そんな言葉には騙されない。

けど、もし本当にそんなことが出来るのなら-----。





Symphony of destiny  第八章・5





「もういいのか?」





牢を出ると、蓮二はそう尋ねてきた。





「ああ。 もう全部調べたからね。

 さて、早く行こうか。 目的の場所へ。」





その言葉に、蓮二は軽く頷いた。



                                                      ☆



「・・・暇だ。」





崖の上から、そう呟く小さな小さな声が。 しかし、そこには何の姿もない。

呟く声のみが、風に乗って微かに流れる。 だがそれも、すぐに空に溶けて消える。

声の主は淳だった。 幸村に言った通りに崖の上まで行き、日の光の中に姿を溶け込ませたあではよかったのだが、いかんせん暇でしょうがない。

待っているというのはこれほどまでに暇なことなのか、とつくづく思う。





「幸村達、早く戻って来てくれないかな・・・。」





呟きはまた、誰の耳に届くこともないまま空に消えていった・・・。



                                                       ☆



「くっそー、どこに行ったっていうんだあの人は?!」





そう悪態をつきながらも廊下を早足で歩くのは、乾の助手の海堂。

彼のこめかみには微かに青筋が浮かんでいる。 形相もかなり険しく、辺りにいた見張りの兵士達が少し引いたほどだ。





「まだ一応病み上がりだってのに、何であの人はこうも迷惑な行動ばっかすんだ?!

 仕事全然残ってるし! 見つけたらとりあえず1回怒鳴ろう。」





ブツブツと言いながら歩く。 しかし時々、いてっと顔を歪ませる。





「くそ、まださすがにいてーな。 折角越前が治療してくれたっつーのに。」





海堂が言うのは、背中に負った火傷のことだ。 リョーマが治療してくれたとはいえ、まだ完全には治っていない。

歩くたびに綺麗に巻いた包帯が微かに摩れるのだ。 これが結構痛い。

とりあえず乾を見つけたら1回休もうと思いながら、彼は足を進める。 と、その時。





「ん?」





微かに感じた違和感。 しかしそれはすぐに消える。





「? 何だったんだ?」





気になりつつも、きっと気のせいだろうと思い、彼はまた歩きだした。



                                                        ☆



「・・・ここで通路は終わりだ。 ここからは上を行くしかない。」





あれから、牢を出た2人は再び水路に潜った。 そしてまた蓮二の先導の元、先に進んだまではよかったのだが不意に行き止まりになってしまった。

彼の話によると、侵入者を防ぐためにオーブ保管室の下には水路などの地下通路は通っていないらしい。

面倒臭いことをしてくれるな、と幸村が言う。 それに確かに、と返しながらも上へ出るかと尋ねる。





「当然出るよ。 そうしないと会えないからね、ジャッカルに。」





彼等が味方に引き込もうとして会いに来たのは、保管室の守人の1人であるジャッカルだった。

蓮二は知らないが、幸村は彼が王都から逃れたい理由を知っているという。 だから2人はそれを利用して、彼を引き込もうとしているのだ。

ジャッカルの張る結界はとてつもなく強力だ。 戦闘能力がない分、守りの力に特化しているらしい。

彼の力は今、とても必要なのだ。





「そうか。 では、早速行こう。 俺が結界を張るか?」





「いや、今回は俺がやろう。 気配も何もかも消すには俺のほうがいいだろう?」





それにそれもそうだな、と返す。 その言葉を聞くと、じゃあ張るよ。と言って幸村が右手を少し上に上げて軽く言霊を唱える。

と、透明な膜のようなものが2人を包み込んで、すぐに見えなくなった。





「よし、これで誰にも見つからないから。 でも、さすがに喋んないでよ。

 気配と姿は隠せても、さすがに声までは無理だからね。」





それに蓮二が承諾すると、2人はまた進み始めた。

行き止まりになっている壁のすぐ横に、梯子が据え付けられていた。 それを上って行く。

上まで上ると、頭上にあった板をゆっくり、静かにどかして行く。 慎重に辺りを見回して、誰もいないのを確認してから素早く外に出る。

誰にも見えないといっても、突然床の1部が開いていったら誰だっておかしいと思うものだ。

だから2人は急ぐ。 出るとすぐに壁に沿って軽く走り出す。





(・・・少しばかり距離があるな。 あの部屋は完全に隔離されているな。)





そう思いながらも、ひたすらに先へ進む。

彼等が今いるのは、保管室から100メートルほど離れた廊下。 少し先に進むと、見張りの兵士の姿が。

その前を通りすぎるが、兵士が気付いた様子はない。 そのまま、70メートルほど進む。

保管室の手前30メートルからは、完全封鎖区域。 兵士達の姿もなくなる。 ここから先は、普通の騎士すらも足を踏み入れることは許されない。

許されているのは、支配者である榊や研究所の責任者でオーブの研究をしている乾や3強くらいだ。

しかしなぜ兵士達が配置されていないのか。 それは、ジャッカルが守っているからだった。

彼の結界は、3強であろうとも破ることは難しい。 それほどまでに強固だから、兵士達を配置する必要はないのだ。





(ここから先は、彼が感知できるな。)





