この力、どれほど使えるのか試すいい機会だ。

俺は、誰のためでもなくマスターの役に立ちたいんだ・・・。






Symphony of destiny  第六章・2





手塚と別れ、乾と共にリョーマは臨時で作られた医務室に向かった。

中には、今回のこの事件で怪我を負った兵士達がかなりの数いた。 その中を、乾は迷わず奥に進む。

奥に進んだ所に、他とは区切られた場所があった。 そこは、どうやら酷い状態の者がいるようだった。





「ここだ。 入るぞ。」





乾はそう言って足を踏み入れる。 その後ろから、リョーマも付いて行った。





「! 結構酷いですね・・・。」





そう呻くリョーマ。 そこにいたのは、全身を火傷で覆われた者や体に巻かれた包帯を自身の血で真紅に染めている者達だった。





「ああ。 だが、幸いにも重傷者はさほど多くはない。 死者も出なかったからな。

 軽傷者は結構いるが・・・。 とにかく、こっちだ。 海堂は奥で休ませている。」





そう言って、乾はさらに奥へと足を進める。 その後をリョーマもついて行く。

いくつものベッドの合間をすり抜けて行くと、1番奥の所に包帯で全身を巻かれた海堂がいた。





「・・・大丈夫か?」





「ええ。 さっきよりは。

 ? 乾さん、何で越前がここにいるんですか?」





そう、不思議そうに尋ねる海堂。





「リョーマがお前の傷を治してくれると言ってな。 来てもらたんだ。」





乾がそう言うと、リョーマはさっきよりも近くに寄ってきて言った。





「そこまで治せないと思いますが・・・。 とりあえず、包帯取ってください。」





リョーマがそう言うと、乾は巻かれていた包帯を丁寧に取り除いていった。

露になった傷。 その皮膚は酷く焼けただれ、真っ赤になっていた。 見ているだけで、自分にも痛みが襲ってくるような錯覚さえ覚えた。





「ところで、一体どうやるんだ? 治癒の力を持っているなんて聞いたことないぞ。」





「確かに、俺は治癒の力は持っていません。 だけど、体の1部の時間経過を早めることは出来るんです。

 たとえばこの場合なら背中っすね。 ここの時間の流れを通常より早くすることで、傷を短時間で自己治癒させれるんす。」





そう言いながらリョーマは右手を海堂の背に翳した。

そして、小声で何か唱え始める。 すると、淡い光が背中全体を包み込んだ。 たっぷり2,3分ほど、リョーマはそうしていた。

やがて、ゆっくりと手を話す。 それと一緒に、光りも消えた。





「ふう。 俺にはこれぐらいが限界っす。 これ以上はちょっと。

 でも、さっきよりは傷、良くなったでしょ?」





その言葉に、乾はああと言う。 確かに、海堂の傷は驚くほど回復していた。

まだ多少赤みは残っているものの、痛みはさほどしないだろう。





「ありがとな、越前。 本当に、ものすごく良くなった。」





海堂もそうお礼を言う。





「いや、別に大したことしてないんで。 じゃあ乾さん、俺はもう戻りますよ。

 多分、マスターが戻ってきたらすぐに行くことになるでしょうから。」





「ああ。 わざわざすまなかったな。

 ここが襲撃されたんだ。 これからは何があってもおかしくはないだろう。 くれぐれも気をつけてくれと、手塚にも伝えてくれ。」





「分かりました。 じゃあ、俺はこれで。」





リョーマはそう言うと、また小さく何かを唱えた。

その瞬間、光が彼を包み瞬時にその姿を消し去った-----。



                                                   ☆



「手塚か。」





榊の部屋につき、扉をノックし中へと入る。

部屋の中には人の影はなかったが、大窓のガラスは割れ、床にかいくつかの血痕が残されていた。





「一体、何があったんですか?」





そう尋ねる。 それに榊は、椅子に腰を下ろしながら言った。





「話せば長くなる。 だが、簡潔に言おう。 まず、この騒ぎを起こしたのは亜久津だ。

 とりあえず奴はもう確保してあるから問題はない。 しかし、もう1つ別のことも起こってな。

