄り、榊は誰に言うでもなく呟いた。





「まだだ、まだ早い。 まだ木は熟さない。

 だが、いずれ熟す時が来る。 それまでの辛抱だ・・・。」





にやりと笑った榊の顔を、筒の淡い光が照らした。

その顔はまるで、悪魔のように歪んでいた・・・。









【あとがき】

かなり久しぶりに書きました。

と言っても、これは休止中に書いたのでなんとも言えませんが。

今回は、やっと榊の部屋に入っていたチョタの話が終わりました。

次に彼が出てくる時にはちゃんと忍足が出てきます。

・・・なんか、榊がかなりの悪党になってしまった気が。

本当はこんな悪党みたいな感じになる予定はなかったんだけどなあ。

まあ、なんとかなるか!(えっ!!)

そして、また新しい謎っぽいのを出しました。

さあ、筒の中の人間は誰なんでしょうねえ?

早く出したくてたまりません。



05.11.15



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