風が騒いでる。

そうか、皆怖いんだ。 大丈夫だよ、俺達には強い人がついてくれているから・・・。





Symphony of destiny  第六章・8





「はあああ!!」





手塚の振り下ろした剣が、迷うことなく橘を襲う。

それを自分の剣で受け流し、わき腹めがけて振るう。 しかし、それは当たることなくよけられた。

ちっ、と軽く舌打ちをし、再び切り込もうとした時いきなり足元の土が動き、襲い掛かってきた。





「くっ!」





とっさに地面を蹴り、それをなんとか避ける。 だが、その先には手塚の剣が。





キイイイイン!!





剣と剣のぶつかり合う音が響く。 そのすぐあと、2人は互いに距離を取り地面に着地した。





ポタッポタッ





緑の草の上に、血が滴り落ちる。 その血の主は橘だった。

彼は、左腕を手首から肘にかけて切り裂かれていた。 それほど大きい傷口ではないが、血は止まる様子はない。





「少し、油断したか・・・。」





橘がそう呟く。 しかし、そう言いながらも目線は手塚から離れてはいなかった。

今、少しでも逸らしたら彼は容赦なく襲い掛かってくるだろう。 それを、橘は十分に理解していた。

だが、傷を負ったのは橘だけではなかった。 手塚は、左肩から血を滴らせていた。





「まさかあの体勢でここまで正確に利き腕を狙えるとは。 さすがとだけ言っておいてやろう。

 だが、大分実力が落ちているな。 6年前の貴様は、これほどまで弱くはなかった! アースランス!!」





いきなり、手塚が言霊を唱えた。 その瞬間、土が隆起し何本もの巨大な棘が橘に襲い掛かった。

それを、高く跳躍することでなんとかかわす。





「貴様の弱点は、エレメントを持たない所だ。 そしてそれが、俺とお前の埋めようもない差だ!!」





次々と、それこそ息もつく暇もないほど激しい攻撃が続く。

それを、なんとかかわしながら橘は1つの決断をしようとしていた。





(6年前、もう2度と使わないと誓ったのにな。 ・・・今、再びあれの封印を解く時か。)





橘は、グッと拳を握りしめた・・・。



                                                   ☆



「風よ! 吹き荒れろ! ストーム!!」





神尾がそう唱えると、リョーマの周りに強い風が渦巻く。

仕留めた!と、思った瞬間後ろからわずかな殺気。 咄嗟に避けるのと、リョーマの剣がかすめたのはほぼ同時だった。





「ふーん。 やるね。」





互いに距離を取ると、リョーマがそう言う。 神尾は、背筋に嫌な汗が流れるのを感じた。





(ちょっとヤバイかもな。 こいつのエレメントはそういえば時だったっけ。

 いくらこっちが攻撃しても、空間移動でかわされるだけだ。 少しでいい。 こいつに隙を作れば・・・。)





互いの間に、ピリピリとした空気が漂う。

少しの時間が流れた。 しかしそれは、2人にとっては永遠のようにも感じられた。

だが、不意にその沈黙が破られることになる。





「「!!!」」





2人が感じたその変化。 それは知っている、しかしあまり馴染みのない気配だった。

神尾は瞬時に悟った。 この力の気配は、自分の主のものだと。





(まさか! マスターあの力を?!)





リョーマのことなど、既に頭の中から消え去っていた。 神尾は自分の主の元に駆け寄ろうとする。

だが、それよりも早く神尾は全てが止まるのを感じた・・・。



                                                ☆



拳を握りしめた橘。 彼には、未だ手塚の放つ攻撃が続いている。

だが、それももうすぐ関係なくなる。 そう思いながら、橘は言霊を紡ぎだすために口を開いた。

紡ぐは、6年前に自ら使用を禁じた力を呼ぶもの。 大気が、震動した・・・。





『流れ、流れよ時の流れ。 澱みなく流れ続く時の流れ。

 今、我の声に耳を傾けよ。 その流れの一握りを我に委ねよ。

 停まれ、停まれよ時の流れ。 我が力の続く限り。 我が力の届く限り。 我以外の者の全ての時を今、止めろ!

