何で、何でお前がここにいるんだ?!

答えろ! 俺のこの声が届くのなら、答えてくれ!!






Symphony of destiny  第五章・11





「ガッ・・・。」





呻き声を上げながら、丸井が倒れていく。

その背には、1本の鋭いナイフが突き刺さっていた。

だが、亜久津の目は彼ではなくその後ろから現れた人物に釘付けになっていた。





「裏切ることは死を意味する。 それを知っての行動か。」





そう言いながら歩いてきたのは・・・。





「まさか、貴様が出てくるとはな・・・。 榊!!」





亜久津がそう怒鳴る。

そこに現れたのは、彼が狙う人物榊太郎であった。





「やはりこの騒動を起こしたのは貴様だったか。 亜久津。

 どうやって地下牢から脱出したのかは知らないが、あそこでおとなしくしていればよかったものを。

 まあいい。 裏切った者がどういう末路を辿るか、その身をもって味わえ。」





「ふん。 そんなものを味わうつもりはねーな。

 そんなことより、貴様に聞きてえことがあるんだよ! 答えろ! 太一はどこだ!!」





亜久津がそう怒鳴ると、榊はにやっと笑い、言った。





「ああ、太一か。 あいつは私の元で献身的に働いてもらっているぞ。

 そうだな。 いいだろう、会わせてやる。 ついてこい。」





そう言うと、榊は歩きだした。

亜久津はこの隙に後ろから倒してやろうとしたが・・・。





(!! 何だ、この力は・・・?! くそっ、止めたほうが賢明だな・・・。)





彼は、榊から発せられていたとんでもない力を目の当たりにして、攻撃を止めた。

そして、後ろから素直についてきた。





(くくく。 亜久津、お前は馬鹿ではないからこうすることは予想済みだ。

 あと少しでこいつも私の物となる・・・。)





歩きながら、榊はまたどす黒く笑う・・・。



                                         ☆



「いた。 仁王、あそこにいる。」





そう言って、走っていた淳は足を止めた。 それにつられて仁王も足を止める。

なるほど、淳の指す先には確かに跡部がいた。 彼は街の中を彷徨うように歩いていた。

しかしその彼の周りを、大量の兵士達がさっきと同じように着かず離れずの距離で囲んでいた。





「・・・ちっ、結構厳しい状況じゃの。」





「なかなかね。 でも、これくらいだったらなんとかできなくもないよ。

 とりあえず跡部を連れ出せばいいんだから。 何も戦闘しろって言ってるわけじゃない。

 仁王、君はさっき言った通り俺の傍にいてよ。」





「ああ、わかっちょる。 とにかく、急いでやるか。

 先に向こうに動かれたら面倒じゃ。」





「OK。 じゃあ、行くよ。」





そう言うと、2人の姿は瞬時に消えうせた・・・。



                                       ☆



(一体何なんだ? あいつらは。)





そう考えながら、跡部は街の中を彷徨う。

喫茶店で何者かの気配に気付いてからずっと、彼は彷徨い続けていた。

何でそうしなければいけないのか分からない。 しかし、そうしなければいけないような気がするのだ。

捕まってはいけない、と-----。





(んにしてもしつこい奴らだな。 喫茶店から大分離れちまったぜ。

 ・・・千石の奴、ホントに何してやがんだ?!)





少しイライラしながらも、彼は歩く。

と、その時彼は気付いた。 自分の周りに人がほとんどいなくなっていることに。





(! しまった! 人気の無いとこにきちまった!)





そう気付いたその時!





パンッパアンッ!!





不意に何発もの銃声がその場に響いた。

とっさに跡部は身を翻して、すぐ傍にあった空き家の物陰に隠れた。





(ちっ、俺としたことが。 さて、この状況どうするか・・・)





そう考えながらも、跡部は腰に差してあった剣をすらりと引き抜く。

そして・・・。





(しょうがねえ。 とりあえずこの場から脱出するしかねーか。)





そう思い、物影から飛び出そうとしたその時!!





