さあ、それを渡してもらおうか。

それがなくては、私の望みは叶わないのでね。

お前は今まで、私の手の中で踊っていた単なる駒の1つにすぎないのだよ-----。





Smyphony of destiny  第五章・8





『オーブを渡してもらおうか。』





呼び出され、榊に言われたのはその言葉。 それに、千石はかなり動揺していた。

それもそのはずだ。 彼がオーブを持っていることが、榊の耳に届くことはないはずだったのだから。





「何で俺が持っていることを・・・?!」





そう千石が言う。 それに、榊はうっすらと笑みを洩らし、言った。





「隠そうとしても私の前では無駄だ。 私には『目』があるのだよ。

 何でも見通すことの出来る目がな。 まあ、手に入れるのは簡単ではなかったが。

 お前も知っているだろう? ・・・こいつのことだよ。」





榊がそう言うと、部屋の中にあった扉から誰かが現れた。

それは・・・。





「太一君?!」





それは、亜久津のパートナーの太一だった。





「なんで君がここに・・・?!」





そう言う千石。 だが、太一は何も反応しない。

それを見て、彼は思った。 まるで、人形になってしまったようだと。

と、太一に向いていた意識が榊の言葉で彼のほうに戻った。





「さて、オーブをさっさと渡してもらおうか。 それはお前が持っていてもしょうがない代物だ。」





榊がそう言うと、千石はしぶしぶ彼の元に近寄っていって、オーブを取り出した。

千石の持っていたオーブは雷と水の2つ。

しかし水はリンドブルーの竜によって砕かれてしまっていて、3分の1しかない。

それを、彼は榊に戸惑いながらも渡した。

その2つを受け取ると、榊は満足そうにニタっと笑った。

そして・・・。





「ご苦労だったな。

 さて、残念ながらお前はもう・・・用済みだ!!」





そう榊が言った瞬間に、千石の体にいくつもの衝撃が走り、一拍遅れて激痛が全身を駆け巡った。

一瞬、何が起こったのか分からなかった。

しかし、榊の手に握られた黒光りする物を見て、千石は悟った。





(撃たれたっ・・・!?)





瞬間的に千石はそう思った。

何も構えていなかった体が衝撃に吹き飛ばされて、部屋にある大窓のすぐ横の壁に叩きつけられた。

・・・普通の銃ではありえない強さだった。





「うっ・・・。」





銃で撃たれたのと、壁に叩きつけられた痛みで、千石はその顔を歪ませる。

彼の撃たれた箇所からは、血がじわじわと流れてきていた。

その彼の元に、榊はカツカツと靴音を響かせながら近寄って来る。

彼の手には、まだ千石に標準を合わせたままの銃が握られていた。





「お前の力はなかなか使えたんだがな。

 だが、『時』のことを知った以上生かしておくことはできない。

 お前を生かしておけば、私の計画は邪魔されることが目に見えているからな。

 手塚ぐらい従順だったのならば私の駒の1つとして生きていれたのだがな。

 さて、あまり無駄話していても意味はないな。 ・・・そろそろ死んでもらおう。」





そう言いながら、榊は千石の頭に狙いをつける。

その様子を、千石はどこか諦めたような感じで見守っていた。





(やっぱ、王都になんて来るんじゃなかったー。 まさか、こんなことになるなんて思ってもいなかったからな。

 跡部君、これから大丈夫かな?

 ・・・ごめんね。 戻ることが出来なくて・・・)





そう思いながら、千石は目を瞑った。

と、その時!!





ズズンッ





突如、城に衝撃が走った。

それに、榊が何だ?と言うのが聞こえた。





「太一、一体何があったのだ? 報告しろ。」





榊がそう言うと、太一ははいと言って目を軽く瞑った。

そして、すうと息を吐き出したかと思うと、突然目をカッと見開いた。





「・・・どうやら、城の地下で何かあったようです。 炎が見えます。

 ・・・人、がいます。 白髪の・・・ああっ!!」





状況を説明していた太一が突然叫び声を上げて、自分の目を覆った。

その目からは涙が溢れていた。 しかし、顔は無表情のままだった。





「ちっ。 この騒動の元凶は亜久津か!