 タイムストップ!!』





その瞬間、橘にしか見ることの出来ない膜が辺りを覆った。

それは手塚を、リョーマを、そして神尾を。 他全ての時を一瞬のうちに止めた。

ストンと地面に降り立った橘は、ふうと軽く息をはいた。





「6年ぶりだが、なんとか使えてよかった。 これであとはアキラを連れて・・・!!」





ザシュッ





何かを斬る音。 その音が橘の耳に届いたと思った瞬間、彼の体に猛烈な痛みが走った。

あまりの痛みに、技が切れそうになるが、それを精神力のみで押さえ込む。 ちらっと目線だけを下げると、真っ赤な血が服を同じ色に染めていた。





(腹部をやられたか。 この出血量からすると、かなり深く切り裂かれたようだ。

 だが、それよりも・・・。)





下に下げた目線を、完全に上に上げる。

そして、自分の前方にいる人物を睨み、叫んだ。





「なぜ貴様は動ける?! 越前リョーマっ!!」





血の滴る剣を右手に持ち、そこに立つは確かにリョーマ。

彼は、口元にどこか寂しそうな、苦しそうな笑みを浮かべながら言った。





「・・・俺には、時の停止は聞かないんすよ。」





その言葉に、橘の目が大きく見開かれる。 そして、再びその口が動く。





「そんな馬鹿なっ?! 確かにお前のエレメントは時だ。

 しかし、俺のこの力はエレメントに関係なく影響を与える。 いくらお前といえど動けるはずがない!」





「そうでもないんすよ。 俺は特殊でね。 他からの時の干渉を一切受けないんすよ。

 確かに、あんたの力は類希だ。 そして、その威力も。

 俺も実際目にするまではこんな強いものだったなんて、思いもしなかったんすよ。 それに、あんたのことはほとんどが機密だった。

 マスターだって、あんたに時の力があったなんて知らなかった。 だからさっき、あんなことを言ったんだ。」





「なら、ならなぜお前は俺の力のことを知っているんだ?」





橘のその問いに、リョーマは少し戸惑った。 だが、何かを決意したように言う。





「・・・榊様が俺に言ったんです。 元3強の橘は時を止める力を持つと。

 いずれあいつと戦うお前はこのことを知っておかなくてはいけないと。 マスターには言うなって言われたんすよ。

 何でか知らないけどね。 とにかく、だから俺はあんたのことを知っているんですよ。」





リョーマのその話に、橘は背筋が寒くなるのを感じた。





(榊が俺の力のことを知っていた? まさか、そんなはずは・・・。

 だが、それが本当ならあいつには・・・いや、そんなはずは・・・?!)





黙り込んだ橘に、リョーマは相変わらず少し悲しそうな目線を向ける。 そして、言った。





「ねえ、ずっと止めておくと余計に体力を消費するよ。

 だから、俺がこの時の結界を破って時を元に戻してあげますよ。」





「なっ?!」





橘が驚愕の声を上げる。 そして、リョーマを止めようとするが、彼のほうが遥かに早かった。





『時よ、全ての流れを元に正せ! タイムブレイク!!」





彼がそう唱え、剣を持っていないほうの手を後ろにバッと振ったその瞬間、周りを覆っていた膜が粉々に砕けちった。 一瞬のうちに元に戻る時の流れ。

その瞬間、神尾は再び走り出し、主である橘の元に駆け寄った。

そして驚愕する。 彼の、大怪我に。





「マスター! 何でこんな?!」





「俺のことはいい! 気を抜くなアキラ! 後ろだ!!」





ザクッ!





「うっ?!」





神尾の背中に激痛が走る。 反射的に風を操り、後ろにいる何かに攻撃する。

しかし、斬った感触はない。 振り返るとそこには、互いに血の付いた剣を持つ手塚とリョーマの姿が目に入った。





「よくやったなリョーマ。 これで、あいつらの動きは封じたも同然だ。」





楽しそうに、本当に愉快だといった口調で話す手塚に、リョーマは軽く項垂れながらもはい。と、答える。

その光景を見て、神尾は悟る。 このままだと、自分はおろか橘の命もないと。

どういうわけか知らないが、橘の時の停止が破られたらしい。 信じられないが、この状況だとそう考えるしかない。

どうしようと橘を見ると、自分の不甲斐なさを悔いるかのように強く拳を握りしめていた。





(このままだと、俺はおろかマスターまで・・・。 でも、そんなこと絶対にさせない。

 この命に代えてもマスターだけは。 ・・・こんなこと言ったら、きっと怒るだろうな。 でも、許してくださいよ、マスター。)





そう神尾が思ったその瞬間、不意に空間が歪むのが見えた・・・。









【あとがき】

内容量の関係で、かなり書いてしまった。 本当はもう少し少ない予定だったんですが。

橘さん、力初使用です! ・・・リョーマに負けちゃってますけど(汗) やっぱり6年の差は大きいんです。

さあ、はたしてこのあとどうなる?!

あっ、あと祐太が気になるとのコメント、ありがとうございます。

彼のことはこれからもっと詳しく書いていきますので、次を楽しみにしていて下さい。

さあ、頑張って書くぞー!!



06.10.28



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