さて、うまく接触出来るといいな。

といっても、大変そうだ・・・。






Symphony of destiny  第八章・3





パシャン





微かな水音と共に、3人の人間の姿が谷川に現れる。 辺りに人の気配はない。

聞こえるのは、さらさらという水の流れる音だけ。





「・・・よし、気付かれた感じはないね。 さて、早速行動に移ろう。

 俺と蓮二は水路を使って中に侵入するから。 淳はどこで見張るんだい?」





「ん? 別に見張るのなんてどこでも大丈夫だよ。 光さえあれば、その中に身を隠すことが出来るからね。

 とりあえずは・・・そうだね、この谷の上からでも見ているよ。 何か動きがあったらすぐに連絡する。

 でも、なるべく早くしたほうがいいよ。 太陽が沈んだら、身を簡単に隠すことが出来なくなる。 そうなったら色々面倒だから。」





「分かった。 急ぐよ。

 あっ、もし見つかって戦闘になったら、君はすぐに安全な所に離脱。 絶対に助けになんて来ちゃダメだからね。

 もし君が掴まったなんてことがあったら、洒落になんてならないから。 そこは忘れないでよ。」





「分かった。 まあ、用は2人が見つからなきゃいいだけの話なんだけどね。

 あっ、本当にそろそろ行ったほうがいいよ。 時間は無駄にしないほうがいい。」





淳のその言葉に、分かったと2人は頷く。 そして、2人は淳と別れた。



                                                   ☆



「・・・見つけたぞ。 ここだ。」





淳と別れた2人は、城の下に広がる崖に沿って歩いて行った。

そしてある所まで来た時、崖にずっと手をついていた蓮二が急にそう言って足を止めた。

しかしそこは、今までと変わっているようには見えない。





「よし、じゃあ行こうか。」





だが幸村は何も尋ねずにそう言う。 それに蓮二は頷くと、当てていた手に力を込めた。

すると・・・。





ズズズッ





音を立てながら、崖の1部が奥に引っ込んだ。 ある程度下げた所で、少し出っ張った岩をグッと掴み、今度は左側に向かって引く。

すると壁はそのままスライドしていき、そこに空洞が出現した。 そこは、崖に巧妙に隠された扉だったのだ。





「・・・これでいい。 あとは中からまた閉めれば分からない。

 精一、灯りは?」





「あるよ。 ちょっと待って。」





蓮二にそう問われると、幸村はポケットの中から何やら小さいものを取り出した。





「これか? 観月が持っていけと言ったのは。」





蓮二が怪しむように言う。 それもそうだろう。 幸村が取り出したのは、直径3センチほどの白い石だったのだから。

これが灯りだと言われても、にわかには信じられない。





「うん、そう。 詳しくは教えてはくれなかったんだけど、ちゃんと使えるってさ。

 ほら、こうやってぐっと握ると・・・。」





そう言いながら幸村はその石を握って、少しして手を開く。 すると。





「ほう、これはすごいな。」





石が淡い光を放ち始めたのだ。 それは、淡く辺りを照らす。





「この位置でこれだけ光るんだ。 中でも十分だろう。

 そろそろ閉めよう。 いくら人がいないと言っても、いつ気付かれるか分からないから。」





「そうだな。」





そう言うと2人は、闇に満ちた通路に足を踏み入れる。 そしてすぐに蓮二が背後の偽装してある扉を閉めた。

閉めると、その通路は暗闇に包まれる。 しかし幸村の持つ石だけは煌々と光を放つ。

そのお陰で、2人は中をしっかりと見ることが出来た。

2人がいるのは、細い通路。 足元は舗装されてなく、地面がむき出しになっている。

そして聞こえてくるのは、さらさらという微かな水の音。 それは足元から聞こえてくる。





「まだ微かに水が流れているな。 これなら迷うことはなさそうだ。

 辿っていけば、じきに大きな分岐に着く。」





「そこまで行ったら、地下牢に向かう道を探そう。

 万が一ってこともある。 亜久津がそこにいないか確認していかなくちゃ。」





「そうだな。 千石のためにも少しは情報を得て戻ったほうがいいだろう。」





「そういうこと。」





そう会話をしながら、2人は通路を歩く。 侵入しているというのに、彼等には緊張感がほとんどない。

それもそうだろう。 2人がいる通路は、王都の地下に走る水路の1つ。

しかもここはかなり前に使用されなくなったものなのだ。 そのためここを知っている者はまずいない。

だから2人はこんなにも普通に会話をしているのだった。





「・・・それにしても精一、どういった風の吹き回しだ?」





「ん? 何が?」





「今回のこの侵入のことだ。 ああは言ったが、あいつが協力する可能性は5分5分だ。

 俺達を捕らえようとする可能性だって、決して低いわけではない。 何故、また来ようと思ったんだ?」





蓮二の問いに、幸村の顔が若干曇る。 その意味が分からずに眉を顰める蓮二。





「・・・そうか、蓮二は知らなかったんだっけね。

 彼には王都から逃れたい理由があるんだ。 それを知っているからこそ、俺は行こうと決めたんだよ。

