これは・・・ちょっと、厳しいかもしれませんね・・・。





Symphony of destiny  第八章・4





「あっ、戻ってきた。」





そう言うのは千石。 彼は今、1階のロビーにいた。

本当は柳生にまだ寝ててくださいと言われたのだが、それをおとなしく聞く彼ではない。

結局、あまり派手に動かないことを条件に柳生は折れた。 その傍には、仁王が階段の段差に腰掛けていた。

跡部の姿はない。





「結構早かったな。」





頬杖をつきながら、仁王は言う。 それにそうだね。と返す千石。

そう話している間に、部屋の中心には闇が広がった。 そしてその中から、何人かの人間が姿を現した。





「おかえりー。」





手をひらひらと振りながら、千石は言う。 それに、最初に出てきた忍足が手を軽く上げて返す。

その後ろから、オジイ達も出て来る。





「やあ、久しぶりだね。」





そうオジイはにこやかに言う。 後ろにいた橘達も、いたのが千石だと分かると顔に笑みを浮かべた。

と、今まで黙っていた仁王が不二に抱えられている祐太に気付いた。





「! おい、そいつは一体どうしたんじゃ?」





その言葉に、千石も祐太だということに気付く。 彼の顔が、驚きに満ちる。





「えっ?! 祐太君?! 何でここにいるのさ?!」





困惑する彼に誰かが説明する間もなく、突然階段の脇にあった扉が開いた。

中から現れたのは、はじめと柳生。 2人は、オジイを見ると顔を綻ばせた。 しかし、祐太のほうを見ると少しその表情が曇った。





「観月君、よろしく頼むよ。」





「分かってます。 不二君、一緒に来てください。」





はじめはそう言うと、先ほど出てきた部屋に向かって歩き出した。 その後ろを、不二は祐太を連れて付いて行く。

さらにその後を虎次郎が付いて行き、3人は部屋の中に姿を消した。





「ねえ、上手くタイミングがずれたけどホントに何で祐太君がここにいるの?」





千石のその問いに、オジイが答える。





「はっきり言うよ。 祐太君はもう人間じゃない。

 彼は、王都で何者かによってアーティシャルとされてしまっていたんだ。

 闇に操られていたのを何とか気絶させてね。 観月君にそれを抜いてもらうために、ここに連れて来たんだ。」





「!! 本当にそうなの? そんなこと、無理に決まって・・・。」





「出来るよ。 人間がアーティシャルになることが出来るのは、跡部君の話で既に知っているはずだよ。

 ・・・悲しいけど、これは事実。 でも、観月君が上手くやれば、闇だけは抜くことが出来るけどね。」





オジイのその言葉に、千石は少しだけほっとしたようだった。

と、その時。 今まで黙っていた忍足が口を開く。





「柳生、ちょいと頼みがあるんやけど。」





「何でしょうか?」





「こいつ、神尾なんやけど、ちょいと診てやってくれんか?

