過去は変えられない。 人は、進むことしか出来ない。

迷わないことなんてない。 ただ、自分の信じた道を進めばいい-----。






Symphony of destiny  第七章・1





「っ・・・!」





目的の場所に辿りついた途端、神尾は意識を失ってその場に倒れ込んだ。





「アキラ!」





橘が慌てて支える。 神尾の様子は、よく今まで動けていたと思うほどに悲惨なものだった。

切られた箇所からは血が止まることなく流れ続け、力を使いすぎたのか顔は真っ青だった。





「とりあえずこれ以上の悪化を防がなくては・・・!」





橘はそう呟くと、彼の体をそっと地面に寝かせた。 そして・・・。





「タイムストップ!」





神尾の体に範囲を限定して、彼は時を停止させた。





「これで、少しは時間稼ぎが出来る。 範囲をかなり狭めたから、少なくとも15分は持つだろう。

 くそっ! 俺に治癒の力があれば・・・。」





そう彼が毒づいた時、目の前の空間が揺らいだ。





「橘!!」





そう言って中から出てきたのは、情報屋のジローと滝。

先ほど、手塚達から彼らを助けたのは彼ら情報屋の面々だったのだ。





「遅くなってごめん! 越前の目をかいくぐる必要があったから。

 ?! 橘! 君も重症なんだよ?! 今、限界まで力を使ったらダメだってくらい分かってるでしょ?!」





「大丈夫だ。 自分のことは、俺が1番よく分かっている。

 とにかく滝、時の流れを元に戻すからすぐに治療をしてくれないか?」





「そんなこと確認しなくても大丈夫だよ。 早く解いて。 君自身にも負担がこれ以上かかるのはよくないから。」





「ああ、分かった。 すまない。」





そう言い、ふっと息を吐くとたちまち神尾の周りを覆っていた膜が消え、時が動きだした。

途端に溢れ出す血。 滝はすぐに彼の体の上に両手をかざすと小さく唱えた。





『この者の全てに温もりを。 消えゆく命を繋ぎ止めよ。

 この者に癒しを。 再び命の灯火を明るく照らしだせ。 ヒールフリード。』





滝がそう唱えると、彼の両手から暖かな光りが溢れ神尾の体を包みこんだ。

その光りによって、彼の体の傷が除除に消えていく。 その様子を見守っていると急に、強い風が吹いた。





「おっ待たせー!!」





明るくそう言ったのは岳人だった。 彼は怪我をした佐伯に肩をかしていた。

そしてその後ろには、意識を失った祐太を連れた不二がいた。





「不二! 佐伯! よかった。 お前達も無事で。」





2人の姿を見て、橘はそう言う。

しかし、佐伯のかなりの怪我には顔を暗くした。





「佐伯、大丈夫か? かなり酷いぞ。」





「大丈夫大丈夫。 そんなこと言ったら君だって同じじゃない。

 ・・・アキラ君の様子は?」





「滝のお陰で傷は大丈夫そうだが・・・。 かなり無理をさせてしまったんだ。

 もう、共に戦うことは出来ないかもしれない。」





そう言う橘の顔は、悲壮に満ちていた。 だが。





「まあとりあえずアキラが目を覚ましてからだ。 この話は。

 ところで不二、なぜ祐太がここに?」





話題を無理矢理変えて、橘は言った。 それに、不二が祐太を地面に寝かせながら答える。





「僕にもよく分からないんだ・・・。 祐太が僕らに襲い掛かってきて。 一緒にいた室町は死んでしまった。

 祐太が目覚めるまでは、聞くことも出来ないんだ。」





「いや、待つ必要はねーぜ。」





そう言ったのは岳人。 それに、3人は驚く。





「本当?! 岳人! 早く教えて!」





せかす不二。 しかし、岳人は軽く首を振って言った。





「今ここじゃあ場所が悪い。 いつ手塚達に嗅ぎつけられるか分かんねーからな。

 滝、終わったか?」





「・・・よし。 うん、終わったよ。 すぐに移動しよう。」





「? 移動って?」





「ここは多分、すぐに王都の連中に気付かれる。 向こうには無理矢理手に入れた、千里眼を持つ奴がいるからな。

 自分の意思でやっているわけじゃなくても、あいつの力は強力だ。 どんな場所も見ることが出来る。

 だから移動すんだよ。 外部からは絶対に見つからない所にな。」





「そこって・・・?」





「リシーヌだよ。 お前等は知らなかっただろうけど、俺等もあいつらと知り合いなんだ。

 で、前にあそこに入る資格を貰ったってわけだ。 まあ、実際に持ってるのは滝なんだけどな。

 あそこは資格を持っているか、あいつらの育てた魔物に導かれるかでしか行けないからな。」





岳人のその説明に、一同は頷く。





「確かに安全だろうな。 俺は行ったことはないが・・・。」





「僕らだってないよ。 シルフィードで行ったことがあるっていうのは、語りの民だけだから。

 とにかく、そうとなれば早く行ったほうがいいかもね。 佐伯達の怪我の治療もしなきゃいけないし。」





不二のその言葉に、全員は頷く。

と、急にジローがその場に倒れ込んだ。





「?! ジロー?!」





慌てて岳人が支える。 ジローは、すやすやと寝ていた・・・。





「あー、充電が切れたみたいだな。」





岳人は、よっこいしょとジローをおんぶしながら言った。





「大丈夫なのか?」





「全然問題ないよ。 今日は時空移動をかなり使ったからね。 疲れが一気に出たみたい。

 それに、アキラ君に向かってテレパシーも使ってたし。 とりあえず寝かせておいてあげよ。

 ・・・さて、行こうか。」





滝のその言葉に、全員は頷く。

それを見て、滝はじゃあ始めるよと言って右手を前に上げた。





『我は資格を持ちし者。 我の望む者を彼の封じられし地へと導け!』





滝がそう唱えると、彼の右の手のひらに複雑な文様が浮かび上がった。

それは青い光を発しながら風を舞い起こす。 青い光が筋のように周りを飛び交う。

やがてそれは全員を包み込み、シュンという音をたてて消え去った。 そこには、もう誰もいなかった・・・。



                                                   ☆



「『時が来た。 僕も姿を現し戦う。』・・・か。」





切り立った崖の淵に座り、オジイはそう呟いた。

塔の裏にある抜け穴から、谷の外に出たオジイはそこで待っていた者達と一緒にここまでやって来た。

ここは、最も安全な場所だ。 この地には、他を拒絶する性質がある。 そのため、ここは誰にも知られることなく平和な時が流れていた。





「あの子もまた、戦いの中に身を投じていくんだね・・・。」





オジイの頭の中によぎったのは、光を従える彼の姿。 最後に会ったのは、つい数日前だった。

いつものように光の中から現れ、彼はそう言ったのだった。

無言で青い空を眺めるオジイ。 世界から隔離されたこの場所からは、人のいる所は見ることができない。

この空を、あの子達は見ることが出来ているのだろうか・・・。 そう考えていた時、背後から自分を呼ぶ声が聞こえた-----。









【あとがき】

七章やっとスタートでっす!! ここまで長かったあ(汗)

出てくる場所が今までとかなり変わります。 ここも初登場ですね。 詳しいことはだんだん書いていきますんで♪

ここから話は一気に進む予定です。 とりあえずこの章は、タイトル通りになりそうです。

やっぱりこんなにオジイがしゃべるのには、少しばかり抵抗があったり・・・。 今さら言うなって感じですけどね。



06.11.09



BACK ←  → NEXT
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送