死なすわけにはいかない。

この人は俺の全てを救ってくれた人。

俺は誓ったんだ。 たとえ、この命が消えようともこの人を守りぬくって。





Symphony of destiny  第六章・11





手塚とリョーマの2人によって、技を破られ傷を負った橘と神尾。

こうなったら自分の命をかけても、と神尾が思ったその時だった。 ふいに、自分達の前の時空が歪んだ。





「ちっ!!」





手塚達が後ろへと跳躍する。 彼らに向かって、水が放たれているのが見える。

水は、どうやらさっきの時空の歪みから放たれているようだ。

水と時空の歪み。 この2つから神尾が連想したのは、2人の人物だった。





(この力は、あの人達に違いない。 そうか、俺達を助けに来てくれたんだ。

 でも、一体どこに・・・?)





神尾がそう思ったその時、彼の頭に声が響いてきた。





『聞こえる? 神尾君。』





(ええ、聞こえてます。)





心の中でそう思う。 それだけで、この人とは話が出来る。

これは、自分の特殊能力だよ。と、彼は前に言っていた。 念じれば、知ってて1度話をした人物になら自分の声を届けることが出来るという。

俗に言うテレパシーってゆーやつだと、彼は言った。 やっぱり便利なもんだよな、と神尾は思った。





『簡潔に言うよ。 このあとすぐに、俺達が手塚達に強力な攻撃を仕掛ける。 っていっても目くらましが目当てだからそんなに時間は出来ないと思う。

 その僅かな隙に、神尾君は橘君を連れてそこから脱出して。 場所は、とりあえず俺達の店に。

 そのあとすぐにまた移動するから。 俺達は今はまだ別の所にいる。 君達が行ったらすぐに向かうから。』





(分かりました。 早く来てくださいね。)





『了解っ!』





そう言って、声は切れた。 神尾は橘に、今の内容を小声で簡潔に言う。

軽く頷く橘。 神尾も軽く頷き、橘にしか聞こえないくらいの小声で言霊を唱えだした。



                                                     ☆



「ちっ!」





悪態をつきながら、手塚は跳躍する。

橘を早く殺したくてたまらないのだが、いたる所から放たれる水が邪魔をして、近づくことが出来ない。





「リョーマ! これはどこからだ?!」





怒鳴る手塚に、リョーマは答える。





「分かんないです! この周りの空間が歪みすぎていて、どこにいるか感知できない!」





リョーマがこう言った時、手塚が小さく呟いた言葉が、なぜかリョーマの耳にも届いた。

それは、風の悪戯だったのか。 その言葉は、リョーマの心を抉った。





「役立たずが。」





(何で・・・どうして? どうしてそんなこと言うんすか? マスター・・・。)





その時、水の威力が変わった。



                                                ☆



『無尽に吹き荒れし風の息吹。 今、我の声を聞き届けよ。』





神尾の言霊の詠唱が始まると、水の威力が変化した。

歪みからあふれ出す水の量が少し減り、その代わりに勢いが増した。 かなりの速さで打ち出される水は、地に当たり穴を穿つ。

その攻撃に、さすがの手塚達にも少しの隙が生じた。 その瞬間、神尾は叫ぶ。





『我らを彼の地へ導け! ウィングルード!!』





そう唱えた瞬間、強い風が2人を包み込む。 これは、神尾が使える瞬間移動の技だった。

瞬間移動は、誰でも出来るものではない。 出来るのは、そのための特殊な力を持つ者だけだ。

そして神尾はそれが出来る。 風は、2人をあっという間にその場から運び去った。





「逃がしたか・・・。」





忌々しげに手塚が言う。 その彼を、リョーマは後ろから見ていた。

その目は哀しみと手塚に対する不信感に染まっていた。

それを知らずか、手塚はリョーマへと言う。





「奴らの居場所はとりあえず後回しだ。 先にこの谷を全て破壊する。

 リョーマ、お前は室町達の所へと向かい、てこずっているようだったら手を貸してこい。

 俺はあそこの塔を見てくる。 何かあったらそこまで来い。」





「イエス、マスター。」





そう言うと、リョーマは手塚の前から瞬時に消え去った。

その場に1人残った手塚の表情は、さきほどとはうって変わり何故か無表情だった。 彼の口から、何か呟きが漏れる。





「・・・全てを破壊せよ・・・。 縛り付けるものを・・・全て・・・。」





虚ろな表情でそう呟きながら、彼の足は塔へと向かった・・・。



                                                   ☆



既に冷たくなった室町の傍に、しばしの間呆然とする不二と佐伯。

しかし、佐伯の怪我の手当てをしなくてはと思った不二は、彼の体に手を伸ばす。 と、その時一陣の風が吹いた。





「「!!」」





咄嗟に目を覆う2人。 そこから現れたのは、赤い色をしたおかっぱのような髪型の人物だった。

見知ったその顔に、2人は緊張を解いた。





「岳人! どうして君がここに?」





不二がそう言うと、情報屋の1人岳人は辺りを軽く見回しながら言う。





「詳しい話はあとだ。 とりあえず今はここを離れるぜ。」





「でも、橘達は・・・?」





「あいつらなら大丈夫。 他の2人が今頃連れ出してるはずだ。

 さあ、とにかく行くぜ。 早くしないと佐伯もヤバイしな。」





岳人の言葉に、2人は頷いた。

それを見ると、岳人は祐太を軽く見やり一瞬悲しそうな顔をした。 しかしすぐにその表情を隠し、唱えた。





『ウィングルード!』





その言葉が響いた瞬間、強い風が4人を覆った。

そして、瞬く間にその場から運び去った・・・。










【あとがき】

さあ、今回は久しぶりにがっくんの登場です! 実は彼らは知り合いだったんです。

情報屋ですから、いろんな所にパイプを持っているんです。 他にも知り合いはたくさんいます。

さて、手塚の様子が変ですね。 一体彼に何があったんでしょうか?

リョーマもかなり困惑してます。 ここら辺のことが分かるのは、果たしていつになるんでしょう?

さて、次回で第六章は終了です。 やっと登場の方もいらっしゃいます! お楽しみに♪



06.11.04



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