 俺が見るに、相当体にガタがきとるんや。」





「分かりました。 では神尾君、付いて来てください。

 あっと、橘君でしたよね? あなたも一緒にどうぞ。 パートナーのことですから、あなたも気になるでしょう?」





それに橘はああ。と肯定する。 それを確認すると、柳生は先ほどはじめ達が入っていったのとは逆の扉に向かう。

と、そこに入ろうとした時、柳生は何かを思い出したように足を止め、忍足に向かって言った。





「忍足君、跡部君ですが2階の私の部屋の隣にいますよ。」





「分かった。 ありがとな。」





忍足のその言葉にいいえ。と返すと、彼は姿を消した。

後に残されたのは、千石・仁王・忍足それと滝とオジイ。 その中で忍足は。





「ちょい俺は跡部んとこ行ってくるわ。 オジイと滝のこと、頼むな。」





そう言うと彼は階段に足をかける。 それを、滝が止める。





「あれ、リシーヌにはいつ戻るの?」





「まだ少し先でええやろ。 少なくとも、祐太のことが何とかなってからや。

 今はまだ、あんまし急ぐ必要はあらへんよ。 事が動くのは、幸村と柳が戻って来てからや。」





「え? 柳って水のエレメントを持ってる人だよね? 今いないの?」





「ああ。 すまんな。 このこと、すっかり忘れてたんや。

 まあでもそんな遅くはならへんやろ。 戻ってきたら、オーブを合わせればええ。」





「そうだね。 じゃあ待ってるとするよ。」





それを聞くと、忍足はトントンと階段を上がって行った。

あとに残された4人は。





「うーん、とりあえずここから移動しない? いつまでも立ち話はなんだし。」





と言う千石の案で、その場所から移動を始めた。



                                                     ☆



「どう? 観月、なんとかなりそう?」





顔に心配そうな色を浮かべて、不二がそう尋ねる。 彼の前には、ベッドに横たわる祐太の姿。

ベッドを挟んで反対側には、はじめが立っている。 虎次郎は、不二の後ろで同じく心配そうに佇んでいた。





「分かりません。 今ぱっと見た所によると、そこまで濃いわけではなさそうですが・・・。

 とりあえず、闇を燻り出します。 2人共、少し離れていてください。」





はじめのその言葉に、2人は祐太達から離れる。 それを確認すると、はじめは2人の周囲に簡単な結界を張る。





「とりあえず、その中にいれば多少は安全です。 まあ、不二君がいるから何の問題もないでしょうけど。

 不二君、感情で動かないで下さいね。 あなたが闇エレメントの片鱗を見せれば、祐太君の中のが刺激される恐れがあります。

 そうなるのだけはなんとしても避けなければ。 いいですね?」





それに頷く不二。 納得してくれたのを確認すると、はじめは祐太の心臓の上に、静かに右手を掲げた・・・。



                                                      ☆



「では、ちょっと後ろを向いてください。」





回る椅子にアキラを座らせると、柳生はそう言った。 それに、彼は素直に後ろを向く。

その後ろでは、橘がものすごく心配そうな顔をして傍の椅子に座っていた。





「少し、じっとしててくださいね。」





そう言うと柳生は、左手をアキラの背中に軽く押し当てる。 そして、ゆっくりと目を閉じる。

たっぷり30秒ほど、彼はそうしていた。 そして、目を開けながら手を離す。





「もういいですよ。 こちらを向いて下さい。」





そう言われ、アキラは柳生を向く。 橘が聞いた。





「柳生、どうだったんだ?」





彼のその問いに、柳生の顔が曇る。 しかし、意を決したかのように口を開いた。





「結論から先に申し上げましょう。 彼は・・・神尾君の命は・・・もう長くはないでしょう・・・。」





その瞬間、橘の顔が絶望に歪んだ。 一方、アキラの顔はやっぱりという諦めの色が浮かんでいた。

柳生は努めて表情を出さないようにしながら、更に言う。





「先ほど申し上げたのは、これから先に1度も戦わなかった場合のことです。

 もしこれから戦闘で1度でも力を使えば、その場で命を落とす可能性が高いです・・・。」





その場に、沈黙が下りた・・・。



                                                   ☆



「跡部、大丈夫か?」





不意に背後からした声。 振り返らずとも分かる、それは忍足だった。

少し出っ張った窓枠に座り、外を眺めていた跡部はそのままの姿勢で言う。





「何がだよ?」





「冷たいなあ。 折角心配して来てやったんに。」





「心配される必要なんてねーよ。」





相変わらず冷たい跡部の言葉。 それに昔を思い出したのか、忍足はふっと笑みを洩らして彼の傍に寄る。

その時、ちゃっかり椅子を引き寄せて彼の横に座った。





「なあ跡部、ホントは不安なんやないんか?

 いきなりあんなこと言われて、でも自分には記憶がなんもなくて。 全てに対して、不安でしょうがないんやないか?」





忍足のその言葉に、ビクッと反応する跡部。





「・・・だったら何だよ?」





そう言う声は、微かに震えていた。





「不安だったら何だってんだよ? お前がなんとかしてくれるのか?

 俺の記憶を元に戻してくれんのか? それとも、人間に戻してくれるってのか?」





「それは・・・。





「無理だろ。 無理に決まってんだろ?

 苦しいんだよ。 そう言われるのは。 だから、何も言うんじゃねーよ。」





跡部のその言葉に、忍足は二の句が告げなくなる。 彼は1人で耐えているのだ。

忍足達によって、彼は今まで知りたいと思っていた自分のことを知ってしまった。 しかし、真実は予想を遥かに上回るものだった。

自ら課し、そして課せられた運命。 そのあまりの重さに、彼は押しつぶされそうだった。

だが、根を上げることは出来ない。 いや、彼のプライドが許さない。

だから彼は、1人で必死に重さと戦っているのだった・・・。





「せやけど、俺等は仲間や。」





沈黙を破って、忍足はそう言う。





「俺が何も覚えてねーってのにか?」





「ああ、そうや。 それに、跡部が覚えてへんでも俺が覚えとる。 俺だけやない。

 観月も、柳生もオジイも、皆自分を覚えとる。 俺達を信じてくれや。 そうすれば、少しは楽んなるかもしれん。

 ・・・あんまし抱え込み過ぎるんやないで。」





そう言って、忍足は黙った。

部屋にはただ、静かな空気のみが存在していた・・・。









【あとがき】

跡部の性格とかが変過ぎる(汗) もっとかっこいい所が書きたくて仕方ありません。

さーて、また場面が増えたぞー。 ・・・何を書いたのか、忘れそうで怖いです(汗)



07.01.31



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