過去のことを繰り返すわけにはいかない。
そのために僕達はこの永い、永い時を生きてきたんだ・・・。
Symphony of destiny 第七章・11
「・・・これが、500年前の真実です。」
はじめが語り終えたあとも、しばらくは誰も声を発しなかった。
皆それぞれ、今聞いたばかりの話に神妙な面持ちをしていた。 その中で、最初に口を開いたのは跡部だった。
「・・・お前等の話は分かった。 俺の中にオーブがあるってーのも、とりあえずは信じる。
だが、何で俺にはその時の記憶がないんだ? それにお前等が封印したんなら、何で俺は今ここにいるんだ?」
下を向いたまま、跡部はそう言う。 彼にとって、この話はあまりにも衝撃的だった。
内心かなり動揺している彼に、忍足が答える。
「記憶がないんは、俺等がそうなるように封印したからや。 不老不死になったあと、俺等が自分に2重の封印をかけた。
1つは、自分の肉体の封印。 それは何らかの原因で自分が目を覚ましてしもても、その場からは動けないようにするもんや。
もう1つは、記憶の封印。 1つ目の封印が解けてしもて肉体が自由を取り戻しても、オーブを自分が持っているて分からせないようにするためや。」
「・・・ということは、跡部さんの1つ目の封印は解けてしまているということですか?」
長太郎がそう聞いた。 忍足は頷く。
「ああ。 1つ目の封印は、各地に安置してあるオーブがその場所にあることで効果を出す。
せやけど土と無のオーブが王都の手に渡ってしもた。 それによって魔法陣が崩れ、跡部の肉体は自由を取り戻したってことや。」
「でも、跡部君は500年前のあの時に、もう死んでしまったんでしょ?! 何で俺達と同じように、今も生きているの?」
「それは、彼がもう人間ではなく、アーティシャルだからです。
彼の体の中に封印されたオーブが心臓となり、アーティシャルとして甦らせたんです。 詳しい原因は分かりません。
しかし、彼は今ここに生きています。」
柳生のその言葉に、跡部は少しほっとした顔をした。
『生きている』
既に死んだと言われた跡部は、その言葉にうれしさを感じていた。
「さて、と。 これで昔の話は終わりです。 また聞きたいことがあったらおしゃって下さい。
もう僕達は隠し事をしません。 そんな必要はもうない。 これからは仲間として、信用して下さいね。
・・・忍足君、聞こえましたね?」
ふいにはじめはそう忍足に言う。 それに驚いた様子もなく、忍足は頷いた。
「ああ。 聞こえたわ。 すぐに行ってくるわ。
向こうからならあんま時間はかからへんけど、こっからは景でしか行けへんからな。 敵さんが動く前に行ってくる。」
「よろしくお願いします。 彼等の強力は、僕達にとって不可欠です。」
2人の会話に、他の面々はよく分からないといった顔をする。
それに、柳生は答える。
「先ほど、話にも出てきたオジイという方から連絡があったんです。 合流したいから1度こちらに来てくれと。
ここに初めて入るためには、私達3人のうちの誰かがいる必要があります。 敵を防ぐための策なんです。 あの人はまだここに来たことがありませんからね。
だから忍足君が行って連れてきてもらうんです。」
彼の説明に、全員は納得したようだった。 はじめが忍足を促す。
「では、よろしくお願いします。 リシーヌへ近づいた際は、周りの気配に気をつけてくださいね。
まあ、あそこは強力な魔物達と結界に守られていますから大丈夫でしょうけど。」
「そうやな。 まあでも気をつけるわ。
・・・おっと! 観月、早めに王都の動向探っといてな。」
忍足がそう言うと、今まで黙っていた幸村があっと声を上げた。
「どうしました?」
「すっかり忘れていた。 王都の中に、わけを話せば俺達に強力してくれそうな人が1人いたっけ。
しかも、すごく強力な力を持っている。」
「え?! もう少し早く言ってくださいよ。」
「ごめんごめん。 でも、彼の所にたどり着くのはかなり大変だと思う。
とりあえず、忍足が行っている間に俺と蓮二で侵入してみるよ。」
「分かった。 そのことはお前等に頼むわ。 とにかく俺は急ぐな。
長太郎、一緒に行くやろ?」
彼はそう言って長太郎を見る。
「当然行きます。 マスターと一緒にいなくて、何がアーティシャルですか。
俺はどこまでも一緒に行きますよ。」
そう行って長太郎は立ち上がり、忍足の横に並ぶ。
2人に気をつけてと、他の面々はそれぞれ言う。 それに行ってくると言って、2人は館を出た-----。
☆
「・・・これで、詳しいことも全部分かったかな?」
オジイが語り終えると、どこからともなく溜め息が聞こえた。
「そんなことがあったのか・・・。」
橘がそう、呻くように呟く。 その言葉に、他の皆もそれぞれ思いにふけっているようだった。
と、オジイが再び口を開く。
「さて、何かまだ聞きたいこともあるだろうけど、あまりのんびりしていることは出来ないよ。
もうすぐ、さっき話にも出てきた忍足君がここに来る。 そしたら、すぐにここを離れて魔導士達と合流するから。
すぐに行けるように、準備だけはしておいて。」
それに、各々頷く。 それにニコリと微笑むと、オジイは窓から空を見上げた。
空はどこまでも、どこまでも青く澄んでいた-----。
☆
「・・・こういうことだ。」
榊が放し終わっても、しばらくは誰も口を開かなかった。
しかし、その沈黙を破って口を開いたのは真田だった。
「榊様、お尋ねしたいことがあります。
彼等は何故、今頃になってまた時のオーブを手に入れようとしているのですか?
