物事の『影』に徹するのも、とても大事なこと。

しかし、時は来た。

今こそ現れ、手を取り合う時。 今こそ、全てを明かす時-----。






Symphony of destiny  第六章・12





「まったく!! あなたは一体何をやっているんですかっ??!!」





屋敷の中に、柳生の怒鳴り声が響き渡る。 怒鳴られているのは、忍足。 彼は今、とても縮こまっている。

今いるのは、屋敷の1室。 そこは以外に広く、長太郎の横たわっているベッド以外に全員が入ってもまだ余裕があった。

その中で、柳生は怒鳴っているのだった。

ちなみに、他の人はというと触らぬ神に祟りなしといったふうに、遠くから成り行きを見守っていた。





「だから、油断しとったんやっ!!」





必死に弁明する忍足だが、柳生の怒りは収まらない。

彼がこんなにも怒りだしたのは、少し前のこと。 傷だらけの長太郎を連れて、忍足が戻ってきてからだった。

柳が傷の治療をしていた時に、実は・・・と言い出した忍足にあの柳生がキレた。 そして、今に至るのだった。





「今、オーブが王都の手に渡るのがマズイと分かっているでしょう?! 何で盗られてるんですかっ?!」





「不意打ちくらったんや! だから堪忍してなっ。」





青筋を浮かべながら怒る柳生に、周りは何も言えないでいた。 と、その時。





「何やってんだよ? 怒鳴ったりなんかして。」





急に現れたのは跡部だった。 彼は今までずっと千石の元にいたのだったが、騒ぎを聞いて彼の寝ている部屋からやってきたのだった。

彼の姿を見た瞬間、忍足の目の色が変わった。 とても、優しい目に・・・。





(元気そうやな・・・。)





