俺は何者にも惑わされない。

俺がついて行くと決めたのはあの人だけだ。

俺は何者にも惑わされない・・・。





Symphony of destiny  第五章・5





「ここが・・・。」





目の前にある光景に向かって、俺はそう声を洩らす。

そこには、巨大な塔が聳え立っていた・・・。



                                         ☆



・・・1時間ほど前のこと。





「君達は『語りの民』に会いに来たんでしょ?」





村の中を情報を集めながら歩いていた2人の前に、突然長い黒髪の男が現れて、こう言った。





「お前は、一体何者だ?」





手塚が警戒しながらそう尋ねる。

すると男はふっと笑みを洩らし、さっきよりも表情を崩していった。





「俺の名は亮。 覚えておいて。

 何、俺は怪しい者じゃないよ。 君達にいいことを教えに来たんだ。」





そう言う亮。 しかし、2人は警戒した表情を崩すことはなかった。

それを見てみぬふりをし、亮はいきなり話を切り出した。





「・・・実は君達を語りの民の所まで案内しに来たんだよ。」





亮がそう言った瞬間、2人の顔に驚きの色が浮き出た。

それもそうだろう。 会ったばかりの、この名前しか知らない男が自分達のしていることを知っていたのだから。





「・・・お前、一体何者だ?」





そう低い声で言うのは手塚。

そんな彼を、笑みを含んだ顔で見ながら亮は言った。





「別に何者でもないよ。 ただの案内人さ。

 で、どうするの? 行くの? 行かないの?」





その言葉に、手塚は少しの間考え込むように黙った。

そして少しの沈黙のあと、彼は口を開いた。





「・・・分かった。 案内を頼もう。」





「ちょ、マスター?!」





手塚のその言葉に、リョーマが反論するようにそう言った。

しかし手塚は、すっと手を出して彼を止めた。





「このまま情報を探しても時間がかかるばかりだ。

 ならば、この話に乗ってみるのが得策だろう。」





「でも、罠だったりしたら・・・。」





「大丈夫だ。 罠ごときでやられるわけがないだろう?