それほど危険で、仲間のうちの1人の命を犠牲にしてまでも封印したのに、何故?」
「これは私の憶測にすぎないのだが・・・。 あの当時、奴等には暴走したオーブを封印するしか方法がなかった。
しかし永い時を生きている間に、前よりも強い力を手に入れた。 奴等は500年前、ほぼ世界の支配者として君臨していた。
強力な力を持ち、各地区の長達に助言などをいていたのがいい証拠だ。
奴等は再び世界を支配しようと考えたが、この王都には自分達の力では叶わない。 だからオーブの封印を解こうとしているのだろう。
今の自分達なら、その力を制御できると考えたから。
・・・これが私の考えだ。 だから、奴等に先を越される前に私はオーブを全て集めようと決心したのだ。」
榊の言葉には、説得力があった。 そのため、真田はそれをすんなりと信じた。
しかし、この時誰が知っていただろうか? 榊が本当に思っていることを。
「話は分かりました。 では、俺達はこれからどのように行動すれば?」
今度は手塚が尋ねる。
「これからは、今まで以上に急いでオーブを探してもらう。
あと残るは光・闇・風・水の欠片の4つだ。 あと、時のオーブが封印されている器も探さなくては。
光の場所は分かっている。 あそこは1番最後だ。 風は、シルフィードの者が持っている可能性が高い。
残りは今の所所在が不明だ。 急ぎ探させよう。
向こうも、今はこちらの様子を伺っている頃だろう。 少しの間だけだが、休んでいろ。
任務が決まり次第、すぐに使いを行かせる。」
「分かりました。」
「了解しました。」
それぞれそう言うと、4人は礼をして部屋を去っていった。
・・・4人がいなくなると、榊は部屋の隅の扉に向かう。
中に入ると、いつものように淡い緑色の光が満ちていた。 その部屋の隅にある魔法陣に、榊はまず向かう。
「・・・もうそろそろ使えそうだな。」
見下ろしているのは、魔法陣の中に横たわる太一。 彼の目は虚ろで、何も映していないようだった。
そのふちに屈みこみ、魔法陣に手をつけると何かを唱える。 すると魔法陣は一瞬輝き、消えた。
「動け。 そしてその眼で私の望むものを見ろ。」
そう言うと、太一の体がビクンと跳ねた。 そして、ゆっくりと立ち上がるとふらふらとした足取りで、部屋を出て行った。
それを見送ることもなく、榊は後ろにある筒を見る。 そこにいるのは、亜久津。
「・・・まだもう少しかかりそうだな。 今回はやめておくか。」
そう呟き、その場を離れる。 次に向かったのは、部屋の1番奥。
そこには、横向きに置かれている筒があった。
「・・・こいつを出すか。 これの調整はほぼ完璧だ。
くくく。 こいつさえいれば、魔導士など恐れることはない。」
そう言いながら、榊は笑う。
不気味に、ひたすら不気味に。 彼が一体何を考えているのか。 知る者は、まだいない-----。
【あとがき】
今年初書き!! さて急ですが、ここで第七章は終了です!
いやー、過去の話が終わってもう少し書こうかなとも思ったんですが、ここら辺で切るのが丁度いいかなと思いまして。
・・・なんか最近思うんですがこの話、私が当初予定いていたのよりも一章分長くなりそうです(汗)
とんでもなく長い話だなあ・・・。
さて、この章はいかがでしたでしょうか?
この章で、事の発端は全て書きました。 ずっと引きずってきた跡部の正体もはっきりしました。
まあまだ曖昧なのはありますが、それはまた後ほど。 では、次回また!
07.01.05
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