どうしても答えを出さなくてはいけないわけではない。
悩み、悩みぬいても出せない答えがある。
Symphony of destiny 第八章・8
「これでもう大丈夫でしょう。 後は目が覚めるのを待つだけです。
闇は完全に抜きましたから、もう襲い掛かってくることもないですよ。」
祐太を見ながら、はじめはそう言う。 その言葉に、不二も佐伯も安堵の表情を洩らした。
「よかった・・・本当によかった。 観月、ありがとう。 なんてお礼言ったらいいのか分からないよ。」
「そんな気にしないで下さい。 僕は当然のことをしたまでですよ。」
「でも、君にはいつも助けられてばかりだ。 虎次郎の時も、今度も。
僕に何か出来ることがあるといいんだけれど・・・。」
「本当にいいんですよ。 僕が君達を助けたのは、何か見返りを求めていたわけではなくただ本当に助けたかったからなんですから。
死によって引き裂かれるのを止めるというのは、本当はいけないことだとは思っています。
しかしそれで、少しでも悲しみを減らせるというのなら。 それなら僕は厭わない。」
はじめのその言葉に、不二も佐伯もただありがとうと言うしかなかった。
☆
「・・・さて、と。 そろそろ行くか。」
そう言って忍足は椅子から立ち上がった。 どこにだ?と、傍にいた跡部が訝しげに尋ねる。
「リシーヌや。 他の奴等、向かえに行ってやらんと。
幸村達が戻ってくるまでに行かんとな。 あいつらが戻って来たら、すぐに動かなあかんと思うからな。」
そうか。と、跡部は言う。 窓の外を見ている彼に向かって、忍足は言う。
「あんま深く考え込むのは止めろなんて、俺は言えへん。 せやけど、楽に考えるのも大切やと思うで。
俺だってな、考えたんや。 俺達はオジイによって時を止めてもろて、死なんようなった。
やけど、本当にそれでよかったんか?ってな。 本当はそうすべきやなかったと、何度も悩む自分がおった。
・・・結局、俺はそれに耐えられなくなって自分の記憶を封印した。 過去のことも自分の正体も忘れて、せやけど死ぬことはなくて。
200年くらい生きたわ。 今でもその答えは出てへん。 多分、出ることはないんやと思う。
でも、とりあえず俺は今のこの状況をなんとかしよう思う。 元々、種を撒いたのは俺や。
答えが出えへんでも、守るために戦うことは出来る。 ・・・俺が言えるんはそれだけや。」
そう言って忍足は部屋を出て行った。 後には、跡部だけが取り残された・・・。
☆
「行くの?」
部屋を出たら、そう声をかけられた。 かけたのは、滝。
傍には千石達もいる。 彼等にああ。と返事を返す。 と、その時柳生も姿を現した。
「柳生、そっちはどうやった? 俺の言った通りやったやろ?」
忍足のその言葉に顔を曇らせた柳生だが、その問いに答えた。
「ええ、忍足君の言った通りでした。 しかし、予想外の結果でしたよ。
彼はもう、戦うことは出来ない。 本人は知っていましたが、橘君の落ち込みようは酷いです。
ですが、大丈夫だと思いますよ。 彼等の絆はかなり強いみたいですから。」
その言葉に忍足は安堵の息を吐いた。
「そうか。 ならよかったわ。
じゃあ俺は行くさかい。 ってもすぐに戻って来るけどな。」
それに柳生は頷く。 忍足はじゃあと言って、言霊を唱えてその場から消えた―――。
☆
「乾さんっ!!!」
バンッという豪快な音と共に、ドアが思いっきり開けられる。
そこに立っていたのは、不機嫌全開な海堂。 彼は今、城の一角にある研究塔の乾の部屋にいた。
城中を探し回って、やっと彼の居場所を突き止めた。 ここは1番最初に捜索したのだが、兵士達の目撃情報によるとどうやらここに入っていったらしい。
手間かけさせてと、かなり怒りながらドアを開けると、部屋の真ん中にある机の前にこちらに背を向けるようにして乾が立っていた。
「乾さん?」
いつもならこうやってドアを開けると、苦笑いをしながらも振り向いてくれる。
しかし、今はしてくれない。 机に両手を突いたまま、顔すら上げようとしない。 恐る恐る近づいてみる。
「どうしたんですか・・・?」
あまりにも違うその姿に不安を覚えつつも、声をかける。
と、搾り出すような声で彼は言った。
「嘘だ・・・。」
「・・・何が・・・ですか?」
「・・・討伐隊の連中が・・・。 大石が・・・。」
悲痛なそのセリフの意味が分からず、ただその場にいることしか出来ない海堂。
そんな彼の顔を横目で見て、乾が更に言った。
「・・・大石が・・・死んだ・・・。」
その言葉のあまりの衝撃に、海堂は瞬きすら忘れてその場に立ち尽くした・・・。
