戦いなんて、醜いだけ。
世界の全てがここのように平和ならいいのに・・・。
Symphony of destiny 第八章・6
「おーい、チョタ! 早く来いよー!」
そう遠くから呼ぶのは岳人。 彼は今、馬のような魔物の背に乗っている。
手綱はない。 いや、必要ない。 ここの魔物達はどれもとてもおとなしく、優しく言えば簡単に背に乗せて走ってくれた。
樺地に言われた通りにやって、すぐにコツを掴んだのは岳人だった。 そして、なかなか上手くいかないのが長太郎だった。
いや、上手くいかないといっても背には乗ることが出来るのだ。 意思疎通もちゃんと出来る。
しかし、彼にはバランス感覚というものがいまいちなかった。 背に乗って走り出しても、バランスをすぐに崩してしまう。
落ちそうになると魔物が自分から止まってくれて体勢を立て直せるのだが・・・いかんせんその回数が多い。
そのため、すっかり遅れを取ってしまっていた。
「すいません! すぐに行きます。」
そう言いながら、また駆け出す。 しかし、途中でバランスを崩す。 それに、岳人は苦笑いを浮かべていた。
-----彼等が今いるのは、リシーヌの広い草原だった。 一体どんな地形なのかは分からないが、とにかくここには自然に溢れていた。
綺麗な水の流れる川もあるし、広い草原もある。 それほど高くはないが山もあった。 この場所に、魔物達は平和に暮らしているのだった。
しかし何故ここが見つからないのか。 それは強力な結界が張ってある以外にも、理由があった。
この地は、魔物の中でも上位種にあたる竜が多く住んでいるのだった。 剣太郎の話によると、水のオーブを守っていた竜はここの出なのだという。
その竜達の守護もあるため、ここは平和なのだ。
暇だろうから周りを見てきたら?と言う河村の提案に乗り、彼等2人は今こうして魔物を走らせているのだった。
「・・・ったく、こんなんじゃ日が暮れちまうぜ。」
ボソッと言うと、それに賛同するように魔物は首を振る。 長太郎はまだ、結構遠くにいる・・・。
☆
「・・・なんとか、ならないのか?」
部屋に下りていた沈黙を破って声を発したのは、橘だった。
その顔は、悲壮に歪んでいた。
「・・・申し訳ありませんが、私には無理です。 1度心臓として埋め込まれオーブは、外部からは修復出来ないんです。
唯一方法があるとすれば、オーブを取り出して新たなものを入れること。 これなら観月君には出来ます。
しかし、神尾君の場合これも無理なんです。 彼の体は、外傷こそありませんが中はもうボロボロの状態なんです。
今まで倒れなかったのが不思議なくらいです。 心臓を換えても肉体が持たないのなら、換えることに意味はありません。」
柳生のその言葉に、橘はそんな・・・。と、崩れ落ちる。
そんな彼に、アキラは静かに口を開いた。
「マスター、そんなに悲しまないで下さい。 俺は、あなたと一緒にいられて本当に幸せでした。
・・・本当は最後まで言うつもりはなかったんですが、言いますね。
俺の体にガタがき始めたのは、マスターが3強になってからだったんです。 マスターが3強になって、俺も3強と呼ばれるようになった。
そう呼ばれるからには、俺は強くあらなきゃいけないと頑張っていたんです。
しかしそれはいつの間にか相当な負担になってたみたいです。 実は俺、そんなに能力高くないんですよ。
瞬間移動とかは出来ますけど、せいぜいあれが俺の限界。 攻撃力もかなり低いですし。 柳さんとか切原になんて到底及ばないんです。
佐伯さんとかにも勝てませんしね。
それでもマスターと共にいるために、マスターの恥にならないように頑張ったんです。」
「そんな無理をする必要など、なかったじゃないか! 俺がお前を選んだのは、お前が強かったからじゃない。
お前自身に惹かれたから、共に来てくれと言ったんだ!」
橘は叫ぶ。 その声には、僅かに嗚咽が含まれていた。
「・・・分かってます。 でも、それじゃあ俺が納得しないんですよ。
俺が前のマスターの死に打ちひしがれていた時、マスターは俺に優しくしてくれた。 俺の支えになってくれた。 それがとてもうれしかったんです。
自分を責めないで下さい。 所詮俺は作り物の命。 そんな俺のために悲しまないでください。」
そう言うアキラの目からも涙が流れていた。
「・・・俺はお前が作り物だと思ったことは1度もない。 お前は、俺の大事なパートナーだ。
お前がいたから、俺は王都を離反できたしここまで来ることが出来たんだ! 今更お前を失えと?!