そうこうしているうちに、保管室の扉の手前5メートルほどまで来た。 ここから先は、ジャッカルのテリトリーだ。

この扉をくぐるためには、ジャッカルがその結界を緩めなければならない。 そうしなければ、ここは開かない。

以前のままだったら、そのまま普通に通ることが出来た。 しかし今、彼等は反逆者だ。

王都に追われる立場である以上、ここをくぐることはまず出来ないだろう。 それに、もしかしたら彼によって侵入がばれてしまうかもしれない。

まあばれてしまっても騎士達が来る前に脱出することは可能だろうが、それでは意味がない。

一体どうするのかと蓮二は思ったが、ここは幸村に任せるしかないと黙っていた。

そして幸村は蓮二をその場にとどめて、ジャッカルのテリトリーに足を踏み入れた・・・。



                                                       ☆



「!!!」





突然感じた気配に、驚きを隠すことが出来なかった。

久しく会っていなかったが、それでも間違えることはない彼の気配。 あまりにも濃くその存在を主張するその気配に、ジャッカルは軽く鳥肌が立つのを感じた。





「・・・何しに来た・・・?」





努めて冷めた声を出そうとする。 しかしそれとは裏腹に、喉から出たのは微かに震えた声だった。





『君をここから助け出すためだよ。』





扉の向こうから聞こえてきたその言葉に、ジャッカルの目が見開かれる。





「どういう・・・ことだ・・・?」





自分でも分かる。 声が、ものすごく震えていることに。

何故かは分からない。 それは単なる驚きによるものか、それとも他の何かか。





『そのままの意味だよ。 俺は、君がここから開放されたいと願っていることを知っている。

 それを叶えるために、ここにまた戻って来たんだ。』





甘い考えだということは分かっている。 これが罠かもしれないということも、頭の片隅で分かっている。

幸村が王都を裏切ったのは、オーブの力が欲しかったから。 オーブを手に入れて、その力で世界をも手に入れようとしているから。

榊から聞かされたその言葉を、頭の中で繰り返す。 しかし、それでも・・・。





(それでも、俺はここから出たい。 自由に、なりたい・・・。)





本当はこんな場所など守りたくはなかった。 世界なんて、なるようにしかならないと思っていた。

しかし王都はそれを許しはしなかった。 強力な守りの力を持つために、無理矢理ここに連れて来られた。

そして彼は知っている。 ここを出ることは、決して出来ないと・・・。





「帰れ。」





そう、静かに言う。 先ほどまでの同様は、綺麗に無くなっていた。





『ここから、出たくはないの?』





幸村が、誘う。 その言葉は、花の蜜のように甘い。

しかし、誘われるわけにはいかなかった。 ここから彼が出れば、幸村もただではすまない。





「帰ってくれ。 奴等には知らせないから。 お前のことも、ばれないように工作してやる。

 だから、帰ってくれ! そして、俺に関わるな! 俺に関われば、俺をここから出そうとすれば、お前に待っているのは破滅だ。」





『一体どういう・・・?』





「・・・ここの部屋には、俺のじゃない特殊な結界が張られてんだ。 俺を逃がさないようにするためのな。

 俺がここから1歩でも出れば、それが発動してその範囲内にいる奴の行動を拘束する。 どんな力を持ってても意味はねえ。

 確実に掴まるようになってんだ。 幸村、お前も例外じゃない。 だから、早く帰ってくれ。 俺は、お前を売るつもりはねえから。」





『・・・本当にそれでいいの?』





「ああ。 いいさ。

 おっと、あの時は悪かったな。 お前がここに奇襲をかけた時。

 あの時は大事すぎたしブン太もいた。 だからああするしかなかったんだ。」





ジャッカルのその言葉に、しばし幸村の声が聞こえなくなる。 と、少しして再び声がした。





『・・・分かった。 じゃあ今回は引かせてもらうよ。 でも、覚えてて。 俺は君を助けることを諦めたわけじゃないから。』





「・・・ありがとな。」





心から、ジャッカルはそう言う。

もし仮に幸村がオーブの力だけを目的にここに来たのだとしても、助けるためと言った彼の言葉は、ジャッカルの心に深く染み込んだ。

1度目を閉じ、再び開く。 彼の顔は、晴れやかだった。





「幸村、1つ頼みがあるんだ。」





『何だい?』





自分のことはいいと思うが、ブン太のことは気になる。

どうせなら頼んで、調べてきてもらおうと思った。





「ブン太が、戻ってこないんだ・・・。 俺のことはいい。 だけど、アイツのことは・・・。

 頼む、アイツはきっと上にいる。 連れ戻してくれとは言わねえ。 無事でいるかどうかだけ、調べてきてくれねえか?

 あまりにも危険だから、断ってくれてもいいが・・・。」





ジャッカルがそう言うと、また沈黙が降りた。 さすがに無理かと思ったその時、声が聞こえた。





『いいよ。 調べてきてあげる。』





「え?」





予想外の返事に、ジャッカルは目を見開く。





「本当に、いいのか? 見つかったら、ただじゃすまねーんだぞ?!」





『いいよ。 助けることが出来ないんだから、せめて君の望みを叶えようと思ってね。

 それに、危険だけど俺にも利点はあるしね。』





「すまねえ・・・。 ・・・よろしく頼む。」





『気にしなくていいから。 じゃあ行ってくるね。 ・・・また、あとで。』





その声を最後に、幸村の気配は扉の向こうから消えた。

自分の言ったわがままを受け入れてくれた彼に感謝しながら、ジャッカルは無事にここまで戻って来てくれることを祈った・・・。









【あとがき】

ジャッカルにやっと出番がっ!! そして海堂もめっちゃ久しぶりの登場です♪

・・・ってか、また話が長く(汗) ブン太探し、予定には入ってなかったんですが無理矢理入れました!

また長くなってしまうけど、読んでくださるとうれしいです!



07.2.2



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