 オーブの探索にあたらせていた千石が、オーブを隠し持っていた。 それはなんとか回収したのだが、その時に私も殺そうとしてな。

 まあ、私は無傷だがな。 とにかく、奴は死罪確定だ。 もう奴は指名手配されている。

 そしてもう1つ。 千石にはアーティシャルがいた。 だが、そいつは王都で作られたものではない。

 そいつも顔は割れているから指名手配は既にしてある。

 手塚、戻ってきたばかりだが次の任務だ。 千石達はここに来る前、シルフィードに寄って何かしていたようだ。

 ということは、そこの者達は千石がオーブを持っていたことを知っていた可能性がある。

 そうでなくても、そこの者達はいささか怪しい行動をしていたという情報が入ってきている。

 今はもう生きてはいないはずの裏切り者がいるらしいというのもあるしな。

 お前達はすぐにまたシルフィードに向かえ。 判断はお前に任せる。 反逆だと思ったら・・・シルフィードを消せ。」





榊はそう淡々と言った。 それに、手塚も無表情で答える。





「分かりました。 その様にします。」





「そうだ。 それでいい。

 まあ、シルフィードの反逆はほぼ決定だがな。 ・・・あそこに風のオーブがあったのだろう?」





「はい。 直接見たわけではありませんが、確かにありました。

 あの時は、一応やめておきましたけれど。」





「それも分かっている。 オーブを隠すという事は、何か企んでいる証拠だ。

 それを阻止するためにも、何としてでも入手しろ。 ・・・そうだな。 お前達2人ではいささか面倒だろう。

 助けになるように2人ほど一緒に行かせよう。 ・・・それに、試すいい機会にもなるからな。」





「? 何か?」





「いや。」





榊は椅子に深く座りなおし、そう言った。 その後、すぐに手塚は部屋を出て行った。

彼がいなくなると、榊は部屋の奥にある扉に向かった。

薄暗い部屋の中には、淡い緑色の光を放つ筒が1つ、新たに増えていた。

2本ある筒の中には、それぞれ人が。 その片方に榊は近寄る。





「くくく。 こいつが人形と化して私の駒の1つになるまで、あと少しだ。」





その中に入る人物を見て、黒い笑みを浮かべる。

・・・部屋の比較的隅に、虚ろな目をしてぐったりとしている太一の姿があった。

彼の体には、複雑な魔法陣のような物が刻まれていた。 その彼の元に、榊は近寄る。





「ふん。 大分安定してきたな。 調整が不十分だったか。

 まさか亜久津のせいでここまで壊れるとはな。 また使えるようになるまで、いささか時間がかかりそうだ。

 だが、奴を手に入れた今、前よりは扱いやすくなるだろう。 こいつの力も、私には必要なのだからな。 ちゃんと働いてもらわなければ困る。

 おっと、あいつらのほうの調整もしなければ・・・。」





そう呟いて、榊は部屋を出て行った。

彼が出て行くと、部屋は静寂に包まれる。 と、淡い光に照らされていた太一の声が・・・。





「マスター、ごめんなさい。 僕なんかの為に・・・。

 ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい・・・。」





壊れたかのように、太一は呟き続ける。

虚ろで何も映していないかのような目は、確かに1つの筒を見ていた。

・・・その中にいるのは、白髪の男。 鋭い目は今は閉じられ、体は水の中をたゆたう。

その姿は、炎を操り戦う彼からは連想も出来ないほど弱弱しいもの。

彼の名は亜久津仁。 亜久津は今、自分のこれからの運命を知らぬまま、静かに眠り続ける・・・。









【あとがき】

えーっと・・・なんですかこれは?(お前が書いたんだよ。)

予想外のことになってしまいました。 この話。

本当はここのくだりは書く予定に入っていなかったんです。 でも、なんかいつの間にかこんな展開に(汗)

ま、いっか!(よくないよ。)

さーて、開き直って次も書くかー!(だからよくないって!)



06.7.28



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