そんなことが出来るわけがないだろう?!」
「・・・だったらマスター、俺に命じて下さい。 死ぬな、と。
あなたの命令は絶対です。 そう命じてくれるなら、俺は死なないように頑張ります。」
アキラのその言葉を聞くと、橘は顔を上げた。 そして、静かに言った。
「・・・分かった。 では命じよう。 アキラ、死ぬな。 絶対に死ぬな。
そして、俺の傍にいてくれ。」
「・・・イエス、マスター。」
瞳にまた涙を浮かべながら、アキラはそう言う。
彼等のやり取りを、柳生は少し後ろで見ていた。 眼鏡でよくは見えないが、彼の目にもうっすらと涙が浮かんでいるようだた。
☆
『彼の者の中に潜みし闇よ。 この聖なる光の元、その姿を現せ。』
はじめがそう言霊を唱えだすと、部屋の温度が一気に下がった感じがした。
この感覚は、不二には馴染みのもの。 自身が力を使う時も、こんな感じがする。
そう思っている間にも、はじめの詠唱は続く。 すると、祐太の体の中から除除に黒い霧のようなものが染み出てきた。
それは、部屋の中に満ちていく。 心なしか、はじめの表情が苦しそうに見えた。
「・・・くっ。 光よ! この者を守れ!! ライトシールド!!」
闇が完全に出きった瞬間、はじめはそう唱えて祐太の体に光の盾を張る。 それによって、闇は彼の中に戻れなくなった。
行き先を失った闇は、新たに宿る者を探す。 そしてそれは、すぐに見つかった。
目の前にいる男、はじめ。 はじめの姿を認識した瞬間、闇は一斉にはじめに襲い掛かった。
瞬時に彼の体が黒に覆われ、見えなくなる。
「観月!!」
不二が叫ぶ。 その瞬間、彼等の間に張られていた結界にヒビが走る。
咄嗟に佐伯が不二を抑える。 このまま彼に感情を出させると、結界が破れる。
闇に何も耐性のない佐伯には、それだけはなんとしても避けなければならなかった。
「周助! 抑えて!!」
そうこうしていると、部屋の中にふいに強い光が満ちた。 その光の中に、闇が吸い込まれていく。
闇が完全に消え去ると、光もだんだん薄れていった。 そして、はじめの姿が現れる。
その顔には疲労が浮かんでいたが、どうやら無事のようだ。
「そんなに取り乱さないで下さいよ。 僕はこんなのにやられるほど弱くはありませんから。
ちょっとひやりとはしましたけどね。 まさかここまで強いとは思わなくて。
でも、安心して下さい。 祐太君の闇は取り除きましたよ。」
はじめのその言葉に安心したのか、不二はその場にペタンと座り込んだ。
そしてはじめにありがとうと言いながら、目から涙を零した・・・。
☆
「・・・ここは平和だねえ。」
ロビーの所から千石の部屋へと移動いた滝達。 そこで何をするでもなくのんびりとお茶を飲んでいると、不意に滝がそう言った。
「へっ? 何で?」
千石が尋ねる。
「だってここは常に気を張ってなくてもいいんだもん。 僕は職業柄、緊張していなきゃいけないことが多いからね。
こんなにゆっくり出来るのなんて、本当に久しぶりだよ。」
そう言ってまたお茶をすする。 と、その時ボーッとしているようにしか見えなかったオジイが口を開いた。
「・・・そういえば仁王君。 君、一体何者なの?」
その言葉に、千石も気になると言った。
ここにいるメンバーの中で、素性がはっきりしていないのは仁王だけだった。
今まで気にはなっていたのだが、いまひとつ聞く機会がなくて結局聞けずじまいだった。
「・・・そんなに知りたいか?」
テーブルに頬杖をつきながら、彼は言う。 それに全員が頷くと、彼はじゃあと言った。
「じゃあ、話してやるぜよ。 今なら時間あるしな。 これ話すの、柳生と観月以来じゃよ。」
そう言って、彼は話し出した・・・。
【あとがき】
すいません! 最近時間がなくて、今回は短い上にかなり展開が変だ!!
仁王のもまた増えちゃったし(汗)
えーい! なんとかなるわ!!(なりません。)
07.02.09
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