 まだ完璧ではなかったからな。 奴を見たことでパニックに陥ったか。」





太一の様子を見た榊は彼の元にコツコツと近寄っていき、手套で太一を気絶させた。

そして、千石の元に戻ってくるのではなく、自分の仕事机の所にあった何やら丸い物に向かって話し出した。





「城の現在の様子はどうだ?」





『分かりません! 炎が1階をほとんど覆っています!

 先ほど、白い髪の男の姿が目撃されましたが、誰かは確認されておりません。

 被害は拡大しています! ・・・あ、今階下から情報が入ってきました。

 炎を操っているのはやはり白い髪の男のようです。

 奴は今、上に向かっているようです。 命令を!』





「丸井をすぐに奴の元に向かわせろ。 オーブの守りはジャッカルだけで十分だ。

 一般の兵士達は、すぐに城の鎮火作業にあたらせろ。

 これ以上被害を拡大させるな!」





『了解いたしました。 すぐにそのようにいたします。』





・・・榊がそう話すのを、千石はぼんやりと聞いていた。





(この騒ぎ、亜久津が起こしたんだ・・・。 ダメだよ、こんなことしちゃ・・・。)





そう思っていたその時!





『すぐ・・・に、そこ・・・からだ・・・っしゅつを。』





彼の頭の中に、そう声が聞こえてきた。

その声は・・・。





(太一・・・君?)





その声は、すぐそこで気絶しているはずの太一だった。





(なん・・・で?)





『千石・・・さん。 あなたは・・・今ここ・・・で死んで・・・は、いけませ・・・ん。

 死んだ・・・ら、僕・・・と同じ・・・にされて・・・しまい・・・ます。

 時間・・・がありま・・・せん。 僕・・・のこの意識・・・も、あと・・・もうすこ・・・しで消えて・・・しまい・・・ます。

 あなた・・・の・・・すぐ横・・・にある・・・窓・・・から逃げ・・・てくださ・・・い。

 下は深・・・い谷にな・・・っています・・・が、かなら・・・ず助かり・・・ます。』





(逃げるんだったら、君も一緒だよ?! 一緒にここから逃げればいい!)





『僕・・・は、できま・・・せん。 今のぼ・・・くは、榊さ・・・まの・・・完全な・・・人形・・・です。

 あの人・・・からはなれ・・・ること・・・ができない・・・んです。

 だか・・・ら、あなただ・・・け、逃げ・・・てください・・・。 おねが・・・いします。』





太一にそう言われ、千石はこう返した。





(分かった。 必ず逃げ切るから。 そしたら、助けにくるからね!)





『は・・・い。 まって・・・ます・・・。』





再び聞こえてきた太一のその言葉に、千石は心の中で頷いた。

そして、自分でもどこにそんな力が残っているのか分からないほどの早い動きで起き上がった。

そのまま彼はすぐ傍のあった大窓にかけよる。





「なっ?!」





榊の驚きの声が後ろから聞こえるが、彼は振り返らない。

窓を大きく開けて出ると、そこには小さなベランダ。 それには、1メートルほどの柵がつけてあった。

その柵を、彼は何のためらいもなしに掴んで飛び越えた。

目の前には、底も見えぬほどの深い谷。 その中に、彼はその身を躍らせた。

落ちながら、千石は上を振り返る。 そこには、怒りに顔を歪めている榊の顔が。

上手く出し抜けた・・・と思いながら、彼は闇の虚空に落ちていった・・・。









【あとがき】

前からまたえらい急に話が展開しました。

千石が殺されそうになったり、太一がおかしかったり。

書いてて、この展開は変な気が・・・。と、ずっと思ってましたがこうしないと進まないんで、こうなりました。

亜久津は本当は今回出てくるはずだったんですが、予想以上に長くなってしまったんで次回に持ち越しです。

そろそろ、バラバラだった人達が1つになってきます。

やっとここまできてうれしー!



06.6.18



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