くそっ。 おのれ、あやつのせいで計画に狂いが出てしまった。

こうなったら、すぐに行動を開始しなくては。

邪魔者を消し去ってしまわねば・・・。






Symphony of destiny  第五章・9





「ちっ。」





ベランダから軽く乗り出していた身を引っ込めながら、榊はそう悪態をついた。

千石にしてやられた。

そう思うと、腹立たしい気持ちが湧き上がってきてしょうがなかったが、それを無理矢理押さえ込んで彼は部屋の中に戻った。

部屋の中には意識を失って倒れている太一がいたが、それには目もくれず、彼は自分の机の所に向かった。

そして。





「報告しろ。 城の現在の様子はどうだ?」





『報告します。 白髪の男は、現在城の中ほどまで進行した模様です。

 もうすぐ丸井さんが追いつくはずです。

 城の被害状況は、現在燃やされた箇所の約80パーセントの鎮火が終了いたしました。

 見た目よりも城自体の被害は少しです。 すぐに補修作業にあたらせます。』





「そうか。 分かった。 では、今から言うことを城全体に伝えろ。

 騎士、千石清純がオーブを狙い私を殺そうとした。 私もオーブも無事だが、奴はまんまと逃げ延びた。

 即刻、奴を王都反逆罪で指名手配しろ。 必ず奴を見つけだして殺せ!

 あと、奴は最近アーティシャルと共に行動していた。 そいつも同じように指名手配しろ。

 だが、アーティシャルのほうは殺すな。 生きて私の元に連れてこい!!」





『了解いたしました。 すぐにそのようにします。』





そう言って、通信は切れた。

通信が切れるのを確認した榊は、そのまま部屋の奥のほうにあった扉の中に入っていった。

その部屋の中は薄暗く、淡い緑の光が満ちていた。

それは、中央にある筒のような物から放たれている光だった。

その傍らに、榊は立つ。

中には水が満ちていて、何やら人間が入っているようだった。

榊は、その筒についていたタッチパネルに素早くキーを打ち込んでいく。

打ち終わると、ボコボコという音を立てて中に入っていた水が引いていく。

その様子を見ながら、榊は1人呟いた。





「・・・おのれ、あいつも駒の1つにしてくれる。

 だが、ただ捕らえるのもつまらない。 5年もかかって完成したこいつの力も試しながら捕らえてやる・・・。」





淡い緑の光に照らされた榊の顔は、悪魔を連想させるほど壮絶なものだった・・・。



                                       ☆



「ふん。 さすがにここまでやると誰もかかってなんかこねーな。」





そう独り言を言いながら、亜久津は歩く。

彼の周りには、彼を守るように真っ赤に燃え盛った炎が包み込んでいた。

その炎は巨大に燃え上がり、触れた所を燃やしながらのたうち回っていた。

彼は今、最上階にある榊の部屋に向かって足を進めていた。

今の彼の目的はただ1つ。 自分のアーティシャルである太一を助け出すこと。

千石が、すでにこの城から脱出したことは分かっていた。

それは、さっきまでしていた彼の気配がこの城から出て消えたから。

亜久津は、騎士の中でも特に優れた感覚を持っていた。

そのお陰で、彼は今まで何度も死線を潜り抜けてきたのだった。





「ここまで来たらあと少しだな。」





そう、1人呟いたその時!