忍足は心の中でそう思う。 今の彼は自分のことを知らない。 いや、知っていてはいけない。

それは、彼にとって辛い事実だったが、仕方のないことだった。





「千石君の様子はどうですか?」





さっきの様子が嘘のように、柳生は跡部に尋ねた。 その変貌ぶりに、周りは軽く引いた。





「もうじき目を覚ましそうだぜ。」





跡部がそう言ったその時。





「もう起きたよ。」





ふいに部屋の入口からした声。 それは、間違いなく千石のものだった。

体中に包帯を巻かれた姿だったが、柳の治療が効いたのかさほど辛そうではなかった。





「もう、動いても大丈夫なんか?」





仁王がそう声をかける。 部屋に入った千石は、幸村のさしだした椅子に座りながら言う。





「うん、もう大分いいから。 とりあえず、ありがとう。 なんかよく分かんないけど、助けてもらちゃったし。

 ・・・。 ・・・あれ? なっ、何でここに幸村君と柳君がいるのっ?! あとそれに長太郎君までいるじゃんっ?!」





今まで普通に話していたのだが、ここにいるはずのない人物に驚きを隠せない千石。

と、彼の頭がこんがらがっているこの時に、長太郎が意識を取り戻した。





「長太郎! 大丈夫か?!」





慌てて彼を覗き込む忍足。 心配そうな顔をしている彼に、長太郎は軽く微笑んで言った。





「・・・はい、大丈夫です。 心配かけてすいません・・・。」





「そんなこと言わんでもええよ。 とにかく、無事でよかった。

 ・・・さて、と。 柳生、長太郎も目覚ましたからそろそろ全部話すか?」





忍足のその言葉に、柳生は軽く首を振る。





「いいえ、今はまだ出来ません。 『彼』がもうじき戻ってくるはずです。

 そうしたら、全てを語りましょう。」





「そうやな。 分かったわ。 じゃあ、それまでの間に千石に今までのこと話しといたほうがええな。

 頭ん中、ぐちゃぐちゃやろし。」





「そうですね。 では千石君、とりあえず今までに起こったことを順に説明していきますよ。」





「・・・そうしてください。」





頭の中がこんがらがりすぎている千石は、そう言って説明を求めた-----。



                                                   ☆



「まさか・・・嘘でしょ・・・?」





室町達と分かれた場所に戻ってきたリョーマ。 そこで目にしたのは、信じられないものだった。





「何で、この人が死んでるのさ?!」





驚きを隠すことが出来ない。 そして、彼はもう1つ気付く。

室町と共にいた祐太の姿がないことに・・・。





「まさか・・・連れてかれた・・・?」





その考えに辿りついた時、リョーマは瞬時に身を翻し、空間を移動した。

移動した先は、さっき手塚が向かうと言った塔。 そこの入口にリョーマは一気に飛んだ。

その場で軽く目を閉じ、手塚の気配を探す。 そして、彼を見つけると再び飛んだ。





「マスター!」





塔の最上階。 そこに、手塚はいた。

どうやら何かないかと探していた手塚は、慌てるリョーマに落ち着いた様子で聞き返した。





「どうした? 何かあったのか?」





「大変っす! 室町さんが殺されて、祐太さんがいない!」





「何?!」





リョーマのその言葉に、手塚も驚きを隠せない。

だが、彼は少しの間思案すると、リョーマに言った。





「俺は今からこの谷全てを破壊する。 あいつらがもう2度と戻ってこれないようにな。

 それが済みしだい、至急戻るぞ。 飛べるようにしておけ。」





手塚のその言葉に、リョーマは頷く。 それを確認し、手塚は唱えだす。





『我らの踏みしものを作りだす全なる大地よ。 今、我の声を聞け。

 この地全てを、その強大なる力の元に破壊し尽くせ! アースデスレイション!!』





手塚がそう唱えた瞬間、谷全体にとてつもない衝撃が走った。

それは長く続き、やっと収まったという時には、谷はかつての面影すら残してはいなかった。

かつて、ここに何かあったという証はこの塔のみ。 それ以外は、全て破壊し尽くされ無残な姿になっていた。





「これでいい。 ・・・行くぞ、リョーマ。」





1人、そう満足している様子の手塚。 その彼の言葉で、リョーマは空間転移を発動させた。

・・・廃墟と化したこの谷に、もう風は吹かない・・・。



                                                ☆



「・・・っていうことです。 分かりましたか?」





シーユでは今、千石のための説明がやっと終わった。

長い話を聞き終えた彼の頭の中はまだ多少混乱していると思うが、それでも大したことはなさそうだった。





「・・・なんとかね。 でも、まさか他でそんなことがあったなんて・・・。

 かなり驚いたよ。 だけどそのお陰でいろいろ分かることが出来た。 ありがと。」





「いえいえ、礼には及びません。」





柳生がそう言った、まさにその時だった。





『皆、元気そうですね。』





突如、部屋の中に響いた声。 驚く間もなく、今度は窓際から差し込む光の中から、フードを深くかぶった人物が突如現れた。

いきなりのことに、驚く面々。 しかし、本当に驚いたのは、千石と跡部、長太郎の3人だけだった。

他は、多少は驚いたがそんなでもなかったようだ。 その人物は、その場に佇む。 そこで最初に声を発したのは千石だった。





「君は・・・?」





「・・・そういえば、あなた達は知らないんでしたっけね。 では、自己紹介をいたしましょう。」





そう言って、その人物はゆっくりとフードを取った。

現れたのは、丹精な顔。 見方によっては、女と見れるほどだ。 漆黒の髪に瞳。

柔らかに笑うその瞳の奥には、強い意志を秘めた光が宿っていた。





「僕の名は『観月はじめ』。 全てを知り、導く3人目の魔導士です-----。」





部屋の中に降り注ぐ光りが、彼の笑みのように柔らかく辺りを包んだ・・・。





-----真実は一体何なのか? 魔導士とは? 過去とは?

今、全てが語られようとしている。 この、彼ら魔導士達の言葉で-----。



第六章、完結










【あとがき】

やっと6章終わったー!! ここまで長かった・・・。

そして! ついにフードの人が誰か発覚!! はじめだったんですよ〜。

もう前からずっと出したくて出したくてしょうがなかったから、やっと出てきてくれて本当に嬉しいです。

彼は、この話の中でもかなり重要な位置についています。 これからは彼の活躍が増えそうだ(ニヤリ)

第七章以降、さらに話は急展開する予定なのでどうぞお楽しみに!



06.11.04



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