 その理由は、今言うのは止めておこう。 じきに分かるからね。」





幸村がそう言うと、蓮二は追求しなかった。

彼がじきに分かると言ったのだ。 それは、本当だろう。 今までの経験から、蓮二はそう判断した。

と、そうこうしているうちに目の前が開けた。





「よし、早速探そう。」





そこは、何本もの水路が合流している所だった。 そのため、結構広い空間になっていた。

着くと蓮二は右手の手首から先を水につけた。 そして、そのまま動かなくなる。





「・・・見つけたぞ。」





しばらくそうしていたかと思うと、彼はそう言い手を水から引き抜いた。





「早いね。 そんな簡単に分かったのかい?」





「ああ。 元々ここは俺が見つけた場所だからな。 なんとなくだが、道順は分かる。

 だから余計早かったんだ。」





そう言いながら、蓮二は歩き始める。 そのあとを追って行く幸村。

彼は1つの少し大きな通路の前で1回立ち止まった。





「ここだ。 ここから行けば地下牢に出る。」





彼のその言葉に頷き、2人は再び通路を進む。

だんだんと流れてくる水の量が増えてくる。 そして地面がむき出しだった足元も、しっかりと整備されている道になってきた。

更に進むと、前方に道を塞いでいる鉄棒が見えてきた。





「これだ。 この先に上に上る梯子がある。

 上がると牢の1番奥に出るはずだ。」





「分かった。 とりあえずこれをはずそう。」





そう言うと幸村は腰にさしてあった剣を抜く。

そして、目にも留まらぬ勢いでそれを右に向かって薙ぎ払う。 次の瞬間には、頑丈な鉄の棒が真っ二つに切れていた。





「・・・相変わらずいい切れ味だな。」





「まあね。 でもこれくらいなんでもないけどね。

 誰だって出来るよ。」





さわやかにそう言う幸村に、蓮二はポツリと出来ないよ・・・。と呟いた。

このあと、2人はそこを通って行く。 その先には蓮二の言ったように梯子があった。 それを、幸村を先頭に登って行く。





「おっと、これを消しておかなきゃね。」





上まで上りきった時、幸村はそう言って白い石をまた握った。 すると、灯りはすうっと消えていった。

消えたのを確認すると、彼は頭上にあった蓋を静かに上げる。 そこから辺りを確認して、何もいないと分かると全部開けた。





「・・・よし、気付かれた感じはないね。」





梯子から上がりきり、彼はそう呟く。 その後ろでは、蓮二が蓋を元に戻していた。 完全に元に戻すと、2人は軽く頷きあう。

・・・彼等が今いるのは牢屋ではなく、倉庫のような場所だった。 そこには昔使っていたのであろうか?

なんとも悪趣味な拷問器具のような物から囚人を繋いでおくための鎖など、様々な物がゴタゴタと置いてあった。

それらには目もくれずに2人はこの部屋唯一の扉に近づき、そっと外の音を窺う。





「・・・よし、行くよ。」





幸村のその言葉に、無言で蓮二は頷く。 そして、ゆっくりと扉を開けて行く。

彼が行った通り、人の姿はなかった。 すっとすり抜けるように出て、音も立てずに扉を閉める。

そして、まずは亜久津の捕らわれていた牢を探す。





「これだな。」





目的のものはすぐに見つかった。 そこの壁は彼が抵抗したためであろう、黒く焦げていた。





「・・・これだけ攻撃を加えても逃げることが出来なかったなんて。 よほど強固に作られていたみたいだな。

 ! これは・・・。」





蓮二が見張りをするよう頼んで、幸村は中を調べる。 そこで見つけたもの。

それは、煤で見えにくくされていた文字だった。





「・・・!! まさか・・・。」





幸村の顔が驚きで歪む。 そこに記してあったものは、あまりにも以外なことだった。





「精一、どうした?」





外から、蓮二が小声で聞く。





「・・・ここを出たら話すよ。 それまで、待ってくれ。」





それに素直に分かったという蓮二。

とりあえずここにいつまでもいるわけにもいかないと、幸村は立ち上がる。 その際、文字は見つからないように完全に消しておいた。





「・・・戦いが苦しくなるな・・・。」





蓮二にも聞こえないほどの声で、幸村はそう呟いた・・・。



                                                      ☆



「? 何だ?」





白一色に包まれた部屋の中で、唯一色を持っているジャッカルは自分の頭上を見上げてそう呟く。

そこには、何も見えない。





「オーブが騒いでる。 何かあったのか?」





そう言いながら、右手を掲げる。 すると、1つの光が出現した。





「無・・・か。 まさかな・・・。」





悲しそうな笑みを浮かべながら、ジャッカルは暫くの間オーブを見つめていた・・・。









【あとがき】

さて、ぶっちゃけちゃうと実はここ、本当は書く予定はなかったんです。

でも、番外編を書くのに必要かと思って。 さて、上手く話が進むのか・・・。

とりあえず、なるようになるか(えっ?!)



07.01.30



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