「!!!」





不意に一瞬何者かの気配がして、亜久津は反射的にその場から飛びのいた。

その瞬間、今まで彼がいた場所が大きく抉れた。





「・・・これは・・・。」





その痕を見て、亜久津は呟く。

攻撃に何の音もしなかった。 それに直前まで気配も。

彼は思った。 今こんなことが出来るのは、ずっと城の中で警護についている・・・。





「やっぱお前か。 丸井。」





そう亜久津が言った瞬間、周りを覆っていた炎が途切れた。

そしてそこから、赤い髪の男。 オーブの守護者の1人である、丸井ブン太の姿がゆっくりと現れた-----。



                                      ☆



「かなり予想外の事態になってしまいましたね。」





そう1人言いながら、柳生はどこかに向かって走っていた。





『すまんな。 柳生。 俺がもう少しなんとか出来てたら、こうはならんかったはずなんじゃが・・・。』





彼の頭に直接声が聞こえてくる。 その声は仁王だった





「いえ、あなたのせいではありませんよ。 とりあえず今は跡部君を探してください。

 千石君は私が責任持って助けます。」





『分かった。 ・・・奴は無事なんか?』





「・・・今の所なんとか生きてます。 しかし、気配があまりにも弱弱しい。

 このままでは危険です。 でも、居場所はだいたい掴めていますから。 すぐに見つかるはずです。」





『そうか。 じゃあ、そろそろ切るな。 見つけたらすぐにシーユに戻る。

 じゃあ、あとでな。』





「はい。 では、あとで」





そう言うと、仁王の声はプツリと切れた。

柳生は今、王都の外にある谷川にいた。 王都は平地から急な山の斜面に沿って広がっていた。

平地には民の住む都心部があり、そこはいつもたくさんの人で賑わっていた。

そこから少し行くと、だんだんと坂道になり、民家などは減っていく。

坂を上った先にあるのが、世界の中心部である城だ。 そこに、ほとんどの騎士達はいる。

王都には、豊かな水が流れていた。

その川は城の裏で分岐し、片方は町の中。 もう片方は王都の外へと流れ出ていっていた。

王都の外に流れていった水は、すぐ傍にある谷へと流れていっていた。

柳生がいるのはまさにその場所だった。

仁王が城から脱出したあとすぐに連絡を取った彼は、どうしたものか考えを巡らせていた。

そしてその時、何者かが彼に話しかけてきて、千石のことを伝えたのだった。

そして柳生は、今千石を見つけるために谷を上っていっているのだった。





(仁王君にはああ言ったものの。 見つかる可能性は低い・・・。

 この川は流れが急すぎる。 ・・・でも、なんとしても見つけなければ。)





そう思いながらも先へ進んでいると・・・。





『この先に、いる。』





「!!!」





突然、さっきとは違う声が頭の中に流れ込んできた。

まったく聞き覚えのない声。 それに向かって、柳生は言う。





「あ、あなたは一体?!」





だが、声はもう聞こえなかった。

それに少し彼の足が止まるが、すぐにまた走りだした。



                                         ☆



「ん? 何だ?」





千石が城に行っている間、そこら辺の喫茶店に入って時間を潰していた跡部。

だが、彼がなかなか戻ってこないので、イライラしだしていたその時、何かの気配に気付いた。





(この気配・・・人間か。 だが、普通の奴らじゃねーな。 相当訓練した奴らだ。

 ・・・街の連中に混じってかなりの数がいやがる。

 何だ? 奴ら、だんだんこっちに・・・!! この店を取り囲もうとしていやがるのか?!)





そのことに気付いた跡部。 彼は、すぐに席を立った。

そして代金を払い、店を出た。





(・・・何か嫌な予感がする。 あいつらの狙いはきっと俺だ。 そんな感じがする。

 とりあえずここから離れねーとな。 くっそ、千石の奴、一体何をしているんだ?!)





そう思いながらも、跡部は街中を歩く。

近づいてきている気配は、彼からつかず離れずの距離を保ちながらついてきていた。

何がどうなっているのか分からないまま、跡部は街中を歩き続ける・・・。



                                       ☆



「!! 見つけた!!」





街の中にある建物の上に、1人の男がいた。

彼は目立つ所にいるはずなのに、誰にも気付かれることなく街中を見ていた。





「げっ。 かなりやばい状況だよ。

 ったく、何でこんな面倒なこと僕に押し付けるんだよ。 自分で来ればいいのに。」





そう言いながらもでも、と彼は続けた。





「まあでも、これくらいのことはこなさないとダメか。

 あいつの『後継者』はこの僕なんだし。」





そう言った瞬間、男の姿は跡形もなく消えうせた・・・。









【あとがき】

最近展開が急で、何がなんだか分からなくなってきていたりしてます(汗)

また新しい人が出てくる気配が。

果たして彼は誰なのか? そして千石、跡部は?

・・・ちょと予告風味にしてみました。 では、次回をお楽しみに。



06.7.1



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