 さて、そういうことだ。 案内してもらおう。」





そう言って、手塚は亮の目をまっすぐに見た。

それに彼は頷き、2人に背を向けた。





「分かった。 じゃあ、着いてきて。」





そう言って歩き出した彼を追って、2人もまた足を進めた-----。



                                       ☆



「・・・オジイ、今村を出たみたいだ。 あと30分もしたらここに着くよ。」





塔の頂上。 そこにある部屋の中で、鏡のようなものを覗いていた黒羽がそう言った。

その傍には、オジイだけが椅子にちょこんと座っていた。





「そう、ありがと。 じゃあ、君も隠れていて。」





そう言うオジイ。

しかし、黒羽は納得していないような顔をして言った。





「そんなこと、やっぱり俺には出来ないよ! オジイだけを残して隠れているなんて。

 俺が彼らに会うよ。 そうすればオジイは隠れていられるじゃんか!」





しかしオジイは静かに首を振った。





「君達を危険な目に合わせるわけにはいかないんだよ。

 それに大丈夫だよ。 不二君や佐伯君がいるからね。」





「でも・・・。」





「さあ、行って。 早くしないと彼らが来てしまうよ。

 なあに、今回は大丈夫だよ。 彼らは何もしていかないだろうから。」





オジイのその言葉に疑問を覚えた黒羽だが、これ以上言ってもしょうがないと思い、彼はオジイに背を向けた。





「・・・くれぐれも気をつけてね・・・。」





「うん、本当に大丈夫だから。 じゃあ、ちゃんと隠れているんだよ。」





その言葉を背に受けながら、黒羽は部屋を立ち去っていった。





「・・・大丈夫だよ、バネちゃん。 今回は、ね・・・。」





誰もいなくなった部屋の中で、オジイは1人そう呟いた・・・。



                                      ☆



「・・・着いたよ。」





そう言って亮が足を止めたのは、村を出てから30分ほど歩いた時だった。





「ここが・・・。」





リョーマがそう呟く。 彼らの前に突如出現したのは、巨大な塔だった。





「行くよ。 語りの民はこの塔の最上階にいるから。」





そう言って亮は再び歩き出す。

そのあとを追って、2人はまた歩き出した。



                                      ☆



塔は高かった。 3人は延々に続く階段を上り続け、遂に頂上に辿り着いた。





「や、やっと着いたあ。」





そう言い、へばるのはリョーマ。 さすがにキツかったようだ。 それに比べて手塚の顔は涼しかった。

階段を上りきると、手塚は辺りを見回した。

周りには特に何もない。 あるのは、自分達が登ってきた階段と、先に続く廊下だけだ。

と、ここまで来た時、亮が2人を振り返って言った。





「さて、俺の案内はここで終わり。 この廊下の先にある扉の中に、彼はいるよ。」





「ここまですまなかったな。」





「いいよ。 じゃあ、これで失礼するよ。」





そう言った瞬間、ふいに強い風が吹いた。

その風が消え去った時には、すでに亮の姿はなかった。





「・・・行くぞ。 リョーマ。」





「はい、マスター。」





2人は扉にむかって足を踏み出した・・・。



                                         ☆



ガチャ





扉を開けると、そこには殺風景な部屋があった。

そこには生活用品の類はほとんどなく、かわりに何脚かの椅子と机があった。

そして、その机の所には1人の老人が座っていた。





「やあ、2人共。 よく来たね。」





老人は2人にそう言って微笑みかける。

そして老人は2人に椅子を勧めた。 勧められるままに座った2人に向かって、老人は口を開いた。





「さて、君達がなぜここに来たのかは知っているよ。

 わしが語りの民だ。 呼び方は何でもいいよ。 特に気にしないから。」





そう彼が言うと、手塚も言った。





「俺は手塚です。 こっちはリョーマ。

 ここに来た理由を知るのなら、当然俺達のことは知っているでしょう?」





「うん。 知っているよ。

 君達は王都の騎士とアーティシャルで、3強と呼ばれている。」





「そうです。 でも、理由を知るのなら教えてください。

 オーブの在処を。」





手塚をそう迫った。 それをやんわりとかわしながら、彼は言った。





「それは出来ない。」





その言葉に、手塚は反論した。





「何故です?」





「君達も知っているだろう? オーブがどれほど危険なものかを。

 だから教えるわけにはいかないんだ。 手を触れなければあれは何の害もない。」





「ですが、オーブを集めるのは王都の方針です。

 たとえあなたでも、断れば王都反逆の罪になりますよ。」





手塚がそう言って脅しをかける。

だが、オジイはその脅しにびくともせずに言った。





「たとえ罪になってもね、教えれないことがあるんだ。

 ・・・さて、話すことはもうないよ。 今日のところはもう帰ってもらおうか。」





そう言ってオジイは席を立ち、2人に背を向けた。

その様子にもう無理だと悟ったのか、手塚はリョーマに合図をし、部屋から出ていった。

パタンと閉まるドアの音を聞きながら、オジイは窓から空を見上げた。





(・・・賽は投げられた、か・・・。 わしの言ったことのせいで、きっとここは地獄と化すだろう。

 だけど、こうしなくてはいけなかったんだ。 皆、すまない・・・。

 ・・・せめて、少しでも犠牲を少なく・・・。)





こう思うオジイの表情は悲しそうで、辛く、耐えているようだった。

・・・何もなかったかのように、風が穏やかに吹いていた・・・。



                                      ☆



「マスター、何ですぐにあそこを出たんですか?

 あんなじいさんだったら吐かせれたんじゃないですか?」





部屋から出て、階段を下りながらリョーマはそう手塚に聞いた。

手塚は彼を振り返らずに言った。





「あそこで何かをしても無駄だっただろう。 あの老人にはそれくらいの意思の固さがあった。

 情報くらいだったら、何とかなるだろう。

 それよりもリョーマ、お前は気付かなかったのか?」





「? 何にです?」





「あの部屋に、風のオーブがあった。」





「え?!」





彼のその言葉にさすがに驚くリョーマ。 どうやら彼は気付かなかったようだ。





「本当だ。 まあ、とにかく今は王都に戻ろう。 榊様に報告してから、また動くぞ。」





「イエス、マスター。」





・・・歯車は回り続ける。

早く、早く。 運命を弄ぶために。 平穏を、打ち砕くために・・・。









【あとがき】

なんつー、久々な更新だ(汗)

しかも、なんですか? この長さは。

今までもあんまりないくらいの長さになってしまったこの話。

ものすごくちょこちょこ書いたんで、どうもよくわからない展開となっております。

とりあえず、オジイと手塚達が接触しました。

なんかちょっと書いてしまいましたが、こっから先はホント内容が変わります。

こっからの内容が1番書きたかったので、気合い入れて書くぞー!



06.5.11



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