☆
「あー、おもしろかった〜。」
そう言いながら、満足そうな顔をしているのは岳人。 その後ろでは、魔物の背の上でぐったりとしている長太郎がいた。
彼等は今、丁度リシーヌを1周して戻って来た所だった。
「・・・俺、やっぱり乗馬は向いてません。」
「だろうな。 見ててかなりそう思った。 おい、お前の乗ってる奴も相当疲れたみたいだぞ。
ちゃんと謝っとけよ。」
「分かりました〜。」
そうこうしているうちに、最初にいた家へと着いた。
そして魔物から降りてお礼を言い、中へと戻った。 するとそこには。
「マスター!」
そこにいたのは、先ほどシーユへと戻った忍足だった。 迎えに来たと、彼は言う。
「分かった。 じゃあ行くか。 おいジロー、そろそろ起きろ。」
岳人はそう言って未だ眠るジローを揺する。 と、少しして彼は目を薄く開いた。
「おはよお〜。 もう朝?」
「いや、全然昼間だ。 そろそろ起きろ。 魔導師達と合流するから。」
岳人にそういわれると、ジローはふああと欠伸をしながらも起き上がった。
と、そこに語りの民が集まって来る。 その中に、今までいなかったように見える人物が。
「木更津、お前今までどこ行ってたんだ?」
岳人にそう問われ、淳の兄である亮は答える。
「どこって外だよ。 話が終わってからずっと出てた。 暇だったしね。
というか、それくらい気付いてよ。」
「悪い悪い。 魔物に乗せてもらえるっつーから周りに気配ってなかったんだよ。」
「・・・まあいいけど。」
そう言って亮は再び黙った。
「・・・死ぬなよ。」
亮が黙ってそう言ったのは黒羽。 彼は3人の中で1番辛そうな表情をしていた。
「絶対に死なんなんて言えへんが、でも努力はするさかい。 もし全部が終わって生きてたら、またここに来る。
オジイも連れて来るから。 まあ、あん人は絶対に死なんやろうけどな。」
「・・・そうだな。 オジイは心配ないな。 サエさんとか不二のこともよろしく頼む。」
それに、忍足は頷く。 と、丁度剣太郎達も彼等を見送るために部屋に入って来た。
彼等に向かって、忍足は言う。
「そうや、自分達んとこで景預かっといてくれんか? これから先は戦いばっかになる。
あいつをそんな危険に晒したくないんや。 俺と一緒におるより、故郷であるここにいたほうが安全やし。」
「分かった。 あの子は預かる。
・・・だけど、また迎えに来なきゃダメだよ? あの子は君を本当に慕っている。 悲しませるようなことだけはしちゃいけない。」
「ああ。 分かっとる。」
その言葉に多少ではあるが安心した様子の剣太郎。
しかし、その中で樺地だけはまだ心配そうな顔をしていた。 それに気付いたのは、以外にもジローだった。
「? どうしたの?」
その言葉に、全員は揃って樺地を見た。
「・・・いえ・・・大したことではないんですが、心配・・・なんです。」
「え? 心配なのは皆一緒だよ?」
「いえ、それはそうなんですが・・・どうも嫌な予感がして・・・。
・・・さっき気付いたんです。 空が・・・泣きそうなほど青いことに。
こういう時、いいことは今まであまり起こりませんでした。 だから余計・・・心配で・・・。」
樺地のその言葉に、剣太郎と河村の顔が曇る。 理由は分からないが、どうやら心当たりがあるようだ。
重い空気が篭る。 しかし、長太郎が努めて明るく言った。
「大丈夫です! きっと、きっと大丈夫ですよ!
今回もそうなるっていう保障は、何もありません。 かえっていい方向に進むかもしれない。
悪いことを考えるのは止めましょう! いいことだけを考えましょう!」
長太郎のその言葉は、場の重々しい空気を取り払った。
そうだね。と、河村も努めて明るく言う。 それに、全員も無理に笑った。
「じゃあ、ホンマにもう行くさかい。 ・・・またな。」
再び会えるという思いを込めて、忍足はそう言う。
ジローも岳人も長太郎も亮も、同じことを言う。
「ダークルード。」
出現した闇が5人を覆う。
それが消え去った時、そこに彼等の姿はもう無かった―――。
【あとがき】
えー、ここで1つお詫びを。 ・・・大石いきなり死んだことにしてすいませんっ!
ちょっと話の都合上、こうならざるを得なくて(汗)
というか、乾も訳分かんない状況になってたり。 なんか、突拍子も無い展開ですいません。
そしてもう1つ。 ・・・亮の存在完璧に忘れてました! もう少しで彼の存在抹消する所だった(汗)
危ない危ない。
07.2.22
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