「!!!」





何者かが、彼の腕を掴んだ。



                                      ☆



跡部を連れ出そうと、彼の傍に瞬時に近寄った瞬間、兵士の撃った銃声が響いた。

この状況に、2人はちっと舌を打つ。





「ここまできて向こうのほうが先かよ。 ったく、むかつくなあ。」





「そう言ったってしょうがねーだろ。 とりあえず、まだ兵士との距離はある。

 奴はは物陰にいるから連れ出すには丁度いいじゃろ。」





「そうだね。 ・・・銃撃が止んだ。 今だ!」





淳のその声で、2人は同時に跡部の真後ろに気配もなく現れた。

そして、そこから飛び出そうとしていた跡部の腕を、仁王がグッと掴んだ。



「!!!」





跡部が驚いて振り向く。 その目が大きく見開かれた。





「お前は、仁王?!」





自分の腕を掴んだのが、見たことのある人物だったので跡部は少し安心した。





「何でお前がここに? ってか、この手を離せよ。」





「ああ。 ・・・ちょっと事情があってな。 跡部、お前には今すぐ一緒に来てもらう。

 このままじゃと確実に捕まるしな。」





「一体どういうことだ? 全然わかんねー。

 だが、俺はいけねーぜ。 千石の野郎を待っててやんなきゃいけねーからな。」





「とにかく、詳しいことは後じゃ。 千石はもうここにはいないぜよ。

 奴は柳生と一緒にもう脱出した頃じゃ。 ・・・あいつは今、かなりの怪我を負っているはずだ。」





「な・・・に・・・?」





「本当じゃ。 とにかく、ここは危ない。 千石のいる所まで行くぜよ。

 ・・・淳、頼む。」





そう言って仁王は後ろを振り返った。

了解と言って、彼は2人の傍に近寄ってきた。 彼は、混乱する跡部に声をかける。





「千石は大丈夫だよ。 絶対に死にはしないから。 ・・・俺達を信じて。」





淳はそう言うと軽く目を閉じ、唱えた。





『我らを誘い、彼の地へと導け! ムールメント!!』





淳がそう唱えた瞬間、突如として魔法陣が3人の足元に出現し、光が包み込んだ。

その光に異常を感じた兵士達が、バタバタと近寄って来る。

だが、ほんの少しの差で光は消え去り、3人の姿も消えうせていた。

兵士達は、ただ呆然とその場に立ち尽くしていた・・・。



                                        ☆



榊の後ろをおとなしく亜久津は着いていっていた。

そして最上階、彼の部屋に辿りつく。





「さあ、太一はこの中だ。」





そう言って扉を開く。 その瞬間亜久津の目に映ったのは、床に倒れている自分のパートナーの姿だった。





「太一!!」





そう叫ぶように言い、彼は走り寄る。

どうやら気絶しているだけのようだったので、ひとまず彼はほっとする。

それを確認すると、彼はすっくと立ち上がった。 その怒りの矛先は、榊に向けられていた。





「てめえ、よくも太一を!」





そう怒鳴った瞬間、彼の全身から炎が迸る。

だが、榊は涼しい顔をしたままだ。 それに、亜久津が訝しげな顔をする。





「抵抗もなしか?」





そう言うと、榊はふっと笑う。





「いや、お前になぞ私が直接手を下すまでもない。

 お前の相手は、私に忠実な人形がする。 さあ、出て来い!」





榊がそう言うと、部屋の奥にあった扉がゆっくりと開いていった。

そして、そこから1つの人影が出てきた。 その人物を見て、亜久津は驚きの声を上げる。





「な、何でお前がここにいるんだ?!」





しかし、その人物は何も言葉を発しない。

代わりに、榊が言う。





「お前の言葉なぞ届きはしない。 さあ、あの反逆者にお前の力を見せてやれ!」





榊がそう言った瞬間、目に見えない力が部屋に満ちた・・・。



                                       ☆



「くっ、くはははは!!!」





榊の笑い声が部屋に響き渡る。

その彼の前には、太一と同じように倒れる亜久津の姿が。





「素晴らしい、素晴らしいぞ! これでこいつも私の物だ!

 くくく。 こいつの力がまさかここまでとはな。 予想以上だ。

 これさえあれば、魔導師達も私の敵ではないわ! ははははは!!!」





笑い続ける榊の声を、薄れゆく意識の中で亜久津は聞いていた。

体は鉛のように重く、指1本も動かすことが出来ないこの状況で、彼は心の中で呟く。





(太一・・・すまない・・・。 助けてやれなくて・・・。

 ・・・仁王、こいつは危険だ。 危険すぎる・・・。 ・・・何であいつが、榊の言いなりに・・・?

 くそ・・・。 ダメだ。 意識・・・が、薄れてきやが・・・る・・・。)





そう思ったのを最後に、彼は完全に意識を手放した。

・・・その彼の傍に、奥から現れた人物は静かに佇んでいた。 暗くて顔は見えなかったが、無表情であることは伺えた。

だが、この時その目を見つめた者なら気付いたかもしれない。 その目が、哀しみの色に染まっていたことを。





・・・回る回る。 歯車は残酷に、無常に回る。

全ては1つの歯車を動かすために。 壊れたかのように回り続ける・・・。



第五章、完結









【あとがき】

やっと、やっと時間のかかりすぎた第五章が終了いたしました!!

やっと色々展開していったんですが、いかがだったでしょうか?

この章で、分かったことがたくさん。 書いててよく分からなくなりました(汗)

さて、次の章では遂に『彼』が登場します。

かなりもったいぶっていましたが、今度こそ登場予定です。

やっとここまできたー!!



06.7.18



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